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憂鬱と悩み
本城祐の憂鬱
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「本城さんって彼女さんいないんですかぁ?」
「なんで結婚しないんですかっ?」
女子社員達が俺に興味を持ってくれることに対しては嫌な気はしない。ただ毎回同じ様なことばかり聞かれるしあしらうのも飽きてきている。
新人歓迎会なんだから、俺のことばっかり聞くんじゃなくて新人の話を聞けばいいのに。まぁ今の若い子に迂闊に恋愛事情を聞いたらセクハラだなんて言われたりしてしまう可能性もあるから仕方ないのかもしれない。
俺は現場を見ていないけれど、去年入ってきた佐伯くんにガツンと言われたみたいだから余計に言い出せないのだろう。
俺を慕ってくれる子達のことは可愛いと思っているし嫌ってもいないけれど、ミーハーだなぁとは感じていたのでその現場を見てみたかったな、皆どんな顔したんだろう?なんて思ってしまう俺は我ながら性格が悪い。
「じゃあ、じゃあ好きな人はいたりするんですか?」
「そうかもしれないね」
「えー!告白しないんですか?どんな女の子でも本城さんに言われたら言うこと聞いちゃいますよぉ!」
「俺はそんなにモテないよ」
「もぉ、本城さんってばすぐ謙遜するんだから!」
「ほんとですよっ!本城さんみたいな完璧な人なかなか居ないもんっ」
俺の周りを囲む子達が口々に言う。完璧、完璧って…完璧な人間なんていないのに。
「どんな人なんですか?やっぱり超可愛いんですか!?」
「どうだろうね」
質問をひたすらのらりくらりとかわす。そうしていればそのうち他の話題に移るだろう。
好きな人いるよ。この中にね。
なんて言えば皆どんな反応をするのだろうか。
俺の好きな人は今日の飲み会でも席が遠いし、当然話すことなんて出来ない。いつも他の子達が俺の周りの席を陣取るからな…
最近は二人で食事に行ったりしているからその時に話は出来るし、まぁいいのだけれど…
ただ、一緒に食事に行っていても俺が今好きな人…未央ちゃんは俺に興味がない。
未央ちゃんから離婚の報告を受けた時、未央ちゃんには悪いけれど嬉しかった。そのことは二人だけの秘密だということも自分は特別なんだ、という錯覚に陥ってしまう。
俺が人事部だから言わざるを得ない状況だった、ただそれだけのことなのだけれど…
未央ちゃんが離婚したことは何があっても周りには黙っているつもりだったし、今もそうだ。二人で会うことを拒まれたからって周りに言いふらすような小さい男ではないけれど、軽く脅しを掛けられたと感じた未央ちゃんは予定がない限り俺の誘いに乗ってくれる。
優しくて押しの弱い子だからな、未央ちゃんは。そう思っていたけれど二人きりで会う時に可愛いね、とか未央ちゃんが奥さんだったらいいのに、なんて言って押しても未央ちゃんには全く響かない。押しに弱いのか強いのかよくわからない。
冗談ぽく言っているから真剣に受け止めてもらえないのは充分理解している。全部本気だけど軽いノリにするしかないじゃないか。
未央ちゃんの心にはまだ旦那…いや元旦那がいることがわかっているから拒まれるのは怖い。
そしてここまで好きになってしまい、臆病になってしまう自分も怖い。
今まで生きてきた中でこんなことは初めてだ。会社の子達に言われた通りどんな女の子でも…というか俺が好きになった相手は百発百中で落として付き合ってきたしそれなりに遊んだ時期もあったから正直自惚れていた。
けれど未央ちゃんは落ちる気配が無い…結婚する程好きになる相手と離婚して、でもまだ一緒に住んでいるなら顔も合わせるからなかなか嫌いにはなれないだろうし。
下世話な話だけれど、まだ元旦那と体の関係はあるのだろうか。あるよな多分。けどそれを聞くのは思いっきりセクハラだし、あるって未央ちゃんの口から聞くとショックを受けることがわかりきっているから聞かない。
本当に、二人の間に何があったのだろう。気になって仕方ないけれど余裕ぶって詳しく聞いていない。何か訳ありっぽいね、その言葉だけで済ませた。でもやっぱり気になるんだよな…女々しいな、俺。
***
「えー、一ノ瀬さん帰っちゃったの?」
「そうなんです、なんか急に気分悪くなられたみたいで…」
部長と新人の子達が話している。
二次会の場所に移動し、全員揃うはずが未央ちゃんの姿はなかった。
「大丈夫かなぁ、一ノ瀬さん」
「佐伯さんが慌ててタクシーに乗せてました。だからきっと大丈夫だと思うんですけど…」
そう、未央ちゃんもだけれど佐伯くんもいない。
「あぁ、それなら安心かな。佐伯くんしっかりしてるからね、若いのに」
「はい…ちゃんと送り届けるっておっしゃってましたし…」
本当にちゃんと送り届けたのだろうか…
「えー、部長ほんとに安心ですか?佐伯くんは危ない気がするけど」
話を割ってきたのは俺の周りにいる子達。この子達は例の一件のせいで佐伯くんのことを嫌っているからな…
「うーん…まぁ見た目で言うと正直そう見えちゃうけど」
「ほらぁやっぱり!送り狼になってそう。人妻だろうが関係ないとか思ってそうだし」
人妻じゃないんだよな…。未央ちゃんは浮気なんかしそうにないけど今はフリーだし、押されたらもしかしたら…
「そういうこと言わないの。佐伯くんの見た目でそんな判断するのは佐伯くんにも未央ちゃんにも失礼だよ。俺から明日連絡しとくから、そういう勘ぐりはやめよう。ね?」
本当は心配で仕方ないのに俺は心にも無いことを言った。俺の方がよっぽど二人に失礼だよな…
本城さんがそう言うなら…と女の子達はしぶしぶ納得して、10分もしないうちにそんなことは忘れて二次会は盛り上がっていた。
気が気じゃないけれど俺は気にしないフリをして時間をやり過ごした。
翌日、未央ちゃんに明後日食事に行こうとメールをすると「わかりました」とすぐ返信があった。
何も無いよね、未央ちゃん。
でも聞かずにいられないから心配するフリをして聞くつもりだ。
もしそれで佐伯くんと何かあったとしたら…黙っていられない。
拒絶されたら、と臆病になっていたけれどそうも言っていられないと思う。冗談ぽく口説くのはやめて本気を出さないといけないな。俺より一回り以上年下の、入社してたった1年しか一緒に働いていない佐伯くんに未央ちゃんを奪われちゃたまったもんじゃない。
自分の彼女でもなんでもないのにエゴだよな…でももう気持ちは止められない。
「なんで結婚しないんですかっ?」
女子社員達が俺に興味を持ってくれることに対しては嫌な気はしない。ただ毎回同じ様なことばかり聞かれるしあしらうのも飽きてきている。
新人歓迎会なんだから、俺のことばっかり聞くんじゃなくて新人の話を聞けばいいのに。まぁ今の若い子に迂闊に恋愛事情を聞いたらセクハラだなんて言われたりしてしまう可能性もあるから仕方ないのかもしれない。
俺は現場を見ていないけれど、去年入ってきた佐伯くんにガツンと言われたみたいだから余計に言い出せないのだろう。
俺を慕ってくれる子達のことは可愛いと思っているし嫌ってもいないけれど、ミーハーだなぁとは感じていたのでその現場を見てみたかったな、皆どんな顔したんだろう?なんて思ってしまう俺は我ながら性格が悪い。
「じゃあ、じゃあ好きな人はいたりするんですか?」
「そうかもしれないね」
「えー!告白しないんですか?どんな女の子でも本城さんに言われたら言うこと聞いちゃいますよぉ!」
「俺はそんなにモテないよ」
「もぉ、本城さんってばすぐ謙遜するんだから!」
「ほんとですよっ!本城さんみたいな完璧な人なかなか居ないもんっ」
俺の周りを囲む子達が口々に言う。完璧、完璧って…完璧な人間なんていないのに。
「どんな人なんですか?やっぱり超可愛いんですか!?」
「どうだろうね」
質問をひたすらのらりくらりとかわす。そうしていればそのうち他の話題に移るだろう。
好きな人いるよ。この中にね。
なんて言えば皆どんな反応をするのだろうか。
俺の好きな人は今日の飲み会でも席が遠いし、当然話すことなんて出来ない。いつも他の子達が俺の周りの席を陣取るからな…
最近は二人で食事に行ったりしているからその時に話は出来るし、まぁいいのだけれど…
ただ、一緒に食事に行っていても俺が今好きな人…未央ちゃんは俺に興味がない。
未央ちゃんから離婚の報告を受けた時、未央ちゃんには悪いけれど嬉しかった。そのことは二人だけの秘密だということも自分は特別なんだ、という錯覚に陥ってしまう。
俺が人事部だから言わざるを得ない状況だった、ただそれだけのことなのだけれど…
未央ちゃんが離婚したことは何があっても周りには黙っているつもりだったし、今もそうだ。二人で会うことを拒まれたからって周りに言いふらすような小さい男ではないけれど、軽く脅しを掛けられたと感じた未央ちゃんは予定がない限り俺の誘いに乗ってくれる。
優しくて押しの弱い子だからな、未央ちゃんは。そう思っていたけれど二人きりで会う時に可愛いね、とか未央ちゃんが奥さんだったらいいのに、なんて言って押しても未央ちゃんには全く響かない。押しに弱いのか強いのかよくわからない。
冗談ぽく言っているから真剣に受け止めてもらえないのは充分理解している。全部本気だけど軽いノリにするしかないじゃないか。
未央ちゃんの心にはまだ旦那…いや元旦那がいることがわかっているから拒まれるのは怖い。
そしてここまで好きになってしまい、臆病になってしまう自分も怖い。
今まで生きてきた中でこんなことは初めてだ。会社の子達に言われた通りどんな女の子でも…というか俺が好きになった相手は百発百中で落として付き合ってきたしそれなりに遊んだ時期もあったから正直自惚れていた。
けれど未央ちゃんは落ちる気配が無い…結婚する程好きになる相手と離婚して、でもまだ一緒に住んでいるなら顔も合わせるからなかなか嫌いにはなれないだろうし。
下世話な話だけれど、まだ元旦那と体の関係はあるのだろうか。あるよな多分。けどそれを聞くのは思いっきりセクハラだし、あるって未央ちゃんの口から聞くとショックを受けることがわかりきっているから聞かない。
本当に、二人の間に何があったのだろう。気になって仕方ないけれど余裕ぶって詳しく聞いていない。何か訳ありっぽいね、その言葉だけで済ませた。でもやっぱり気になるんだよな…女々しいな、俺。
***
「えー、一ノ瀬さん帰っちゃったの?」
「そうなんです、なんか急に気分悪くなられたみたいで…」
部長と新人の子達が話している。
二次会の場所に移動し、全員揃うはずが未央ちゃんの姿はなかった。
「大丈夫かなぁ、一ノ瀬さん」
「佐伯さんが慌ててタクシーに乗せてました。だからきっと大丈夫だと思うんですけど…」
そう、未央ちゃんもだけれど佐伯くんもいない。
「あぁ、それなら安心かな。佐伯くんしっかりしてるからね、若いのに」
「はい…ちゃんと送り届けるっておっしゃってましたし…」
本当にちゃんと送り届けたのだろうか…
「えー、部長ほんとに安心ですか?佐伯くんは危ない気がするけど」
話を割ってきたのは俺の周りにいる子達。この子達は例の一件のせいで佐伯くんのことを嫌っているからな…
「うーん…まぁ見た目で言うと正直そう見えちゃうけど」
「ほらぁやっぱり!送り狼になってそう。人妻だろうが関係ないとか思ってそうだし」
人妻じゃないんだよな…。未央ちゃんは浮気なんかしそうにないけど今はフリーだし、押されたらもしかしたら…
「そういうこと言わないの。佐伯くんの見た目でそんな判断するのは佐伯くんにも未央ちゃんにも失礼だよ。俺から明日連絡しとくから、そういう勘ぐりはやめよう。ね?」
本当は心配で仕方ないのに俺は心にも無いことを言った。俺の方がよっぽど二人に失礼だよな…
本城さんがそう言うなら…と女の子達はしぶしぶ納得して、10分もしないうちにそんなことは忘れて二次会は盛り上がっていた。
気が気じゃないけれど俺は気にしないフリをして時間をやり過ごした。
翌日、未央ちゃんに明後日食事に行こうとメールをすると「わかりました」とすぐ返信があった。
何も無いよね、未央ちゃん。
でも聞かずにいられないから心配するフリをして聞くつもりだ。
もしそれで佐伯くんと何かあったとしたら…黙っていられない。
拒絶されたら、と臆病になっていたけれどそうも言っていられないと思う。冗談ぽく口説くのはやめて本気を出さないといけないな。俺より一回り以上年下の、入社してたった1年しか一緒に働いていない佐伯くんに未央ちゃんを奪われちゃたまったもんじゃない。
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