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第4章  光と闇が混ざる時

第20話 どぶから大蛇が出たよう

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 数日分の着替えと携帯の食料を含めた旅支度たびじたくを、彼女は急ぎメリーに依頼する。

「お嬢様、支度は整いました。
2日分の保存食と替えの服です」

「ありがとう、メリー。
おばあ様のことを宜しく頼みます。
状況次第で、お祖父様も動くかもしれないわ」

心配そうにかばんを渡すメリーは、主に願いを伝える。

「私もご一緒では、どうしても駄目ですか?!
屋敷にとらわれているなら、メイドの私の方が中を探りやすいですわ」

メリーの考えには、一理いちりはある。

「いいえ、メリー。
私の代わりに、祖母ヴィクトリアを頼みます。
私でも、足手まといなのよ。
ピーちゃんは、私の命令しか従わないから行くの」

「プリムローズ様、分かりました。
ヴィクトリア様は、私にお任せ下さい」

仕える主には、メリーは絶対服従ぜったいふくじゅうだった。
祖母ヴィクトリアは、彼女にとっては命の恩人おんじんでもある。

「必ず無事に帰るとは、約束できない!
できるだけ、最善はつくすわ。
それに、何かが妙に引っかかるのよ」

それが、何かがと言うと漠然ばくぜんとして分からない。

 
    翌朝プリムローズはゲラン親子を引き連れて、愛馬ヴァンブランに騎乗しスクード公爵屋敷を後にした。

「ピーちゃんたちは、ゆっくりと飛んでくれているわね。
ヒンメルは匂袋を付けて、先にミュルクヴィズに向かってくれているわ。
そこまではスクード公爵と祖父ハーヴモーネ侯爵が、エリアスとヒンメルを送ってくれているはず…」

「しかし、エリアスを屋敷から出すのは危険じゃね?!
お嬢、よく許したな」

「仕方がないのよ、ギル。
ヒンメルは、私とエリアスの命令しか聞かないの。
スクード公爵には、全然なついてないしね」

「なかなか、これは手強い相手だ。
頑固がんこな性質は、飼い主譲りですかなぁ」

ゆっくりと走っているから、こんな会話が可能なのよね。
斜め前の頭上を飛ぶ鷹たちを見つめて、プリムローズは愛馬を走らせていた。

 
    途中休みを入れて、夕方前に着いた場所でウィリアムは大声で近い声を少し遠くに見える屋敷に向かい言った。

「この屋敷は、生前に王弟殿下が暮らしていた屋敷ではないか」

「父上!俺も覚えがある。
間違いなく、王弟殿下の屋敷だ。
何度も殿下や奥方様に、お声を此処でかけて頂いた記憶があるぜ」

親子は、懐かしさと戸惑いの感情を声に表していた。

「今現在は、誰が管理してますか?!
やはり侍従長じじゅうちょうは、屋敷のかぎを自由に使用できるのでしょうか?」
 
王宮内の役職に関する知識が乏しいので、プリムローズはウィル親方に相談してみた。

「いや、普段はヘイズ王がお持ちではないだろうか?
一年に一度は、屋敷を清掃するとは思うが…」

ウィル親方は、その場で黙りこくってしまった。

『黒幕は…、まさかのヘイズ王か?!』

頭が変になると首を振っていたら、ピーちゃんが心配してヴァンブランの足元に降り立った。

「ピ~。ピ~、…、ピー!」

「ごめんね、ピーちゃん。
あのお屋敷に、2人はとらわれているでいいのよね」

「ピーィ!!」と、力強く一鳴きする鷹。

「ピーちゃん、良くやりました!
任務が完了しましたら、ご褒美ほうびを弾むわよ。
それまでは、気を引き締めて我らの役に立つように!」

プリムローズが、鷹たちに命じる姿を不思議そうに見る親方。

「父上、いつもああです。
気にしないで下さい。
お嬢の頭の中が、腐ったんじゃあないからー」

「ギル!お黙んなさい!
それより日が落ちるわ。
何処かで野宿しなくては、をしたら相手に知られちゃうかな?!」

ウィリアムは過去の記憶を辿り、川近くに小屋があることを思い出す。

「もしかしたら、まだ残っているかも?
少し戻りますが、川原に小屋があります。
そこへ行ってみましょう」

川原に行くと小屋が残っていた。
どうやら、誰も長年使ってなさそうなボロさである。

「一晩くらいは平気だ。
お嬢も大丈夫だよな!」

ギルはプリムローズに確認を取ると、もちろんと返事を返しながらヘイズ王を思い出していた。

「まるで、【どふから大蛇だいじゃが出たよう】な気分だわ。
真の黒幕の頭は、まさかのヘイズ王かしら?!」
 
彼女はボンクラの囚われ先を考えても、王様としか頭に浮かばない。
二人は、プリムローズにズケズケと話しだした。

「どぶから大蛇が出ることはないが、もし出たら誰でも驚くだろうな!
その大蛇が、問題だが…」

ウィリアムは、10年の時の長さを感じていた。

「思ってもないことだぜ!
意外すぎて、想像が出来ない」

元ヘイズ国民とあってか、あのギルまでもが自重じちょうして王という言葉を一言もはっしなかった。

「統治しているときは、必ずや不安が付き物です。
だからとて、まさか自分で混乱に招く事を自ら致しますでしょうか?!」

プリムローズは、エテルネルの歴代の国王の逸話いつわが好きで読んでいた。

栄光と挫折ざせつ、不安と迷い。

どこの国王も、もがき苦しんで玉座に座り続ける。
その覚悟が近年はどの王たちも薄れていると、プリムローズは分析ぶんせきしていた。

「国王がお一人で統治するには、肩が重いのでしょうか?!
王政制度を変える帰途きとに、差し掛かっているのかしら…」

「プリムローズ様は、革新的かくしんてきな思想をお持ちだ。
しかし、他言してはならない。
危険分子として、弾劾だんがいを受ける恐れもありますぞ」

ウィリアムは、教え子の身を心配し案じた。

長いものに巻かれろか、プリムローズは川で釣った魚を焼きながら思う。

『国の安寧あんねいと平和を望み、国民の幸福を導き保つ難しさをー』

火があやしく燃えるように見えた時、紫の瞳がワインレッドに変化し輝いていた。
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