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初めての公務③
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「姫さま、お人形で遊んで!」
「姫さま、カードで遊ぼうよ!」
「姫さま、ご本読んで!」
「はい。順番に遊びましょうね」
子どもたちと遊ぶ。それが、孤児院のために何ができるのかリーシャが考えたことだった。
とはいっても、リーシャは普段通りのドレスを着ているため、子どもたちと同じように庭を走り回ることはできない。仕方がないので、室内で子どもたちの相手をすることにした。
本当はお忍びで城下町に行ったときのように動きやすい服装で来たかったのだが、それでは王族の威厳が云々とたしなめられてしまったのだ。
子どもの相手をするなどリーシャにとっては初めてのことなのだが、不思議と懐かれてあちこちひっぱりだこになる。
人形遊びにカードゲーム、絵本を何冊か読んであげたあとは、女の子数人とおしゃべりをすることになった。
「この前ね、お祭りに連れていってもらったの! お菓子を買ってもらってね、すっごくかわいくて、甘かったの!」
「あたしは串焼き買ってもらったよ! 姫さまはお祭り、行ったことありますか?」
「お祭り! わたしもこの前、初めて行きましたよ」
生まれて初めてお忍びで行った城下町の祭りは、何もかもが新鮮で楽しかった。けれど祭りの帰りにあった恥ずかしいことも思い出してしまい、頬が熱を持つ。
リーシャの顔を見て、女の子が不思議そうに首をかしげた。
「姫さま、お顔が赤いよ。お熱があるの? 大丈夫?」
「い、いいえ。大丈夫ですよっ」
慌てて取り繕うように笑みを浮かべる。
思わず、立ったまま後ろに控えているカイルの顔を盗み見てしまうが、彼は何食わぬ顔で職務を遂行していた。
「ねえねえ姫さま、お城の生活ってどんななの? 毎日こんなにきれいなドレス着て、おいしいもの食べられるの?」
「そう、ですね……。でも、ドレスを着ているとお淑やかにしないといけないし、お食事はたくさんの作法を守って食べないといけないんですよ。廊下を走ると怒られてしまいます」
「院長先生もね、廊下走ると怒るんだよ! 危ないですよって!」
「ええ、転んで怪我をしてしまうといけないですからね」
「じゃあじゃあ、姫さまは毎日どんなことして遊んでるの?」
「本はよく読みますけど……遊ぶことは、あまり、ありませんね。毎日、礼儀作法や刺繍、そのほかにもたくさんのお勉強をしていますよ」
自慢することも、過度に卑下することもしないように言葉を選びながら城での生活を教える。
リーシャの話を聞いて、女の子たちは目を丸くしていた。
「えー! お姫さまって、大変なんだね!」
「毎日遊んで暮らしてるんだと思ってた!」
「……大変だなと思うときもあります。ですが、王女として生まれたからには、わたしがやらなければいけないことですから」
少女たちの反応を見て、リーシャはほんの少しだけ苦笑する。
王女として学ばなければいけないこと、日々の行動で気を付けなければいけないこと。たくさんあって、嫌だなと思うときもある。けれど生まれを変えることはできない。リーシャも、彼女たちも。自分が生きる場所で、やるべきことをひとつずつこなしていくしかないのだろうと、リーシャは考えるようになっていた。
「姫さま、あたしね、大きくなったらお城で働きたいの。できるかな?」
「そうですね。使用人ならいろいろなお仕事がありますし、試験に受かれば身分を問わずに誰でもなれますよ。最近は女性の役人も少しずつ増えていますから、そちらを目指すこともできます」
優秀な人材であれば出自や身分、性別を問わずに登用するというのが現国王のやり方だ。
「じゃあ、あたしもお城で働けるの?」
「必ずできるとは言えませんが、可能性は十分ありますよ」
「やったぁ! いっぱいがんばるね!」
笑顔を見せてくれる女の子に思わずリーシャの顔もほころんだ。
それからも何人もの子どもたちの相手をしていたリーシャだが、次第に下腹部に重さを感じるようになっていた。
――お手洗いに行きたい。
昼食後に済ませておいたから帰るまで大丈夫かと思っていたのだが、その感覚は徐々に強くなっていった。
「それでね、ぼくね、将来お医者になりたいんだ!」
「素敵ですね。それでは、たくさんお勉強しないといけませんね」
男の子の話に相槌を打ちながら、スカートの中でこっそりと膝を擦り合わせる。
座っているため傍目からは見えないだろう。
どうしようと思いながら、リーシャは顔を曇らせた。
子どもたちの相手をしている途中で、お手洗いに行きたいからと席を外すことは果たして許されることなのだろうか。はしたなくはないだろうか。
「ねえ姫さま、次はわたしたちと遊んでー!」
「はい、いま行きますね……っ」
女の子に手を引かれて立ち上がろうとすると、ずくんと膀胱が疼いた。思わず顔をしかめてしまいそうになる。
「どうしたの? どこか痛いの?」
「いいえ、なんでもありませんよ」
心配そうな顔をする女の子になんとか笑みを向ける。
内股に力を込めて尿意の波を堰き止める。少しだけ落ち着いた隙に、そっと立ち上がった。
女の子に手を引かれて向かうと、彼女たちは外国語で書かれた本を広げていた。
「あのね、この本を読んでほしいの。姫さま、読めますか?」
「ええ。いいですよ」
彼女たちに乞われるまま、本を読み上げていく。
時折、こっそりと身体を揺らしたり、膝をそっと押し付けたりする。大きな動きをするわけにはいかない。下腹部の重さは少しずつ増していた。身体の内側から衝動が湧き上がってくる。
じっと座っていることがつらい。もっと身体を揺り動かしたり、手で押さえたりしたい。でもそんなことはできない。
おしっこがしたい。早くトイレに行きたい。
「あー! リーサがおもらししたー!」
突然、甲高い声が聞こえてきて、リーシャはびくっと肩を震わせた。声のしたほうを見ると、幼い女の子の足元に水溜まりが広がっていた。
リーサと呼ばれた子は声を上げて泣いていた。タオルを持った女性職員が慌てて駆け寄り、濡れた足を拭いてあげている。
「大丈夫よ、向こうで着替えましょうね」
リーサは手を引かれて連れられていき、年長の女の子が濡れた床を拭き始めた。
その様子を眺めていると、ぶるっと身体が震えた。
どうしよう。どうしよう。このままでは、子どもたちの前でおもらしをしてしまう。あの子みたいに、床に水溜まりを作ってしまう。そんなの嫌だ。せっかく子どもたちと仲良くなれたのに。笑顔を見せてくれたのに。王女のリーシャが子どものように粗相をしてしまっては、きっと失望されてしまう。
「姫様、お手洗いに行きましょう」
カイルがそっと耳打ちしてくる。それで決心がついた。
「ええと、ごめんなさい。わたし、院長先生にお話しすることがあって、少し、失礼しますねっ」
とっさに思いついた言い訳を口にして立ち上がる。前を押さえたくなるのを必死に堪えて、ふらふらと廊下に出た。
「姫さま、カードで遊ぼうよ!」
「姫さま、ご本読んで!」
「はい。順番に遊びましょうね」
子どもたちと遊ぶ。それが、孤児院のために何ができるのかリーシャが考えたことだった。
とはいっても、リーシャは普段通りのドレスを着ているため、子どもたちと同じように庭を走り回ることはできない。仕方がないので、室内で子どもたちの相手をすることにした。
本当はお忍びで城下町に行ったときのように動きやすい服装で来たかったのだが、それでは王族の威厳が云々とたしなめられてしまったのだ。
子どもの相手をするなどリーシャにとっては初めてのことなのだが、不思議と懐かれてあちこちひっぱりだこになる。
人形遊びにカードゲーム、絵本を何冊か読んであげたあとは、女の子数人とおしゃべりをすることになった。
「この前ね、お祭りに連れていってもらったの! お菓子を買ってもらってね、すっごくかわいくて、甘かったの!」
「あたしは串焼き買ってもらったよ! 姫さまはお祭り、行ったことありますか?」
「お祭り! わたしもこの前、初めて行きましたよ」
生まれて初めてお忍びで行った城下町の祭りは、何もかもが新鮮で楽しかった。けれど祭りの帰りにあった恥ずかしいことも思い出してしまい、頬が熱を持つ。
リーシャの顔を見て、女の子が不思議そうに首をかしげた。
「姫さま、お顔が赤いよ。お熱があるの? 大丈夫?」
「い、いいえ。大丈夫ですよっ」
慌てて取り繕うように笑みを浮かべる。
思わず、立ったまま後ろに控えているカイルの顔を盗み見てしまうが、彼は何食わぬ顔で職務を遂行していた。
「ねえねえ姫さま、お城の生活ってどんななの? 毎日こんなにきれいなドレス着て、おいしいもの食べられるの?」
「そう、ですね……。でも、ドレスを着ているとお淑やかにしないといけないし、お食事はたくさんの作法を守って食べないといけないんですよ。廊下を走ると怒られてしまいます」
「院長先生もね、廊下走ると怒るんだよ! 危ないですよって!」
「ええ、転んで怪我をしてしまうといけないですからね」
「じゃあじゃあ、姫さまは毎日どんなことして遊んでるの?」
「本はよく読みますけど……遊ぶことは、あまり、ありませんね。毎日、礼儀作法や刺繍、そのほかにもたくさんのお勉強をしていますよ」
自慢することも、過度に卑下することもしないように言葉を選びながら城での生活を教える。
リーシャの話を聞いて、女の子たちは目を丸くしていた。
「えー! お姫さまって、大変なんだね!」
「毎日遊んで暮らしてるんだと思ってた!」
「……大変だなと思うときもあります。ですが、王女として生まれたからには、わたしがやらなければいけないことですから」
少女たちの反応を見て、リーシャはほんの少しだけ苦笑する。
王女として学ばなければいけないこと、日々の行動で気を付けなければいけないこと。たくさんあって、嫌だなと思うときもある。けれど生まれを変えることはできない。リーシャも、彼女たちも。自分が生きる場所で、やるべきことをひとつずつこなしていくしかないのだろうと、リーシャは考えるようになっていた。
「姫さま、あたしね、大きくなったらお城で働きたいの。できるかな?」
「そうですね。使用人ならいろいろなお仕事がありますし、試験に受かれば身分を問わずに誰でもなれますよ。最近は女性の役人も少しずつ増えていますから、そちらを目指すこともできます」
優秀な人材であれば出自や身分、性別を問わずに登用するというのが現国王のやり方だ。
「じゃあ、あたしもお城で働けるの?」
「必ずできるとは言えませんが、可能性は十分ありますよ」
「やったぁ! いっぱいがんばるね!」
笑顔を見せてくれる女の子に思わずリーシャの顔もほころんだ。
それからも何人もの子どもたちの相手をしていたリーシャだが、次第に下腹部に重さを感じるようになっていた。
――お手洗いに行きたい。
昼食後に済ませておいたから帰るまで大丈夫かと思っていたのだが、その感覚は徐々に強くなっていった。
「それでね、ぼくね、将来お医者になりたいんだ!」
「素敵ですね。それでは、たくさんお勉強しないといけませんね」
男の子の話に相槌を打ちながら、スカートの中でこっそりと膝を擦り合わせる。
座っているため傍目からは見えないだろう。
どうしようと思いながら、リーシャは顔を曇らせた。
子どもたちの相手をしている途中で、お手洗いに行きたいからと席を外すことは果たして許されることなのだろうか。はしたなくはないだろうか。
「ねえ姫さま、次はわたしたちと遊んでー!」
「はい、いま行きますね……っ」
女の子に手を引かれて立ち上がろうとすると、ずくんと膀胱が疼いた。思わず顔をしかめてしまいそうになる。
「どうしたの? どこか痛いの?」
「いいえ、なんでもありませんよ」
心配そうな顔をする女の子になんとか笑みを向ける。
内股に力を込めて尿意の波を堰き止める。少しだけ落ち着いた隙に、そっと立ち上がった。
女の子に手を引かれて向かうと、彼女たちは外国語で書かれた本を広げていた。
「あのね、この本を読んでほしいの。姫さま、読めますか?」
「ええ。いいですよ」
彼女たちに乞われるまま、本を読み上げていく。
時折、こっそりと身体を揺らしたり、膝をそっと押し付けたりする。大きな動きをするわけにはいかない。下腹部の重さは少しずつ増していた。身体の内側から衝動が湧き上がってくる。
じっと座っていることがつらい。もっと身体を揺り動かしたり、手で押さえたりしたい。でもそんなことはできない。
おしっこがしたい。早くトイレに行きたい。
「あー! リーサがおもらししたー!」
突然、甲高い声が聞こえてきて、リーシャはびくっと肩を震わせた。声のしたほうを見ると、幼い女の子の足元に水溜まりが広がっていた。
リーサと呼ばれた子は声を上げて泣いていた。タオルを持った女性職員が慌てて駆け寄り、濡れた足を拭いてあげている。
「大丈夫よ、向こうで着替えましょうね」
リーサは手を引かれて連れられていき、年長の女の子が濡れた床を拭き始めた。
その様子を眺めていると、ぶるっと身体が震えた。
どうしよう。どうしよう。このままでは、子どもたちの前でおもらしをしてしまう。あの子みたいに、床に水溜まりを作ってしまう。そんなの嫌だ。せっかく子どもたちと仲良くなれたのに。笑顔を見せてくれたのに。王女のリーシャが子どものように粗相をしてしまっては、きっと失望されてしまう。
「姫様、お手洗いに行きましょう」
カイルがそっと耳打ちしてくる。それで決心がついた。
「ええと、ごめんなさい。わたし、院長先生にお話しすることがあって、少し、失礼しますねっ」
とっさに思いついた言い訳を口にして立ち上がる。前を押さえたくなるのを必死に堪えて、ふらふらと廊下に出た。
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