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初めての公務②
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昼食は子どもたちと一緒に、同じものを食べることになっていた。
薄味の野菜スープとパン。スクランブルエッグにベーコン。
城で出される食事とは違い質素なものだが、子どもたちは「いつもより豪華だ!」とはしゃいでいる。
カイルや警備を担当している十数名の兵たちは携行糧食を持参してきたため食卓をともに囲むことはしない。
カイルが別室で食事をとっている間、リーシャの護衛は別の衛兵に交代していた。
「姫さま、おいしいですか?」
「ええ、おいしいですよ」
隣に座っている女の子に話しかけられ、微笑みながら応える。
全体的に薄味の食事はリーシャの舌には馴染みのないものだが、子どもたちは皆おいしそうに食べている。不満を漏らしてはいけないと思った。
食事を終え、子どもたちに倣い後片付けをしようとすると女性の職員に止められた。
「姫様、それは私がやりますので。どうぞ座っていてください」
「あ……はい。ありがとうございます」
恐縮したように言われ、余計なことをしようとしてしまっただろうかと落ち込みそうになる。ここは城ではなく周りに使用人はいないのだから自分でやらないといけないかと思ったのだが、失敗してしまった。
食事の片付けが行われている中じっと座っているリーシャだったが、だんだん落ち着かない気持ちになってきてそっと席を立った。
「姫様、どちらへ」
「あ、ええと、ちょっと……」
短時間で食事を終え戻ってきていたカイルに訊かれ、小声で応える。
はっきりと言わずとも彼は察してくれたようだった。
城を出る前に済ませたきり一度もトイレに行っていないので、リーシャは尿意を催していた。まだ余裕はあるが早めに行っておいたほうがいいだろう。
廊下に出ようとして、はたと気付いた。手洗いの場所を知らない。食堂の中を見渡すと、子どもたちとともに食器を運んでいる院長を見つけた。
一度厨房に入ったあと、食堂に戻ってきた彼女のもとに静かに歩いていき声をかける。
「あ、あの……院長先生、すみません」
「姫様。どうかなさいましたか?」
にこやかに応じる院長に、恥を忍んでそっと訊ねる。
「ええと、お手洗いは、どちらでしょうか」
「ああ、そういえばお伝えしていませんでしたね。大変失礼いたしました。ご案内いたします」
院長のあとについていき、廊下を歩いていく。途中にあった子ども用の手洗いの前を素通りして、彼女が向かったのは裏口のほうだった。
裏口の側に、職員用と書かれた扉が男性用女性用とそれぞれ並んでいる。食堂からだと少し距離があったため、リーシャの尿意は自覚したときよりも僅かに強くなっていた。
「こちらです」
「ありがとうございます」
焦るような素振りは見せずに、落ち着いて女性用の扉を開ける。当然、カイルには廊下で待っていてもらう。中には個室がふたつ並んでいた。どちらも空いていたので奥の個室に足を踏み入れる。
個室の中は狭いけれど、きちんと清掃がされていて綺麗だった。気を付けてドレスの裾をたくし上げて座り、落ち着いて用を足す。
「はぁ……」
思わずため息が零れてしまう。
初めての公務ということでどうしても気を張っていた。僅かな時間だけれど、ひとりきりになれて少し安心する。
すっきりして、気持ちも落ち着いた。
午後も頑張ろうと思いながら、リーシャは丁寧に手を洗ってトイレを出た。
薄味の野菜スープとパン。スクランブルエッグにベーコン。
城で出される食事とは違い質素なものだが、子どもたちは「いつもより豪華だ!」とはしゃいでいる。
カイルや警備を担当している十数名の兵たちは携行糧食を持参してきたため食卓をともに囲むことはしない。
カイルが別室で食事をとっている間、リーシャの護衛は別の衛兵に交代していた。
「姫さま、おいしいですか?」
「ええ、おいしいですよ」
隣に座っている女の子に話しかけられ、微笑みながら応える。
全体的に薄味の食事はリーシャの舌には馴染みのないものだが、子どもたちは皆おいしそうに食べている。不満を漏らしてはいけないと思った。
食事を終え、子どもたちに倣い後片付けをしようとすると女性の職員に止められた。
「姫様、それは私がやりますので。どうぞ座っていてください」
「あ……はい。ありがとうございます」
恐縮したように言われ、余計なことをしようとしてしまっただろうかと落ち込みそうになる。ここは城ではなく周りに使用人はいないのだから自分でやらないといけないかと思ったのだが、失敗してしまった。
食事の片付けが行われている中じっと座っているリーシャだったが、だんだん落ち着かない気持ちになってきてそっと席を立った。
「姫様、どちらへ」
「あ、ええと、ちょっと……」
短時間で食事を終え戻ってきていたカイルに訊かれ、小声で応える。
はっきりと言わずとも彼は察してくれたようだった。
城を出る前に済ませたきり一度もトイレに行っていないので、リーシャは尿意を催していた。まだ余裕はあるが早めに行っておいたほうがいいだろう。
廊下に出ようとして、はたと気付いた。手洗いの場所を知らない。食堂の中を見渡すと、子どもたちとともに食器を運んでいる院長を見つけた。
一度厨房に入ったあと、食堂に戻ってきた彼女のもとに静かに歩いていき声をかける。
「あ、あの……院長先生、すみません」
「姫様。どうかなさいましたか?」
にこやかに応じる院長に、恥を忍んでそっと訊ねる。
「ええと、お手洗いは、どちらでしょうか」
「ああ、そういえばお伝えしていませんでしたね。大変失礼いたしました。ご案内いたします」
院長のあとについていき、廊下を歩いていく。途中にあった子ども用の手洗いの前を素通りして、彼女が向かったのは裏口のほうだった。
裏口の側に、職員用と書かれた扉が男性用女性用とそれぞれ並んでいる。食堂からだと少し距離があったため、リーシャの尿意は自覚したときよりも僅かに強くなっていた。
「こちらです」
「ありがとうございます」
焦るような素振りは見せずに、落ち着いて女性用の扉を開ける。当然、カイルには廊下で待っていてもらう。中には個室がふたつ並んでいた。どちらも空いていたので奥の個室に足を踏み入れる。
個室の中は狭いけれど、きちんと清掃がされていて綺麗だった。気を付けてドレスの裾をたくし上げて座り、落ち着いて用を足す。
「はぁ……」
思わずため息が零れてしまう。
初めての公務ということでどうしても気を張っていた。僅かな時間だけれど、ひとりきりになれて少し安心する。
すっきりして、気持ちも落ち着いた。
午後も頑張ろうと思いながら、リーシャは丁寧に手を洗ってトイレを出た。
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