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8.幸運の女神の悪戯。

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王宮の北側に多くの貴族領地があり、逆に南側には学園の土地が広がっていた。
学園には寮があり、貴族の学生が暮らしている。
そこで店の者を呼んで服や小物などを用意して貰う。
ツェザリ・ボルコもそんな裁縫を営む服屋の主人であった。

ツェザリが注文を聞くのは貧乏貴族だ。
学費を払うだけでも厳しい。
生活も苦しい。
それでも去年と同じドレスを着る訳もいかない。
季節に応じて違うドレスを準備するのが貴族の嗜みである。
ドレス1着で数十枚の金貨が飛んでゆく。
貧乏貴族にはとても出せない。
ツェザリの店は安めの生地で華やかにドレスを作ると評判の店であった。

予約していた前金を貰いにゆくとご令嬢達は悩んでいた。
悩みに悩み、やはりワンランク上にドレスにすると言われ、採寸から取り直す羽目になった。
随分と時間が取られてしまった。
材料を売る店が閉まってしまう。
ツェザリは町へ急いでいた。

「もうこんな時間になってしまいました」
「愚痴を言わずに足を動かしなさい」
「旦那様、今日中に材料を買えないと間に合わなくなります」
「そんなことは判っています」

手代は長々とドレスを選んでいた令嬢達を恨んでいた。
卒業までにあとわずかだ。
秋の学園祭は最後のチャンスかもしれない。

「気持ちは判りますが、もう一度決め直したいというにはどうでしょうか?」
「仕方ありません。急に新ダンジョンが見つかり、そこから古代王家の財宝が出回ったことで貧乏貴族が一夜で成金貴族に変わってしまいました。もう諦めていたご令嬢もチャンスが回ってきたのです。その殿方のハートを射止めたいと思うのは道理でしょう」
「そう言いますが旦那様、間に合わないと大変なことになります」
「だから、急ぐのです」

ツェザリと手代は町までシュートカットする裏道の坂道を上っていった。

 ◇◇◇

学園から王宮の前を抜けて町に続く裏道があった。
馬車は通れないが、徒歩なら一番の近道だ。
二人は坂道を上がっていた。
その二人の姿を林で身を隠し眺めていた者が走り出した。

「頭、来ました」
「がははは、こんな王宮の近くに盗賊がでるとは思わないだろう」
「流石、兄貴。頭がいいですね」
「貴族相手にたっぷり金を貰った商人が通るハズだ」
「それなら大街道の方が!」
「馬鹿野郎、あんな大通りで襲ったら、衛兵がすぐにくるだろう。しかも大商人は馬車に乗っている。それに比べ、こちらは抜け道だ。馬車は使えないから小金持ちの商人が通るって寸法よ」
「大商人の方が金を?」
「大商人なら腕のいい護衛を一人くらい雇っているだろう。小店主はそれもできない。狙うのは小店主だ」
「なるほど、お見逸れ致しました」

ツェザリと手代は坂を上りきると、休憩もせずにその歩みを早めた。

「旦那様、下りです。足元に置きお付けを!」
「判っています。でも、急いで帰って材料を買いに行かねばなりません」

ツェザリのボルコ商会は前金を貰わないと材料も買えない。
安い材料と言っても、貴族のドレスとなると良い生地が必要だった。
前金を貰わないと買うこともできない。
小店主ゆえの悩みであった。

「止まれ!」

突然に現れた大男が斧のような武器を軽々と持って現れた。
前を防がれてツェザリは足を止めた。
だだだっと冒険者風の男達4~5人が前後を塞いだ。
皆、武器を抜いている。
とても友好的とは思えない。

「何のようですか?」
「ちょっとこづかいを頂こうと思ってな!」
「こんなことをしてタダで済むと思っているのですか?」
「思っているぜ。あそこの丁度いい縦穴がある。何人か落とすには具合がいいんだよ」
「問答無用ですか!」
「がははは、悪いな!」

商人ツェザリは懐からナイフを取り出した。
護衛を雇わなかったことを後悔したが雇うほどの余裕もない。

「私は急いで帰って仕事をしなければいけないのです」
「帰れると思っているのか?」
「旦那様、道を開きます。お逃げ下さい」
「馬鹿者かぁ! おまえがいないと仕事が間に合わないだろう」
「旦那様!」

手代は主人の心遣いに感動し、ナイフを抜いて生き残る覚悟をした。
盗賊からすれば滑稽だった。
ナイフの持ち方が素人だ。
部下Aが襲い掛かる。

カキーン、手代のナイフを弾かれた。

「ほらよ!」

部下Aは勢いのままに足を付き上げて手代を蹴る。
腹を蹴られた手代が吹き飛ばされた。
チェックメイト。
起き上がる前に剣先が目の前に据えられる。
横に逃げたくとも道は窪地のように凹んでおり逃げ道がない。

「ひえぇぇぇ、助けてくれ!」

手代が大声で叫んだ。
貴族は馬車を使うので細い裏道を通る人は少ない。
盗賊達は誰も来ないと思っていた。

「助太刀致す」

何ぃ、ショートソードを抜いて少年二人が走ってきた。

どうして居やがる?

それは幸運の女神の悪戯としか言えない。

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