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7.カロリナ、風になる。
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お父様、カロニナの勉強の時間を減らして下さい。
カロリナが上目使いでそう言うと勉強時間が減った。
そんな馬鹿な要求があるか!
そう思うかも知れないがあるのだ。
親馬鹿だった。
鬼の大蔵大臣も娘には形無しだった。
そして、兄のレヴィンも激甘のシスコンであった。
お出掛け用に見た目が質素な高級魔法付加ローブを送る始末だ。
従長のオルガは頭を抱えた。
甘やかされて、カロリナがますます我儘に育っていった。
「アンブラ、私は魔物を狩ってみたいわ」
「魔物の討伐はされておりますから、この辺りは獣しかでません」
「では、獣でもいいから退治しましょう」
影は困った。
カロリナに怪我でもさせれば大目玉だ。
でも、今日の気分は冒険者だった。
でも、森や丘を巡っても兎一匹も出会わない。
それもそのハズだ。
屋敷の周辺は警備隊が常に周回している。
最近はお嬢様が抜け出すので念入りに巡回回数を増やしていた。
お嬢様に何かあれば大変だ。
それこそ、御当主様とお兄様が鬼と修羅に化ける。
さらに、カロリナ大好きな奥さん方に責められ家で居場所を失う。
迷惑な話だった。
「私の華麗な剣捌きを見せたかったのに」
「それは残念です」
「私は全戦全勝の名剣士なのよ」
影の目が流れた。
紙を丸めた剣の話である。
カロリナは魔法使いだ。
剣は必要ない。
カロリナは討ち掛かってくるときに自分でつまずきそうになるから兵も気が気でない。
しかも擦り傷でも付けた日には御当主様が激怒のあまり一族を滅ぼし兼ねない。
そりゃ、全戦全勝になる。
カロリナは有頂天になっていた。
「どうして、獣一匹でてこないのよ」
「お嬢様、そういう日もあります」
「エルは出会ったことがあるの?」
「はい、買い出しとか頼まれたときなどに」
「それだわ!」
カロリナは東に大街道に出て、町を目指せば魔物に会えると思った。
勘違いだ。
大街道に近づくほど安全になってゆく。
エルが出会ったのは街道に出るまでの森の中である。
それも最近はでない。
誰かがお忍びの出るようになったので警備隊ががんばっていた。
『ひえぇぇぇ、助けてくれ!』
街道を目指すカロリナの耳に悲鳴が聞こえた。
叫び声だ。
それは風のそよ風のようなかすれた声であったが聞き逃すカロリナではない。
目を輝かせて言った。
「誰かが魔物に襲われています。助けます」
「お嬢様、この辺りに魔物はおりません」
「そんなことはどうですいいの!」
「ですが?」
「アンブラ、口答えは許しません。急いでおゆきなさい」
カロリナは馬鹿なお嬢様であったが愚かではない。
自分の足では間に合わない。
そのことをはっきりと判っていた。
そう影は悟った。
「申し訳ございませんが、私はお嬢様から離れる訳にいきません」
「何を言っているの? アンブラが私らを抱えて行くのよ。向こうに着いたら、私は切り倒してみせるわ。急ぎなさい」
やはり、カロリナは馬鹿だった。
自分で助ける気満々だった。
カロリナの目がいますぐに連れてゆけと命令している。
天を仰ぎながら影はカロリナとエルを両脇に抱えると一気に走り出した。
忍者のような影は木々の間を駆けぬけた。
カロリナは風になった。
目の前に迫った木が自分から避けてゆくような景色が広がる。
「ひぇぇ、お嬢様」
「エル、よく見さない。楽しいわ!」
「怖いです」
小川が流れる谷間を抜け、大きな岩をひょいひょいと跳んで避けてゆく。
肉体強化が作る人間ジェットコースターだ。
カロリナがこれを気にいったことを影は知らない。
カロリナが上目使いでそう言うと勉強時間が減った。
そんな馬鹿な要求があるか!
そう思うかも知れないがあるのだ。
親馬鹿だった。
鬼の大蔵大臣も娘には形無しだった。
そして、兄のレヴィンも激甘のシスコンであった。
お出掛け用に見た目が質素な高級魔法付加ローブを送る始末だ。
従長のオルガは頭を抱えた。
甘やかされて、カロリナがますます我儘に育っていった。
「アンブラ、私は魔物を狩ってみたいわ」
「魔物の討伐はされておりますから、この辺りは獣しかでません」
「では、獣でもいいから退治しましょう」
影は困った。
カロリナに怪我でもさせれば大目玉だ。
でも、今日の気分は冒険者だった。
でも、森や丘を巡っても兎一匹も出会わない。
それもそのハズだ。
屋敷の周辺は警備隊が常に周回している。
最近はお嬢様が抜け出すので念入りに巡回回数を増やしていた。
お嬢様に何かあれば大変だ。
それこそ、御当主様とお兄様が鬼と修羅に化ける。
さらに、カロリナ大好きな奥さん方に責められ家で居場所を失う。
迷惑な話だった。
「私の華麗な剣捌きを見せたかったのに」
「それは残念です」
「私は全戦全勝の名剣士なのよ」
影の目が流れた。
紙を丸めた剣の話である。
カロリナは魔法使いだ。
剣は必要ない。
カロリナは討ち掛かってくるときに自分でつまずきそうになるから兵も気が気でない。
しかも擦り傷でも付けた日には御当主様が激怒のあまり一族を滅ぼし兼ねない。
そりゃ、全戦全勝になる。
カロリナは有頂天になっていた。
「どうして、獣一匹でてこないのよ」
「お嬢様、そういう日もあります」
「エルは出会ったことがあるの?」
「はい、買い出しとか頼まれたときなどに」
「それだわ!」
カロリナは東に大街道に出て、町を目指せば魔物に会えると思った。
勘違いだ。
大街道に近づくほど安全になってゆく。
エルが出会ったのは街道に出るまでの森の中である。
それも最近はでない。
誰かがお忍びの出るようになったので警備隊ががんばっていた。
『ひえぇぇぇ、助けてくれ!』
街道を目指すカロリナの耳に悲鳴が聞こえた。
叫び声だ。
それは風のそよ風のようなかすれた声であったが聞き逃すカロリナではない。
目を輝かせて言った。
「誰かが魔物に襲われています。助けます」
「お嬢様、この辺りに魔物はおりません」
「そんなことはどうですいいの!」
「ですが?」
「アンブラ、口答えは許しません。急いでおゆきなさい」
カロリナは馬鹿なお嬢様であったが愚かではない。
自分の足では間に合わない。
そのことをはっきりと判っていた。
そう影は悟った。
「申し訳ございませんが、私はお嬢様から離れる訳にいきません」
「何を言っているの? アンブラが私らを抱えて行くのよ。向こうに着いたら、私は切り倒してみせるわ。急ぎなさい」
やはり、カロリナは馬鹿だった。
自分で助ける気満々だった。
カロリナの目がいますぐに連れてゆけと命令している。
天を仰ぎながら影はカロリナとエルを両脇に抱えると一気に走り出した。
忍者のような影は木々の間を駆けぬけた。
カロリナは風になった。
目の前に迫った木が自分から避けてゆくような景色が広がる。
「ひぇぇ、お嬢様」
「エル、よく見さない。楽しいわ!」
「怖いです」
小川が流れる谷間を抜け、大きな岩をひょいひょいと跳んで避けてゆく。
肉体強化が作る人間ジェットコースターだ。
カロリナがこれを気にいったことを影は知らない。
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