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051 空飛ぶ魔道具
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「へりこぷたー?」
「そう、ヘリコプター」
地球には有人飛行物として、飛行機やヘリコプターがある。
人が乗れるドローンも試作が進んでいるというニュースを見た事があるけど、とりあえず今回は保留。
ロケットも有人飛行物に一応含めていいかもしれないけど、操縦は出来なさそうだし、使い捨て感があるので却下。
ホバークラフトもある意味浮いてるので飛行物?まあ、今回は却下。
となると、飛行機かヘリコプターかなと思ったのだが、飛行機の場合、安定した機体の試作が大変そうなのと、飛べたとしても着陸が難しそうなので、これも却下。
という事で、ヘリコプターだ。
決して手軽ではないが、説明がしやすく、アドルとエスカにもイメージが伝わりやすいのではないかと考えた。
それに、魔力と魔石回路で、なんとか実現できそうな感じもする。
さすがに今日明日で作れるような代物では無いけど、ヘリコプターの仕組みについて、とりあえず説明だけはしてみる事にした。
わたしもどこまで覚えているかはわからないけど。
紙と筆記具を用意して、思い出しながらヘリコプターの形を描いてみる。
『絵心のない人が絵を書くと、なぜみんな左向きになるんだろう』と心の中で自問自答しつつ、わたしは左向きのヘリコプターの絵を描いた。
「まず、四枚構造の羽・・・板状で、断面がこんな感じで膨らんでいるようなものを用意します。この羽は『メインローター』って言うの。折れちゃったら墜落するから、ものすごく丈夫なやつで作ってね。多少重くてもいいから、絶対折れたり曲がったりしないやつね」
「多少重くてもいいの?」
「多少重くてもいいのよ。もちろん人が乗る部分も丈夫でしっかりしたものにしてね」
続けてわたしは、ヘリコプターのメインローター部分だけを描いてみた。
あわせて、羽の断面も描く。
羽の断面は、前方が膨らんでいて、後ろにいくにつれて緩やかな曲線で細くなっていく。
揚力の説明によく使うあの絵だ。
「この羽の断面の形が重要なの。必ず絵ような感じにしてね」
「前側がちょっと膨らんでて、後ろ側に行くにつれて細くなってる流線形、と・・・」
エスカが絵を見て、ブツブツと独り言を言っている。
わたしは続いて、テールローターの話をする。
「それと、後ろにも羽が必要です。後ろの羽は縦向きに付けるの。乗る場所がこんな感じだとすると、後ろの羽はこういう感じね」
簡易的に、一人乗り風のヘリコプターの胴体部分を描き、上にメインローター、後ろにテールローターを描く。
一応、正面図と側面図と上面図も書くが、やっぱりわたしの絵はへたっぴなので、ちゃんと伝わるかどうか不安だ。
「でね、この後ろの羽は『テールローター』と言うの。胴体に対して垂直についてる。上の羽が回転する事で、胴体部分も回ってしまうのだけど、胴体部分が回らないように反対方向の力を加えるためのものなの」
「ほうほう。続けて」
アドルとエスカが食い入るように絵を見る。
異世界の技術が珍しいのだろう。
・・・決してわたしの絵のレベルがある意味『画伯』だから、面白がっているのでは無いと信じたい。
「えーと、飛び方だけど、上のメインローターを高速で回すと、ヘリコプター本体が空中に浮きます」
「浮くの!?これで?」
「『揚力』って言って、浮かび上がる力が生まれんるだよ」
「ふーん」
・・・信じていないような感じだ。
まあ信じられないのも無理はない。
とりあえず話を進める。
「でね、メインローターを回す事で空中に浮くのだけど、さっき話した通り、胴体が回っちゃうので、胴体が回らないようにテールローターを回して、胴体が真正面から動かないように姿勢制御をします。もしかしたらこのへんは魔石回路を使って工夫できるかも知れないね」
「ふむふむ」
エスカは真剣そのものだ。
研究者の顔だね。
「メインローターとテールローターはしっかりと連動させて、姿勢を保つことを常に忘れないでね。で、メインローターの回転力を強めれば上空に向かって上がるし、弱めれば地面に着陸できます。上下の動作はこれだけ」
「メインローターの回転力は、普通に魔力量の強弱でいいな。船の推進力と似たような感じでできると思う」
アドルが問題ない、と言った。
「前後左右に動けるの?どうやって動くの?」
エスカの疑問にお答えするため、わたしは人が乗っている場所に棒のような操縦桿を書く。
棒だけど、操縦桿だと言ったら操縦桿だ。
「前後左右に動くためには、メインローターを傾ければいいの。これは操縦桿と言って、この棒を傾ける動きと連動して、メインローターの角度を変えるの。そうする事で、前後左右に動けるのよ。上下だけに動く場合は、操縦桿を元の位置に戻して、メインローターを水平にしてね。この絵では操縦桿にしたけど、別に操縦桿でなくてもいいわ。思い通りにメインローターを傾けることができればいいの」
操縦桿を前に倒すと、メインローターが前に傾き、そして前に進む、という絵を描き込む。
左右と後ろについては同じ理屈なので、わざわざ絵には書かない。
・・・絵にするのがめんどくさいので。
「すごい。画期的だ。本当に飛ぶかは実際に作ってみるまでは信じられないけど」
「ふふっ。そうよね。でも実際にわたしの世界ではこれがたくさん飛んでいるのよ。すごく簡単に説明したけど、本当はもっと色々なバランス調整とかをしているはずだわ。魔力のない世界なので、別の力で制御してるのだけどね」
この世界に電気は無さそうだった。
でもこの世界には、電子基盤の代わりに魔石回路が、燃料の代わりに魔力がある。
「魔力でも実現できるかな?」
「わたしもそれを考えたわ。むしろ魔力の方が融通がきいて、制御しやすいかもしれないと思ったわ」
「なるほど、実に面白い」
エスカが某ドラマの変人物理学者みたいな感想を言った。
しばらく皆で絵を見たり、分かる範囲で質問に答えたりしていたが、夜も遅くなったのでヘリコプターの説明はここまでにして、宿に戻る事にした。
・・・魔力によるヘリコプター。
いつかは実現できるかもしれない。
船に戻ったら少しずつ試作してみてもいいかもしれないね。
◇
翌朝、いつも通りに朝の身支度をして、朝食の時間に食堂へ向かった。
既に朝食の開始時間は過ぎていたが、エスカはまだ食堂に来ていなかった。
エスカが来てから一緒に食事を取ろうと思って待ってみたが、いつまで経ってもエスカが来ない。
朝食に来ないエスカを起こすためにエスカの部屋に行ってみるが、エスカはいないようだった。
仕方なく先に朝食を食べる事にしたのだが、発掘チームの中に、アドルの姿も見当たらない事に気がついた。
発掘チームの人にアドルの事を聞くと、昨夜、アドルが夜遅くに宿に戻ってから、発掘チームの人を捕まえて『最終日も発掘ではなく魔道具作りのほうを手伝う』と伝えて、再び作業小屋に行ったそうだ。
「ふーん。アドルは今日も手伝ってくれるのね。・・・って、今、再び小屋に行ったって言いました!?」
まさかエスカも・・・
わたしは急いで朝食を終えると、ディーネと一緒に作業小屋に向かった。
◇
「で、弁明を聞かせていただきましょうか?」
「はい。弁解の余地もございません」
またデジャヴだ。
完全に立場が逆転してるけど。
曰く、アドルはヘリコプターをどうしても試作してみたくて、再び小屋に来てしまったそうだ。
しかし、小屋の鍵を持っていない事に気が付き、戻ろうとしたが、なんとそこには鍵を持って小屋にやってきたエスカの姿があった。
「いや、オレは鍵がない時点で帰ろうとしたんだよ。だけど・・・」
「そんなことは聞いていません」
「はい・・・」
互いが同じ目的を持つ共犯者である事はすぐにわかったという。
エスカとアドルは魔力ヘリコプターを作るための魔石回路の開発と、羽と胴体の試作と実験を行い、なんとか試作一号機を作り上げたところで力尽きたという。
部屋の中央に、一人乗りにちょうど良さそうなヘリコプターの胴体部分と、メインローターと思われる部品が転がっている。
・・・これを二人で夜なべして作っていたのか。
「でも、お互いの待ち時間には、武器の量産もちゃんとやってたんだからね。もう九割ぐらい終わったし」
「そんな事は聞いていません」
「はい。おっしゃる通りです」
エスカとアドルは正座して頭を下げている。
「ユリよ。其方も前に同じような事で怒られておる。お互い様ではないか?一度は許してやるが良い。量産も一応は進んでおるしの」
「ディーネちゃん。違うの。わたしは・・・わたしはね・・・」
キッとエスカとアドルを見て、大声で叫んだ。
「なんでそんな面白そうな事、わたしも呼んでくれなかったのよーーー!」
わたしも参加したかったよ。ちくせう。
「そう、ヘリコプター」
地球には有人飛行物として、飛行機やヘリコプターがある。
人が乗れるドローンも試作が進んでいるというニュースを見た事があるけど、とりあえず今回は保留。
ロケットも有人飛行物に一応含めていいかもしれないけど、操縦は出来なさそうだし、使い捨て感があるので却下。
ホバークラフトもある意味浮いてるので飛行物?まあ、今回は却下。
となると、飛行機かヘリコプターかなと思ったのだが、飛行機の場合、安定した機体の試作が大変そうなのと、飛べたとしても着陸が難しそうなので、これも却下。
という事で、ヘリコプターだ。
決して手軽ではないが、説明がしやすく、アドルとエスカにもイメージが伝わりやすいのではないかと考えた。
それに、魔力と魔石回路で、なんとか実現できそうな感じもする。
さすがに今日明日で作れるような代物では無いけど、ヘリコプターの仕組みについて、とりあえず説明だけはしてみる事にした。
わたしもどこまで覚えているかはわからないけど。
紙と筆記具を用意して、思い出しながらヘリコプターの形を描いてみる。
『絵心のない人が絵を書くと、なぜみんな左向きになるんだろう』と心の中で自問自答しつつ、わたしは左向きのヘリコプターの絵を描いた。
「まず、四枚構造の羽・・・板状で、断面がこんな感じで膨らんでいるようなものを用意します。この羽は『メインローター』って言うの。折れちゃったら墜落するから、ものすごく丈夫なやつで作ってね。多少重くてもいいから、絶対折れたり曲がったりしないやつね」
「多少重くてもいいの?」
「多少重くてもいいのよ。もちろん人が乗る部分も丈夫でしっかりしたものにしてね」
続けてわたしは、ヘリコプターのメインローター部分だけを描いてみた。
あわせて、羽の断面も描く。
羽の断面は、前方が膨らんでいて、後ろにいくにつれて緩やかな曲線で細くなっていく。
揚力の説明によく使うあの絵だ。
「この羽の断面の形が重要なの。必ず絵ような感じにしてね」
「前側がちょっと膨らんでて、後ろ側に行くにつれて細くなってる流線形、と・・・」
エスカが絵を見て、ブツブツと独り言を言っている。
わたしは続いて、テールローターの話をする。
「それと、後ろにも羽が必要です。後ろの羽は縦向きに付けるの。乗る場所がこんな感じだとすると、後ろの羽はこういう感じね」
簡易的に、一人乗り風のヘリコプターの胴体部分を描き、上にメインローター、後ろにテールローターを描く。
一応、正面図と側面図と上面図も書くが、やっぱりわたしの絵はへたっぴなので、ちゃんと伝わるかどうか不安だ。
「でね、この後ろの羽は『テールローター』と言うの。胴体に対して垂直についてる。上の羽が回転する事で、胴体部分も回ってしまうのだけど、胴体部分が回らないように反対方向の力を加えるためのものなの」
「ほうほう。続けて」
アドルとエスカが食い入るように絵を見る。
異世界の技術が珍しいのだろう。
・・・決してわたしの絵のレベルがある意味『画伯』だから、面白がっているのでは無いと信じたい。
「えーと、飛び方だけど、上のメインローターを高速で回すと、ヘリコプター本体が空中に浮きます」
「浮くの!?これで?」
「『揚力』って言って、浮かび上がる力が生まれんるだよ」
「ふーん」
・・・信じていないような感じだ。
まあ信じられないのも無理はない。
とりあえず話を進める。
「でね、メインローターを回す事で空中に浮くのだけど、さっき話した通り、胴体が回っちゃうので、胴体が回らないようにテールローターを回して、胴体が真正面から動かないように姿勢制御をします。もしかしたらこのへんは魔石回路を使って工夫できるかも知れないね」
「ふむふむ」
エスカは真剣そのものだ。
研究者の顔だね。
「メインローターとテールローターはしっかりと連動させて、姿勢を保つことを常に忘れないでね。で、メインローターの回転力を強めれば上空に向かって上がるし、弱めれば地面に着陸できます。上下の動作はこれだけ」
「メインローターの回転力は、普通に魔力量の強弱でいいな。船の推進力と似たような感じでできると思う」
アドルが問題ない、と言った。
「前後左右に動けるの?どうやって動くの?」
エスカの疑問にお答えするため、わたしは人が乗っている場所に棒のような操縦桿を書く。
棒だけど、操縦桿だと言ったら操縦桿だ。
「前後左右に動くためには、メインローターを傾ければいいの。これは操縦桿と言って、この棒を傾ける動きと連動して、メインローターの角度を変えるの。そうする事で、前後左右に動けるのよ。上下だけに動く場合は、操縦桿を元の位置に戻して、メインローターを水平にしてね。この絵では操縦桿にしたけど、別に操縦桿でなくてもいいわ。思い通りにメインローターを傾けることができればいいの」
操縦桿を前に倒すと、メインローターが前に傾き、そして前に進む、という絵を描き込む。
左右と後ろについては同じ理屈なので、わざわざ絵には書かない。
・・・絵にするのがめんどくさいので。
「すごい。画期的だ。本当に飛ぶかは実際に作ってみるまでは信じられないけど」
「ふふっ。そうよね。でも実際にわたしの世界ではこれがたくさん飛んでいるのよ。すごく簡単に説明したけど、本当はもっと色々なバランス調整とかをしているはずだわ。魔力のない世界なので、別の力で制御してるのだけどね」
この世界に電気は無さそうだった。
でもこの世界には、電子基盤の代わりに魔石回路が、燃料の代わりに魔力がある。
「魔力でも実現できるかな?」
「わたしもそれを考えたわ。むしろ魔力の方が融通がきいて、制御しやすいかもしれないと思ったわ」
「なるほど、実に面白い」
エスカが某ドラマの変人物理学者みたいな感想を言った。
しばらく皆で絵を見たり、分かる範囲で質問に答えたりしていたが、夜も遅くなったのでヘリコプターの説明はここまでにして、宿に戻る事にした。
・・・魔力によるヘリコプター。
いつかは実現できるかもしれない。
船に戻ったら少しずつ試作してみてもいいかもしれないね。
◇
翌朝、いつも通りに朝の身支度をして、朝食の時間に食堂へ向かった。
既に朝食の開始時間は過ぎていたが、エスカはまだ食堂に来ていなかった。
エスカが来てから一緒に食事を取ろうと思って待ってみたが、いつまで経ってもエスカが来ない。
朝食に来ないエスカを起こすためにエスカの部屋に行ってみるが、エスカはいないようだった。
仕方なく先に朝食を食べる事にしたのだが、発掘チームの中に、アドルの姿も見当たらない事に気がついた。
発掘チームの人にアドルの事を聞くと、昨夜、アドルが夜遅くに宿に戻ってから、発掘チームの人を捕まえて『最終日も発掘ではなく魔道具作りのほうを手伝う』と伝えて、再び作業小屋に行ったそうだ。
「ふーん。アドルは今日も手伝ってくれるのね。・・・って、今、再び小屋に行ったって言いました!?」
まさかエスカも・・・
わたしは急いで朝食を終えると、ディーネと一緒に作業小屋に向かった。
◇
「で、弁明を聞かせていただきましょうか?」
「はい。弁解の余地もございません」
またデジャヴだ。
完全に立場が逆転してるけど。
曰く、アドルはヘリコプターをどうしても試作してみたくて、再び小屋に来てしまったそうだ。
しかし、小屋の鍵を持っていない事に気が付き、戻ろうとしたが、なんとそこには鍵を持って小屋にやってきたエスカの姿があった。
「いや、オレは鍵がない時点で帰ろうとしたんだよ。だけど・・・」
「そんなことは聞いていません」
「はい・・・」
互いが同じ目的を持つ共犯者である事はすぐにわかったという。
エスカとアドルは魔力ヘリコプターを作るための魔石回路の開発と、羽と胴体の試作と実験を行い、なんとか試作一号機を作り上げたところで力尽きたという。
部屋の中央に、一人乗りにちょうど良さそうなヘリコプターの胴体部分と、メインローターと思われる部品が転がっている。
・・・これを二人で夜なべして作っていたのか。
「でも、お互いの待ち時間には、武器の量産もちゃんとやってたんだからね。もう九割ぐらい終わったし」
「そんな事は聞いていません」
「はい。おっしゃる通りです」
エスカとアドルは正座して頭を下げている。
「ユリよ。其方も前に同じような事で怒られておる。お互い様ではないか?一度は許してやるが良い。量産も一応は進んでおるしの」
「ディーネちゃん。違うの。わたしは・・・わたしはね・・・」
キッとエスカとアドルを見て、大声で叫んだ。
「なんでそんな面白そうな事、わたしも呼んでくれなかったのよーーー!」
わたしも参加したかったよ。ちくせう。
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