ポニーテールの勇者様

相葉和

文字の大きさ
上 下
51 / 206

051 空飛ぶ魔道具

しおりを挟む
「へりこぷたー?」
「そう、ヘリコプター」

地球には有人飛行物として、飛行機やヘリコプターがある。
人が乗れるドローンも試作が進んでいるというニュースを見た事があるけど、とりあえず今回は保留。

ロケットも有人飛行物に一応含めていいかもしれないけど、操縦は出来なさそうだし、使い捨て感があるので却下。

ホバークラフトもある意味浮いてるので飛行物?まあ、今回は却下。

となると、飛行機かヘリコプターかなと思ったのだが、飛行機の場合、安定した機体の試作が大変そうなのと、飛べたとしても着陸が難しそうなので、これも却下。

という事で、ヘリコプターだ。
決して手軽ではないが、説明がしやすく、アドルとエスカにもイメージが伝わりやすいのではないかと考えた。
それに、魔力と魔石回路で、なんとか実現できそうな感じもする。

さすがに今日明日で作れるような代物では無いけど、ヘリコプターの仕組みについて、とりあえず説明だけはしてみる事にした。
わたしもどこまで覚えているかはわからないけど。

 紙と筆記具を用意して、思い出しながらヘリコプターの形を描いてみる。
『絵心のない人が絵を書くと、なぜみんな左向きになるんだろう』と心の中で自問自答しつつ、わたしは左向きのヘリコプターの絵を描いた。

「まず、四枚構造の羽・・・板状で、断面がこんな感じで膨らんでいるようなものを用意します。この羽は『メインローター』って言うの。折れちゃったら墜落するから、ものすごく丈夫なやつで作ってね。多少重くてもいいから、絶対折れたり曲がったりしないやつね」
「多少重くてもいいの?」
「多少重くてもいいのよ。もちろん人が乗る部分も丈夫でしっかりしたものにしてね」

続けてわたしは、ヘリコプターのメインローター部分だけを描いてみた。
あわせて、羽の断面も描く。
羽の断面は、前方が膨らんでいて、後ろにいくにつれて緩やかな曲線で細くなっていく。
揚力の説明によく使うあの絵だ。

「この羽の断面の形が重要なの。必ず絵ような感じにしてね」
「前側がちょっと膨らんでて、後ろ側に行くにつれて細くなってる流線形、と・・・」

エスカが絵を見て、ブツブツと独り言を言っている。

わたしは続いて、テールローターの話をする。

「それと、後ろにも羽が必要です。後ろの羽は縦向きに付けるの。乗る場所がこんな感じだとすると、後ろの羽はこういう感じね」

簡易的に、一人乗り風のヘリコプターの胴体部分を描き、上にメインローター、後ろにテールローターを描く。
一応、正面図と側面図と上面図も書くが、やっぱりわたしの絵はへたっぴなので、ちゃんと伝わるかどうか不安だ。

「でね、この後ろの羽は『テールローター』と言うの。胴体に対して垂直についてる。上の羽が回転する事で、胴体部分も回ってしまうのだけど、胴体部分が回らないように反対方向の力を加えるためのものなの」
「ほうほう。続けて」

アドルとエスカが食い入るように絵を見る。
異世界の技術が珍しいのだろう。
・・・決してわたしの絵のレベルがある意味『画伯』だから、面白がっているのでは無いと信じたい。

「えーと、飛び方だけど、上のメインローターを高速で回すと、ヘリコプター本体が空中に浮きます」
「浮くの!?これで?」
「『揚力』って言って、浮かび上がる力が生まれんるだよ」
「ふーん」

・・・信じていないような感じだ。
まあ信じられないのも無理はない。
とりあえず話を進める。

「でね、メインローターを回す事で空中に浮くのだけど、さっき話した通り、胴体が回っちゃうので、胴体が回らないようにテールローターを回して、胴体が真正面から動かないように姿勢制御をします。もしかしたらこのへんは魔石回路を使って工夫できるかも知れないね」
「ふむふむ」

エスカは真剣そのものだ。
研究者の顔だね。

「メインローターとテールローターはしっかりと連動させて、姿勢を保つことを常に忘れないでね。で、メインローターの回転力を強めれば上空に向かって上がるし、弱めれば地面に着陸できます。上下の動作はこれだけ」
「メインローターの回転力は、普通に魔力量の強弱でいいな。船の推進力と似たような感じでできると思う」

アドルが問題ない、と言った。

「前後左右に動けるの?どうやって動くの?」

エスカの疑問にお答えするため、わたしは人が乗っている場所に棒のような操縦桿を書く。
棒だけど、操縦桿だと言ったら操縦桿だ。

「前後左右に動くためには、メインローターを傾ければいいの。これは操縦桿と言って、この棒を傾ける動きと連動して、メインローターの角度を変えるの。そうする事で、前後左右に動けるのよ。上下だけに動く場合は、操縦桿を元の位置に戻して、メインローターを水平にしてね。この絵では操縦桿にしたけど、別に操縦桿でなくてもいいわ。思い通りにメインローターを傾けることができればいいの」

操縦桿を前に倒すと、メインローターが前に傾き、そして前に進む、という絵を描き込む。
左右と後ろについては同じ理屈なので、わざわざ絵には書かない。
・・・絵にするのがめんどくさいので。

「すごい。画期的だ。本当に飛ぶかは実際に作ってみるまでは信じられないけど」
「ふふっ。そうよね。でも実際にわたしの世界ではこれがたくさん飛んでいるのよ。すごく簡単に説明したけど、本当はもっと色々なバランス調整とかをしているはずだわ。魔力のない世界なので、別の力で制御してるのだけどね」

この世界に電気は無さそうだった。
でもこの世界には、電子基盤の代わりに魔石回路が、燃料の代わりに魔力がある。

「魔力でも実現できるかな?」
「わたしもそれを考えたわ。むしろ魔力の方が融通がきいて、制御しやすいかもしれないと思ったわ」
「なるほど、実に面白い」

エスカが某ドラマの変人物理学者みたいな感想を言った。

しばらく皆で絵を見たり、分かる範囲で質問に答えたりしていたが、夜も遅くなったのでヘリコプターの説明はここまでにして、宿に戻る事にした。

・・・魔力によるヘリコプター。
いつかは実現できるかもしれない。
船に戻ったら少しずつ試作してみてもいいかもしれないね。



翌朝、いつも通りに朝の身支度をして、朝食の時間に食堂へ向かった。
既に朝食の開始時間は過ぎていたが、エスカはまだ食堂に来ていなかった。

エスカが来てから一緒に食事を取ろうと思って待ってみたが、いつまで経ってもエスカが来ない。
朝食に来ないエスカを起こすためにエスカの部屋に行ってみるが、エスカはいないようだった。

仕方なく先に朝食を食べる事にしたのだが、発掘チームの中に、アドルの姿も見当たらない事に気がついた。

発掘チームの人にアドルの事を聞くと、昨夜、アドルが夜遅くに宿に戻ってから、発掘チームの人を捕まえて『最終日も発掘ではなく魔道具作りのほうを手伝う』と伝えて、再び作業小屋に行ったそうだ。

「ふーん。アドルは今日も手伝ってくれるのね。・・・って、今、再び小屋に行ったって言いました!?」

まさかエスカも・・・
わたしは急いで朝食を終えると、ディーネと一緒に作業小屋に向かった。



「で、弁明を聞かせていただきましょうか?」
「はい。弁解の余地もございません」

またデジャヴだ。
完全に立場が逆転してるけど。

曰く、アドルはヘリコプターをどうしても試作してみたくて、再び小屋に来てしまったそうだ。
しかし、小屋の鍵を持っていない事に気が付き、戻ろうとしたが、なんとそこには鍵を持って小屋にやってきたエスカの姿があった。

「いや、オレは鍵がない時点で帰ろうとしたんだよ。だけど・・・」
「そんなことは聞いていません」
「はい・・・」

互いが同じ目的を持つ共犯者である事はすぐにわかったという。
エスカとアドルは魔力ヘリコプターを作るための魔石回路の開発と、羽と胴体の試作と実験を行い、なんとか試作一号機を作り上げたところで力尽きたという。

部屋の中央に、一人乗りにちょうど良さそうなヘリコプターの胴体部分と、メインローターと思われる部品が転がっている。

・・・これを二人で夜なべして作っていたのか。

「でも、お互いの待ち時間には、武器の量産もちゃんとやってたんだからね。もう九割ぐらい終わったし」
「そんな事は聞いていません」
「はい。おっしゃる通りです」

エスカとアドルは正座して頭を下げている。

「ユリよ。其方も前に同じような事で怒られておる。お互い様ではないか?一度は許してやるが良い。量産も一応は進んでおるしの」
「ディーネちゃん。違うの。わたしは・・・わたしはね・・・」

キッとエスカとアドルを見て、大声で叫んだ。

「なんでそんな面白そうな事、わたしも呼んでくれなかったのよーーー!」

わたしも参加したかったよ。ちくせう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】ベニアミーナ・チェーヴァの悲劇

恋愛
チェーヴァ家の当主であるフィデンツィオ・チェーヴァは暴君だった。 家族や使用人に、罵声を浴びせ暴力を振るう日々…… チェーヴァ家のベニアミーナは、実母エルミーニアが亡くなってからしばらく、僧院に預けられていたが、数年が経った時にフィデンツィオに連れ戻される。 そして地獄の日々がはじまるのだった。 ※復讐物語 ※ハッピーエンドではありません。 ※ベアトリーチェ・チェンチの、チェンチ家の悲劇を元に物語を書いています。 ※史実と異なるところもありますので、完全な歴史小説ではありません。 ※ハッピーなことはありません。 ※残虐、近親での行為表現もあります。 コメントをいただけるのは嬉しいですが、コメントを読む人のことをよく考えてからご記入いただきますようお願いします。 この一文をご理解いただけない方のコメントは削除させていただきます。

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。

くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」 「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」 いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。 「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と…… 私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。 「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」 「はい、お父様、お母様」 「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」 「……はい」 「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」 「はい、わかりました」 パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、 兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。 誰も私の言葉を聞いてくれない。 誰も私を見てくれない。 そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。 ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。 「……なんか、馬鹿みたいだわ!」 もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる! ふるゆわ設定です。 ※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい! ※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇‍♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ! 追加文 番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈 
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】 私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。 2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます *「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています ※2023年8月 書籍化

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

虐げられた令嬢、ペネロペの場合

キムラましゅろう
ファンタジー
ペネロペは世に言う虐げられた令嬢だ。 幼い頃に母を亡くし、突然やってきた継母とその後生まれた異母妹にこき使われる毎日。 父は無関心。洋服は使用人と同じくお仕着せしか持っていない。 まぁ元々婚約者はいないから異母妹に横取りされる事はないけれど。 可哀想なペネロペ。でもきっといつか、彼女にもここから救い出してくれる運命の王子様が……なんて現れるわけないし、現れなくてもいいとペネロペは思っていた。何故なら彼女はちっとも困っていなかったから。 1話完結のショートショートです。 虐げられた令嬢達も裏でちゃっかり仕返しをしていて欲しい…… という願望から生まれたお話です。 ゆるゆる設定なのでゆるゆるとお読みいただければ幸いです。 R15は念のため。

処理中です...