ポニーテールの勇者様

相葉和

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050 量産

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「で、どういう事か説明してもらおうか?」
「はい。弁解の余地もございません」

なんかデジャヴだ。
でも今回は小屋で朝まで寝ていたわけでは無い。

夕食時の、発掘組と魔道具作成組との進捗状況の交換にて、ラファルズ量産の進み具合について聞かれたので、正直に答えたのだ。

・・・新しい武器の試作に夢中になって、量産が進んでいません、と。
まあ怒られるのも無理はない。
夢中になってタスクを忘れてしまったのが敗因だ。

「しかしまいったな。まだほとんど量産が出来ていないなんて・・・」
「でもユリとまた新しい武器も考えたし、船に戻ってから向こうで組み立てても・・・」
「ダメだ。借りてる小屋代も安くない。ちゃんとできる限り作ってくれ」
「「はーい」」

また怒られちゃったよ。
どうしよう、あと二日だし、夕食後にまた小屋に行かせてもらうための残業申請をしようかしら。

「仕方ない。明日はオレも魔道具作りを手伝うことにするよ」
「え、採掘はいいの?」
「魔石回路の改良のおかげで、魔石は足りそうなんだろう?だったらオレも魔道具量産の手伝いをするよ」
「それは助かるよ!アドルの腕はいいからね!」

ひとまず話はまとまったので、進捗状況の情報交換は以上にして、ゆっくり夕食を食べる事にする。

そういえばアドルも天才的に魔道具作りが上手いって、前にディーネちゃんが言ってたっけね。
アドルも発掘より、最初から魔道具作りに・・・あ、そういう事?

「アドルが魔道具作りを手伝ってくれるのって、もしかしてアドルが単に魔道具作りをやりたいだけなのでは・・・」
「ユリ。なんか言ったか?」
「いえ、なにも言っておりません。黙って食べます」

明日、アドルが手伝ってくれることになったので、とりあえず今夜の残業申請は取り下げる事にした。



「すごい!すごいよこの仕組み!エスカ、ちょっとここの部分を詳しく説明してくれないか?」
「これはね、この魔石回路に既に魔力が通されている場合、あ、こういうのを『フラグが立った状態』って言うんだけど、こうなっている場合は、こっちの魔石回路を起動するという分岐処理になっていてね・・・」
「うおっほん。お二人さん、手がお留守ですよー」

ミイラ取りがミイラになるとはこの事だ。

アドルは新しい武器に使われている魔石回路の構造に興味津々で、朝の作業開始からずっとエスカを質問攻めにしている。
そしてエスカはとてもわかりやすくアドルに説明している。
分かりやすい説明で感心感心って、そうじゃない。

「やっぱりアドルは魔道具に興味があっただけじゃないの?量産するんでしょ、量産」
「はい、おっしゃる通りでございます」
「ユリとアドルの立場が逆転したのう」

ディーネちゃんが魔石の精製のお手伝いをしながら、わたし達を楽しそうに眺めている。
アドルが一緒なので、ディーネちゃんも楽しいのだろう。

でも楽しんでいる場合ではない。
さっさと、量産だ!

しかし、アドルはちょいちょい脱線しては手が止まる。
どうだ、わたし達の気持ちがわかったか。

アドルに何度も釘を刺しながら、なんとか夕方までには、目標の半数は完成した。
脱線しなければもう少し進んだかもしれない。

アドルが神妙な顔つきで、わたし達に許可を求めた。

「ユリ、エスカ。今日は夕食の後、引き続き作業をしたいと思いますが、よろしいでしょうか」
「うむ。許す!」

エスカが笑顔でアドルに許可を与えた。



夕食に行く前に、一度テストを行うことになった。
戦闘時の実戦部隊でもあるアドルに、今回作った新しい武器を実際に使ってもらって、使い勝手を見てもらうためだ。

アドルが魔力剣と魔力盾を構える。
魔力盾は、持ち手の部分が本体で、魔力を流す事で盾表面の部分を具現化する。
魔力盾は受けた物体を軽く弾き飛ばす性質も持っているので、衝撃緩和の効果も持ち合わせている優れものだ。
やや透き通っているので、盾の裏から正面の様子を確認する事もできる。

「いくよー」

まず、わたしがラファルズでアドルを撃つ。
撃つと言っても盾に向かってだ。

ボン!キィン!、という音が響く。
弾を撃った音と、その弾を盾で弾き飛ばした音だ。

「うおりゃあ!」

続いて、エスカが普通の剣を持ってアドルに切り掛かる。
アドルは魔力剣と魔力盾で巧みに防御する。
防ぐたびに、青い火花のようなものが散る。
エスカの力とはいえ、魔力剣と魔力盾は、完全に普通の剣の攻撃を受け止める事ができた。

次は魔力剣で、木と、大きな石を切り付けてもらう。

木を切り付けても、太い木を真っ二つに切断するような事にはならないが、木の表面は削れ、木はそこそこ大きく揺れた。
石を切り付けた時には、石に軽くヒビが入り、石はビリビリと振動していた。
刃こぼれの心配もないので、石でも遠慮なく叩けるのが素敵だ。
テストは満足のいくものだった。

「いいね。凄いよこれは」
「いいでしょう。実戦でも使える?」
「使える。ありがとう、ユリ。エスカ」

性能に満足したアドルは、夕食後の作業では脱線する事なく、淡々と量産作業を行い、予定の七割まで完成するに至った。

今日の作業はここまでにして、軽く片付けをした後、持ち込んだお茶を飲みながら少し談笑した。

「本当にユリの発想は凄いね。感動したよ」
「元はと言えば、わたしの世界の人が考えた知識であって、わたしが考え出したものじゃないわよ」

応用できるエスカさんが凄いんだと思う。

「魔力剣と魔力盾にも名前をつけないとね。何にしようか。やはりユリの名前を付けて・・・」
「却下よ」
「えー」

アドルとディーネがわたし達のやりとりを見て笑ってる。
とりあえず、名前は後で決めていただくことにしよう。
もちろんわたしの名前は使わずに考えていただく。

「ねえ、ユリ。他にはないの?面白そうなもの!」
「いきなり言われてもねえ・・・」
「ああ、思い出した!ユリ!空飛ぶ話!」
「あ、そう言えばそんな話をしたわね」

ニューロックについたばかりで、まだこの星がミニサイズの地球だと気がついていなかった時に、ドルッケンまで馬車で移動すると聞いて流石に遠すぎるだろうと思ったわたしは、空路、つまり、空を飛んで行かないのかとアドルに聞いた。
そしてその時、初めてこの星に空を飛ぶ乗り物が無い事を知った。

「飛行の魔道具は存在しない。高く飛び上がるだけなら出来るけど、そのまま飛行するには安定しないし、飛び続けられないんだ」

なんでも、鳥の羽根を模した魔道具作りを数多くの人達が挑戦してきたが、まるで安定しなかったそうだ。

「鳥は体が軽いし、飛ぶための構造になってるし、体重を支えて羽根を羽ばたかせる力もあるけど、人では無理だったのさ」
「どうして鳥の羽根の魔道具なの?」
「どうしてって。飛ぶのは鳥の形だからでしょ?」

んー。なんかズレてる?
もう少し探ろう。

わたしは紙で紙飛行機を折って、ヒュッと飛ばす。
小屋の壁まで飛び、壁にぶつかって紙飛行機は落ちた。

「こういうの、知ってる?」
「知ってるよ。紙鳥だよね」

あ、名前はともかく、知ってるんだ。

「じゃあ、こういう形で大きく作って、飛ばしてみたら?」
「それだと安定しない。紙だとすぐに壊れるしね」
「もっと硬い、例えば鉄のような素材とかで作るといいんじゃない?」
「ははっ。そんなの重くて飛ばないよ」

アドルに容赦なく笑われた。
なんか釈然としない。

しかし、なるほど。
少しわかってきた。
『鉄の塊が飛ぶわけない!』ってやつだ。

重たい素材で試した事がない、もしくは揚力と加速が足りなくて飛ばなかったのだろう。
かと言って軽い素材だと脆いし、安定しない。

わたしはそういう事だと理解した。

揚力とかの原理はわたしもそんなに詳しくは知らないし、飛行機は無理でも、あれならば・・・

「エスカ、アドル。ヘリコプターを作ってみましょうか」
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