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2章

16話 魔法の詠唱

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その夜冒険者4人も招待して皆で食卓を囲んでいた。

「すまん!イザさん!疑って悪かった!弱いなんて言ってしまってすみませんでした!!」
分かればいいのです!となぜか自慢げなミアと銀牙。

「先ほどの魔法はいったいどのような魔法で?」
「私も知りたいです!」
「フェルはイザさんに惚れちゃったにゃぁ~♪」
そう言いつつイザにすり寄ろうとしたがリーンとラナが殺気を放ってフェル睨みつけた。
フェルは恐怖を感じとり全身の毛を逆立てておとなしく席に着いた。


「イザさんが強いのは分かった。しかしさっきの魔法がどうやったんだ?うちには魔法を得意とするナックやミーシャもいるが、この森の魔物には大して効果がなかった。あの魔法耐性の高いタイラントボアを一撃で仕留めるなんて」

「あれは風の魔法に雷の魔法を合成して飛ばしただけだよ」
「…え?」
4人は何を言っているのか理解できずに固まった。

「いやいや、魔法の複合なんて聞いたことも見たこともねぇよ!」
「さっきみただろ?」
「いや、まぁそうだけどもっ!!?」
ガルは困惑している。

「先ほどの魔法!どれも事前詠唱も魔法名詠唱もしていませんでしたよね!?二重破棄で何故あんな威力を!?」
ナックが興奮して食い気味にイザに質問する。

「二重破棄?なにそれ?ラナ知ってる?」
「えーっと何処から説明いたしましょう…」
魔法の基本ともいえるこの世界での常識をイザが知らないのでラナもどこから説明しようかと困惑していた。


「イザ様、この世界では魔法の発現には事前詠唱をして、魔法名を詠唱して発現するのが一般的なんです」
「なるほど。それでどちらも省くのが二重破棄ってことか」
二人のやり取りを聞いてナックとミーシャが不思議な顔をしている。

「え?イザさんってもしかして事前詠唱も魔法名詠唱も知らないんですか…?」
「えーと…うん、今初めて知りました」
ナックとミーシャが驚きを隠せないという顔をしている。

「それで何故あのような高度かつ高威力な魔法を発現できるのですか…!?」
「って言われてもなぁ。魔法をはっきりとイメージして使っているからとしか?」
「イメージ…ですか…」

「ガハハ。驚くのも無理はないぜ、ここにいる皆も始めはそうだったからな」
「我らラミア族もイザ様の魔法でサンドワームに襲われているところをすくわれましたからね」
「なっ!サンドワーム!?一人で狩れる存在じゃねぇだろう!!…ってあの強さなら狩れるか」
うんうん。と皆が頷いた。

「にしてもイザさんあなたは一体何者なんですか?」
「と言われてもなぁ。普通の人間としか」
イザは返答に困り頭をかきながらそう答えた。

『絶対普通じゃない!』
冒険者たちは口をそろえていった。
うんうんと村の全員も頷いた。
「みんなまでそんな…」
イザはまた少し凹んだ。

「まぁいいや、素性はともかく実力は確かだし、3か月間よろしくお願いします」
「手が空いたときはまた俺も手伝うけど基本農業をしてるし、戦闘の訓練とかはしたことないから教えるってなると俺は向いてなさそうだから、討伐の支援は銀牙とミアにまかせるよ」
『了解です!』

こうしてガル達は3か月の間この森の魔物相手に戦闘経験を積むことになった。
時折イザとラナもナックとミーシャに魔法のコツを教えていた。

ラナの魔法の解説はイザも二人と一緒に講義を受ける側だ。
「あの…何故イザさんもこちら側に…?」
「俺も魔法のことはまだよくわかってないからラナの話を聞いておきたくてね」
「は、はぁ」
「うふふ、ではお三方ともよろしいですか?」

「魔法の根本となる事前詠唱と魔法名詠唱についてです」
「まず、ナックさんとミーシャさんは今までの常識を捨ててください。イザ様が行っているのを見てもお分かりと思いますが、魔法には基本的にこの2種の詠唱は必要ありません」

「えっ!?でもどちらかの詠唱を省くだけでも魔法の威力は落ちてしまいませんか!?」
「そうですね。未熟な場合はそうなるかと思います。ただし、《未熟》というのは魔法技術に対してではありません」
「というと?」
二人は首を傾げている。

「イメージです。魔法をなぜ2種の詠唱をもって発現する形態が一般的になっているのかわかりますかナックさん?」
「魔法を創造する際に属性や威力を安定させるため、詠唱に組み込まれている術式を持って魔法の形態を構築し、先人が作り上げた魔法名を持って属性を乗せて発現させるためです」

「そうですね。大抵の魔術書にはそう書かれていますね。ですがそれは誰でも同じ威力、同じ大きさの魔法を作り出すための方法に過ぎないのです」
二人は少しラナの言いたいことが見えてきたようで真剣な目をして聞き入っていた。

「例えばファイアボールの魔法。これは中級程度の火球を作り出す魔法です。不慣れでイメージがおろそかなものは2つの詠唱を介した方が確実に安定した威力の魔法を発現できるでしょう。ですがこれより強いファイアボールを繰り出そうとした場合は逆に事前詠唱が足かせになってしまうのです」
「なるほど!安定を取るための術式のせいで魔法の出力の上限も下限も決まっているのでその域を超える魔法は作り出せない…と」

「すばらしい。ミーシャさんその通りです」
「つまり魔法の完成形は二重詠唱破棄。自身で再現できる魔法をどれだけ魔力を乗せたイメージが作れるかというところが魔法の本質になるのです。」

「確かに…言われてみればその通りですね…しかし、こんな突拍子もない考えをラナさんは一体どこで学ばれたのですか?」

「不思議ですか?私も数か月前までは貴方たちと同じでしたよ。二重詠唱破棄でなおかつ3属性同時発動したり複数属性の複合魔法を使う方に出会って。考え方が変わりました。ふふっ」
ラナは微笑みながらイザの方を見た。

「たしかにイザさんを見ていたら詠唱がいかに無駄が多かったのか、見えてきますね」
「ふふふ、そうでしょう?今まで自分が信じてきた魔法常識がいかに愚かだったのか思い知らされる程に、シンプルに自由に魔法を使っているのですから」

「なるほど」
(いやいや、何か難しいこと言ってたから序盤全然わからんかった!この世界の魔術師ってみんなあんな難しいこと考えながら毎回魔法となえてんの!?)

「イザ様は魔法を使用するときにどんなイメージを持って発現させていますか?」
「え?俺は火の魔法なら凄く熱い火をイメージしたり、水の魔法なら冷たい水をイメージしたり、実際にそこにそのものがあるイメージをもってるって感じかな?」

「複合魔法の方はどうでしょうか?」
「うーん。俺は複合って考え自体があまりなくって。例えば霧の魔法。これは水を温めると水蒸気になるでしょ?だから水を火で一気に蒸発させるイメージを持って魔法を発生させると霧を発生させられるし、風と雷を混ぜた迅雷の魔法は、はじめは早く強い雷をイメージしたけどそれってただの雷にしかならないから、風の魔法でかまいたちを飛ばすイメージに雷を載せて限界まで早く飛ぶ雷の刃って感じでイメージしてるかなぁ」
「だそうですよ。なんとなく伝わりましたか?」

「なるほど、イメージですか…」
「魔法はより強くイメージすると自分が理想とする魔法に近づくわけですか。」
「詠唱に頼っている我々はまだまだということですわね…」
「そうですね」
二人は顔を見合わせて自分たちがまだまだだということを再確認したようだ。
『勉強になりました!』

こうして二人はこの3か月で完全に無詠唱、とまでは行かないものの、以前よりも強力な魔法を事前詠唱無しで行使できるようになっていった。
そしてガルたち4人は辛勝だが、手を借りずともタイラントボアを自分たちだけで倒せる実力を身に着け見違えるほど強くなって帰っていった。


(冒険者かぁ異世界っぽくてあこがれるなぁ)
「俺もいつかギルドに登録して冒険者になってみたいな」
ついぼそっと呟いた一言をラナは聞き逃さなかった。
「おやめになった方がよろしいかと」
ラナがしっかり釘を刺した。

「イザ様の実力が周囲にばれると人の国では大問題になるでしょう」
「うう…」
「まぁまぁ」
悲しむイザにエルドがフォローを入れる次いでに耳打ちをする。
(ばれなきゃいいのさ。ふっふっふ。)
エルドが何だかニヤニヤしている。
「それってどういう…」
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