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いざ王都出立!

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 中に入って驚きよ、王女がいるじゃない、オプファーの方の。オーイエス、そりゃ右手のが有効よねこれは。王女違い! いやー、人生でも果たして使うことがあるのかという単語が頭に浮かんだほどですよ。

「アリアスよ、何か急用でもあったか」

 心配そうにこちらを見詰めて来る王女、その向かいには若い男の人と、マケンガ侯爵が居るわ。もしかすると王子かしらあれって。どことなくあの王女と似ているような気がする。

「あのですね、実はちょっと王女違いをして」

「ん、どういうことだ?」

 どういうことって、間違えましたでここに辿り着いてしまったことを説明するの難しくない? 仮にも王宮で、どうみても頂点の人たちの会議に割り込んでやって来て、間違えましたって。

「いえ、ここに導かれてしまって」

 断念したわ。今度ゆっくり謝罪と共にお話をします。神様は寛大なので、こんな感じでとぼけることも許してくれるはずだわ。

「ふむ。丁度良い紹介しよう、これからノルドシュタットへ向かうことになる聖女のアリアス・アルヴィンだ」

 若い男の人に軽く会釈をしたわ、そうしたら立ち上がって右手を胸の前に置いて自己紹介。正しい儀礼、これが初対面の挨拶の最上級ね。

「ゲベート王国の王子で、カール・フォン=ヴァルゲンハイム、覚えておいて貰えると嬉しいね」

 爽やか系イケメンとはこれよ、金髪で長いまつ毛、それなりに筋肉もついていて背が高い、いやらしさが無い喋りに、笑顔満点、そのうえ王子と来たら完璧ね。世の女性の多くがこれを見る為にキャアキャア騒いでるんですよ。

「初めまして、アリアス・アルヴィンです」

 私ときたら無味乾燥な反応で、最低限の名乗りしかしない。だって興味ないんですもの。

「話は聞いたよ、君が志願してくれたって。有能な聖女が祈りを捧げてくれることに感謝を」

 これは重要な会議だったわけね、どうして偶然ここでやってるのよ全く。元から高位の人しか使えない部屋なのかも知れないわね。完全に場違いなので、サクッと退室したいんですけど。

「しかし意外だったよ、リンダが君に指輪を渡したらしいね」

「リンダ?」

 ああ、あのイカれ王女ってリンダって名前だったのね、以後はそう呼びましょう。間違えてはいけないから、オプファー王女もリリアン王女って言わないとダメねこれ。王子はカール王子、いいわね覚えたわよ。もう王女違いは起こさない。

「もしかしてここにはリンダを探してきてくれたのかな、だとしたら仲良くしてやって欲しいな」

「はぁ」

 それってとても難しい気がするんですよ、何を考えてるかわからないから。でもまあ、少しは理解出来たけど。取り敢えずは言いたいことを言ったみたいでカール王子が座る。

「アリアスもこちらへ」

 リリアン王女が呼ぶから仕方がなくソファに座ったわ。来てしまったから帰れと言えないだけかも、でもいつでも帰りますよ。

「近年王都周辺は祈りのお陰で狭いながらも聖域を得ている。これを維持しつつ、北部との回廊を結ぶのが今回の目標だね」

 へぇ、リンダ王女もちゃんと祈りをしてるのね。精霊の盟約とかで触れていた、魔に対抗する力ってのが私達にあるみたいだから。

「ノルドシュタットは治安が不安定ゆえ、専門の護衛部隊を配する予定であります」

 マケンガ侯爵が二人の手足ってことになるのかしら。カール王子もリリアン王女も、領地を持っているわけじゃないから、人員も供回りの少数ですものね。でも格式は上だから立場的には指導者って、ほんとめんどうよね。

「マケンガ侯爵、宜しくお願いする。一年程で周辺はかなり魔物が弱体化する見込みだ」

「国軍からも兵を出させるよ。司令官には侯爵を任命するように父王にも上奏しておく」

「承知致しました」

 こうやって国は動いてるのね、へぇ。完全に私は要らないわよねこれ。すっごく居づらいわここ、自分のせいでしかないんだけども。ものごと決まっているのをなぞる、これが会議。

「エリザベートにも引き続き祈祷を行うように伝えて欲しい」

「そのように致します」

 誰かしらねエリザベートって。それにしても侯爵よりも王子王女の方が上なのね、侯爵がとても丁寧で素直に話を聞いてるわ。城門前でのあの態度が嘘みたい。

「護衛部隊の準備が整うのはいつ頃だろうか」

「三日頂ければ」

「そうか。アリアスも三日で移動の準備を整えておくのだ」

 今でも良いけど一応頷いておく。たーだ行くだけの人と、守るために戦う準備する人じゃかかる時間が違うわよね。リリアン王女、カール王子と相対しても全く劣らないわ、凄いわよね。それから二十分くらい色々と話をしていたけど、私の出番はないわ。

 すっと立ち上がって「私、やるべきことがあるのでこれで」お辞儀をして部屋を出る、来る時も唐突で出る時もね。部屋の外ではさっきの騎士の人が居て一礼してきたわ。私も微笑むと「リンダ王女がどこに居るか知っているかしら?」まずは聞いてみることにする。

「それでしたらきっと中庭の庭園にいらっしゃるでしょう」

「庭園ですか?」

 どこにあるかを簡単教えて貰ったので行ってみることにする。最初の廊下の角を曲がろうとしたところで「アリアス」呼び止められちゃった。足を止めて壁に背を当ててその場で待つ。やって来たのはマケンガ侯爵ね。

「忘れ物でもしたかしら」

「そうではない。ノルドシュタットへ向かうのだな」

 さっきまで知らされていなかったわけね、互いの情報を共有するのにそこそこ時間かかってるのね。そうそう顔を合わせていないだけでしょうけど。

「ええ、神殿は短い間になりますけど、とても居心地良いですよ」

「うむ。俺が軍司令官として赴任することになる、陛下からの任官待ちになるゆえ遅れて到着する見込みだがな」

「そうなんですね。でもどうして?」

 あんな辺境に居るよりもあなたはここでやることがあるんじゃないの? 王子や王女と連絡が取れないと、きっとその後に良い影響があるとは思えないわ。

「ノルドシュタットは俺の領地だからな。他人が指揮する軍を入れる位ならば自分で行く」

「おおっ、なるほど。納得しました」

 うんうん、これ以上ない位真っすぐな理由。領地を持っていてもこうやって王都にいなきゃいけないのは、心配よね。

「途中途中で指示を出しながら行くので十日は遅れるはずだ。直下の護衛部隊をつけるから安心して行って欲しい」

 上の立場の人にはやるべきことが多いわけよね、それはわかるわ。でも。

「それもこれも誰かに言伝でもしたら良かったんじゃ? 部屋では王子と王女がまってるんですよね」

 ちょっとした疑問よ、別に誰が伝えても同じじゃないの。上司を待たせて何をやってるのよまったく。

「もしかして、私とこっそり話したくて追いかけてきてたりして」

 にやっとしてからかってやる。けれども咳ばらいをするだけで視線をそらすんだから、こっちが困るじゃない!

「あー、うむ、そうだ、あー、その首元の飾り、似合っているぞ」

 必死になって別の話題を探したのか、あの首飾りを見付けて話を逸らしてきた。丁度好いので私もそれに乗っかる。

「ありがとう。お言葉に甘えてこれ、マケンガ侯爵宛の請求出すようにってさせてもらいました。金貨二枚ですって」

 小首をかしげて装飾をじっと見る、そして口元に指をやって「純金貨二枚ではなく、金貨二枚?」そんな質問を。

「え、そういえば純金貨って言っていた気がします。違うんですか金貨と純金貨って?」

 あまり現金を扱うことないから馴染みが無いのよね、食料品や衣料品を買うだけなら銀貨の神殿請求で済んだから。ちなみに焼き菓子一枚が銀貨一枚よ、でも朝ご飯も銀貨一枚で食べられるのよね。

「金品位が高く型も大きい純金貨は、金貨の十倍の価値がある。まあそれだけの価値がある品ではあるがなそれは」

「えーーーー! これってそんなに高いものなんですか、直ぐに返してこないと!」

 王女に指輪を返すとかそういうのを全部後回しにして大パニックよ。十倍って、一年分のお菓子代越えちゃうじゃない。

「構わん。似合っていると言っているだろう、身に着けていると良い」

 そんな大したことじゃないって感じで言うけど、普通の人が働いて稼げる数か月分のお給料ですよ? 

「……でもそれは悪いです」

「俺に恥をかかせてくれるな。たかが純金貨二枚のものを返品などされては笑われてしまう。その程度も買い与えることが出来ない男なのかと」

 確かにそんなことをしたら侯爵の度量がどうだとか言われちゃうわよね。それこそ迷惑をかけるってことになるわ、でもこれをただ貰うのは気が引けるの。

「気づかずに無駄遣いをさせてごめんなさい。ちゃんと働いていつかお返しします」

「ではノルドシュタットでしっかりと祈ってもらいたい。それで充分だ、いやそれこそが俺の望みだ」

「わかりました。任せて下さい、祈りなら得意なんですよ」

 微笑を残してマケンガ侯爵は部屋に戻って行ったわ。あっちでもまた会えるってことかな、そうだ庭園にいかなきゃ。えーとこっちよね。

 廊下を二度三度曲がると、花の香りが漂ってくる。見えないけれど近づいているのが感じられたわ。トンネルのような通路を抜けると、緑色をベースにした色とりどりの庭園が目に入った。

「凄い……」

 驚いた時にはそんな言葉しか出ないのね、語彙力なさすぎよ。お花畑というよりは、果樹の類もあったり、ツタが巻き付いていたり、石があちこちに配置されていたりで庭園という単語がしっくりとくる。中に勝手に入って香りを楽しんで大きく深呼吸した。新緑の息吹が感じられるわね。

「あら、来たのね」

「あ、リンダ王女」

 無表情代表のリンダ王女が登場よ。庭園の美女ね。こちらに近寄って来ると左手の指輪をチラッと確認してから目線を合わせて来る。

「ちゃんとつけてくれてるのね」

「そうなんですけど、これお返しします。何だか身の丈に合わなさそうな効果がありそうで」

 王宮への通行許可も不要になるし、いいかなってね。じっとこっちを見詰めたままで何も言わないのやめてもらえますか?

「あの、聞いてます?」

「あなたは運命を感じないの?」

「それは……精霊の話ですよね」

 時系列変な気がするどけ、フラウが私に伝えられなかっただけで、リンダ王女のトバリが早めに教えていた可能性はあるわよね。

「血の盟約、残るはあなたと私だけ。失われたら大変なことが起こるわ」

 魔王が降臨するとか、恐ろしい何かが待っているような話ですよね。そんなこと他所で話したら、疲れてるから休みなさいって言われそう。

「そうではあるんですけど、それにしたってこの指輪、ちょっと怖い位で」

 リンダ王女は首を左右に振って違うって。

「それは私が認める代理人の証。ただそれだけよ」

 それだけ……のはずが、随分とアレなんですけどね。好意だっていうのは凄く解りますけど、どうなんでしょう。

「私、ノルドシュタットに行くことにしました。暫くここには来ることが出来ません」

 その後もきっと王都以外に行くことになるわ、事と次第によってはずっとあちこちを転々とするの。

「それはあなたの意思で?」

「そう、だと思います。強制はされていないし、そこでなら自分が求められるのかなって」

 変な表現よね、でも多分あれは私の意思なのよ、きっと。メイビー。

「私はあなたを求めてるわ。ここに居てもいいのよ」

「え、なんでそんな急に」

「それが運命。やっと見つけた仲間を危険にさらせない」

 仲間? 精霊同士がそうだから? どうにも発想についていけないわ、そのなんというか悪い人ではないのはわかったけれども。

「行くと約束したんです、だからごめんなさい。きっとそのうちまた会えますよ」

 にっこりとして好意を受け取ることにする。指輪は、それこそ今度会った時にでも返すことにしましょう。

「そうね。必ずまた会えるわ」

 何故かリンダ王女は随分とあっさりと立ち去ってしまった。固執したかと思ったら、うーんやっぱりわからない人よ。それにしても、求められて……たのかな? ちょっと嬉しいわねそういうの。

 神殿に戻って残りの時間は全て祈りに費やしましょう、せめてそうしてからここを離れる。私が出来ることなんて少ないから。
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