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侍女と専属部隊
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◇
王都を出てノルドシュタットへ向かう隊が編成されたわ。各種の物資を輸送する荷馬車隊、道中の街に赴任する官吏の人たち、偵察が主任務の騎兵隊、防衛が主任務の護衛隊、それと同道する一般の隊商、そして相乗りの一般人。結構な人数規模になっているけど、その位の事が起こっているってわけよね。
そんな中、私はというと馬車に乗っています。鉄張りの装甲馬車、超物騒な感じですよ。そのうえ専属の親衛部隊が二十人も付けられてるの、全部マケンガ侯爵の手配だって話よ。護衛部隊と色が違う黒い服を着てるのが特徴で、リーダーともう一人には、胸のあたりと左腕に四つの星が刺繍されてる。
ここに集まって初めて会うわけだけど、黒制服の男の人たちが私の前で整列すると姿勢を正したわ。リーダーが一歩前に出て、大分視線を下げて挨拶をした。
「レディ・アルヴィン、自分はこの専属部隊を指揮するハマダ大尉であります。何があろうと必ず無事にノルドシュタットへお送り致します!」
うわっ、凄い圧を感じるわ、異様な意気込みね。多分侯爵にきつく言われているのね、ちょっと注目されているわ。計画の要ってのはわかるけど、いくらなんでも入れ込み過ぎじゃ?
「初めまして、アリアス・アルヴィンです。道中宜しくお願いします、ハマダ大尉」
大尉っていうのはキャプテンって呼ぶから、グループのリーダーって意味ね。短髪で警戒心が強そうな目をした三十歳前後の人、少しだけ肌の色の茶色が濃いわ。黒服の人たちが全員鋭い目つきをしてる精兵って感じよ、護衛部隊の人たちと比べたら全然違うわ。
一人だけ侍女姿の人が居て「私は身の周りの世話をさせて頂くリスィです」馬車に同乗するみたい、確かに男の人には言いづらいことってあるわよね。この黒い服の人たちが怖くないのかしら?
全体の準備が整うと北の街道を通り王都を離れて行く。行軍に等しいこの集団を襲撃しようなどという山賊は居ない、狙うならもっと楽な相手を選ぶだろうから。そういう意味では安全のためには最小限の護衛よりも、過大な護衛を用意するのがどれだけ適切かがわかるわね。
初日の歩みは思っていたよりも遅かったわ。一番遅いのに合わせて進むことになるから、隊商よりも護衛部隊の歩みが遅い。何せ武器防具を装備してのことだから仕方ないわ。必要になってからちんたら武装するようでは、間に合わないことが多いでしょうから。
数日は何の問題も無く過ぎて行って、半分を越えたあたりで偵察が慌てて戻って来るのが見えた。集団全体の司令部に駆け込んだみたいで、周辺が騒然としている。
「いったい何があったんでしょう?」
「良いことではないとしか。魔物が出たとかではないでしょうか、指示を待ちましょう」
何せ人は打算が働くので向かってはこないけれども、魔物はそうじゃないわけね。移動が停止して十分くらいでハマダ大尉が馬車の扉を開けたわ。うん、落ち付いている表情だから大したことじゃなかったみたい。
「レディ、この先の街道が土砂で通行できないことに。迂回するか除去するかで判断が別れたようですが、除去するためにここで一晩野営をするとのことです」
「わかりました」
そのままにしてたら街道を使えないわけだから、そこは除去よね。でもこんなのがあるってことは、ここで何かしらの罠を仕掛けてるかもなんて考えちゃうわ。偵察が来ないと信じて予め土砂を運んでおくなんて無理よね、ということは山から崩したみたいな感じかしら。
すると犯人は大型の魔物? それとも魔法とかでかな? 実際の場所を見てみないとなんともわからないわ。だけど私が調べに行くようなものではないわね、おとなしくしていましょう。
「リスィさん、私はこれから一帯に要塞化魔法を張りますので、それに何かが引っ掛かったら、司令部への報せをお願いします」
「承知致しました」
要塞化魔法は神聖魔法の一つよ、術者を中心にして警報と防壁と静寂とを併せ持ったもの。問題があるとしたらこの集団で私に敵意を持っているのが混ざってたら即反応することね。結果はやってみるまで解らない、神への祈りを捧げて多くの者の幸運を願う。
意識が分散していって、野営している全てを覆うドーム型の薄い膜が出来上がる。魔法を使えるものならばこれに気づいたはずよ。魔物が触れればアラートが鳴り響いて、内部に影響を与えようとすると防壁が対消滅、そして精神の安定をもたらすわ。
範囲内で起こっている感情の起伏が直に感じられる。不安が募っているけれど、心に静寂をもたらすと穏やかになって行く。上空から自分を見ているような感覚、心に様々なものが入り込んで来るようなのもある。普通の人がやると感覚が暴走してしまうことがあるけれど、精霊使いの特性で自我を分割できるから安全は保持しているわ。
「リスィさん、西から敵意を受けました。何かが来ます!」
「直ぐに伝えてきます!」
馬車を降りると司令部へと走って行った。強い意志の侵入を受けると要塞化魔法が破壊されてしまう、一気に精神疲労が募ってしまったわ。護衛部隊が声をあげて西へと移動していく、尖兵を出して警戒を行うことにしてくれたみたいね。
「レディ、少々失礼します」
外で声が聞こえると馬車が揺れたわ。屋根の上で足音が聞こえて、金属がガンとぶつかる音がした。小窓から上を見ると大きな盾を肩付けした弓兵が一人乗っかっていたわ。わあ凄い体力ね! 少なくとも上から貫かれるようなことはなさそうと思い顔を引っ込める。待つしかないわ。
隊商が馬車を連ねて円陣を組んでいるわね、装甲馬車もその一角に居場所を得て、黒服の部隊が二重の壁を作る。馬車の隣にハマダ大尉、もう一人の四つ星の人が外側の防壁の中央に入っているわ。遠くで警笛が響いてる、これって敵が居たってことよね。
「総員戦闘準備! プロテクションを展開!」
ハマダ大尉の号令で、何と黒服全員が自身に防御魔法を付与したわ。簡単なものならば誰でも習得できるけれども、それにしたって全員って凄いわね。手にしているのは槍だけ、それで充分でしょうけど。
「上空に敵影四!」
馬車の上に乗っている人が大声で警告したわ。上空って、小窓から覗いてみると猛禽類のような鳥型の魔物が空を飛んでる。どうして魔物ってわかるかというと、自然ではない気配を発しているからよ。
「ギョェェェ!」
王都を出てノルドシュタットへ向かう隊が編成されたわ。各種の物資を輸送する荷馬車隊、道中の街に赴任する官吏の人たち、偵察が主任務の騎兵隊、防衛が主任務の護衛隊、それと同道する一般の隊商、そして相乗りの一般人。結構な人数規模になっているけど、その位の事が起こっているってわけよね。
そんな中、私はというと馬車に乗っています。鉄張りの装甲馬車、超物騒な感じですよ。そのうえ専属の親衛部隊が二十人も付けられてるの、全部マケンガ侯爵の手配だって話よ。護衛部隊と色が違う黒い服を着てるのが特徴で、リーダーともう一人には、胸のあたりと左腕に四つの星が刺繍されてる。
ここに集まって初めて会うわけだけど、黒制服の男の人たちが私の前で整列すると姿勢を正したわ。リーダーが一歩前に出て、大分視線を下げて挨拶をした。
「レディ・アルヴィン、自分はこの専属部隊を指揮するハマダ大尉であります。何があろうと必ず無事にノルドシュタットへお送り致します!」
うわっ、凄い圧を感じるわ、異様な意気込みね。多分侯爵にきつく言われているのね、ちょっと注目されているわ。計画の要ってのはわかるけど、いくらなんでも入れ込み過ぎじゃ?
「初めまして、アリアス・アルヴィンです。道中宜しくお願いします、ハマダ大尉」
大尉っていうのはキャプテンって呼ぶから、グループのリーダーって意味ね。短髪で警戒心が強そうな目をした三十歳前後の人、少しだけ肌の色の茶色が濃いわ。黒服の人たちが全員鋭い目つきをしてる精兵って感じよ、護衛部隊の人たちと比べたら全然違うわ。
一人だけ侍女姿の人が居て「私は身の周りの世話をさせて頂くリスィです」馬車に同乗するみたい、確かに男の人には言いづらいことってあるわよね。この黒い服の人たちが怖くないのかしら?
全体の準備が整うと北の街道を通り王都を離れて行く。行軍に等しいこの集団を襲撃しようなどという山賊は居ない、狙うならもっと楽な相手を選ぶだろうから。そういう意味では安全のためには最小限の護衛よりも、過大な護衛を用意するのがどれだけ適切かがわかるわね。
初日の歩みは思っていたよりも遅かったわ。一番遅いのに合わせて進むことになるから、隊商よりも護衛部隊の歩みが遅い。何せ武器防具を装備してのことだから仕方ないわ。必要になってからちんたら武装するようでは、間に合わないことが多いでしょうから。
数日は何の問題も無く過ぎて行って、半分を越えたあたりで偵察が慌てて戻って来るのが見えた。集団全体の司令部に駆け込んだみたいで、周辺が騒然としている。
「いったい何があったんでしょう?」
「良いことではないとしか。魔物が出たとかではないでしょうか、指示を待ちましょう」
何せ人は打算が働くので向かってはこないけれども、魔物はそうじゃないわけね。移動が停止して十分くらいでハマダ大尉が馬車の扉を開けたわ。うん、落ち付いている表情だから大したことじゃなかったみたい。
「レディ、この先の街道が土砂で通行できないことに。迂回するか除去するかで判断が別れたようですが、除去するためにここで一晩野営をするとのことです」
「わかりました」
そのままにしてたら街道を使えないわけだから、そこは除去よね。でもこんなのがあるってことは、ここで何かしらの罠を仕掛けてるかもなんて考えちゃうわ。偵察が来ないと信じて予め土砂を運んでおくなんて無理よね、ということは山から崩したみたいな感じかしら。
すると犯人は大型の魔物? それとも魔法とかでかな? 実際の場所を見てみないとなんともわからないわ。だけど私が調べに行くようなものではないわね、おとなしくしていましょう。
「リスィさん、私はこれから一帯に要塞化魔法を張りますので、それに何かが引っ掛かったら、司令部への報せをお願いします」
「承知致しました」
要塞化魔法は神聖魔法の一つよ、術者を中心にして警報と防壁と静寂とを併せ持ったもの。問題があるとしたらこの集団で私に敵意を持っているのが混ざってたら即反応することね。結果はやってみるまで解らない、神への祈りを捧げて多くの者の幸運を願う。
意識が分散していって、野営している全てを覆うドーム型の薄い膜が出来上がる。魔法を使えるものならばこれに気づいたはずよ。魔物が触れればアラートが鳴り響いて、内部に影響を与えようとすると防壁が対消滅、そして精神の安定をもたらすわ。
範囲内で起こっている感情の起伏が直に感じられる。不安が募っているけれど、心に静寂をもたらすと穏やかになって行く。上空から自分を見ているような感覚、心に様々なものが入り込んで来るようなのもある。普通の人がやると感覚が暴走してしまうことがあるけれど、精霊使いの特性で自我を分割できるから安全は保持しているわ。
「リスィさん、西から敵意を受けました。何かが来ます!」
「直ぐに伝えてきます!」
馬車を降りると司令部へと走って行った。強い意志の侵入を受けると要塞化魔法が破壊されてしまう、一気に精神疲労が募ってしまったわ。護衛部隊が声をあげて西へと移動していく、尖兵を出して警戒を行うことにしてくれたみたいね。
「レディ、少々失礼します」
外で声が聞こえると馬車が揺れたわ。屋根の上で足音が聞こえて、金属がガンとぶつかる音がした。小窓から上を見ると大きな盾を肩付けした弓兵が一人乗っかっていたわ。わあ凄い体力ね! 少なくとも上から貫かれるようなことはなさそうと思い顔を引っ込める。待つしかないわ。
隊商が馬車を連ねて円陣を組んでいるわね、装甲馬車もその一角に居場所を得て、黒服の部隊が二重の壁を作る。馬車の隣にハマダ大尉、もう一人の四つ星の人が外側の防壁の中央に入っているわ。遠くで警笛が響いてる、これって敵が居たってことよね。
「総員戦闘準備! プロテクションを展開!」
ハマダ大尉の号令で、何と黒服全員が自身に防御魔法を付与したわ。簡単なものならば誰でも習得できるけれども、それにしたって全員って凄いわね。手にしているのは槍だけ、それで充分でしょうけど。
「上空に敵影四!」
馬車の上に乗っている人が大声で警告したわ。上空って、小窓から覗いてみると猛禽類のような鳥型の魔物が空を飛んでる。どうして魔物ってわかるかというと、自然ではない気配を発しているからよ。
「ギョェェェ!」
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