聖女を騙る人がもてはやされていますが、本物の私は隣国へ追い出されます

☆ミ

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精霊たちの願い

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「……ス……」

 遠い先で何かが囁いているような気がする。

「……アス……」

 あれ、今誰かに呼ばれたような気がしたけれど。目を開けると真っ暗で、頭を動かすとうっすらと星明かりが差し込んでいた。淡い発光をしているフラウの姿が目に入る。召喚もしてないのにどうして?

「フラウ?」

「アリアス、聞いて」

 こんなこと初めてよ、精霊が自分の意思で顕現することが出来るなんて知らなかったわ。呼びかけに応じて現れた事以外無かったのに驚きよ。

「なに?」

「トバリさんから伝わって来たの。もう血の盟約で繋がっているのは私達だけだって」

 トバリってあの水の精霊ね。伝わって来たというのは話をしたとか、精霊なら触れ合ったとか。

「血の盟約って、アルヴィンだからって言ってたアレ?」

 私が幼いころに自分の中にフラウが居ることに気づいて、それ以来ずっと一緒なのは、アルヴィンの血脈だからっていう。あの王女もそうなのかしら?

「そう。血が絶えても精霊は消えないけれど、盟約は失効するの」

「それって?」

 アルヴィンという対象が消えたら、精霊は行きどころを失うのよね。盟約が失効したらどうなるのかしら。

「私達が解放されて自由を得る。そして人の世界に魔物が増えるわ。かつての魔王が降臨するの」

 盟約からの解放、そして力を持った精霊が自由を得る。けれど同時に魔王が? もう何百年も前に存在していたっていう伝説の魔物、あんなのおとぎ話だって思っていたけれど。

「精霊との盟約が魔王の枷になっているってこと?」

 訳が分からないことばかりね。でも今まで何の疑問も持たなかったけれど、私が盟約を持っていたのってどうして? それはそういう血脈だからだけど、アルヴィンって一体なに?

「お姉ちゃんが愛していた人たちを守ろうとして、私達精霊を一人ずつつけていたの。その人達は魔に対抗する力も持っているの。でもその存在も一人減り、二人減りして残るは二人だけ。大切な人が消えてしまえばもう人間を守る必要もないから」

 それは祈りの素質、聖女の能力? 曖昧過ぎてよく解らないわね。

「フラウのお姉ちゃん?」

 精霊のお姉ちゃんって、どういうこと。あーもう、わけわからないことばかりじゃない!

「私のことを育てて、自我と名前をくれた人」

「もしかしてトバリって名前も?」

 自我を与えたって、あれは芽生えるもので与えることなんて出来るの? 名前についてはひねくれたのつけたなった思うけど。

「そう。トライバリ湖のトバリ。トライのすぐ傍にあった湖の精霊。もうトライもトライバリ湖も存在しないわ」

 そっちは意外と命名単純だったのね。フラウは私に何を伝えようとしているの、これって夢の中?

「私はどうしたらいいの?」

「生きて命を繋いで。もし最後の一人になったら、もう一つの盟約が発効するわ」

「それって?」

「これ以上は許されていないの。私達精霊は永遠にアルヴィンの味方、そうお姉ちゃんが決めたから」

 すぅっと姿が薄くなって消えて行くと、私の意識も何だか遠くなって目の前が真っ暗になって星明かりすら感じられなくなった。

「…………朝?」

 ふと目が覚めると部屋の中が明るくなっていた。神殿の一室、いつもの儀式の間。頭に残っているあのやり取りは夢か幻か、妙に鮮明ね。

「フラウ、出られるかしら?」

 召喚を念じると、氷の結晶が舞ってきて目の前で少女を形作る。よかったちゃんと応じてくれて。

「さっきの話の事だけど、詳しく教えて貰えるかしら」

「あれは例外規定。他には伝えられない制限があるの」

「制限って?」

「そういう盟約。嘘偽りのない全て」

 それは……精霊が真実以外を用いることが無いのは知っているわ。ということは何も答えられないのも本当なのね。精霊は永遠にアルヴィンの味方というのも本当で、魔王の降臨も。

「フラウにもお姉ちゃんが居たの?」

「……答えられないです」

「魔王ってどんな存在?」

「……答えられないです」

「愛していた人たちって?」

「お姉ちゃんの友人と、その子供たち」

 するとフラウのお姉ちゃんって人間だったのね。精霊達の盟主が人だった、何百年も前の遺産がアルヴィンの盟約。同じように幾つもの盟約があったけれど、最後の二人が私とあの王女。もしかしてあの運命って言葉、これを知っていて?

「ところでどうしてこうやって出てきて普通に話をしなかったのかしら?」

 だってわざわざ夜中にあんな風にすることないじゃない。

「……答えられないです」

 何か理由があるのね、まあいいわ。妙なことになったけれど、今までと変わらずに暮らしていればいいのよね。

「わかったわ。フラウはずっと私の味方、これからもずっと。だから頑張って生きていけってことでいいのね」

「そう。それがお姉ちゃんの願い」

 フラウは微笑むとすぅっと消えて行った。うーん、お姉ちゃんか、なんで答えられないになったのやら。全然隠せてないじゃない。なーんか妙に重い気分ね、楽しい必要はないけれど平静じゃないのは良くないわ。

 あの王女はどう思ってるのかしらこれを知って。もう一度話をしてみようかしら、昨日の今日で王宮に行くのもおかしくはないわよね、こんな大変化があったわけだから。

 こういうもやもやって抱えてたら長いから、はっきりとした気分にさせましょう。

「王宮に行くわ!」

 善かどうかはわからないけれど早速動きましょう。身支度を整えて、肩掛けのバッグにお菓子を詰めると神殿を出るわ。これって必要とか考えたらダメよ。まず言いたいのは南の神殿から王宮って結構歩くと時間がかかるのよね。乗合馬車ってのも流石に城内を巡ってはいないから、結局自分で行くしかないわ。

「はぁ、遠い」

 自慢じゃないけれど体力はないわ。だって祈りは集中力よ、どうやって無心になれるかって相反する状態に持っていく集中。自分でもどう表現していいかわからないの。

 ここで文句を言っても距離が縮まることはないし、諦めて一歩一歩を踏みしめるしかないわ。神殿に帰るのも有りよりの有りとか思えるけれども。途中で一休みしてから、残りの道のりを進んだ。着いた頃には肩が落ちてたりして。この前とは違う門番ね。バルバードを持ってじっとこっちを見てるわ。

「通りたいんですけどいいかしら」

 左手の指輪を見せると、腰を折って顔を近づけて確認する。寄っていた眉がぱっと上がり「許可する」道を譲ってくれたわ。おお、ちゃんと機能するのねこれ。ふと気になって「あの」すれ違い際に門番に声をかける。

「なんだ?」

 右手を見せてオプファー王家の指輪を前にして「こちらでも通れますか?」ほら、六角の返したらまた止められるようじゃ困るから。うーんと唸って首を捻って「今は勘弁だ。通れないことはないが、気軽に通られても困るな」妙な受け答えをされた。

「えーと、それって?」

「そいつはオプファー王国の印章だろ。となると外交官かそれに類する者として応対する必要が生じるからな。事前に通告の上、専門の者がやって来るまで待ってもらうことになる」

 おおぅ、そっか、そうよね。これは外国のものでお客さんになるから、気軽に通られても困るって話に納得よ。

「今はってのは?」

「王子と婚礼すれば晴れて王女もゲベートの妃。そうなればその印章はゲベートの妃のものと認識されるから、通行証として使えるからな」

 ゲベート王家の王子の妃になる、王子妃っていうのかしらね。そうなってもオプファーの王女っていう身位は失わない、生まれ持ったそれは一生よ。

「凄く納得したわ。門番さんって詳しいですね!」

「まあな、俺達門衛は武兵の中でも紋章学や外交儀礼などを認められた者だからな。伊達で王城の前に立ってるわけじゃない」

 そういわれたら確かにそうかもって思えるわ。街の出入り口に居るのとは役目の内容が違うものね。もちろん職位の卑賎じゃなくて適材適所って意味でよ。大いに感心して王宮内へ向かう、そこで気づく。あの王女ってどこに居るのよ。

 この前は偶然会ってどこかの部屋に入ったけど、そこに行けば居るのかしら? えーと、確かこっちよね。勝手にうろついて怒られないか不安ね、今のところなにも言われていないけれど。

 この前の部屋の前に若い男の人が立ってるわね、ちょっと話を聞いてみましょう。

「すみません、ここに王女は居ますか?」

「失礼ですがレディは?」

 二十代後半位かしらね、背筋が伸びてるキリっとした人。一言で表すならば騎士かしらね。誠実そうで何か信念を抱えてそうな。

「アリアス・アルヴィンです。ちょっと探していまして」

「どのような御用でしょうか、私が伺います」

 ってことは居るのかしらね、でもなあ大分プライベートな話だし、直接じゃないと。うーん。

「通しては貰えませんか? 一応これ持っているですけど」

 左手の指輪を示してみる。けれども騎士は意外とすんなり「申し訳ございませんがお通し出来ません」ばっさりとやって来たわ。あらー、ほんとに門しか潜れないのかしらこれ。困ったわね、両手を口元に当ててちょっと考えちゃったわ。

「ぁ……失礼レディ、そちらのは?」

「あ、これ? もしかしてこっちなら良いんですか?」

 右手の指輪を見せると、よーく観察して「ここで少々お待ちください」部屋へと入って行ったわ。確認は必要よ。ちょっとしたら出てきて「どうぞ中へ」お許しが出たみたい。扉を開けて通してくれる辺りは騎士っぽいわよね。
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