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光が差し込む神殿の部屋で
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◇
取り敢えず籠もるにしても買い物は必要ってことで、城内の王女が居る屋敷に一旦行くことにしたわ。いつでも神殿に居るとは言ったけどね、どうせ私の行動くらい把握してるでしょ。こっちで気を使うことなんてないわ。
ところがよ、王城の中へ入ろうとしたら門番に止められちゃった。
「これより先は立ち入り禁止だ。通行許可証か通行が許されている者の同道が必要になる」
「あらそう。どうしようかしら」
確かに前は王女と一緒で、出る時にも案内が居たわね。取り次いでもらいましょう。
「あなた、見ない顔ね」
城門の内側から声をかけられる、銀色の髪が首位まで伸びているハイティーンの女性。目が大きくて綺麗な顔をしてるけど、笑顔って感じじゃないわ、別に怒ってるわけでもなさそうだけど。
「はぁ」
そういわれても私もあなたを見たこと無いもの、なんなのかしら。城の中に居るんだからどこかのご令嬢、或いは使用人?
「……その纏っている風。あなたも盟約を持っているのね」
「も? 初めてそんなこと言われましたよ」
確かに何か感じるわね、精霊使いに会ったことないからこういうものだって解らなかったけど、こんな感覚なのね。
「面白いわね、いいわこちらへ来なさい」
門番に視線を向けるとこちらを見て城内へ親指を向けて許可してくれたわ。ということはあの人は使用人じゃないわけね、精霊についてちょっと興味あるわ。スタスタと先に行ってしまうものだから付いて行くのが大変、歩幅が違うのよ。
王宮内の一室にやって来る、応接室みたいなところかしらねこれ。簡単な調度品と数人が座れるソファが対面に置かれていて、間にテーブルがあった。そのソファに腰を下ろすと「座りなさい」何故か自分のとなりを勧めて来る。まあいいけど。
隣に座ると急に私の顔に両手を当てて自分の顔を近づけて来る。
「ちょ、何するんですか!」
え、いきなりなんなのよ。もしかしてイカれてるんじゃないのこの人。
「いいから大人しくして」
結構力強いのね、暴れても仕方ないから大人しくして睨んでやる。だけど全く気にせずにそのまま押さえられて動けない。
「同じ匂いがするわ」
さ、流石にお風呂くらい入ってますよ! ……もう少し長く入ったほうがいいのかな?
「同格のスピリットロードと盟約してるわね」
あ、そっちですか。どうしてわかったのかしら、是非とも見分け方を知りたいところよ。ようやく手を離してくれたので、少し座っている場所を離れてソファの端っこに移動する。
「唐突過ぎます、何がしたいんですか」
「悪かったわね、他意はないの。私は水の精霊トバリ、ディープウォーターロードと盟約しているわ」
トバリなんて聞いたことないわねそんなの、水の精霊ったらアンダインとかクラーケンじゃ? 黙っていたら向こうもそのまま、それでも黙っていたらこちらを見てじっとしているだけ。これは喋らないと解決しなさそうね。
「氷の精霊フラウ、アイスロードよ」
必要最低限の返答をすると、何とこの場で精霊を呼び出した。まったく前置きも無しでやらないでよね。とはいっても精霊は基本こちらの世界に干渉しようとしなければ勝手に影響を及ぼさないから無害。
揺らめく水が妙齢の女性が裸の姿を形作る、次第に色がはっきりしていき意志が宿る瞳をこちらに向けて来た。
「我は水の精霊アンダイン、アンダインのトバリなり!」
おー、そういうことね。ネームドってことか。なら確かにこっちと同格ね。これも呼ばないと終わらないだろうから。部屋に氷が混じる風が吹いて、結晶が集まると少女の姿を構築する。
「氷の精霊フラウのフラウ」
あっちと同じで氷の下級精霊フラウが昇華して上級精霊になっているの。でも与えられた名前がフラウだってことで、すっごく面倒なことしてくれた感が半端ないわ。
「フラウか久しいな」
「トバリさん、何百年ぶりでしょうか」
「さてな」
精霊同士って知り合いとか居るのね、正直今日一番の驚きよ。で、これでどうするのかしら。とか思っていたらトバリを消してしまった、だから唐突なんだって。
ソファの距離を詰めてまた頬に両手を置く、それやめなさいって。呆れて抗議もしなかったら顔を近づけてきて……止まらずにそのまま唇を重ねて来た。なんで!
ソファから転げ落ちてしまい銀髪をまじまじと見たわ。この人の頭はどうなってるのよ! 口をパクパクさせて何か言ってやろうと思うけど、うまいこと言葉にならない。
「これは運命」
左手の小指につけている銀の指輪をこちらに差し出して来る、何よそれ。指輪と顔を交互に見る。
「王宮への通行証よ、使いなさい」
ほんと脈絡ないわね。手のひらに乗っかっている指輪を手にして一瞥する、中指に嵌めてみると丁度良かった。これ以上なにも起こらないうちに、私はそそくさと部屋を出ることにした。ほんとさっきのはなに?
さっきのほんとなんだったのかしら。でも指輪を貰えたからこれで出入り自由になったのね。左手の中指を観察してみると、刻印が入っていた。六角模様だけど意味までわからないわ。
わからないもので悩んでも仕方ないので、王女の屋敷に行くことにする。戻ることにしたと表現するより微妙にそっちよりなのよ。玄関開けて二秒でエスメラルダだったわ、時すでに遅いけど嫌な予感しかしない。
こちらに気づいて眼鏡に指をやって「随分と長い留守でしたね。今度出かける時にはしっかりと予定をお伝えください」ストレートに苦情を言われる。うん、知ってた。
「はぁ」
どうせこの先戻るつもりは全然無いから興味がない生返事をすると、じーっとこっちを見詰めて来る。とてももの言いたげなのが伝わって来てるわよ、でも後悔はしません。
「アリアス、戻っていたのですね」
ん、王女こそ居たんですね。王宮であれこれやってそうなイメージあったんですけど。
「ええ、今」
「丁度良い、話をしたいのでこちらへ来るのだ。エスメラルダ、紅茶を」
「はい、畏まりました殿下」
背筋を伸ばして歩く姿はとてもご立派、芯が通っていて凛々しいわ。ちんまい私、こう見えて屋敷では客人扱いってことで二番目に上位にいることになっているわ。聖女って役職があるわけじゃないけれども、王女が招いた人物だからね。
そういうわけでエスメラルダも厳しいことは言えても、丁寧に接する態度は変わらない。しっかりと自分の持つ境界線を守れるのは凄いことだと思うわよ。
王女の部屋は仮住まいでも結構豪華になっているわ。ここで誰かを迎えることもあるから、可能な限りの手を尽くすって意味もあるの。椅子に座ると目の前に居る王女を見たわ。
「マケンガ侯爵に会いましたか」
それは質問というより確認だった、きっと知っているのね。ということはこの先の会話もそれがらみになるわ。
「はい。退魔についてですね」
「年単位でのことにはなりますが、徐々に聖域を拡げて行きます。王都周辺だけを厳重にしていたというのを、隣接する都市まで確保するのを最初の目標とします」
点だったものを小さな円にして、それらを繋ぎ合わせて線にしていくわけね。今日明日で出来ることじゃないわ、気長にしましょうか。
「オプファー王国では弱く小さな魔物が姿をあらわしているそうです。これは全域に届いていた祈りが潰えた結果」
私の祈りが全域の魔物を弱らせて行動を阻害していたから、居なくなって重しが取れた魔物が元気になってきたわけね。そのくらいなら治安維持部隊でいっくらでも対処出来るから全然問題ないわ。
「聖女として祭り上げられている存在が祈りを捧げているうちは、その浸食もゆるやかになる。アリアスの力量がよく解るな」
功績の横取りをしていた人が居るのは知ってるけど、この先ちゃんとやれるかは知らないわ。そういうのは気づかれた時にはもう遅いってのが多いけど、王女は全く私を国に戻すつもりはないのよね。
「ゲベート王国優先、そういうことですよね」
「その通りです。ワタクシはゲベート王家に嫁入りするのですから」
はっきりと何でも割り切れるわけじゃないでしょうけど、王女のこういうところは凄いわよね。何も悩まないで言い切っているわけじゃないだろうし、故郷はなんといわれようとオプファー王国ですもの、どこかで悲しい思いをしているはずよ。
「こちらが落ち付いたら手伝う位は構わないと思いますよ。王女にはオプファー王家の血が流れているんですから」
「……そうですね、優先順位は違えど、大切な存在なことに違いはない」
エスメラルダが紅茶と焼菓子を持って来てくれたわ。甘い良い香りね。一口傾けると香りだけで甘みは全然ない、それでも満足行くのよ本物は。
「この国は中央南部に王都がありますよね」
見せて貰った地図がそうだったので、絵が頭に残っている。卵型のような国で、重心が下の方にあるように王都がそんな位置にあった。出っ張ったり凹んだりあるけど、全体的にそういう印象よ。
「より正確には、国土が北部に拡張されたのだがアリアスの認識は正しい」
あ、そうなんだ。さすが王女、この国の歴史もお勉強済みなわけね。
「円と円を結んで線を作るなら、王都から一番遠い都市に円を置くのが良いと考えてるわ」
王女はこっちを見て言いたいことを吟味してるのかな。地図ではかなりバツマークついてたけど、魔物の力が強い地域なのは統治が短いからってことになるのかしらね。
「効率を求めるならばそうなるか。隣接都市を拡げて行くのと掛かる時間比較では半分以下、しかし危険度は反比例で上がるが」
判断するのは私じゃない、決めるのは王女よ。安全を求めて十年で全土に祈りの効果をもたらすのと、重要地域を背伸びして確保して、二年で目標を達成させるのとどちらを選ぶか。あなたの天秤はどちらに傾くかしら。
目を閉じて様々不安定な状態で試算をしているみたい。別に今決める必要もないけど、始めるのが早ければ早い方が当然ゴールも早くなる。じっと王女の言葉を待つ、何を選んでもきっとしっかり根拠があるんでしょうけど。
「アリアス。そなたは王都から離れて辺境の神殿に入るつもりはあるか」
それが一つの分岐点なわけね。はっきりいって場所なんてどこでもいいわ、どうせ一人で籠もってるだけなんだから。危険がどうかについてな訳なら、正直王都が安全とは言い難いのよね。世の中で一番怖いのは人間よ。
「別に構わないわよ。一度離れたら王女の意思の外に行ってしまう可能性はあるけれどね」
今は招かれて王女の元で働くつもりだけど、手元から放すっていうのはそういうことよ。私はあなたの忠実な僕じゃないの、だから隠さずに面と向かって言えることもあるの。すっと目を開けると王女は不機嫌になるわけでも、不安になるわけでもなく言ったわ。
「ならばノルドシュタットへ行ってもらおう」
北側にある最後の都市ね。それにしても思い切ったわね、あんなこと言いはしたけどどういう気分なのかしら。
「良いわよ。で、私が別の誰かのところで働くってことになったら?」
「願って従えるなどではなく、真に力を貸したいと思われる存在を目指しているのでな。その際は快く送り出してやろう」
自信家なのね、それが全然嫌じゃないけど。自分の利益の為にやろうとしているんじゃない、より多くの誰かの為にそう言っているから。
「道を知っていることと、これから実際に歩き続けることは違うけど、そう言われると悪い気はしないものね」
珍しく、私としては凄く珍しく心底気持ちの良い笑顔を見せる。権力者とかいうのはこんな純粋なことなんて言わないって思っていたけど、どこか他とは違うのかしらね。
「口だけかも知れぬぞ?」
「だとしたら大人しく騙されておくわ。欺いてでも行かせるだけの価値を認めてくれたってことだもの」
本当にどうでも良ければ相手にはしないし、後ろめたいことがあれば誘導をする。こちらに可否を尋ねておいて今さらよ。
「すまぬなアリアス、苦労を掛ける。だがそなたしか魔物を退ける力が無いのだ、いずれ報いる」
真面目か! とは突っ込まないわよ。どうやらそのあたり、お互い様の部分が見え隠れしてそうだから。
「そう思うなら神殿に美味しいお菓子をどんどん届けてくださいね」
「わかった約束しよう」
真面目か! でも考え直されたらちょっと残念になるから微笑むだけにしておきましょう。王女が右手から指輪を外すと差し出してきたわ。なんな既視感ありね。
「これを持っているのだ。オプファー王家縁のもので、我の庇護を得ている証だ。黒角羊の紋は唯一」
銀の指輪には角がはえた羊が彫刻されているわ、王族は羊の紋を持っているはずだけど、どうして唯一のものなのかしらね。説明しないってことは、知らなくてもいいってことかな。右手の指に嵌めながら「預かっておきます」短く返答する。
「それでアリアス、次はいつ屋敷を出るのだ」
おっと、それもう見抜かれていましたか。
「今日のうちに。王女に会っておいた方が良いなって思ったもので」
「それなりに気に留めて貰えているようでなによりだ。ノルドシュタットへの移動、手筈が整い次第神殿へ使いを寄越す」
軽く鼻で笑った後に口元を緩める、冗談を言える位のことでしかないのよこんなの。王女に生まれたってだけで、もっともっと大変な決断をしなきゃいけないこと、何度もあったはずだから。
「そうしてください。ところでこのお菓子ですけど、食べきれない分は持って行っていいですか?」
エスメラルダが持ってきた焼菓子が美味しくて頬張る。三食お菓子で生きていきたい。
「好きにせよ。時にその左手の指輪、アリアスは装飾などしていなかったはずだが」
「ああ、これですか、さっき貰いました変な人に」
え、変な人で合ってますよね? うーん……合ってるわ。
「変な? 見せて貰っても構わぬか」
左手を差し出してつけたまま見せる。中央にある六角から、槍の穂先みたいなひし形が左右に二本ずつ飛び出してるような意匠。
「グラオベンのランツェだと、これはゲベート王家の紋章ではないか。変な人とは?」
祈りの槍って紋章なんだ。他国のでも国旗くらいは知ってるけど、それまでは調べたことないわね。
「十代後半の女性で、首まである銀髪で、性格が飛んでる感じの人」
「ふむ、それは第一王女だな、何故アリアスにこれを」
「さあ、私が聞きたい位です」
菓子をもぐもぐしながら応じる。多分だけど、国や時代が違ったら即座に牢屋行きよねー。平気な顔でそうしてたら解決しない話だと悟ったようで終わりにしたわ。さあ行きましょうか。
「それじゃ行きます。ちょっと街でお買い物してから神殿に戻りますね」
そう私の居場所は神殿なのよ。ホールにエスメラルダが居ないことを確認して、玄関を通るのに成功した私でしたとさ。
門を潜る時にはもう何も言われなかったわ、出る時だからなのか指輪のお陰かはわからないけどね。それはさておき街に出てきましたよ、こっちに来てから初めてのまともな外出。だって今までのはただの移動ですもの。
王女に装飾なんてしてないと言われちゃったし、ちょっとここ見ていこうかしら。アクセサリーショップね。こういうとこ入ったのは久しぶりよ、一つだけお願いがあるの、店員は話しかけてこないで苦手なのよねあのトークが。
恐る恐る店内を見回す、指輪にネックレス、ウィッグとかネイル……まあ色々とあるわけよ。期せずして指輪は左右に一つずつつけることになったから、それ以外を探しましょう。
白のブラウスだけでこれといったポイントもないから、胸元とか首元につけるようなのを何か。襟があるからぶら下げたりするのはちょっと無理ね、タイにも見えるこのリボンとかいいんじゃ?
白黒赤はゲベートの国家色ね、このリボンとブローチをつけましょう。金メッキされていて中央に色付きのガラスがはめ込まれているもので留めて鏡を見る。こんなものよね大分印象違うと思うけれど。うん、決まりよ!
「すみません、これください」
店の奥に居る年配の女性の店員に声をかける。上手につけられたのでほどかずに行って、これをって摘んで。
「あらまあ可愛いじゃないの、似合っているわよ」
にこにことして褒めてくれる、組み合わせが変じゃなくて良かった。あまりこういうのの目利きに自信がないのよね、興味は何処にあるかと言えばお菓子よ。
「お父さんかお母さんは?」
「私だけです」
さすがにそういう歳じゃないんですけど、いつからかあっさりと成長止まっちゃったからなあ。
「そうなの? お代は純金貨二枚だけれども」
えーと、金貨二枚というと焼き菓子二百枚分ね。そういうものなのかしらね、ピンとこないわ。うーんって顔のおばあちゃんが居るわね。
「南の神殿に請求を、マケンガ侯爵宛で」
支払いはちゃんとするわよ、払うのは私じゃないけれど。リボンとブローチくらい何もいわないでしょう?
「侯爵様宛にかい? お嬢ちゃんのお名前を聞いてもいいかい」
「アリアス・アルヴィンですけど」
垂れ下がっている目を細めてしぶーい顔をされています。ツケで買うのも難しいものなのね、前は神殿に何でも持って来てくれたんだけど。長いこと居たからそういう積み重ねもあったのかもね。
「これにサインを」
特別仕様の紙を差し出されて、羽ペンを渡される。渡しましたよって証明がないと請求しづらいからよね。左手で受け取ってサラサラと筆記体でサインする、私ってば左利きなのよ。懐疑的な表情だったおばあちゃんだけど、中指の銀の指輪を見て大きく目を開いたわ。
「グラオベンランツェ! ああ……これはとんだ失礼を。お嬢様はどちらからお出でで?」
急にお嬢様に昇格したわね。この指輪ってばもしかしてアレなんじゃないかしら、通行許可証とかじゃなくてもっと面倒な何か。今度会ったらあの変な王女に返しましょう。
どちらからってお城からとかいう意味じゃないわよね。
「オプファー王国からです、ここにはまだ来たばかりで」
遠くから来たものよ、通りの名前すら知らない街にね。それだって近いうちに出て行っちゃうんだけど。
「どうぞご贔屓にお願いいたしますお嬢様」
なんか頭下げられたけど、そういうのイイんで。お仕事ちゃんとしてるなら遜る必要ないと思うのよ。口に出して揉めるのも嫌だから無反応で出てきちゃった。それにしてもオプファーより色々と品ぞろえ悪い気がするわ、やっぱり貧乏な国なのかしら。
こんな街の中でもあちこち見かけるけれども、警備兵が多いわね。魔物がたくさん出るから対応に必要ってことなんでしょうけど、王都でこれなら地方はかなりの警戒度合いになっているわきっと。
街道は人間が確保しているんでしょうけど、道を外れたら魔物が跋扈してる。流通が滞ればこうやって品ぞろえが減って、経済が圧迫されていく。悪循環の見本ね。この流れだとまず間違いなくノルドシュタットに着くまでにひと悶着あるわ。
移動の手筈っていうのも、キャラバンを組んだりする感じかしら。遭遇するのは魔物だけじゃないわ、治安維持に人手を割かれたら悪事を働く人を取り締まるのにも時間がかかる。一気に改善することなんてできない、王女がかかる時間の短縮を選択したのはこういう事情を統合した結果なのよね。
軽く見物するだけで神殿に戻って来た。司祭はこちらを見ても小さく頷くだけで話しかけてこない、果たしてなんていわれているのか……有り難いんだけど、気にはなるわよ。紙袋とかを部屋の片隅にまとめて置いてしまい、床で転がって天井を見上げる。
ガラス張りになってる箇所から今は太陽の光が差し込んで来てる、夜は月明かりが。元々そういった儀式用に使われていた場所なんでしょうね。
「こことは短い付き合いになりそう」
傍に置いてある毛布を引っ張って包まる、クッションを枕代わりにして目を閉じた。ここでは好きな時に一人で自由にしてていいから。
取り敢えず籠もるにしても買い物は必要ってことで、城内の王女が居る屋敷に一旦行くことにしたわ。いつでも神殿に居るとは言ったけどね、どうせ私の行動くらい把握してるでしょ。こっちで気を使うことなんてないわ。
ところがよ、王城の中へ入ろうとしたら門番に止められちゃった。
「これより先は立ち入り禁止だ。通行許可証か通行が許されている者の同道が必要になる」
「あらそう。どうしようかしら」
確かに前は王女と一緒で、出る時にも案内が居たわね。取り次いでもらいましょう。
「あなた、見ない顔ね」
城門の内側から声をかけられる、銀色の髪が首位まで伸びているハイティーンの女性。目が大きくて綺麗な顔をしてるけど、笑顔って感じじゃないわ、別に怒ってるわけでもなさそうだけど。
「はぁ」
そういわれても私もあなたを見たこと無いもの、なんなのかしら。城の中に居るんだからどこかのご令嬢、或いは使用人?
「……その纏っている風。あなたも盟約を持っているのね」
「も? 初めてそんなこと言われましたよ」
確かに何か感じるわね、精霊使いに会ったことないからこういうものだって解らなかったけど、こんな感覚なのね。
「面白いわね、いいわこちらへ来なさい」
門番に視線を向けるとこちらを見て城内へ親指を向けて許可してくれたわ。ということはあの人は使用人じゃないわけね、精霊についてちょっと興味あるわ。スタスタと先に行ってしまうものだから付いて行くのが大変、歩幅が違うのよ。
王宮内の一室にやって来る、応接室みたいなところかしらねこれ。簡単な調度品と数人が座れるソファが対面に置かれていて、間にテーブルがあった。そのソファに腰を下ろすと「座りなさい」何故か自分のとなりを勧めて来る。まあいいけど。
隣に座ると急に私の顔に両手を当てて自分の顔を近づけて来る。
「ちょ、何するんですか!」
え、いきなりなんなのよ。もしかしてイカれてるんじゃないのこの人。
「いいから大人しくして」
結構力強いのね、暴れても仕方ないから大人しくして睨んでやる。だけど全く気にせずにそのまま押さえられて動けない。
「同じ匂いがするわ」
さ、流石にお風呂くらい入ってますよ! ……もう少し長く入ったほうがいいのかな?
「同格のスピリットロードと盟約してるわね」
あ、そっちですか。どうしてわかったのかしら、是非とも見分け方を知りたいところよ。ようやく手を離してくれたので、少し座っている場所を離れてソファの端っこに移動する。
「唐突過ぎます、何がしたいんですか」
「悪かったわね、他意はないの。私は水の精霊トバリ、ディープウォーターロードと盟約しているわ」
トバリなんて聞いたことないわねそんなの、水の精霊ったらアンダインとかクラーケンじゃ? 黙っていたら向こうもそのまま、それでも黙っていたらこちらを見てじっとしているだけ。これは喋らないと解決しなさそうね。
「氷の精霊フラウ、アイスロードよ」
必要最低限の返答をすると、何とこの場で精霊を呼び出した。まったく前置きも無しでやらないでよね。とはいっても精霊は基本こちらの世界に干渉しようとしなければ勝手に影響を及ぼさないから無害。
揺らめく水が妙齢の女性が裸の姿を形作る、次第に色がはっきりしていき意志が宿る瞳をこちらに向けて来た。
「我は水の精霊アンダイン、アンダインのトバリなり!」
おー、そういうことね。ネームドってことか。なら確かにこっちと同格ね。これも呼ばないと終わらないだろうから。部屋に氷が混じる風が吹いて、結晶が集まると少女の姿を構築する。
「氷の精霊フラウのフラウ」
あっちと同じで氷の下級精霊フラウが昇華して上級精霊になっているの。でも与えられた名前がフラウだってことで、すっごく面倒なことしてくれた感が半端ないわ。
「フラウか久しいな」
「トバリさん、何百年ぶりでしょうか」
「さてな」
精霊同士って知り合いとか居るのね、正直今日一番の驚きよ。で、これでどうするのかしら。とか思っていたらトバリを消してしまった、だから唐突なんだって。
ソファの距離を詰めてまた頬に両手を置く、それやめなさいって。呆れて抗議もしなかったら顔を近づけてきて……止まらずにそのまま唇を重ねて来た。なんで!
ソファから転げ落ちてしまい銀髪をまじまじと見たわ。この人の頭はどうなってるのよ! 口をパクパクさせて何か言ってやろうと思うけど、うまいこと言葉にならない。
「これは運命」
左手の小指につけている銀の指輪をこちらに差し出して来る、何よそれ。指輪と顔を交互に見る。
「王宮への通行証よ、使いなさい」
ほんと脈絡ないわね。手のひらに乗っかっている指輪を手にして一瞥する、中指に嵌めてみると丁度良かった。これ以上なにも起こらないうちに、私はそそくさと部屋を出ることにした。ほんとさっきのはなに?
さっきのほんとなんだったのかしら。でも指輪を貰えたからこれで出入り自由になったのね。左手の中指を観察してみると、刻印が入っていた。六角模様だけど意味までわからないわ。
わからないもので悩んでも仕方ないので、王女の屋敷に行くことにする。戻ることにしたと表現するより微妙にそっちよりなのよ。玄関開けて二秒でエスメラルダだったわ、時すでに遅いけど嫌な予感しかしない。
こちらに気づいて眼鏡に指をやって「随分と長い留守でしたね。今度出かける時にはしっかりと予定をお伝えください」ストレートに苦情を言われる。うん、知ってた。
「はぁ」
どうせこの先戻るつもりは全然無いから興味がない生返事をすると、じーっとこっちを見詰めて来る。とてももの言いたげなのが伝わって来てるわよ、でも後悔はしません。
「アリアス、戻っていたのですね」
ん、王女こそ居たんですね。王宮であれこれやってそうなイメージあったんですけど。
「ええ、今」
「丁度良い、話をしたいのでこちらへ来るのだ。エスメラルダ、紅茶を」
「はい、畏まりました殿下」
背筋を伸ばして歩く姿はとてもご立派、芯が通っていて凛々しいわ。ちんまい私、こう見えて屋敷では客人扱いってことで二番目に上位にいることになっているわ。聖女って役職があるわけじゃないけれども、王女が招いた人物だからね。
そういうわけでエスメラルダも厳しいことは言えても、丁寧に接する態度は変わらない。しっかりと自分の持つ境界線を守れるのは凄いことだと思うわよ。
王女の部屋は仮住まいでも結構豪華になっているわ。ここで誰かを迎えることもあるから、可能な限りの手を尽くすって意味もあるの。椅子に座ると目の前に居る王女を見たわ。
「マケンガ侯爵に会いましたか」
それは質問というより確認だった、きっと知っているのね。ということはこの先の会話もそれがらみになるわ。
「はい。退魔についてですね」
「年単位でのことにはなりますが、徐々に聖域を拡げて行きます。王都周辺だけを厳重にしていたというのを、隣接する都市まで確保するのを最初の目標とします」
点だったものを小さな円にして、それらを繋ぎ合わせて線にしていくわけね。今日明日で出来ることじゃないわ、気長にしましょうか。
「オプファー王国では弱く小さな魔物が姿をあらわしているそうです。これは全域に届いていた祈りが潰えた結果」
私の祈りが全域の魔物を弱らせて行動を阻害していたから、居なくなって重しが取れた魔物が元気になってきたわけね。そのくらいなら治安維持部隊でいっくらでも対処出来るから全然問題ないわ。
「聖女として祭り上げられている存在が祈りを捧げているうちは、その浸食もゆるやかになる。アリアスの力量がよく解るな」
功績の横取りをしていた人が居るのは知ってるけど、この先ちゃんとやれるかは知らないわ。そういうのは気づかれた時にはもう遅いってのが多いけど、王女は全く私を国に戻すつもりはないのよね。
「ゲベート王国優先、そういうことですよね」
「その通りです。ワタクシはゲベート王家に嫁入りするのですから」
はっきりと何でも割り切れるわけじゃないでしょうけど、王女のこういうところは凄いわよね。何も悩まないで言い切っているわけじゃないだろうし、故郷はなんといわれようとオプファー王国ですもの、どこかで悲しい思いをしているはずよ。
「こちらが落ち付いたら手伝う位は構わないと思いますよ。王女にはオプファー王家の血が流れているんですから」
「……そうですね、優先順位は違えど、大切な存在なことに違いはない」
エスメラルダが紅茶と焼菓子を持って来てくれたわ。甘い良い香りね。一口傾けると香りだけで甘みは全然ない、それでも満足行くのよ本物は。
「この国は中央南部に王都がありますよね」
見せて貰った地図がそうだったので、絵が頭に残っている。卵型のような国で、重心が下の方にあるように王都がそんな位置にあった。出っ張ったり凹んだりあるけど、全体的にそういう印象よ。
「より正確には、国土が北部に拡張されたのだがアリアスの認識は正しい」
あ、そうなんだ。さすが王女、この国の歴史もお勉強済みなわけね。
「円と円を結んで線を作るなら、王都から一番遠い都市に円を置くのが良いと考えてるわ」
王女はこっちを見て言いたいことを吟味してるのかな。地図ではかなりバツマークついてたけど、魔物の力が強い地域なのは統治が短いからってことになるのかしらね。
「効率を求めるならばそうなるか。隣接都市を拡げて行くのと掛かる時間比較では半分以下、しかし危険度は反比例で上がるが」
判断するのは私じゃない、決めるのは王女よ。安全を求めて十年で全土に祈りの効果をもたらすのと、重要地域を背伸びして確保して、二年で目標を達成させるのとどちらを選ぶか。あなたの天秤はどちらに傾くかしら。
目を閉じて様々不安定な状態で試算をしているみたい。別に今決める必要もないけど、始めるのが早ければ早い方が当然ゴールも早くなる。じっと王女の言葉を待つ、何を選んでもきっとしっかり根拠があるんでしょうけど。
「アリアス。そなたは王都から離れて辺境の神殿に入るつもりはあるか」
それが一つの分岐点なわけね。はっきりいって場所なんてどこでもいいわ、どうせ一人で籠もってるだけなんだから。危険がどうかについてな訳なら、正直王都が安全とは言い難いのよね。世の中で一番怖いのは人間よ。
「別に構わないわよ。一度離れたら王女の意思の外に行ってしまう可能性はあるけれどね」
今は招かれて王女の元で働くつもりだけど、手元から放すっていうのはそういうことよ。私はあなたの忠実な僕じゃないの、だから隠さずに面と向かって言えることもあるの。すっと目を開けると王女は不機嫌になるわけでも、不安になるわけでもなく言ったわ。
「ならばノルドシュタットへ行ってもらおう」
北側にある最後の都市ね。それにしても思い切ったわね、あんなこと言いはしたけどどういう気分なのかしら。
「良いわよ。で、私が別の誰かのところで働くってことになったら?」
「願って従えるなどではなく、真に力を貸したいと思われる存在を目指しているのでな。その際は快く送り出してやろう」
自信家なのね、それが全然嫌じゃないけど。自分の利益の為にやろうとしているんじゃない、より多くの誰かの為にそう言っているから。
「道を知っていることと、これから実際に歩き続けることは違うけど、そう言われると悪い気はしないものね」
珍しく、私としては凄く珍しく心底気持ちの良い笑顔を見せる。権力者とかいうのはこんな純粋なことなんて言わないって思っていたけど、どこか他とは違うのかしらね。
「口だけかも知れぬぞ?」
「だとしたら大人しく騙されておくわ。欺いてでも行かせるだけの価値を認めてくれたってことだもの」
本当にどうでも良ければ相手にはしないし、後ろめたいことがあれば誘導をする。こちらに可否を尋ねておいて今さらよ。
「すまぬなアリアス、苦労を掛ける。だがそなたしか魔物を退ける力が無いのだ、いずれ報いる」
真面目か! とは突っ込まないわよ。どうやらそのあたり、お互い様の部分が見え隠れしてそうだから。
「そう思うなら神殿に美味しいお菓子をどんどん届けてくださいね」
「わかった約束しよう」
真面目か! でも考え直されたらちょっと残念になるから微笑むだけにしておきましょう。王女が右手から指輪を外すと差し出してきたわ。なんな既視感ありね。
「これを持っているのだ。オプファー王家縁のもので、我の庇護を得ている証だ。黒角羊の紋は唯一」
銀の指輪には角がはえた羊が彫刻されているわ、王族は羊の紋を持っているはずだけど、どうして唯一のものなのかしらね。説明しないってことは、知らなくてもいいってことかな。右手の指に嵌めながら「預かっておきます」短く返答する。
「それでアリアス、次はいつ屋敷を出るのだ」
おっと、それもう見抜かれていましたか。
「今日のうちに。王女に会っておいた方が良いなって思ったもので」
「それなりに気に留めて貰えているようでなによりだ。ノルドシュタットへの移動、手筈が整い次第神殿へ使いを寄越す」
軽く鼻で笑った後に口元を緩める、冗談を言える位のことでしかないのよこんなの。王女に生まれたってだけで、もっともっと大変な決断をしなきゃいけないこと、何度もあったはずだから。
「そうしてください。ところでこのお菓子ですけど、食べきれない分は持って行っていいですか?」
エスメラルダが持ってきた焼菓子が美味しくて頬張る。三食お菓子で生きていきたい。
「好きにせよ。時にその左手の指輪、アリアスは装飾などしていなかったはずだが」
「ああ、これですか、さっき貰いました変な人に」
え、変な人で合ってますよね? うーん……合ってるわ。
「変な? 見せて貰っても構わぬか」
左手を差し出してつけたまま見せる。中央にある六角から、槍の穂先みたいなひし形が左右に二本ずつ飛び出してるような意匠。
「グラオベンのランツェだと、これはゲベート王家の紋章ではないか。変な人とは?」
祈りの槍って紋章なんだ。他国のでも国旗くらいは知ってるけど、それまでは調べたことないわね。
「十代後半の女性で、首まである銀髪で、性格が飛んでる感じの人」
「ふむ、それは第一王女だな、何故アリアスにこれを」
「さあ、私が聞きたい位です」
菓子をもぐもぐしながら応じる。多分だけど、国や時代が違ったら即座に牢屋行きよねー。平気な顔でそうしてたら解決しない話だと悟ったようで終わりにしたわ。さあ行きましょうか。
「それじゃ行きます。ちょっと街でお買い物してから神殿に戻りますね」
そう私の居場所は神殿なのよ。ホールにエスメラルダが居ないことを確認して、玄関を通るのに成功した私でしたとさ。
門を潜る時にはもう何も言われなかったわ、出る時だからなのか指輪のお陰かはわからないけどね。それはさておき街に出てきましたよ、こっちに来てから初めてのまともな外出。だって今までのはただの移動ですもの。
王女に装飾なんてしてないと言われちゃったし、ちょっとここ見ていこうかしら。アクセサリーショップね。こういうとこ入ったのは久しぶりよ、一つだけお願いがあるの、店員は話しかけてこないで苦手なのよねあのトークが。
恐る恐る店内を見回す、指輪にネックレス、ウィッグとかネイル……まあ色々とあるわけよ。期せずして指輪は左右に一つずつつけることになったから、それ以外を探しましょう。
白のブラウスだけでこれといったポイントもないから、胸元とか首元につけるようなのを何か。襟があるからぶら下げたりするのはちょっと無理ね、タイにも見えるこのリボンとかいいんじゃ?
白黒赤はゲベートの国家色ね、このリボンとブローチをつけましょう。金メッキされていて中央に色付きのガラスがはめ込まれているもので留めて鏡を見る。こんなものよね大分印象違うと思うけれど。うん、決まりよ!
「すみません、これください」
店の奥に居る年配の女性の店員に声をかける。上手につけられたのでほどかずに行って、これをって摘んで。
「あらまあ可愛いじゃないの、似合っているわよ」
にこにことして褒めてくれる、組み合わせが変じゃなくて良かった。あまりこういうのの目利きに自信がないのよね、興味は何処にあるかと言えばお菓子よ。
「お父さんかお母さんは?」
「私だけです」
さすがにそういう歳じゃないんですけど、いつからかあっさりと成長止まっちゃったからなあ。
「そうなの? お代は純金貨二枚だけれども」
えーと、金貨二枚というと焼き菓子二百枚分ね。そういうものなのかしらね、ピンとこないわ。うーんって顔のおばあちゃんが居るわね。
「南の神殿に請求を、マケンガ侯爵宛で」
支払いはちゃんとするわよ、払うのは私じゃないけれど。リボンとブローチくらい何もいわないでしょう?
「侯爵様宛にかい? お嬢ちゃんのお名前を聞いてもいいかい」
「アリアス・アルヴィンですけど」
垂れ下がっている目を細めてしぶーい顔をされています。ツケで買うのも難しいものなのね、前は神殿に何でも持って来てくれたんだけど。長いこと居たからそういう積み重ねもあったのかもね。
「これにサインを」
特別仕様の紙を差し出されて、羽ペンを渡される。渡しましたよって証明がないと請求しづらいからよね。左手で受け取ってサラサラと筆記体でサインする、私ってば左利きなのよ。懐疑的な表情だったおばあちゃんだけど、中指の銀の指輪を見て大きく目を開いたわ。
「グラオベンランツェ! ああ……これはとんだ失礼を。お嬢様はどちらからお出でで?」
急にお嬢様に昇格したわね。この指輪ってばもしかしてアレなんじゃないかしら、通行許可証とかじゃなくてもっと面倒な何か。今度会ったらあの変な王女に返しましょう。
どちらからってお城からとかいう意味じゃないわよね。
「オプファー王国からです、ここにはまだ来たばかりで」
遠くから来たものよ、通りの名前すら知らない街にね。それだって近いうちに出て行っちゃうんだけど。
「どうぞご贔屓にお願いいたしますお嬢様」
なんか頭下げられたけど、そういうのイイんで。お仕事ちゃんとしてるなら遜る必要ないと思うのよ。口に出して揉めるのも嫌だから無反応で出てきちゃった。それにしてもオプファーより色々と品ぞろえ悪い気がするわ、やっぱり貧乏な国なのかしら。
こんな街の中でもあちこち見かけるけれども、警備兵が多いわね。魔物がたくさん出るから対応に必要ってことなんでしょうけど、王都でこれなら地方はかなりの警戒度合いになっているわきっと。
街道は人間が確保しているんでしょうけど、道を外れたら魔物が跋扈してる。流通が滞ればこうやって品ぞろえが減って、経済が圧迫されていく。悪循環の見本ね。この流れだとまず間違いなくノルドシュタットに着くまでにひと悶着あるわ。
移動の手筈っていうのも、キャラバンを組んだりする感じかしら。遭遇するのは魔物だけじゃないわ、治安維持に人手を割かれたら悪事を働く人を取り締まるのにも時間がかかる。一気に改善することなんてできない、王女がかかる時間の短縮を選択したのはこういう事情を統合した結果なのよね。
軽く見物するだけで神殿に戻って来た。司祭はこちらを見ても小さく頷くだけで話しかけてこない、果たしてなんていわれているのか……有り難いんだけど、気にはなるわよ。紙袋とかを部屋の片隅にまとめて置いてしまい、床で転がって天井を見上げる。
ガラス張りになってる箇所から今は太陽の光が差し込んで来てる、夜は月明かりが。元々そういった儀式用に使われていた場所なんでしょうね。
「こことは短い付き合いになりそう」
傍に置いてある毛布を引っ張って包まる、クッションを枕代わりにして目を閉じた。ここでは好きな時に一人で自由にしてていいから。
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