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呪いの発現編

12、ユーリとローザ

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「あ、あの……ローザさんっ!」
「ん……? どうしたんだい?」

 話し合いを終え、部屋を出ていったローザを、ミューは廊下で呼び止めた。

 ユーリはというと、酒場の二階にとっている部屋で休息を取るつもりらしく、この場には二人しかいない。

 ミューは、自身の行いを見逃してくれたローザに、深々と頭を下げる。
「あ、――ありがとうございます!!」

 その行動にローザは一瞬、ギョっとしながらも苦笑する。
「気にすることはないさ」

「で、でも――」
「それより、ミュー……腹が空かないかい?」

 突然の問いに、ミューは困惑しながらも、空腹を感じ始めていた。

「えっ? あっ、はい……」
「そんじゃ、甘い物でも食べにいこうか」

 ローザは気持ちの良いニカッとした笑みを浮かべると、ミューの腕を取り、連れ出していく。



 そして、ミューとローザは、スイーツが有名なカフェを訪れていた。

 酒場とは違う、落ち着いた雰囲気の内装。
 丁寧に磨き上げられた室内は光を反射し、輝いている。

 夕方のせいか、客も少ないようで、奥のテーブル席に二人は着いて、スイーツを口に運ぶ。

「――美味しい……っ!!」
「だろう?」

 甘いクリームの乗ったケーキを一口食べ、表情を輝かせるミュー。
 ローザはそれを、母親のような温かな笑みで見守っている。

「それで、ミュー……」
「あっ、は、はいっ!」

「――ユーリのことが、好きかい?」
「……あっ、え、えっとぉ……っ!?」

 ミューは慌て、手に持っていたフォークを落としそうになる。

「答えなくてもいいよ。アンタの反応を見りゃあ、わかる」
「うぅ……。あの、どうして私の嘘を見逃すようなこと……したんですか?」

 身を小さく縮こまらせ、上目遣いでローザの顔色をうかがう。

 彼女は過去を懐かしむような、何処か遠い目をして、ミューにこう言った。
「それはねぇ――アンタの気持ちがわかるからだよ」

「えっ……!?」

「アタシも、好きなのさ……ユーリのことが」
 決して、ミューには真似出来ない、余裕のある笑みだった。

「そ、それは……人として、ですか? それとも――異性として?」
「――両方だよ」

 ローザは一度大きく息を吐き、気持ちを落ち着けると語り出す。

「昔の話さ、アタシがまだ冒険者として駆け出しだった頃、好きだった男がいた。素直で優しくて、困ってる人を放っておけないヤツさ。――死んじまったけどね」
「……っ!?」

「その時さ、アタシが冒険者として一人前になろうって決意したのは。それまでは、好きな男と一緒にいたいが為に冒険者をやるような、そんな甘っちょろい人間だったんだよ。そういう自分の甘さのせいで、取返しのつかないことを招いた。大切な人を戦いで失ったアタシは、同じ思いをする人間をひとりでも減らすよう、がむしゃらに冒険者をやって、気付けばSランクなんて、大層な称号までもらえるようになったのさ」

 ミューは神妙な面持ちで、黙ってローザの話を聞く。

「そんな時、ユーリと出会ったんだよ。アイツが冒険者として駆け出しの頃、アタシが戦っている姿を見て、指導を頼みたいって、頭を下げにきたのさ。やけに真剣な顔で、雰囲気が昔の男そっくりだった。それで、何だか断れなくてね。稽古をつけてやるようになったのが、始まり……」

「そう、だったんですか……」

「元々、腕は悪くなかったから、教えることはそんなになかったよ。だけど、当時、毎日戦うばかりだったアタシの心を、アイツは癒してくれた。それで気付いたのさ、支えてくれる存在が、愛しい人がいることが、どれだけ救いになるのかを。そこからは考えを変えて、酒場を経営し、冒険者をサポートする側に回ることを決めたのさ」

「じゃあ、ローザさんが今の仕事を始めたきっかけって――」

 ミューが問うと、ローザは少し顔を赤くし、頬を掻いた。
「そうだよ、ユーリのおかげさ。これは、秘密にしといておくれよ?」

「……ふふっ、わかりました」

「新しく酒場を開いた時も、ユーリは助けてくれた。アタシが冒険者としての実績はあっても、酒場を切り盛りする情報屋としては、まだまだだったからね。新参者でお抱えの冒険者がいない始めのころ、アイツがウチ専属の冒険者になって、依頼を次々とこなして、アタシの酒場を盛り立てるのに、一役買ってくれたのさ。これで、昔の話は終わり……」

 テーブルの上に置かれた紅茶を、ローザは一口飲んだ。

 その表情から察するに、彼女にとって良い思い出だったのだろう。
 懐かしさの混じった、美しい顔であった――。
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