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呪いの発現編
11、純愛派
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「そのサキュバスは、『純愛派』のヤツじゃないかねぇ?」
「――純愛派?」
ローザの発した単語を、ユーリとミューは復唱した。
「そう。魔族の知り合いから聞いた話なんだが、アタシ達がよく知っている攻撃的なサキュバスと違って、人間達と共存関係にある思想のサキュバスを、総じて『純愛派』と呼んでいるらしい。何でも、人を誘惑したり、襲うのではなく、人間に人知れず呪いをかけ、その人間が別の人間と性交することによって、日々必要な魔力を得る方法を取るみたいだね……」
彼女の話を聞いたユーリは、その続きを聞こうと、問いかける。
「もし、それが事実なら……俺とミューさんが会った、あのサキュバスがそうだってことですか?」
「アタシはそう睨んでる。何でも、想い合う人間同士の性交から得られる魔力は、ヤツらに言わせれば、大変美味しいそうだ。だが、サキュバスの中では、人と共存する在り方故、異端とみなされる。そのサキュバス、強かったんだろう?」
「はい。俺の魔法剣も防ぎましたし、とても素早くて、倒すのは難しそうでした。――もしかして」
ユーリがある考えに行きつき、ハッとする。
ミューも彼の言わんとしていることが理解出来たのか、口を開く。
「……だから、封印されたんですね。――『同じサキュバス達に』」
その言葉を聞いたローザは、満足げに頷いた。
「二人とも鋭いじゃないか。強力すぎる異端のサキュバス。人間には目立った害を与えないが、同じサキュバスからは疎まれる。となると、封印する動機があるのは、別の派閥のサキュバス。サキュバス全体が、純愛派になるのを嫌がる連中だ。おおかた、人間が放棄した遺跡の奥を利用して封印し、見つからないよう入り口に魔法をかけたってのが、今回のあらましだろうね。道中で拾った金貨や食器は、人間の文明の名残り。配置されていたスカルドッグなんかは、封印が解かれないよう配置した守護者、って感じか……」
推理を聞くユーリとミューの目が、輝いている。
ローザはSランク冒険者に相応しい洞察力を、披露していた。
そこでふと、ユーリが疑問に思ったことを口に出す。
「ローザさんは何で、そのサキュバスが純愛派ってことに、気付いたんですか?」
「あぁ、それはねぇ……純愛派のサキュバスが、よく言うセリフがあるらしいのさ」
目を細め、彼女のぷっくりとした唇が開かれる。
「私は『善良なサキュバス』だから、見逃して――ってね。自分たちは他のサキュバスと違って、人間に害を与えない存在だって、言いたいんだろうさ」
「なるほど。その一言から、よくここまで推理出来ましたね……」
「説のひとつさ。当たってるかもしれないし、外れてるかもしれない。正解かどうかは学者先生達の、判断に任せるとしておこうかね……」
「そうですね。ん? ということは、例のサキュバスが純愛派だとすると、俺を通じて、魔力を吸収してるってことになりますよね?」
「そうなるね」
「だったら、俺から流れる魔力の痕跡を辿ったりすれば、見つけられませんか?」
「発想は悪くないだろうけど、それも織り込み済みだろうさ。現に、試してみたけど、魔力の流れが見えない。ただ、この街に潜んでいる可能性は高い」
「根拠は?」
「この周辺では、この街が一番人間が多いからさ。複数人に呪いをかければ、効率的に魔力が吸収出来る。それに、他の魔族や反純愛派のサキュバスから身を守れる。人間そっくりに化けて溶け込めさえすれば、暮らしやすい。魔力を吸収するにしても、ある程度近くにいないといけないだろうしね」
「厄介ですね。どうやって、見つけましょうか?」
「そのことなんだがね――」
ローザがどう提案するか、ユーリとミューは興味津々だ。
「――とりあえず、放っておこう」
『え……?』
二人は声を揃え、信じられないとばかりに、目を丸くさせた。
ローザが言ったことを、ようやく飲み込めたユーリは言う。
「放っておいても、いいんですか?」
「これ以上、何か問題を起こさないならね。もし、本当に純愛派のサキュバスが、人間と共存するつもりがあるなら、面倒事を起こして、自分を窮地に追い込むような動きは、しないはずだよ。仮に、今ここでアタシ達が無理にヤツを追い込めば、後がない分、何をしでかすかわからない。街には沢山の人間がいる。人間を魅了する力を持つサキュバスだ、大衆を扇動して、争いを起こすことだって出来る」
「それは……何としてでも避けないといけませんね」
ユーリが意見を口にすると、ミューも同じ気持ちだと、力強く頷く。
責任感の強い二人の眼は、自分達が発端となったこの問題を、どうにかしたいと燃えていた。
それを察したローザは、
「じゃあ、アンタ達に出来る事は一つ。もし、そのサキュバスが接触を図って来た時は、仲良くすること。強力な魔族と友好関係を結ぶのは、後々役に立つこともある。ヤツらにはヤツらにしか、持ちえない力と情報があるからね。利害が一致している限りは、色々と交渉出来る。悪い話じゃ、ないだろう?」と笑った。
ユーリは、苦笑いを浮かべる。
「自分に呪いをかけた相手と、仲良くするんですか?」
「そうさ。呪いをかけられても許すような、器の大きさを見せてやんな。そういう輩は、魔族からは好かれる。そうそう、純愛派の使う呪いは大体、自覚出来ない位の発情を誘発させるものらしいから、他の住民のことは、心配しなくてもいいだろうね」
「えっ……? でも、俺に掛けられた呪いの力って、強力な気がするんですけど……」とユーリは困惑している。
サキュバスがかけた呪いが強力な理由を、ローザは薄々察しつつも、
「さぁ? アンタ達が、気に入られただけなんじゃないかい? どういう意図かは、本人に会った時にでも、聞くんだね」と、とぼけた。
そして、ローザは話しの終わりを告げるように手を叩き、こう続ける。
「さぁ、この話はここまで。回収した品はこっちで預かるから、休みな。後日、依頼主が来ることになってるから、その時、会って報酬を受け取るんだね」
その言葉を合図に、この場は解散となった――。
「――純愛派?」
ローザの発した単語を、ユーリとミューは復唱した。
「そう。魔族の知り合いから聞いた話なんだが、アタシ達がよく知っている攻撃的なサキュバスと違って、人間達と共存関係にある思想のサキュバスを、総じて『純愛派』と呼んでいるらしい。何でも、人を誘惑したり、襲うのではなく、人間に人知れず呪いをかけ、その人間が別の人間と性交することによって、日々必要な魔力を得る方法を取るみたいだね……」
彼女の話を聞いたユーリは、その続きを聞こうと、問いかける。
「もし、それが事実なら……俺とミューさんが会った、あのサキュバスがそうだってことですか?」
「アタシはそう睨んでる。何でも、想い合う人間同士の性交から得られる魔力は、ヤツらに言わせれば、大変美味しいそうだ。だが、サキュバスの中では、人と共存する在り方故、異端とみなされる。そのサキュバス、強かったんだろう?」
「はい。俺の魔法剣も防ぎましたし、とても素早くて、倒すのは難しそうでした。――もしかして」
ユーリがある考えに行きつき、ハッとする。
ミューも彼の言わんとしていることが理解出来たのか、口を開く。
「……だから、封印されたんですね。――『同じサキュバス達に』」
その言葉を聞いたローザは、満足げに頷いた。
「二人とも鋭いじゃないか。強力すぎる異端のサキュバス。人間には目立った害を与えないが、同じサキュバスからは疎まれる。となると、封印する動機があるのは、別の派閥のサキュバス。サキュバス全体が、純愛派になるのを嫌がる連中だ。おおかた、人間が放棄した遺跡の奥を利用して封印し、見つからないよう入り口に魔法をかけたってのが、今回のあらましだろうね。道中で拾った金貨や食器は、人間の文明の名残り。配置されていたスカルドッグなんかは、封印が解かれないよう配置した守護者、って感じか……」
推理を聞くユーリとミューの目が、輝いている。
ローザはSランク冒険者に相応しい洞察力を、披露していた。
そこでふと、ユーリが疑問に思ったことを口に出す。
「ローザさんは何で、そのサキュバスが純愛派ってことに、気付いたんですか?」
「あぁ、それはねぇ……純愛派のサキュバスが、よく言うセリフがあるらしいのさ」
目を細め、彼女のぷっくりとした唇が開かれる。
「私は『善良なサキュバス』だから、見逃して――ってね。自分たちは他のサキュバスと違って、人間に害を与えない存在だって、言いたいんだろうさ」
「なるほど。その一言から、よくここまで推理出来ましたね……」
「説のひとつさ。当たってるかもしれないし、外れてるかもしれない。正解かどうかは学者先生達の、判断に任せるとしておこうかね……」
「そうですね。ん? ということは、例のサキュバスが純愛派だとすると、俺を通じて、魔力を吸収してるってことになりますよね?」
「そうなるね」
「だったら、俺から流れる魔力の痕跡を辿ったりすれば、見つけられませんか?」
「発想は悪くないだろうけど、それも織り込み済みだろうさ。現に、試してみたけど、魔力の流れが見えない。ただ、この街に潜んでいる可能性は高い」
「根拠は?」
「この周辺では、この街が一番人間が多いからさ。複数人に呪いをかければ、効率的に魔力が吸収出来る。それに、他の魔族や反純愛派のサキュバスから身を守れる。人間そっくりに化けて溶け込めさえすれば、暮らしやすい。魔力を吸収するにしても、ある程度近くにいないといけないだろうしね」
「厄介ですね。どうやって、見つけましょうか?」
「そのことなんだがね――」
ローザがどう提案するか、ユーリとミューは興味津々だ。
「――とりあえず、放っておこう」
『え……?』
二人は声を揃え、信じられないとばかりに、目を丸くさせた。
ローザが言ったことを、ようやく飲み込めたユーリは言う。
「放っておいても、いいんですか?」
「これ以上、何か問題を起こさないならね。もし、本当に純愛派のサキュバスが、人間と共存するつもりがあるなら、面倒事を起こして、自分を窮地に追い込むような動きは、しないはずだよ。仮に、今ここでアタシ達が無理にヤツを追い込めば、後がない分、何をしでかすかわからない。街には沢山の人間がいる。人間を魅了する力を持つサキュバスだ、大衆を扇動して、争いを起こすことだって出来る」
「それは……何としてでも避けないといけませんね」
ユーリが意見を口にすると、ミューも同じ気持ちだと、力強く頷く。
責任感の強い二人の眼は、自分達が発端となったこの問題を、どうにかしたいと燃えていた。
それを察したローザは、
「じゃあ、アンタ達に出来る事は一つ。もし、そのサキュバスが接触を図って来た時は、仲良くすること。強力な魔族と友好関係を結ぶのは、後々役に立つこともある。ヤツらにはヤツらにしか、持ちえない力と情報があるからね。利害が一致している限りは、色々と交渉出来る。悪い話じゃ、ないだろう?」と笑った。
ユーリは、苦笑いを浮かべる。
「自分に呪いをかけた相手と、仲良くするんですか?」
「そうさ。呪いをかけられても許すような、器の大きさを見せてやんな。そういう輩は、魔族からは好かれる。そうそう、純愛派の使う呪いは大体、自覚出来ない位の発情を誘発させるものらしいから、他の住民のことは、心配しなくてもいいだろうね」
「えっ……? でも、俺に掛けられた呪いの力って、強力な気がするんですけど……」とユーリは困惑している。
サキュバスがかけた呪いが強力な理由を、ローザは薄々察しつつも、
「さぁ? アンタ達が、気に入られただけなんじゃないかい? どういう意図かは、本人に会った時にでも、聞くんだね」と、とぼけた。
そして、ローザは話しの終わりを告げるように手を叩き、こう続ける。
「さぁ、この話はここまで。回収した品はこっちで預かるから、休みな。後日、依頼主が来ることになってるから、その時、会って報酬を受け取るんだね」
その言葉を合図に、この場は解散となった――。
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