【R-18】呪いを解かない神官ちゃん

右折坊太郎

文字の大きさ
上 下
11 / 19
呪いの発現編

11、純愛派

しおりを挟む
「そのサキュバスは、『純愛派』のヤツじゃないかねぇ?」
「――純愛派?」

 ローザの発した単語を、ユーリとミューは復唱した。

「そう。魔族の知り合いから聞いた話なんだが、アタシ達がよく知っている攻撃的なサキュバスと違って、人間達と共存関係にある思想のサキュバスを、総じて『純愛派』と呼んでいるらしい。何でも、人を誘惑したり、襲うのではなく、人間に人知れず呪いをかけ、その人間が別の人間と性交することによって、日々必要な魔力を得る方法を取るみたいだね……」

 彼女の話を聞いたユーリは、その続きを聞こうと、問いかける。
「もし、それが事実なら……俺とミューさんが会った、あのサキュバスがそうだってことですか?」

「アタシはそう睨んでる。何でも、想い合う人間同士の性交から得られる魔力は、ヤツらに言わせれば、大変美味しいそうだ。だが、サキュバスの中では、人と共存する在り方故、異端とみなされる。そのサキュバス、強かったんだろう?」

「はい。俺の魔法剣も防ぎましたし、とても素早くて、倒すのは難しそうでした。――もしかして」
 ユーリがある考えに行きつき、ハッとする。

 ミューも彼の言わんとしていることが理解出来たのか、口を開く。
「……だから、封印されたんですね。――『同じサキュバス達に』」

 その言葉を聞いたローザは、満足げに頷いた。

「二人とも鋭いじゃないか。強力すぎる異端のサキュバス。人間には目立った害を与えないが、同じサキュバスからはうとまれる。となると、封印する動機があるのは、別の派閥のサキュバス。サキュバス全体が、純愛派になるのを嫌がる連中だ。おおかた、人間が放棄した遺跡の奥を利用して封印し、見つからないよう入り口に魔法をかけたってのが、今回のあらましだろうね。道中で拾った金貨や食器は、人間の文明の名残り。配置されていたスカルドッグなんかは、封印が解かれないよう配置した守護者、って感じか……」

 推理を聞くユーリとミューの目が、輝いている。
 ローザはSランク冒険者に相応しい洞察力を、披露していた。

 そこでふと、ユーリが疑問に思ったことを口に出す。
「ローザさんは何で、そのサキュバスが純愛派ってことに、気付いたんですか?」

「あぁ、それはねぇ……純愛派のサキュバスが、よく言うセリフがあるらしいのさ」

 目を細め、彼女のぷっくりとした唇が開かれる。
「私は『善良なサキュバス』だから、見逃して――ってね。自分たちは他のサキュバスと違って、人間に害を与えない存在だって、言いたいんだろうさ」

「なるほど。その一言から、よくここまで推理出来ましたね……」

「説のひとつさ。当たってるかもしれないし、外れてるかもしれない。正解かどうかは学者先生達の、判断に任せるとしておこうかね……」
「そうですね。ん? ということは、例のサキュバスが純愛派だとすると、俺を通じて、魔力を吸収してるってことになりますよね?」

「そうなるね」
「だったら、俺から流れる魔力の痕跡を辿ったりすれば、見つけられませんか?」

「発想は悪くないだろうけど、それも織り込み済みだろうさ。げんに、試してみたけど、魔力の流れが見えない。ただ、この街に潜んでいる可能性は高い」
「根拠は?」

「この周辺では、この街が一番人間が多いからさ。複数人に呪いをかければ、効率的に魔力が吸収出来る。それに、他の魔族や反純愛派のサキュバスから身を守れる。人間そっくりに化けて溶け込めさえすれば、暮らしやすい。魔力を吸収するにしても、ある程度近くにいないといけないだろうしね」
「厄介ですね。どうやって、見つけましょうか?」

「そのことなんだがね――」
 ローザがどう提案するか、ユーリとミューは興味津々だ。

「――とりあえず、放っておこう」
『え……?』
 二人は声を揃え、信じられないとばかりに、目を丸くさせた。

 ローザが言ったことを、ようやく飲み込めたユーリは言う。
「放っておいても、いいんですか?」

「これ以上、何か問題を起こさないならね。もし、本当に純愛派のサキュバスが、人間と共存するつもりがあるなら、面倒事を起こして、自分を窮地に追い込むような動きは、しないはずだよ。仮に、今ここでアタシ達が無理にヤツを追い込めば、後がない分、何をしでかすかわからない。街には沢山の人間がいる。人間を魅了する力を持つサキュバスだ、大衆を扇動して、争いを起こすことだって出来る」

「それは……何としてでも避けないといけませんね」
 ユーリが意見を口にすると、ミューも同じ気持ちだと、力強く頷く。

 責任感の強い二人の眼は、自分達が発端となったこの問題を、どうにかしたいと燃えていた。

 それを察したローザは、
「じゃあ、アンタ達に出来る事は一つ。もし、そのサキュバスが接触を図って来た時は、仲良くすること。強力な魔族と友好関係を結ぶのは、後々役に立つこともある。ヤツらにはヤツらにしか、持ちえない力と情報があるからね。利害が一致している限りは、色々と交渉出来る。悪い話じゃ、ないだろう?」と笑った。

 ユーリは、苦笑いを浮かべる。
「自分に呪いをかけた相手と、仲良くするんですか?」

「そうさ。呪いをかけられても許すような、器の大きさを見せてやんな。そういう輩は、魔族からは好かれる。そうそう、純愛派の使う呪いは大体、自覚出来ない位の発情を誘発させるものらしいから、他の住民のことは、心配しなくてもいいだろうね」

「えっ……? でも、俺に掛けられた呪いの力って、強力な気がするんですけど……」とユーリは困惑している。

 サキュバスがかけた呪いが強力な理由を、ローザは薄々察しつつも、
「さぁ? アンタ達が、気に入られただけなんじゃないかい? どういう意図かは、本人に会った時にでも、聞くんだね」と、とぼけた。

 そして、ローザは話しの終わりを告げるように手を叩き、こう続ける。

「さぁ、この話はここまで。回収した品はこっちで預かるから、休みな。後日、依頼主が来ることになってるから、その時、会って報酬を受け取るんだね」

 その言葉を合図に、この場は解散となった――。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

秘事

詩織
恋愛
妻が何か隠し事をしている感じがし、調べるようになった。 そしてその結果は...

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

処理中です...