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呪いの発現編
13、ローザとミュー
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「さて、アンタが呪いを解かない理由については、もうわかってるけど、私は――アンタに引き続き、ユーリの力になって欲しいと思ってる」
「えっ……?」
過去の話が終わり、ローザが切り出した言葉に、ミューは驚きを隠せない。
「アタシは冒険者としての腕は衰えちゃいないけど、今は酒場の主人。ユーリの旅に、いつも同行できない。でも、ミュー、アンタは違う」
「そ、そうですけど……本当に、いいんですか? 私がユーリさんと一緒にいて。私、呪いが解けないって、嘘ついたんですよ?」
すると、ローザは大したことないように、軽く鼻で笑う。
「別にいいじゃないのさ、ユーリのことが好きで、ついた嘘なんだから。それとも、バラして欲しいのかい?」
「うっ……そ、それは……っ!?」
「なら、問題ないね。それに、アタシはユーリへの想いを、諦める気もないよ」
「じゃあ、何で……?」
「愛する人間を必死に守りたいって思う気持ちは、信頼できるからさ。そういや、アンタこの国の法律には、目を通したのかい?」
「えっ? ほ、法律ですか? ひ、一通りは……ん?」
突然、法律の話が出て、ミューは慌てて記憶を掘り起こす。
彼女の故郷と、冒険者溢れるこの国では、法律が幾つか違う点があった。
その為、彼女は入国する前、法律が書かれた書類に、必ず目を通したはず。
今の会話の流れに、関連した法律。
「あっ……!?」
ミューが間抜けな声を出し、ふと気づく。
この国は、一夫一妻制ではない。
男女問わず、重婚が禁じられているわけではないのだ――。
つまり、ユーリがミューとローザの二人と結婚しても、問題ないということ。
「あ、あぁ……っ!?」
ミューはユーリだけを愛するつもりであったが、当のユーリが、ミューだけを一途に愛してくれる保証はない。
ということは、仮にユーリと結婚したとしても、肝心の彼がローザとも結婚すれば、この三人で生活を送らなければならない、ということだった。
そうなれば、結婚相手が二人とはいえ、序列が生まれる。
自分に自信のないミューにとって、ローザに見劣りする自身は、いつも比較されることだろう。
(か、勝てるわけないじゃないですか……相手は、ローザさんなんですよっ!?)
Sランク冒険者で、ユーリの師匠で、自分の店を持っていて、自信に溢れ、賢く美しいローザを、少し年上だからといって、彼が拒絶することなど、常識からすれば、有りえない。
それに、普段店でローザと会話するユーリの様子から、二人の間に強い絆を感じずにはいられなかったのも、理由としてある。
――ユーリを独占することは、出来そうにない。
もしかしたら、失望したユーリは、ミューと離婚することを選ぶかもしれないと、彼女は妄想を膨らませてしまう。
「お、終わった……私の、初恋……、理想の結婚生活……ッ!!」
放心した様子で、ミューはポロポロと涙を流している。
「ちょ、ちょっとミュー!?」
流石のローザも、ミューの行動が読めず、焦ってしまった。
「いいんです、ローザさん。ユーリさんと、どうか、グスッ……お幸せにっ」
「待ちな、最後まで話を聞きなって。法律がそうだからといって、この国で重婚してる人間ってのは、そう多くないんだよ」
「……?」
涙を拭いながら、ローザの話を、とりあえず聞くことにする。
「理由は、結婚相手同士で仲が悪くなるからさ。人間、一対一なら、仲良くなるのは簡単だよ。だけどね、その関係が三人以上になると、話は変わってくる。似たような話、覚えがないかい?」
「――あっ、ユーリさんが一人になったきっかけの……」
ミューはその話を、酒場で他の冒険者達の会話から、盗み聞きしたことがあった。
「そうさ。まぁ、あれは、カップル二組の場合だから、少し話は変わるだろうけどねぇ。この国の法律によれば、そのカップル二組が、四人で幸せになっても、別におかしくないはずだよ。けど、そうならなかった。アタシは、そうなりたくないのさ。ユーリの事は好きで、その愛を独り占めしたい気持ちも、少なからずある。だけど、アタシはミュー……アンタの事も、気に入ってるんだよ? 好きな男を、共有したって構わないくらいには……」
「ローザさん……」
ローザは見ているだけで胸が締め付けられてしまいそうな、後悔の入り混じった顔で、力なく笑う。
「アイツがソロの冒険者になった時、アタシはアイツを、笑顔にしてやれなかった。その笑顔を取り戻したのは、アンタだよ……ミュー」
ローザの優しい言葉が、ミューの心の奥底まで、響いていく。
「――それとも、アタシのこと……嫌いかい?」
その聞き方はズルい、とミューは内心思った。
しかし、
「――そんなことないです」と彼女は即答する。
街に来て、間もない頃。
ろくに金もないミューを、宿屋に雇い、住まわせたのは、他ならぬローザだった。
気弱で、他の冒険者に声も掛けれない彼女を、ユーリに導いたのもローザだった。
ユーリに出会えたことで、彼女は冒険者として成長し、恋をすることも出来た。
ここで得た幸せは、全てローザの優しさから、始まっている。
感謝こそしても、嫌いになることなど、まして、憎むことなんて、出来るはずがなかった――。
「――大好きです。ユーリさんと同じくらい、ローザさんも私にとって、大切な人です」
ローザの好意に声を震わせ、温かな涙を流しながら、美しく澄んだ瞳を彼女は向けた。
「ありがとう、ミュー。アタシの目に、狂いはなかった。アンタはやっぱり、優しい子だねぇ」
ローザは少し目に涙を浮かべ、テーブル越しにミューの頭を優しく撫でる。
「それじゃあ、アタシ達は今日から、恋のライバルじゃなくて、『恋の共犯者』だよ」
「共犯者、ですか……?」
ローザが発した聞きなれない言葉に、ミューはキョトンとした顔をする。
その顔に、ローザは企みを含んだニヤリとした顔で笑った。
「あぁ、嘘をついたアンタを見逃して、呪いを利用するんだ。同罪で、つまり……共犯者だろう?」
「ふふっ、そうですね」
二人は楽し気に、笑い合う。
ケーキの残りを口に運び、雑談を始める。
陽がやがて沈み、夜が来る。
夜空に浮かぶ月に負けないほど、彼女達の笑顔は、美しく輝いていた――。
「えっ……?」
過去の話が終わり、ローザが切り出した言葉に、ミューは驚きを隠せない。
「アタシは冒険者としての腕は衰えちゃいないけど、今は酒場の主人。ユーリの旅に、いつも同行できない。でも、ミュー、アンタは違う」
「そ、そうですけど……本当に、いいんですか? 私がユーリさんと一緒にいて。私、呪いが解けないって、嘘ついたんですよ?」
すると、ローザは大したことないように、軽く鼻で笑う。
「別にいいじゃないのさ、ユーリのことが好きで、ついた嘘なんだから。それとも、バラして欲しいのかい?」
「うっ……そ、それは……っ!?」
「なら、問題ないね。それに、アタシはユーリへの想いを、諦める気もないよ」
「じゃあ、何で……?」
「愛する人間を必死に守りたいって思う気持ちは、信頼できるからさ。そういや、アンタこの国の法律には、目を通したのかい?」
「えっ? ほ、法律ですか? ひ、一通りは……ん?」
突然、法律の話が出て、ミューは慌てて記憶を掘り起こす。
彼女の故郷と、冒険者溢れるこの国では、法律が幾つか違う点があった。
その為、彼女は入国する前、法律が書かれた書類に、必ず目を通したはず。
今の会話の流れに、関連した法律。
「あっ……!?」
ミューが間抜けな声を出し、ふと気づく。
この国は、一夫一妻制ではない。
男女問わず、重婚が禁じられているわけではないのだ――。
つまり、ユーリがミューとローザの二人と結婚しても、問題ないということ。
「あ、あぁ……っ!?」
ミューはユーリだけを愛するつもりであったが、当のユーリが、ミューだけを一途に愛してくれる保証はない。
ということは、仮にユーリと結婚したとしても、肝心の彼がローザとも結婚すれば、この三人で生活を送らなければならない、ということだった。
そうなれば、結婚相手が二人とはいえ、序列が生まれる。
自分に自信のないミューにとって、ローザに見劣りする自身は、いつも比較されることだろう。
(か、勝てるわけないじゃないですか……相手は、ローザさんなんですよっ!?)
Sランク冒険者で、ユーリの師匠で、自分の店を持っていて、自信に溢れ、賢く美しいローザを、少し年上だからといって、彼が拒絶することなど、常識からすれば、有りえない。
それに、普段店でローザと会話するユーリの様子から、二人の間に強い絆を感じずにはいられなかったのも、理由としてある。
――ユーリを独占することは、出来そうにない。
もしかしたら、失望したユーリは、ミューと離婚することを選ぶかもしれないと、彼女は妄想を膨らませてしまう。
「お、終わった……私の、初恋……、理想の結婚生活……ッ!!」
放心した様子で、ミューはポロポロと涙を流している。
「ちょ、ちょっとミュー!?」
流石のローザも、ミューの行動が読めず、焦ってしまった。
「いいんです、ローザさん。ユーリさんと、どうか、グスッ……お幸せにっ」
「待ちな、最後まで話を聞きなって。法律がそうだからといって、この国で重婚してる人間ってのは、そう多くないんだよ」
「……?」
涙を拭いながら、ローザの話を、とりあえず聞くことにする。
「理由は、結婚相手同士で仲が悪くなるからさ。人間、一対一なら、仲良くなるのは簡単だよ。だけどね、その関係が三人以上になると、話は変わってくる。似たような話、覚えがないかい?」
「――あっ、ユーリさんが一人になったきっかけの……」
ミューはその話を、酒場で他の冒険者達の会話から、盗み聞きしたことがあった。
「そうさ。まぁ、あれは、カップル二組の場合だから、少し話は変わるだろうけどねぇ。この国の法律によれば、そのカップル二組が、四人で幸せになっても、別におかしくないはずだよ。けど、そうならなかった。アタシは、そうなりたくないのさ。ユーリの事は好きで、その愛を独り占めしたい気持ちも、少なからずある。だけど、アタシはミュー……アンタの事も、気に入ってるんだよ? 好きな男を、共有したって構わないくらいには……」
「ローザさん……」
ローザは見ているだけで胸が締め付けられてしまいそうな、後悔の入り混じった顔で、力なく笑う。
「アイツがソロの冒険者になった時、アタシはアイツを、笑顔にしてやれなかった。その笑顔を取り戻したのは、アンタだよ……ミュー」
ローザの優しい言葉が、ミューの心の奥底まで、響いていく。
「――それとも、アタシのこと……嫌いかい?」
その聞き方はズルい、とミューは内心思った。
しかし、
「――そんなことないです」と彼女は即答する。
街に来て、間もない頃。
ろくに金もないミューを、宿屋に雇い、住まわせたのは、他ならぬローザだった。
気弱で、他の冒険者に声も掛けれない彼女を、ユーリに導いたのもローザだった。
ユーリに出会えたことで、彼女は冒険者として成長し、恋をすることも出来た。
ここで得た幸せは、全てローザの優しさから、始まっている。
感謝こそしても、嫌いになることなど、まして、憎むことなんて、出来るはずがなかった――。
「――大好きです。ユーリさんと同じくらい、ローザさんも私にとって、大切な人です」
ローザの好意に声を震わせ、温かな涙を流しながら、美しく澄んだ瞳を彼女は向けた。
「ありがとう、ミュー。アタシの目に、狂いはなかった。アンタはやっぱり、優しい子だねぇ」
ローザは少し目に涙を浮かべ、テーブル越しにミューの頭を優しく撫でる。
「それじゃあ、アタシ達は今日から、恋のライバルじゃなくて、『恋の共犯者』だよ」
「共犯者、ですか……?」
ローザが発した聞きなれない言葉に、ミューはキョトンとした顔をする。
その顔に、ローザは企みを含んだニヤリとした顔で笑った。
「あぁ、嘘をついたアンタを見逃して、呪いを利用するんだ。同罪で、つまり……共犯者だろう?」
「ふふっ、そうですね」
二人は楽し気に、笑い合う。
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