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1章 家族との別離(前世)

3話 幸福を呼ぶ青い鳥との遭遇

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お父さん、お母さん、悠太。
今、私はベイツさんと一緒に樹海の中を歩いています。

早朝なので、周囲も明るく怖くないけど、靴が即席で作られたものだから、足底が痛いです。

あの質問以降、彼は私を冒険者として育てると宣言しました。その理由を聞くと、私も納得しました。正直、信じられない話だけど、ここは異世界[アステリアス]と呼ばれていて、なんとスキルと魔法が存在しており、魔物も世界中に蔓延っているそうです。今は、ベイツさんが強者の気配を表に出して追っ払っているようで、私も安心して歩を進めるのですが、周囲の雰囲気がテレビで見た富士の樹海とそっくりで怖いです。

そして、一番気掛かりなのが、《私》というか、この女の子の存在。

4日間降り続いた豪雨の影響で、この近辺で土石流などの水害が発生しました。ベイツさんは、その影響を調査するため、ここスムレット山の奥地に踏み込んだそうです。この山は近辺の人々から霊峰と呼ばれていて、人は踏み込んではいけないとされています。

雨自体は2日前に止んでおり、私はその山の上流から折れた木々と一緒に流されていたところを、ベイツさんに助けられました。ここまではいいのだけど、この山に棲息しているのは[野生動物][精霊][魔物]となっていて、そんな怖い場所に、どうやって私は行ったのでしょう? 全然記憶にないので、余計に怖いです。

ベイツさん曰く、「君は貴族の令嬢だろう。10歳と考慮すれば……いや、それはまだいいな。一つ一つ順を追って説明していこう。今は、ここを抜け出すことに専念しよう」と言われました。とりあえず、私は記憶喪失だし、今の姿だと違和感があるかもしれないけど、自分のことを《咲耶》と呼んでほしいとベイツさんにお願いしました。

それにしても、この女の子が貴族の令嬢?
違う姿をしているから、これって《憑依》て言うんだよね?

あの大きな災害に巻き込まれたせいか、魂が幽体離脱して、異なる世界の知らない女の子に取り憑いちゃったよ。この子自身に問いかけても、何の返答もないから離脱する方法もわからない。早く元の姿に戻って、家族に会いたい。野菜多めで味の薄いスープと固いパンを朝食として食べたおかげで、お腹も膨れて元気になったけど、先行きが不安だよ。

そもそも、元の姿に戻れるのかな?

「ピピピ」

今、鳥の声が微かに聞こえたような?
あ、青白い小さくて綺麗な鳥が木の枝に止まって、こっちを見てる。

「ベイツさん、あそこの枝に止まっている綺麗な鳥はなんて名前なんですか?」

ここから止まっている鳥までの高さは、3メートルくらいあるかな?
青白い紋様が、とても綺麗だわ。

「あれは……ハミングバードだな。警戒心の高い野生の鳥が、何故浅い区域にいるんだ?」

あの小さな鳥は、ハミングバードて言うんだ。
私の飼ってるマメルリハインコのルリルリに、ちょっと似てる。

『人間って、どいつもこいつも馬鹿ばかりだ。僕は野生のハミング種から精霊化したフェアリー種なのに。僕の擬態、完璧!!』

え、鳥が喋った‼︎
この世界の鳥って喋れるの!?
いいな~私も、ルリルリとお喋りしたいよ。

「ベイツさん、あの鳥が悪口を言ってますよ」
「悪口って、咲耶は鳥の言葉がわかるのかい?」

「何故か理解できました。それと《自分はハミング種から精霊化したフェアリー種だ》とも言ってますよ」

「フェアリー種だって!? あはははは、ないない。あの鳥は確かに綺麗だが、フェアリー種は精霊化した鳥類の中でも、紋様が色鮮やかで惹きつけるものがある。俺たちの間では、ハミングバードは《細やかな幸せを運ぶ青い鳥》、フェアリーバードは《大いなる福音をもたらす伝説の霊鳥》と呼ばれている。もし、フェアリー種がこの樹海の浅い区域で発見されたら、人間たちによる奪い合いが始まるよ」

奪い合い!?
そこまで希少価値のある鳥なの!?
あの鳥は擬態していると呟いていたけど、大丈夫なのかな?
あれ? あの鳥さんが私をじ~っと見ているような?

『君、《無能者》のくせに、僕の言葉がわかるの?』

鳥が囀っているだけなのに、私にはそれが言葉で聞こえるみたい。
無能者って言われたけど、これって悪口?

「あの…私…やっぱり鳥さんの言葉がわかるみたいです。何故か、《無能者》って言われました」
「え!? 俺にはピピピピとしか聞こえなかったが?」

ベイツさんは、私と鳥さんを交互に見て驚いているけど、自分でもどうして理解できるのかわかりません。

あ、鳥さんが私のところに飛んできた。
え、どんどん近づいてくるんだけど?

『左腕を地面と平行にして』
「え!?」

私は言われるがまま、反射的に左腕を出すと、鳥さんが私の腕に止まった。
あ、思ったより軽い。

『君、名前は?』
「一応、咲耶っていう名前があるよ。水難事故で記憶喪失中だから、本当の名前は不明だけどね」

  鳥さんが、私をジロジロと見てくる。

  普段なら嬉しいのだけど、会話が成立していることもあって、じ~っと見つめられると、なんだか恥ずかしい。

『ふ~ん、なるほどね。君は、生まれたての転生者か。だから、魂が不安定で無能者なんだね。でも、スキルが目覚めつつあるようだ』

生まれたての転生者?
魂が不安定?
この鳥さんは、私がこうなった原因を知っているの?

鳥さんは転生者と言ったけど、私のことを何処まで知っているのかな? 
そもそも《転生》って、生まれ変わることを指す言葉だよね? 
私の場合、転生じゃなくて憑依だよね?

「鳥さん、私の身に何が起きたのか教えて」

左腕に止まる鳥さんは、なんて答えてくれるかな?

『え、嫌だよ。こんな場所で真実を話したら、君はショックで一人で突っ走る可能性がある。ここを抜け出て、一人で暮らせる力を身につけたら教えてあげる』

うう、即答で却下されちゃったよ。
私は、早く家に帰りたいのに。

『君の魂は不安定だけど綺麗だね。子供でも、ここまで清浄なものは久しぶりに見る。面白そうだから、君と行動したい。いいかな?』

一緒に行動……良いかもしれない。私が一人前になったら、私の身に何が起きたのか教えてくれるって言ってくれたもの。

「いいよ。その代わり、一人前になったら、キチンと話してね」

早くお父さんたちに会いたいけど、今は鳥さんやベイツさんを信じよう。

『わかった、約束する。契約を結ばなくていいの?』
「契約? なんの?」
『僕を【フェアリーバード】とわかっていて、その反応。こりゃあ、重度の記憶喪失だ』

何故か呆れられたわ。

ベイツさんは、私と鳥さんとの会話に呆気に取られているのか、口をあんぐりと開けている。普通の人間は、鳥さんとお話しできないのだから無理もないわ。でも、この力が元の姿に戻った後でも持続しているのなら、インコのルリルリともお話しできるかもしれない。

そう考えると、ワクワクしてきた。
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