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北光羽龍

羽龍の動機過去と現在と

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 俺とアキが、サッカーに夢中だったあの頃。
 俺たちにサッカーを教えてくれた日系ブラジル人がいた。
 俺とアキと、アキの弟のミカと三人、彼の仕事場だった廃工場に入り浸って、サッカーを教えてもらっていた。
 彼はある日何も告げずこの国から去っていった。
 その原因が、古くからいる近隣の住民だった。
 大切な者を失った俺たちは、復讐の道へと歩み始めた。夢中になっていたモノを捨てて。


 俺たちは、この街の旧態依然とした体質や、排他的な当時の大人たちに嫌気がさし、街自体を新しくしてしまおうと考えた。
 それには、土地、住人、市政をコントロールできる立場になる必要があった。

 市政ならば市役所? 市議会議員? 市長?
 いや、政治や行政からではダメだ。
 有権者や住人の僕たる立場に何が期待できよう。その有権者や住民が、俺たちが敵視した街の体質を作り出していた者であり、排他的な大人たちでもあるのだから。

 市は、住民にとって良い政策を行うのであろう。そこだけ捉えれば俺たちの思惑とはバッティングする。
 しかし、市の論理は住民イコール現住民とは限らない。未来の住人もまた、市にとって大切な住民なのだ。

 市は、基本的には人口の増加を求めるものだ。それが若く子どものいる世帯なら尚良い。
 人口が増えれば市の成果にもなる。
 新たな住民のための施策が上手くいけば、更なる似た属性の住民を獲得する呼び水になる。
 そして、そのための施策が、元から居る住民の方向を向いていないこともある。時には反発することもあるだろう。
 その時、市はどちらを向くだろうか。
 古くからいて何も生み出さず権利を主張するばかりの住民か。
 今の市の在り方を良しとして他所から来た、若く未来があり、且つ割合的にもマジョリティになりつつある新しい住民か。
 無論、後者である。

 この関係性ならば、市との連携と俺たちの目的はリンクする。
 その関係性を作るための、市にとって魅力となる人口増加施策としての、アキの都市開発であり、俺の外部に向けた市の魅力アピールによる人口増加を目的とした広報を伴った都市開発評価分析のシステムの構築と、アキの都市開発との連携も図った具体策の提案だった。

 全ては計画通りだったが、細かい部分の修正はいくらでもあった。
 俺の起業やアキの就職、その後の配属先なども含めた仕事の内容などが、想定通りにいかなかった場合のバックアップだって用意してあった。

 俺たちが目的から逸れずに計画を進められた理由は、その計画の精度が高かったからではなく、何度折れても、都度目的に至るための現実的な計画を再構築させ続けてきたからだろう。不屈の闘志と言えば良いのか、根深い執着と言えば良いのか。


 今、その目的は、結果としては復讐心を満たすための昏いものから、地域、住民、市それぞれにとって良いものとなる穏やかな着地を迎えることとなった。
 俺にもアキにもわだかまるものもない。

 目的のための手段としてこの会社を立ち上げたなんて言えば、メンバーは怒るだろうが、今やその目的もなく、純粋に会社の社会的な機能を発揮する装置として、その性能を如何なく振るえる。

 ある種不純だった目的の俺のもとに集まってくれた優秀な人材たち。
 彼らの貢献に報いるためにも、俺は一層の尽力を誓っていた。
 俺も含めたメンバーたちは個人で動くことも多かったため、毎朝の彼らとの貴重なひとときは、立てた誓いをあらためて確認するうえでも重要な時間だった。
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