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第一章

第十一話・ベルファウストの森にて②(狼の襲来)

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 二人は泣き疲れていつの間にか眠ってしまっていた。

 ルイーズが先に気が付きアレンを揺り起こした。

 「母さま、ごめんなさい」アレンは泣き腫らした目で謝ってきた。
 「うぅん。私こそ、ごめんなさい、アレン」

 二人はニッコリ笑いあった。

 「母さま。僕、水を探して来るよ、ついでにたきぎになる枝も」
 「そう、気を付けてね。明るい内に戻って来るのよ」
 「うん。そうするよ」

 アレンは不思議な子だった。必ず水の場所が分かるのだ。それは川の場所や池の場所、井戸や湧水の場所でさえ、事、水に関して困った事がないのだ。

 アレンは小屋の隅に落ちていたいびつなバケツを拾い上げると、小屋を出て水を探し始めた。

 いつものように呼ばれた気がする方向に向かう。

 森を抜け野原を過ぎ、まばらに生えた灌木かんぼくの林を歩いていると水音がして、川に辿たどり着いた。

 砂地に膝を突いて手を洗い顔を洗い出した。

 「やめてよ、くすぐったい」顔に貼りついた水を払い落すと、それは素直にもとの川の水にまぎれた。

 バケツをきれいに洗ってから川に漬け汲み上げようとすると、水でできた手がバケツを持ち上げてくれたので楽に水汲みが済んだ。

 「いつも、ありがとう」アレンは水にお礼を言うと川縁かわべりを後にする。

 が何者か幼いアレンには分からない、でもいつも助けてくれるだ。


 水汲みが終わったアレンが小屋に戻るとルイーズは眠っていた。

 (薄暗くなって来たな。早く薪を集めないと。狼が来る前に。)

 アレンは何往復もして、小屋の戸口の前に薪の山を幾つも作った。

 (これに火を点ければ狼を追い払えなくても、少しは遠ざける事ができるはずだ。)
 アレンは小屋の中に狼を入れなければ何とかなると考えていた。

 アレンはルイーズから祖父の旅の話をよく聞いていた。野宿の仕方や狩りの仕方、野生動物の追い払い方などだ。
 ルイーズの父親は放浪の剣士で旅をしながらルイーズを育てた。

 森の中で採取した木の実を食べ、火を起こし、一番近くの薪に火を点けた。


 ”バチッ”

 火の大きくぜる音で目が覚めた。

 (少し眠ってしまった。大丈夫、火は消えてない)

 「アレン」母が目を覚ましたようだ。

 母に水を飲ませていると狼の遠吠とおぼえが聞こえてきた。

 外はすでに陽が落ちていて、あわてて一番外側の薪に火を点けた。

 「アレン、いざとなったら木に登ってね」

 「うん、分かった」もう言い争いはしたくなくて、返事だけを返す。
 (母さまは僕が絶対守るんだから)

 ‘‘アオ~ン‘‘近くで遠吠えが聞こえた。

 長くて先の尖った木切れを幾つか手元に寄せた。(少しは役に立つかもしれない)
 アレンはルイーズの父親が長い木の枝の両方の先をナイフで削り尖らせて狼と戦った話を参考にした。 

 ”グルルルル~” 薪の明かりの届かない向こう側から唸り声が聞こえてきた。
 暗闇に幾つもの眼が光っている。

 狼達は薪の外側をウロウロしてこちらのようすをうかがっていた。

 アレンは必死だった。薪の炎の熱さなのか冷や汗なのか区別もつかず、恐れも感じる事が出来ないくらい集中していた。

 汗ですべる手に力を入れ木切れを握り直した。

 突然一匹の狼が薪の間をすり抜けアレンに突進して来た。

 アレンは必死に木切れを前に突き出すと、うまく狼の顔面に突き刺さった。

 ”ギャウン”狼は飛び跳ね、逃げようとして薪の上に落下した。
 ”キャウン、キャウン”慌てて薪の向こうに逃げ込んだが、そのお陰で高く積んであった薪が辺りに飛び散った。
 狼達は飛んで来た燃える木切れから一旦いったん遠ざかった。

 (あぁ、どうしよう。薪が低くなってしまった。あそこから入って来る・・)
 だが、アレンにはどうする事もできない。

 アレンは絶望感で一杯になった。

 「アレン、逃げて。お願い」ルイーズが力を振り絞り、アレンの側まで来ていた。

 それを見たアレンの目から又、涙があふれた。(どうしたらいいの・・・助けてお父さん!)

 ”グルルルル”

 低い箇所かしょを目指して狼達が入り込んで来たが内側にも薪が二か所組んであり、隙間すきまからアレンは長い木切れで狼達を突いた。
 ルイーズもふら付きながらも木切れを拾い同じように狼に立ち向かった。

 (泣いてる場合じゃない!母さんを絶対に死なせない!)

 その時だ、「きゃあ」ルイーズの木切れを狼が2、3匹がかりでくわえ込んで押し倒した。

 「母さまっ!」アレンも木切れを振りかざそうと持ち上げたが、別の狼に横から咥えて押え込まれ引き倒されてしまった。

 一際ひときわ大きい狼が薪をすり抜けてルイーズに飛びかかった。

 アレンの中に絶望と・怒りと・悲しみが急速に膨れ上がりのような絶叫がほとばしった。



 そして、アレンの意識は暗闇に包まれた。



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