異世界グランハイルド・アレンと召喚獣-守護魔獣グランハイルド大陸物語ー

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第一章

第十話・ベルファウストの森にて①(滂沱の涙)

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 アレンは必死に荷馬車を追い掛けた。
 (お願い、間に合って)

 ちょうど、北裏手の柵の所で追いついた。
 荷馬車からワイリーが降りて来て御者のドムと打ち合わせをしているところだった。

 「待って、待ってください。ワイリーさん。母さまを何処に連れていくんですか?」
 ワイリーはアレンを見つけると途端とたんに顔をゆがめる。

 「お願いです。母さまは病気なんです。ここを追い出されたら行く所がありません」
 「僕が二人分働きます。だから、だからお願いします。何でもします」アレンは必死だった。

 「・・だったら、ここから戻れ。戻って仕事してこい」
 「え、でも・・。」
 「何でもするんだろ」

 「今日の仕事は終わりました。今からどこへ母さまを連れて行くんですか?お医者さまの所ですか?」

 「・・・そうだ、医者の所だ。だからお前は戻れ」
 「でも、街はこっちの道じゃないですよね」

 ちっ、ワイリーから舌打ちが聞こえてきた。

 「そう、そうだ、医者じゃなくて治療士だった」

 「治療士?」「あっ、もしかして森に住んでいるエイダお婆さんの事ですか?」
 アレンはキンケイド爺さんの話を思いだした。
 ベルファウストの東の森に住んでいて、薬草に詳しく、時には産婆さんば真似まねごとや病人も診たり、たまにキンケイド爺さんの店とも薬草の取引をしているらしい。

 「そうだ、その婆さんさ。ルイーズを預かってくれるらしい」
 「ありがとうございます。明日から必ず、倍頑張ります。だから母さまの側にいたいんです」

 「わかったよ。好きなようにしな」(めんどくさい奴め)
 ワイリーはアレンもサッサと追い払う事に決めた。

 アレンは荷馬車に乗り込んだ。母は意識がないようだ。
 やがて、荷馬車が動き出し、疲れと、気のゆるみからかいつの間にか母の横で眠っていた。



 「~~ン・・・~レン。」(・・・なあに?誰か呼んでる?)誰かがアレンを揺すっている。
 必死に名前を呼んでいる。(・・・誰?・・・あっ)
 「母さまっ!」アレンは飛び起きた。

 心配そうな母が顔を覗き込んでいた。
 「母さま、気が付いたんだね。良かった」
 アレンは周りを見回した。
 「ごめんなさい、眠っちゃて。ここはエイダお婆さんの家?」

 なんだか様子が変だ、入り口に扉は無く屋根も半分無い、アレン達が座っているベットらしき物も傾いている。

 「ここはエイダさんの家じゃないわ。・・・古い猟師小屋よ」
 「えぇ、・・・そんな・・・だって、治療士の家にって」

 「アレン、アレン良く聞いて。今なら荷馬車に追いつくわ。さっき私達を降ろして戻って行ったばかりなの」

 「どう言う事?」アレンは混乱した。

 「今から走って行って馬車に乗せて貰うのよ」
 「母さまはどうするの?」

 「私はいいの。アレンだけなら乗せてくれるわ」
 「ダメだよ。そんなの嫌だ。一緒じゃなきゃいやだ」

 「アレン、私は肺の病なの、血を吐いたのを知っているでしょう」
 「だから一緒には行けないの。アレン、分かって」

 「嫌だ、絶対嫌だ、母さまを一人にできないよ」

 「アレン、聞きなさい、私はもう駄目なの」
 ルイーズは病人とは思えない力でアレンを揺す振った。

 「私はもう直ぐ!」

 その言葉を聞いたとたん、アレンはルイーズにしがみ付いて大声で泣き始めた。

 (あぁ、この子はまだ、たったの6才なのに、今までずっと我慢がまんしてくれてたのに)
 (私はなんて、残酷な言葉を投げつけてしまったの)
 (私はこの子に苦しみしか与えられない、なんて母親なの)

 ルイーズの目からも涙があふれ出た。







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