双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

東岡忠良

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【26】竜馬。変態のおちんちんを撮影すると言う和葉を止めるが、「止めるなら代わりに見せて」と言われる。

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──1──

「お兄ちゃん、ちょっと私の部屋に来てくれる」
 土曜日午前中で終わった如月学園高校から帰宅した和葉からそう言われた。
 和葉が竜馬を突然、自室に呼ぶことは珍しくはない。
「え? 昼ご飯を食べてからでいいか?」
 と言うと、
「大丈夫。すぐに終わるから。なんなら制服のままでもいいよ」
 と言われ、手洗いとうがいを済ませて、部屋に鞄を置いて、少しスマホをチェックしてから和葉の部屋をノックした。
「どうぞ」
 と言われ、部屋を開けるとちょうど制服の白いブラウスのボタンを外しているタイミングだった。外れた第一ボタンのところから、和葉のGカップの豊かな胸の谷間がチラリと見える。
「和葉! 何が『どうぞ』だよ!」
 と竜馬は慌てて部屋から飛び出した。
 すると、
「もう! 出なくていいのに。せっかく、成長した私の身体を見てもらおうと思ったのに」
 ととても残念そうに言う。
「はあ! 何、言ってんだよ!」
 と声が裏返ってしまう。
「お兄ちゃんたら、私達小五まで一緒にお風呂に入っていたんだよ。その時よりも、ちょっとだけお尻と胸が大きくなっただけだから、大したことないから」
 とまるで『意識し過ぎるお兄ちゃん感』を出していたが、
「アホか! 待っているから、着替えてから声をかけろよ」
「はーい。まったく困ったお兄ちゃんだこと……」
 とぶつぶつ言っている。
「どっちがだよ……」
 と待っていたら、
「はい。どうぞ」
 と言うので、警戒しながら部屋に入る。
 和葉は薄いブルーの半袖ブラウスに、白いミニスカート姿だったのだが、
「おお。ちゃんと着替えて……!」
 と目線を和葉の顔にやると、第二ボタンまで外していて、胸元の谷間がより見えていた。
「おっ! お前! また!」
 と出ていこうとすると、
「あっ、待って! これには理由があるの」
 と言う。
「なんなんだよ……」
 と竜馬は妹和葉に冷たい視線を送る。
「このブラウスってお気に入りなんだけど、胸のところが苦しいの。今まで第一ボタンだけを外して対応していたんだけど、最近は第二ボタンを外さないといけなくて」
 とため息をつくと、
「そんなの新しいのを買ってもらえよ。父さんも母さんも和葉のことはお気に入りなんだから、すぐに買ってもらえるだろう」
 と言うと、
「お兄ちゃん!」
 と和葉は睨む。
「なっ! 何だよう」
 と焦る竜馬。
「この服は完全な部屋着なの。部屋着をわざわざ買ってもらうなんて、それこそムダよ! 基本、何でもいいんだから」
「まあ、確かに言われてみれば」
「それにうちはお母さんは専業主婦で、お父さんだけの稼ぎでやっているのよ」
「まあ。そうだな」
「私立高校に二人も通わせてくれているだけでも、感謝しないといけないのに、その上『部屋着を買って』なんて言えないじゃないの」
 と強い口調だ。
「まあ……。確かに正論だけど、お父さんの稼ぎは和葉の部屋着を買えないほど、生活に困ってないぞ」
 と竜馬は言ったが、和葉は、
「まあ、私立高校と言っても、私は『学年一位で学費は免除』なので、お父さんには負担をかけてはいないんだけどね」
 と少し嫌味を込めて和葉が言うと、
「あ。どうもすいませんでした……」
 と竜馬が謝った。
「分かればいいのよ」
 と和葉は胸を張った。しかし見ると、第三ボタンも苦しそうである。
「でもさ。よく考えたら一階に下りてくる時は、いつも何かを着てなかったっけ?」
 と言うと、
「あら。よく見てるじゃない。そうよ。もしかして、お客さんが来ているかもしれないし、お父さんがいるかもしれないし」
「え? お父さんの時は羽織るのに、お母さんの時はいいのか?」
 と不思議に思って聞いてみると、
「お母さんは女同士だし、お母さんもGカップだし平気よ」
「え? 今、初めて自分の母親の胸のサイズを知ったんだけど」
 と竜馬は何とも複雑で、頭痛がしそうな感覚になり、額を手で押さえた。
「待てよ。お父さんはダメなのか?」
 と訊くと、
「お父さんはダメよ。見せられないわ」
「え? 何で?」
 和葉は少し呆れたように、
「そんなの決まっているじゃない。もし、この格好で一階に下りて、お父さんが居たとするでしょう?」
「まあ、今日は土曜日だから、父さんは実際に下にいるけどな」
「私はお父さんを家族としては好きだけど、そんなお父さんがもし、私の胸元を見て」
 と竜馬に近づいてきて、胸を両手で挟むようにして、胸元を強調させた。
「こら! 何、やってんだよ!」
 と竜馬は目を背ける。
「そういう今、お兄ちゃんがした『私を女として見る目線』で見たとしたらよ」
 と『困ったお兄ちゃん』感を出す。
「妹を、女として見る兄で、悪うございましたね」
「そうしたら、やっぱり娘としてショックじゃない」
 と瞳を潤ませながら言った。
 確かにその通りかもである。
「それよりも『まだ、子供だよ』とお父さんには思ってもらった方がさ」
「思ってもらった方が?」
「メリットあるじゃない」
「結局、それか!」
 と竜馬。
 しかし、
「いや、ちょっと待てよ。そうしたら何で僕にはその格好を見せてんだ?」
 と言うと、
「それは決まっているわ」
「何だ?」
「お兄ちゃんの反応が面白いからよ」
 結局、妹からバカにされていたって事か……。
「分かった。じゃあ、僕はこれで。今からゲームする」
 と退出しようとすると、
「ちょっと! 用事はあるから待って!」
 とドアノブを掴んだ時に呼び止められる。
「何だ? 用事って?」
 と不信感丸出しの竜馬。
 すると和葉は自分のスマホを取り出して、
「おちんちんの写真を撮る練習がしたいから、モデルになってよ」
 と言った。
 竜馬は少しの沈黙の後、
「どうも、失礼しました」
 と出ていこうとすると、
「待って! そのままだから! ズボンの上からだから!」
 と竜馬を呼び止めた。

──2──

『おちんちんの写真を撮る練習』に、竜馬はかなり引っかかったが、この妹が何を考えているのかを知るために付き合うことにした。
 もし和葉が『はい! そこで脱いで!』と言い出したら、久しぶりに熱い説教をしようと思いのぞんだ。
「じゃあ、お兄ちゃん。そこに立って」
 と竜馬を二メートルくらい離れた位置に立たせた。
 和葉はスマホをカバンに入れた。そしてカバンを持って立った。
「? 何、やってんだ?」
「う~ん。何だか、違うわね~」
 と頭を捻ると、
「そうだわ!」
 とカバンを置いて、押し入れから、花柄のタオルケットを出してきた。
「お兄ちゃん、このタオルケットで身体を隠して」
 と言う。
「? 何だ? 何の意味があるんだ?」
 正直、何が目的なのか理解できない。
 竜馬がもたついていると、
「じれったいわね。こうよ!」
 と和葉はタオルケットを持つと、それを背中に回した。そして次は両手を広げてタオルケットの端を持つと、
「閉じる」
 と言いながら、タオルケットを身体に巻き付け、
「開く」
 と言いながら、タオルケットを持ったまま両腕を開いて見せた。
「つまり、マントのようにしろって言いたいのか?」
 と竜馬が言うと、
「そうそう!」
 と目を輝かせ、
「じゃあ、やってくれる?」
 と言う。
 竜馬は正直、嫌な予感しかしないのだが、
「分かった」
 とタオルケットをマントのように身体へ巻きつけた。
「そうそう! お兄ちゃん、上手い!」
「上手いって言われても……」
 と苦笑する。
「じゃあ、やるわよ!」
 と和葉は再び学生カバンを持ったまま、その場で足踏みをしている。
 そして時々、斜め上を見ている。
 竜馬はタオルケットで身体を包んだまま、立って指示を待っている。
「一体、何を考えているのやら……」
 と呟いた時だった。
「はい! 今、開いて!」
 と和葉が叫んだ。
 竜馬はその様子をぼんやり見ている。
「お兄ちゃん! 『開いて!』って言ったら、身体を見せるようにして、タオルケットを開いて!」
 と言った。
「え? お、おう」
 と返すと、また和葉はその場で足踏みをする。
 そして、
「お兄ちゃん! 開いて!」
 と言うと、竜馬はタオルケットを開いた。
 すると和葉はすぐに腰を落とし、置いたカバンを開けてスマートフォンを取り出し構えた。
 頭を上げて何かを見つめている。
「やっぱり。十五秒もかかるのね」
 と言いながら、落胆している。
「何を見ているんだ?」
 と振り返って壁の上部を見ると、中学時代から使っている壁掛け時計があった。
「もう、一回お願い」
 と同じことを繰り返す。
「ダメだわ。かなり頑張っても十四秒もかかるわ」
 と言い、顎に手を当て考えている。
 和葉は、
「もう一回」
「お願い。もう一回」
「これで最後だから」
 と何度もスマホをカバンから出しては構えてを繰り返す。
「タオルケットのマントを開閉する兄にあわせて、カバンからスマホを出し入れする妹……。これって一体……」
 と竜馬は完全に引いていた。
「校門を出た時からスマホの電源を入れていても、早くて十三秒もかかってしまう。数秒で写真を撮るのはスマホでは不可能なんだわ」
 と自分のスマホを片手に持ち、顎に左手を当てて和葉は考え始めた。
「傍から見てたら知的に見えるかもしれないけど」
 と竜馬は前置きして、
「これってもしかして、優子さんを襲った変態のおちんちんを、撮影するための練習じゃないだろうな?」
 と言うと、
「ええ。そうよ」
 と和葉は『何を今頃』という空気感を出していた。
「おいおい! 何を考えているんたよ!」
 と竜馬は言ったが、
「お兄ちゃん、今までの行動で変態のおちんちんを撮影する以外に、どんなことを想像したのか、私は逆に訊きたいわ」
 と言い出した。
「和葉。よく考えてもみろ。あの大柄な優子さんが恐怖のために震えながら座り込んでしまった相手だぞ。話によると見せるだけじゃなくて、身体を触ろうとしたそうじゃないか!」
「ええ。そうみたいね」
「いや。だから、そうみたいではなく」
 竜馬はどう言って止めさせるか説得しようか困っていると、
「つまり、お兄ちゃんは『変態のおちんちんの写真を撮るのは、何をされるか分からないので危険だから止めなさい』と言いたい訳?」
 と質問口調で言った。
「そうだよ。その通りだよ」
「つまりお兄ちゃんは止めさせたいのね」
 と素直にそう言った。
「そうそう。そういうことだよ」
 と竜馬は、
「分かってくれたらいいんだ」
 と安堵した時だった。
「お兄ちゃん!」
「なんだよ」
「私、今まで家族以外の生のおちんちんって見たことないのよ」
「え?」
 となった。
 心の中で、
 何を言っているんだ、この妹は? 
 と思う。
「なのによ。野に放たれている他人のおちんちんを見ることができる絶好の機会が訪れたのよ!」
 と興奮気味に話す。
「いや……。『野に放たれて』って。保護した動物じゃないんだから」
「そりゃそうよ。もしもだけど、どうしても他人のおちんちんが見たいからって、歩いている男の人のパンツを強引に下ろして見たりしたら、それは犯罪でしょう」
「確かにその通りだ。頼むから絶対にするなよ!」
 と言いながらも、小学四年生の時に、小夏と喧嘩になった上級生のパンツを脱がした前科はしっかりとあるのだが……。
「そんなの分かっているわ。ところがよ!」
 とタオルケットをマントにしている竜馬に、和葉は近づき、
「相手がわざわざ見せてくれるのよ! 頼まなくてもよ! こんなチャンス、なかなかないわ!」
 と熱く語った。
「そりゃ、そんな機会、なかなかないだろうな」
「でしょう!」
 と言うと、
「それでせっかく、見せてくれるのだから、滅多にない機会を生かすために」
「スマホで写真を撮る。ということか?」
 と竜馬は引き気味に言った。
「そうよ。名案でしょう」
 と自慢げに言っているが、
「あのさあ。一つ訊きたいんだけど、おちんちんの写真を撮って何がしたいんだ?」
 と質問してみた。
「そんなの決まっているじゃない!」
「何なんだ?」
「男性のおちんちんの大きさと形状を確認するためよ」
 と言われ、竜馬は頭を抱えた。
「和葉さん……」
「何よ?」
「そんなのダメに決まっているだろう! 変態のおちんちんの写真なんて撮ってどうするんだよ!」
 と呆れと怒気を込めた。
「え? どうするって、だから大きさと形状を確認するんだけど?」
 と不思議そうに言うと、
「ダメ! ダメ! 変態のは特にダメ!」
 と返した。
 すると、
「え? もしかして、そういう変態のおちんちんって、一般の男の人と違って、大きさと形状が違うの!」
 と和葉は豆知識を得たような反応をしたが、
「いやいや。そんな訳ないだろ。みんな同じだよ」
 と言うと、
「なら問題ないじゃない。私、お兄ちゃんが何を言いたいのか分からないわ」
 と言った。
 竜馬も分かっている。
 和葉はどうしても変態のおちんちんの写真を撮りたくて、強引に屁理屈を言っていることを。
 ここは絶対に負けられない。
「とにかく! 変態に近づくのは危険だからそういうことは止めた方がいいんだよ!」
 と正論で攻めてみた。
 すると、
「つまり、お兄ちゃんは変態に近づくのは危険が伴うので、変態のおちんちんの撮影は諦めなさい、って言いたいのね」
「そう! その通りだよ」
 やっと分かってくれたのか、と安堵した時だった。
「私は嫌よ! 私、絶対におちんちんを撮影したい!」
 とガッツポーズをした。
「いや。だからダメだって」
「いいえ! 私は『やる!』と決めたら、必ずやり遂げる女なの!」
 と頑なである。
「だから、止めろって!」
 と竜馬。
 すると和葉は少し目線を反らして、考え始めた。
「そうね。なら名案があるわ」
 と竜馬を見た。
「なんだ? 名案って?」
 とやっと諦めてくれたかと、竜馬は思ったが、
「分かったわ。私、変態のおちんちんを撮影するのは諦める」
 と素直に言った。
「そうか分かってくれたか……」
 と口喧嘩や議論でほとんど勝ったことのない竜馬は心底ホッとなったが、
「なら、変態のおちんちんを諦める代わりに、お兄ちゃんのおちんちんを撮影させてよ」
 と言い出した。
「え……? え~!」
 ほとんど悲鳴である。
「ほら。ちょうどいいわ。今、見せて!」
 と竜馬の制服のズボンのチャックに手をかけた。
「あっ! いや! ちょっと待て!」
 と大慌ての竜馬。
「あ。ごめんなさい。こんな小さなチャックの窓からだと、お兄ちゃんの大きなおちんちんは、出てこれないのよね」
 とベルトに手をかけた。
「ちょっと待て! ちょっと待て!」
「小五になったばかりの時にお風呂で、お兄ちゃんのおちんちんを見たのが最後だったからね。私の中ではUMAユーマのツチノコレベルの存在なのよね」
 と久々に出会える友人との対面のように、楽しそうにズボンを下ろそうとした。
「待った! 待った~!」
 と叫ぶと何とか和葉は手を止めた。
「え~。代わりに見せてくれるんじゃないの~」
 と言うと、不貞腐ふてくされている。
 落ち着きを取り戻してきた竜馬は、
「なあ。さすがに年頃の妹に兄のおちんちんを見せる訳にはいかないだろう」
 と言うと、
「なら、そうね……」
 と考えて、
「お兄ちゃん、私のボディガードをやってよ。私が安全に変態のおちんちんを撮影できるように見守ってよ。そうね……。ついでに準備にも付き合ってよ」
 と提案した。
 確かに勝手に変態に近づき、何かあったら大変だし、準備の段階で暴走されても困る。
「分かった……。もう、それでいいから」
 と竜馬が言うと、
「はいじゃあ、決まりね。お兄ちゃん、ありがとう。それと早速、お父さんに頼んで今から車で一緒に出かけるわよ」
 と和葉。
「出かけるってどこに行くんだ?」
 と竜馬が聞くと、
「ハードオフよ!」
 と和葉は言った。
 
──3──

「お兄ちゃん、ちょっと部屋から出てて」
 と言って和葉は外出用のブラウスに着替えた。そして竜馬と一緒に一階へ下りた和葉は、父に言った。
「お父さん。今、暇?」
 高校一年になった愛娘からそう言われて、気分を害する父親はいない。
「うん。何だ?」
 と満面の笑みである。
「私、お父さんとお兄ちゃんと一緒にハードオフへ行きたいの? だから車を出してくれる」
 と言った。
 父は少し考えて、
「和葉。何を買いに行くんだい?」
 と訊くと、
「デジカメを買いにいくの」
 と答えた。
「え? ちょっと待て。ハードオフにデジカメを買いに行くってことは、中古品かジャンク品を買うつもりなのか?」
 と父は驚いていた。
「そうよ」
 と和葉は答える。
「ダメだよ、そんなの! 分かった。それならお父さんがちゃんとした店で、新品のデジカメを買ってやる。それならいいだろう」
 と言い、
「どんなのがいいかな? コンパクトでも高性能なコンデジかな? もしくは動画を主に録るならアクションカメラ系かな? いやいや、和葉なら本格的な一眼系のデジカメの方がいいか……」
 と言っている。
 まあ、そうなるだろう。
 和葉は両親から溺愛されている。中古品を買うなんて言ったら、新品を買おうという流れになるだろう。
 ところが。
「お父さん。私はね。お父さんを心から感謝しているの」
 父は驚いた顔をしている。
「いつも私達のために、朝から夜遅くまで一生懸命に働いてくれている。時には長期出張も行ったりしてね。そのお金で美味しいご飯を食べさせてくれている。そのお金で私立の学校にも通わせてくれている」
 意外な娘からの言葉に、父は嬉しさで涙ぐんている。
「うっ……。和葉は特待生で学費免除だけどな」
 と言う。
「お父さん。いつもありがとう。私、心から感謝しているのよ」
 と父に軽く抱きついた。
「かっ、和葉……」
「そんなお父さんにデジカメなんかを買ってなんて、私頼めないわ……」
「うっうっ……。和葉……」
「だからデジカメは、私のお小遣いで買える範囲の物を買うつもりなの。でもお父さん……」
「なんだ? 何でも言ってくれ」
「ハードオフにはお兄ちゃんと一緒に付いてきてほしいの。いいでしょう?」
 父は嬉しそうに、
「ああ。もちろんだとも! 喜んで付いて行くとも! そうだ! 母さんも行かないか? 帰りは何かいい物を食べよう!」
 と母に提案した。
「あら。いいわね。じゃあ、私準備するわ」
 と母は鏡台の前に座った。
 鼻歌を歌いながら、化粧をする母を見ながら、
「お父さんの周りにはさ。年頃の娘との接し方が分からなくなったり、『汚い』だの『臭い』だのと言われてさ。何のために頑張っているのか分からないって、悩んでいる同僚が珍しくなくてさ」
 と父は明るい表情で言い、
「俺は幸せだよ。可愛くてよく出来た娘と、美人の妻がいるんだからな」
 と嬉し涙を袖で拭いた。
「僕のことは無視なんだ……」
 と家族には聞こえないように、竜馬は言った。
「でもね。お父さん」
「ん? なんだ?」
「デジカメを買ったら、その画像データをしっかりと残したいのよね」
 と和葉。
「おお! 確かにそうだな。最近は写真プリントをしてくれるところが少なくなってきたしな」
 と父。
「だからね」
「うんうん」
「どうしたらいいのかな~なんて思っちゃって困っているの?」
「おお~。困っているのか~」
 あれ? ちょっと待てよ? 
 と竜馬は感じた。
「できたらね。ちょっと性能のいいパソコンとかあったら、凄く嬉しいな~、とか思っちゃったりする訳」
「お~。そうか、そうか、和葉。お前はパソコンが欲しいのか?」
 和葉は満面の笑みを父に向けて、
「そんな。お父さんにはいつも感謝しているのに、高性能なパソコンを買って欲しいなんて、私言えないわ。だってお父さんの大切な働いて稼いだお金なんだもの」
 と困った素振りを見せると、
「和葉。パソコンを買ってやるよ。そうだな。パソコンはネットで買った方が安くて高性能だからな。二、三日中に買ってあげるから心配いらないから」
 とまるで若い愛人にブランド品を買ってあげるオヤジの顔になっていた。
「お父さん、本当に!」
 と父の腕に大きな胸を押しつけるようにして抱きついた。
「おいおい。当たっているぞ」
 と父は乳に慌てたが、
「いいの。お父さんならいいの」
 と微笑んで、
「出来たらだけど、お兄ちゃんのゲーミングパソコンよりは、いいのが欲しいなあ~」
 とねだるように頭を傾けると、
「ああ~。そんなの当たり前だ。竜馬よりも良いので揃えてやる。安心しろ」
 と言うと、
「お父さん、ありがとう! お父さん、大好き!」
 と父の胸に、和葉は飛び込んで言った。
 うんうん。和葉……。
 ありがとう。私のお父さん……。
 と抱き合っていると、
「あら。二人共、やけに仲良しね」
 と準備が出来た母がきた。
「ところで二人はその格好でいいのか? お父さんも着替えるから、お前達も着替えてきなさい。特に!」
 と父は竜馬を指さして、
「竜馬はまだ制服なのか? さっさと着替えなさい。少しは和葉を見習いなさい」
 と怒気と呆れを込めて言った。
「え~」
 と声が出てしまった竜馬は、
「じゃあ、着替えるから」
 とトボトボと階段を上った。
「私、髪をとかかしてくる」
 と竜馬と一緒に二階へ上がっていく。
「何で僕が怒られるんだよ……」
 とつい愚痴ると、
「お兄ちゃん、要領悪い」
 と和葉はつぶやき、
「これでお兄ちゃんにも負けないパソコンをゲット」
 と竜馬の耳元でささやくと、自室に入った。
「要領ね」
 と言うと、竜馬は大きくため息をついた。  

2023年5月11日

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