双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

東岡忠良

文字の大きさ
上 下
26 / 45

【25】和葉。変態のおちんちんに狙いを定める。優子。たった一人の時に変態に襲われるが!

しおりを挟む
双子の妹の保護者として、今年から共学になった女子高へ通う兄の話

略して『ふたいも』です。

  東岡忠良(あずまおか・ただよし)

【25 】和葉。変態のおちんちんに狙いを定める。優子。たった一人の時に変態に襲われるが!

※この小説へのご意見・ご感想・誤字脱字・等がありましたら、お気軽にコメントして下さい。
 お待ちしています。

──1──

 新屋敷兄妹の通う私立如月学園高校で今朝、臨時の集会が行われた。
 高校としては広めの体育館ではあったが、さすがに全校生徒を一度に収容することはできない。
 一年生は一時間目。二年生は二時間目。三年生は三時間目と交代での集会である。
 一年生は教室を出て廊下を歩いて行く。
「何かしら? こんな時期に」
 と相変わらずのキリッとした整った顔に、Hカップの胸のスタイルバツグンの相生優子が新屋敷和葉に話しかける。
「分からないわ。ただ、緊急に生徒らに伝えたい内容なのは確かね。プリントを配るだけでは伝え足りないと判断される内容なのでしょうね」
 と見た目だけは大人しそうで、落ち着きがあるように見える、中肉中背のGカップ美少女、新屋敷和葉は答える。
「和葉さんの考え通りなら、余り良い知らせとは言えないのかもしれませんね」
 と小柄ながらIカップの胸を揺らしながらカワイイ系の瀬川薫は、和葉の言葉にそう返した。
 和葉は、
「あれ? そう言えばお兄ちゃんはどこに?」
 と左右を見てから後ろを振り返ると、
「あの二人、また一緒にいるのね」
 と呆れている。
「ボク、おばあちゃんから、新しい漬物を教えてもらったんだよ」
 と園田春樹は竜馬を見上げながら熱く話す。一五〇センチと小柄で、女子にも負けない美形に長い睫毛(まつげ)とサラサラの髪で、女子生徒らからは「カワイイ!」とウワサになっている。
「へえ~。そうなんだ。僕も漬物は好きだから、作ったら食べてみたいな」
 と春樹と比べて三十センチ高い身長の新屋敷竜馬が、微笑みながら言った。
 歌手や俳優そしてモデルの中でも、見た目で竜馬よりもカッコいい男子は、なかなかお目にかかれない。
 春樹がカワイイ系の美少年なら、竜馬は美少年から精悍(せいかん)な美青年になる途中で、女子から見たら眩しく見える存在だった。
 そのせいか、竜馬と春樹は二人の世界に入っていて全く気づいていない様子なのだが、二人の周りには話しかける機会を伺うように、少し離れた位置に女子生徒らのグループが付いてきていた。
「お兄ちゃん! もっと早く歩いてよ」
 と和葉は立ち止まって声をかける。
 同時に優子と薫も立ち止まって振り返る。
「ああ。ごめん」
 と春樹の左手を、竜馬は掴んだ。
「あっ……」
 と春樹は頬を少し赤らめた。
「急ごう」
 と優しく微笑む竜馬。
「うん……」
 と二人は笑顔で和葉の側まで駆けてきた。それを見るなり、
「二人は、ボーイズラブなの!」
 と和葉は突っ込んだ。
「え? そんな訳ないだろ」
「そうだよ。和葉さん」
 と反論するが、
「それにしてはまだ、手を繋いでいるけど」
 と繋がれた手をわざとらしく見る。
「あ。本当だな」と手を離す竜馬。
「ああ。なんか、ごめんね」と竜馬に微笑みながら謝る春樹。
 見つめ合う二人。
「二人は付き合ってどのくらいですか?」
 と和葉が突っ込む。
「はあ? 付き合っている訳ないだろ!」
「そうだよ。和葉さん」
 と反論する竜馬と春樹。
 すると後ろから、
「あなた達って、本当に仲がいいのね」
 と竜馬と春樹の間から、女子生徒の首が出てきた。
 二人は「うわっ!」と驚いて、間に割って入った女子を見た。
「なんだ。椎名さんか」
 と春樹が安堵した表情で言う。
「『なんだ』はちょっと失礼じゃない?」
 と椎名弘美は苦笑する。
 背は和葉よりも少し低いが、スレンダーな身体にかわいいというよりも、美人系である。
「やあ、椎名さん」
 と竜馬が声をかける。
「お早う。新屋敷くん」
 と微笑む。
「そう言えば、椎名さん、右足は大丈夫かい」
 椎名弘美は少し前の体育で、右足を軽く捻挫(ねんざ)していたのである。
「ありがとう。もう、すっかり平気なのよ」
 と右足を前に出して竜馬に見せた。
「二人ばかりで一緒にいないで、たまには私達も混ぜてよ」
 と弘美が言うと、
「そうよ」
「うんうん……」
 と弘美の後ろから、出川真弓と井山コウが現れた。彼女らも竜馬と体育で同じグループになった女の子達である。
「椎名さんと出川さんと井山さんは、男子一人のボクにとてもよくしてくれているんだよ」
 と春樹は嬉しそうに言う。
「そりゃ、園田くん、カワイイしね」
 と弘美が言う。
「かっ、カワイイ」
 と春樹の顔がまた赤くなる。
「それに園田くんと仲良くなれば」
 と真弓。
「新屋敷くん達とも仲良くなれるかも……」
 とコウが付け加えた。
「そうなんだね。春樹と仲良くしてくれてありがとう。僕は大歓迎だよ」
 と竜馬は笑顔で言うと、
「ホントに!」と椎名弘美。
「ホント!」と出川真弓。
「言質(げんち)取った……」と井山コウ。
「言質って」と苦笑する春樹。
「じゃあ、園田くん、新屋敷くん、先に行ってるね」
「うん。また、後でね」
 と春樹。
「じゃあ」
 と竜馬。
「それと新屋敷くん!」
「ん? なに?」
「今度、放課後にファーストフードへみんなで行こうよ」
 と弘美が言うと後ろから、
「そこの三人、ちょっとお待ち!」
 と和葉が声をかけた。
「何、勝手にお兄ちゃんを誘ってるの?」
 と仁王立ちしている。
 うわ~!
 と驚く一組の女子三人。
 だが、
「私も混ぜて!」
 と言ったので、
「え? あ! ああ~。いいわよ」
 弘美は焦りながら言った。
「それと一言言いたいんだけど」
「何? 新屋敷さん?」
「新屋敷だと私とお兄ちゃんの二人いるので、私は和葉。お兄ちゃんは竜馬って呼んで」
「え! いいの?」
「いいわよ。というか、新屋敷って聞いたら、両方反応しちゃうし」
「分かったわ。これからは和葉さん、竜馬さんと呼ばせてもらうわ。その代わり私達、三人も下の名前で呼んでちょうだい」
 と言ったが、
「私、あなた方の下の名前を知らないんだけど」
 と言うと、
 春樹がやってきて、三人の名前を丁寧に紹介した。すると、
「あ! あの!」
 と和葉の後ろからも声がした。
「私も混ぜて」と優子。
「よかったら、私も」と薫。
 たまたま二人は「私も」と言った時に、自分の胸に手を当てていた。和葉はそれに気づき、自分も胸に手を当てて、
「私達、オッパイ三銃士が仲良くなってあげるわ」
 と言った。
「な! 何それ! オッパイ三銃士って何よ」
 と椎名弘美。
 和葉は、
「Iカップ!」と言いながら瀬川薫の胸を指差す。薫は「ちょっと」と言いながら顔が赤い。
「Hカップ!」と言いながら相生優子の胸を指差す。優子は「あ! また、私のサイズをバラした!」とご立腹である。
「Gカップ!」と言いながら新屋敷和葉は、自分を指差す。
 そしてグッドタイミングで、
「和ちゃん達、まだ体育館に入ってなかったの?」
 と三上小夏が駆けてきて、和葉の側に立つと、
「Fカップ!」と言いながら、小夏の胸を指さした。小夏は「和ちゃん、ま~たオッパイの話をしているの~」と呆れている。
 すると、
「Eカップ」と井山コウの胸を指差す。大人しいコウは真っ赤である。
「Dカップ」と出川真弓の胸を指差す。
「え~。一度言っただけなのに覚えているの!」と真弓。
「Cカップ」と椎名弘美の胸を指差す。弘美は「むむむ~!」と耳まで赤い。
 そして和葉は園田春樹を指さして言った。
「春樹くん、どのサイズがお好み?」
 と振ったので春樹は、
「エッエッ! 僕、そんな女性の胸はどんなサイズでもいいよ」
 と両手を前に出して激しく振って『やめて』をアピールしたのだが、
「その手の感じだと、好みはCカップなのね」
 と和葉が言ったので、春樹と弘美は顔を見合わせて真っ赤になってしまった。
「ちなみに。お兄ちゃんの好みの胸のサイズは、大きければ大きいほど好みよ」
 と言ったので、
「ええ~!」と薫。
「そうなの! 私、今日からマッサージ、やろうかな?」と優子。
 すると和葉は、
「優子の方が身体が大きいから、実質的には薫ちゃんとほぼ互角なんじゃない?」
 と言うと、
「えっ! そ、そっか~」
 と優子は御満悦である。
 すると、
「こら! 勝手に兄のことを語るんじゃない」
 と竜馬は和葉の頭を軽く手のひらで叩いた。
「そんなことよりも、早く体育館に入ろうぜ」
 と竜馬がみんなを手招きすると、
 ハーイ!
 となぜか、そこにいた女子生徒全員が、体育館に入っていった。

──2──

 体育館内にはパイプ椅子が並べられている。
 一年生全員が着席すると、
「静粛に」と教頭先生の声に、生徒らは一瞬で静かになった。
「では今から生徒指導の西園寺先生からお話があります」
 と教頭が言うと、毎朝校門に立っている筋肉質の強面な体育教官の男性教師が壇上に立った。
「あの先生、西園寺っていうのか」
 と竜馬が言うと、生徒らから、
 西園寺せんせ~い!
 西園寺先生、カッコいい~!
 と一部の女子生徒らから声援が起こった。
 それを聞いた和葉は、
「ここの生徒は、おちんちんが付いていたら、誰でもいいのね」
 と言ったのを聞いて、
「こら。少しは慎めよ」
 と竜馬は後ろから和葉の頭をポンと乗せるように叩いた。
「生徒指導の西園寺です。一部ではもう広まっているようですが」
 と言うと、
「何が広まっているんだろう?」
 と竜馬が言うと、
「お兄ちゃんと西園寺先生との、おちんちんの大きさ対決とか?」
「そんな訳あるか!」
 と和葉の背中を軽く小突いた。すると、
「あ」と和葉は胸を抑えた。
「? どうしたんだ?」
 と竜馬が訊くと、
「今のでブラジャーのホックが外れたわ」
 と言った。
「えっ! えっ!」
 と焦る竜馬だったが、
 ニヤリと笑う和葉を見て、
「なあ。まさか、ウソじゃないだろうな?」
 と言うと、
「そんなのウソに決まっているじゃないの」
 と横を向いて笑った。
「な!」と悔しそうにする竜馬。
「やたらと私の頭を叩いた罰よ」
 と和葉。
「突っ込まれるようなことを言うからだ。それに痛くないように叩いているだろう!」
 と竜馬が言うと、
「そこ! 静かに聞きなさい!」
 と壇上の西園寺先生から竜馬は注意を受けた。
「はい。すいません」
 と謝り、
「何でいつも、僕ばかり注意されるんだ……」
 と落ち込む。
「お兄ちゃん、目立ち過ぎ」
 と和葉が笑った。
「ここ数日不定期だが、夕方暗くなると学区内において、黒いコートを纏(まと)った男が現れて」
 話が進むと、生徒らがざわつき始める。
「コートの下には何も履いていない裸の男が現れるようなのだ。つまり変質者だ」
 と言うと、体育館内の女子生徒らほぼ全員の悲鳴と、竜馬と春樹を含めた男子生徒らは、身体を後ろに引いた。
 つまりドン引きしているのである。
 だが一人だけ身体を前のめりにして、聞き入っている者がいた。
 新屋敷和葉である。
「現在被害を受けたのは、主に我が高校の生徒らであり、警察への被害届も出しているが、帽子を深く被り、大き目のマスクをしているせいか、犯人はまだ捕まっていない」
 と言うと、
 え~!
 ヤダ~!
 と言う全校生徒の声に混ざって、
「これは、またとない大チャンスだわ」
 と一人だけ盛り上がっている女子がいた。
 新屋敷和葉である。
「警察の方々には、出来るだけ多めにパトロールをお願いしているし、私達教員も時間がある時は巡回している」
 と言い、
「生徒諸君はくれぐれも注意して、出来るだけ同じ方向の生徒同士で帰るように」
 と言って話を締め括(くく)った。
「そっか。ぼっちだと、おちんちんが見られるんだ。私、今日から一人で帰ろうかな?」
 と和葉が言うと、
「何でだよ。そんなのダメだぞ」
 と竜馬が返す。
「何か質問はあるか?」
 と西園寺先生が言うと、一人の生徒が手を上げた。
「もしかして、前田先生も巡回しているのですか?」
 と質問した。
「もちろんですよ」
 と中学生のように小柄でかわいい前田先生が言うと、
 前田先生が巡回したら、逆に変態を呼び込むのでは?
 と言うよりも、前田先生が危険な目に遭うのでは?
 と生徒らは口々に話す。
 すると、
「それは心配しなくていい。先生方二組で巡回しているからな」
 と言うと、生徒らは安堵したようだった。だが、
「……私って、そんなに頼りなさそうでしょうか……」
 と俯いてしまった。
「いや。前田先生、そんなことはないのですよ。人にはそれぞれ向き不向きが……」
 と焦る西園寺先生だが、
「……向き不向きがあるってことは、私は向いていないと……」
 とますます、前田先生は落ち込み始めたのである。
 すると、
 山田先生なら、その変態を返り討ちしそうね。
 と誰かの声がすると、笑いが起こった。
「おい! 今、言ったのは誰だ!」
 と声のした方を山田先生は睨んだ。
 一瞬で水を打ったように体育館内が静かになった。
 すると、
「山田先生なら、変態のおちんちんを掴んで千切ってしまいそうですね」
 とさっきと同じ声で、はっきりと言った生徒がいた。
 新屋敷和葉である。
 館内は大爆笑に包まれたが、それが収まると、
「新屋敷和葉。この後、残れ!」
 と言いながら、睨んだ。
 この後、集会は終わった。
 和葉は山田先生のところへ歩いて行った。山田先生が和葉に何か言っている。
「大丈夫かな? 和葉……」
 と竜馬は心配そうである。
 三組の教室で待っていると、二時間目が始まるギリギリに和葉が戻ってきた。
「おい。大丈夫だったか?」
 と訊(たず)ねると、
「変態についての今、分かるだけの情報を、先生方から教えてもらったわ」
 と言うと、二時間目の授業で使うノートの最後のページに、
『おちんちんを見せてくれる変態情報』
 と言う、龍馬には理解不能な題名を付けて、さっき聞いたであろう内容を書いていく。
「え? 怒られなかったのか?」
 どんな対応をしたんだろう?
 和葉はノートに書き続ける。内容はニページにも及んだ。
「よくこれだけの内容を覚えているものだな」
 と感心すると、
「そうね。強く興味があることは、一度聞いたら忘れないわ」
 と自慢げに言った。
「おちんちんに強く興味がある女子高生って……」
 と竜馬は複雑な気持ちになった。
「もっと他のことに強く興味を持った方がいいんじゃあ」
 と言うと、
「なら、そうね……。オッパイとか?」
 と和葉が言うと、
「それ、どっちもダメだろ……」
 とため息をついた。
 
──3──

 和葉が山田先生に説教をされるはずのところを、されずに帰ってきた以外は、その日の校内では特に問題はなかった。
 帰りは新屋敷兄妹と小夏と春樹と薫と優子らは同時に校門を出たのだが、
「私だけ反対方向なのが本当に嫌だわ」
 と優子は言った。
「そんな。私と春樹くんも五分くらいで、みんなと別方向だから」
 と薫は言う。
「でも薫と春樹くんは、かなり一緒に帰るんでしょう?」
 と優子が言うと、
「でもボク、料理部があるから毎日という訳にもいかないけどね」
 と言うと、
「だよね」
 と薫は笑顔を向ける。
 和葉は春樹と薫を見つめると、
「あなた達二人はどう見ても『出来てる』って感じがしないのよね」
 と言うと、
「出来てません!」と春樹と薫は同時に言った。
「じゃあ、また明日ね」
 優子はみんなに手を軽く振って別れる。
 しばらくは大通りを歩いていた。
 自宅が見えてくる。大きなお屋敷が真ん前に見えているが、そのまま真っ直ぐに歩くと、相生グループの一人娘だと知られてしまいかねないので、わざと遠回りのために、左にある寂しい細い路地に入った時だった。
「お嬢ちゃん、一人かい」
 と声がした。
 眼の前には、深く灰色の帽子を被り、大きなマスクをした男が、四月だというのに黒いコートを身に付けている。
「黒いコート……。大きなマスク……」
 と優子は今朝の集会の話を思い出していた。
「まっ! まさか! あなたがうわさの変態!」
 と悲鳴にも似た声が出た。
「ほう……。どうも、オレも有名人になったようだね。こんなにカワイイ女子高生に知られるとは!」
 と言いながら、コートの前を全開に開いた。
「キャー! 誰か! 助けて!」
 と相生優子はすぐに目を閉じて悲鳴を上げた。
 目を思いっ切り押さえながら、その場に座り込む。
「誰か! 誰か助けて!」
 優子の心の中に竜馬の姿が浮かぶ。
「竜馬さん! 竜馬さん!」
「へへへ。カワイイねえ~。君」
 と一歩一歩、コートの変態が近づいて来ているのが分かった。
 優子は恐怖で震え上がり動けない、
「……誰か! 誰か……助けて……。竜馬さん……」
 と段々と声が出なくなってきた。
「ほほう。大きなおっぱいに綺麗な足だねえ。ちょっと触らせてよ」
 とすぐ側でその声が聞こえた時である。
「あんた! 何、やってんの!」
 と声がした。
 聞き覚えのある声だった。
「おい、ヘンタイ! うちの生徒に何してくれてんのさ!」
「くれてんのさ!」
「てんのさ!」
 と背中から聞こえた。
「な! 何だ、お前達!」
 と変態は動揺した声である。
「それはこっちのセリフよ、ヘンタイ!」
「ヘンタイ!」
「ドヘンタイ!」
 そして、
「もう大丈夫よ。相生さん」
 と声がした。
「その声は……。椎名さん……」
 と目を閉じたままで言った。
 弘美は、
「私は男兄弟が上に二人いるのよ。男の裸なんて見慣れているわ!」
 と座り込むと、大き目の石を拾った。
「真弓! コウ! あなた達も石を拾いなさい! あのヘンタイに思いっ切りぶつけるわよ!」
と言う声がする。
「な! こっ、小娘どもが!」
 と変態の声がしたが、
「いっ! 痛っ~!」
 と悲鳴にも聞こえる声がした。
「ふん。裸なんだから痛いに決まっているでしょうが」
 と言うと同時に、再び投げつけた。
 弘美の投げる石は威力があるのか「痛っ! 痛っ!」を連発している。
「それそれ~」と真弓とコウも石を投げているようだった。
 なんだ! どうした!
 と大通りから男性の声がした。
「クソッ」
 と言い残し、変態は全速力で路地奥に消えて行った。
「相生さん。もう、大丈夫よ」
 と肩に手の感触があった。
 優子が目を開けて顔を上げると、優しく微笑む椎名弘美と出川真弓と井山コウがいた。
「一組の……」
 恐ろしさで腰が抜けたのか、優子はなかなか立つことができない。
「どうして……」
 と言うと、
「実は方向が同じなのは知っていたのよ。今日こそは話しかけようと思っていたら、悲鳴が聞こえたからね」
 と弘美。
 優子はゆっくりと立ち上がると、
「……ありがとう。ありがとう!」
 と弘美に抱きついて泣いた。
「あっ。ちょっと」
 と抱きつかれた弘美は照れている。
「出川さんも井山さんもありがとう」
 と二人にも泣きながら抱きついた。
 抱きつき終わって涙を拭く優子に、
「今、私の首の下辺りに、もの凄く大きくて柔らかいものが当たったわ」と弘美。
「同じく」と真弓。
「滅多にできない体験」とコウ。
 そして、
「三人共、本当にありがとう!」
 と同時に抱きついた。
 その後は四人で交番に行って、被害届を提出した。終わって歩き出すと、
「後日、ちゃんとお礼をするわ」
 と優子は言ったが、
「そんな、私達は石を投げただけだから」
 と弘美。
「投げただけだから」
 と真弓。
「ならみんなでファーストフードへ行こう」
 とコウ。
「あ。それ名案」と弘美は笑った。
 優子も、
「そうしよう。それがいいわ」
 と乗り気である。
「もう一つ、名案があるわよ」
 と真弓が続けた。
「しばらくどこかで待ち合わせをして、一緒に登下校しましょう」
 と真弓が言った。
「ならあそこがいいんじゃないかしら」
 と優子は彫像のところに三人を連れてきた。
「なるほど。ここなら分かりやすいし、人通りもあるし、少し待っていても安全そうだし」
 と弘美。
「実はここって、竜馬さんと和葉と小夏ちゃんらと写真を撮って、連絡先を交換したところなの」
 と照れながら話すと、
「おっ。いいわねえ。じゃあ、私達も写真を撮って連絡先を交換しよう」
 としばらく四人は盛り上がった。
 そして、
「また、変態が現れたらいけないから、今日は知り合いのおじさんに車で送ってもらうように頼んでいいよね」
 と森本源三に電話をした。
 白い日本車でやってきた森本は慌てていた。
「大丈夫でしたか? お嬢、いや優子さん」
「大丈夫。こちらの三人が私を助けてくれたから」
 と紹介した。
「これはこれは。何とお礼を言ったらいいか」
 と深々と頭を下げた。
「そんな、大げさな」
「そうです。大げさです」
「大げさ~」
 と弘美と真弓とコウは言った。
 源三はお礼をしたいと言ったが、お礼として一緒にファーストフード店に行くことになっていると伝えた。
 そしてすでに警察へ被害届を出したことも話した。
「でしばらくは、四人で登下校をすることに決まったから」
 と言うと、
「もし、よろしければ行き帰りを車でお送りしますが」
 と源三は言ったが、
「そこまでしてもらうのは悪いですから」
 と三人は頑なに断った。
 その日は源三が運転する車で送ってもらったのである。
 次の日は土曜日だった。
 午前中だけの登校で、昨日のことを早速、新屋敷兄妹と薫に話すと、三人は優子が無事だったのを確認して胸をなで下ろし、
「一組の方に間一髪のところを助けてもらってよかったですね」
 と安堵の表情で薫は言った。
「本当に何もなくてよかったよ」
 と力が抜けたように竜馬はなった。
「フフッ。心配させてごめんなさい」
 と竜馬が真剣に心配していることに少し嬉しそうである。
「何事もなくてよかったわね」
 と和葉。
「うん。ありがとう」
「ところでさ」
「ん。なに?」
「変態のおちんちんって、見た?」
 と和葉は前のめりになって訊いてきた。
「えっ!」と優子はしばらく考えていたが、
「私、変態がコートを開く前に、目を閉じちゃったから何も見てないわ」
 と苦笑しながら言うと、
「え~! 何よ、それ~!」
 とあからさまに残念そうな表情をした。
「だって! 怖かったんだもの!」
 と優子が言うと、
「人生で数えるほどしかない、おちんちんを見るという人生最大のイベントの機会を」
 と言いながら、立ち上がると、
「優子! あなたは逃してしまったのよ!」
 と強い口調で言いながら優子を指さした。
「えっ! そうなの!」
 と優子が驚くと、
「そんな訳、ないだろ!」
 と竜馬も立ち上がり、和葉の背中を強めに叩いた。
 すると和葉は胸を押さえて座り込んだ。
「ん。どうした? あ。また、僕を騙そうとしているな。ブラのホックが外れたなんて、そんなウソが二度も通じるはずがないだろ!」
 と呆れていると、
「……本当に、外れた」
 と明らかに焦っている表情の和葉だった。
「え? ウソだろ?」
「私、ちょっとトイレに行ってくる!」
 と大慌てで教室を出ていった。
 その日、三組の女子らから竜馬は『妹のブラジャーのホックを外す兄』として、冷たい視線を向けられた。
 竜馬は、
「ああ……。きっと軽蔑されているんだろうな……」
 と落ち込んでいたが実際は、
 和葉ちゃんが羨ましい~。
 私のブラのホックも外して~。
 と思われていた。

つづく。

登場人物。

椎名弘美(しいなひろみ)
体育が同じの一組の女子。百メートル走でのタイム計測のグループで竜馬と同じになる。明るい性格。身長は一五五センチくらい。ロングヘアで、どちらかと言うと美人ではあるが、相生優子と比べたら地味。バストサイズはCカップ。年上の男兄弟が二人いる。

出川真弓(でがわまゆみ)
体育が同じの一組の女子。百メートル走でのタイム計測のグループで竜馬と同じになる。眼鏡をかけていてセミロング。男子とは上手く喋れない。男子は好きなのだが、そのせいか男子の前だとより一層緊張する性格。バストサイズはDカップ。

井山コウ(いやまこう) 
体育が同じの一組の女子。百メートル走でのタイム計測のグループで竜馬と同じになる。ギリギリ聞き取れるくらいの声。顔を隠すような長めの前髪のせいで、目がはっきり見えない。少しぽっちゃり型で色白。暗めの性格なのを気にしている。バストサイズはEカップ。

西園寺(さいおんじ)先生。
いつも朝に校門の前に立って、生徒らに挨拶をしている強面な筋肉質の男性体育教官の教師。独身。
担任は持っていないが生徒指導の責任者として頑張っている。
体育教師の中では主任の鈴木先生の次の副主任。
しかし如月学園高校の生徒らは、校則違反などはほとんどやらないので、校内校外の危険なことに注意を向けていることが多い。

森本源三(もりもとげんぞう)
相生優子の屋敷で執事の責任者として働いている。年齢は六十二歳で定年を迎えているが、優子の父親からどうしてもと頼まれて今に至(いた)る。三上小夏が初めて会って一目惚れしてしまう。
今は優子の希望で、日本車に乗っている。
  
2023年5月6日

※当サイトの内容、テキスト等の無断転載・無断使用を固く禁じます。
 また、まとめサイト等への引用をする場合は無断ではなく、こちらへお知らせ下さい。許可するかを判断致します。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

昔義妹だった女の子が通い妻になって矯正してくる件

マサタカ
青春
 俺には昔、義妹がいた。仲が良くて、目に入れても痛くないくらいのかわいい女の子だった。 あれから数年経って大学生になった俺は友人・先輩と楽しく過ごし、それなりに充実した日々を送ってる。   そんなある日、偶然元義妹と再会してしまう。 「久しぶりですね、兄さん」 義妹は見た目や性格、何より俺への態度。全てが変わってしまっていた。そして、俺の生活が爛れてるって言って押しかけて来るようになってしまい・・・・・・。  ただでさえ再会したことと変わってしまったこと、そして過去にあったことで接し方に困っているのに成長した元義妹にドギマギさせられてるのに。 「矯正します」 「それがなにか関係あります? 今のあなたと」  冷たい視線は俺の過去を思い出させて、罪悪感を募らせていく。それでも、義妹とまた会えて嬉しくて。    今の俺たちの関係って義兄弟? それとも元家族? 赤の他人? ノベルアッププラスでも公開。

かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?

久野真一
青春
 2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。  同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。  社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、  実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。  それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。  「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。  僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。  亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。  あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。  そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。  そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。  夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。  とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。  これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。  そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。

ナースコール

wawabubu
青春
腹膜炎で緊急手術になったおれ。若い看護師さんに剃毛されるが…

散々利用されてから勇者パーティーを追い出された…が、元勇者パーティーは僕の本当の能力を知らない。

アノマロカリス
ファンタジー
僕こと…ディスト・ランゼウスは、経験値を倍増させてパーティーの成長を急成長させるスキルを持っていた。 それにあやかった剣士ディランは、僕と共にパーティーを集めて成長して行き…数々の魔王軍の配下を討伐して行き、なんと勇者の称号を得る事になった。 するとディランは、勇者の称号を得てからというもの…態度が横柄になり、更にはパーティーメンバー達も調子付いて行った。 それからと言うもの、調子付いた勇者ディランとパーティーメンバー達は、レベルの上がらないサポート役の僕を邪険にし始めていき… 遂には、役立たずは不要と言って僕を追い出したのだった。 ……とまぁ、ここまでは良くある話。 僕が抜けた勇者ディランとパーティーメンバー達は、その後も活躍し続けていき… 遂には、大魔王ドゥルガディスが収める魔大陸を攻略すると言う話になっていた。 「おやおや…もう魔大陸に上陸すると言う話になったのか、ならば…そろそろ僕の本来のスキルを発動するとしますか!」 それから数日後に、ディランとパーティーメンバー達が魔大陸に侵攻し始めたという話を聞いた。 なので、それと同時に…僕の本来のスキルを発動すると…? 2月11日にHOTランキング男性向けで1位になりました。 皆様お陰です、有り難う御座います。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

隣人の女性がDVされてたから助けてみたら、なぜかその人(年下の女子大生)と同棲することになった(なんで?)

チドリ正明@不労所得発売中!!
青春
マンションの隣の部屋から女性の悲鳴と男性の怒鳴り声が聞こえた。 主人公 時田宗利(ときたむねとし)の判断は早かった。迷わず訪問し時間を稼ぎ、確証が取れた段階で警察に通報。DV男を現行犯でとっちめることに成功した。 ちっぽけな勇気と小心者が持つ単なる親切心でやった宗利は日常に戻る。 しかし、しばらくして宗時は見覚えのある女性が部屋の前にしゃがみ込んでいる姿を発見した。 その女性はDVを受けていたあの時の隣人だった。 「頼れる人がいないんです……私と一緒に暮らしてくれませんか?」 これはDVから女性を守ったことで始まる新たな恋物語。

処理中です...