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第23章 幻の英雄
第556話 成層圏の龍の正体
しおりを挟む探索1日目が終わったわけだが、今日を終える前に……僕にはまだ1つ、やっておかなければならないことがあった。
今日会ったことを話しながら、いつも通り皆で一緒に楽しく夕食をとり、それが終わった後……僕はネリドラとリュドネラ、そして師匠と一緒に、船内にある『ラボ』に行った。
その中の、研究素材保管および作業用に作られているスペース……それも、かなり大きな部屋に足を運ぶ。
ここには、今朝の戦いで回収した、成層圏で襲ってきたドラゴン(の、死体)が入れてある。出発前に運び込んでおいたのだ。
そしてそれを実は、昼間僕達が探索に出ている間、解剖して調べておいてほしいと、ネリドラとリュドネラに頼んであったのだ。留守番してる間、時間もあるだろうし、ってことで。
それに関する報告を聞きつつ、同時に実際に現物を見てみるため、ここに来たわけ。
なお、改修した死体は全部で6つだが、そのうち、解剖をお願いしたのは2つだけである。
残りは研究材料として、特殊な魔法をいくつもかけてある特別製の保管庫に入れてある。
「2体分を解剖・調査してみて分かったことなんだけど……この龍、普通の魔物じゃないと思う」
ネリドラの報告は、そんな言葉から始まった。
「具体的にはどういう意味だ? 単に『神域の龍』だから、っていう話じゃないんだろ?」
師匠からの質問には、ネリドラはこくりとうなずき、リュドネラも加わって答えていく。
「『神域の龍』については、『女楼蜘蛛』の人達が倒したもののうち、いくつかをすでにサンプルとして回してもらって解剖してたから、体構造とかその特徴については大体わかってる。もちろん、私達の星の龍とはそれも大きく違ったけど……それを差し引いても、あの龍は『違う』」
『あの龍、2匹とも体構造がほとんど同じだったの。同種族だってことを考えても、個体差ってものがほとんどなかった。生物として不自然なくらいに『同じ』だったのよ』
2人があらかじめ資料を作ってくれてたんだけど、それを見てみると……確かにそうだ。不自然としか言えないくらいに『同じ』である。
体構造はもちろんのこと、体組成がそれ以上に……一致しすぎている。
筋肉量、脂肪、内臓の状態、神経の発達具合……わずかな誤差を除けば、本当に『同じ』と言っていいくらいにそろっていた。
同じ種族であっても、食べているもの、頻度、住む環境なんかによって、こういうのは微妙に異なってくるはずなのに。それがないってことは……
「まるで、同じ型から作られたつくりものみたい。というか……」
「それは多分……ホントに『作られた』のかもしれないね」
テオの話では、こいつらは一応、見た目は『神域の龍』に実際に存在する種族の龍らしい。
が、確実にその種族だ、と判断していいかというと……彼女は言葉を濁していた。
うまく言えないけど、なんか不自然というか、直感的に違和感を感じるそうで。
おそらく、種族自体はその、テオが知っている『神域の龍』なんだろう。
しかし、育ち方……いや、『育てられ方』や、さらには『生まれ方』が特殊だったために、そんな感じの違和感を覚えることになったんだろうな。
恐らくこの龍は……何者かによって作られた龍だ。
自然の中で生きているのなら当然出てくるべき差がない……すなわち、卵から孵化して以降、与える食べ物や、生きる環境、その他の個体差につながるあらゆる『育て方』を同じくして育てられた。ゆえに、ほとんど違いのない龍が出来上がった……ってところか。
いや、ここまで同じとなると……遺伝によって出てくる育ち方の差もない。となると……卵からどころか、その前段階からかも。
(こいつら……クローンか)
まったく同じ遺伝子を元に人工的に作られた、ある意味で同一個体と言っていい存在。それなら……ここまで全く同じ成長をしていることにも納得がいく。
恐らくだけど、残り4匹も同じような構造してるんだろうな。
そして、これをやったのは多分……
「『ダモクレス財団』……か」
「たぶん、そうだと思う。自然に育った魔物じゃ、たとえ人が育てても、絶対にこんな風にならないと思うから」
『もともといるだろうとは予想されてたけど……やっぱりいたみたいだね、この星に。そして……ろくでもない研究所みたいなもの、作ってたわけだ』
「連中が最初の作戦で使おうとしてたように、ここに住んでる『神域の龍』は、戦力としては一級品だからね……もともとあの連中、改造手術で改造人間とか作り出すようなこともやってたわけだし……命をいじくることに関してはもともと一家言あったんだ」
「てめえらの兵隊に仕立て上げるために、ドラゴンを作って操る準備も進めてたってわけか。最初は『ジャバウォック』とかいう奴と手を組んで、天然モノのドラゴンを利用したが、それができなくなった時の対策も兼ねてかもな」
人工的に作られ、調教された――あるいは魔法的な手段で操るのかもしれないが――クローンのドラゴンの兵隊か……こんな場所で、とんでもないものを作り上げてたもんだ。
……いやまあ、さんざん『CPUM』……人工モンスターを作って操ったり、品種改良でばんばん新種のモンスターとか作ってる僕が言えたことじゃないかもしれないけどね。
人工的に作った、完璧にこっちのいうことを聞く魔物の有用さってのは、その分僕もよく知ってるし……ドラゴンどころじゃなく、よっぽど色々バリエーション作ってるし。
まあ、だからこそその危険度についてもわかってる……とか詭弁を述べさせてもらうか。
連中は正真正銘、これらを使って地球を襲おうとしてるわけだし。世界全体を進化させるための試練だとかなんとか言って。
曲がりなりにもきちんと制御している僕とは違って……いや、あっちも制御できてはいるのか。
制御しつつ、自分達の意思で破壊者に仕立て上げようとしているだけで。
……単なる調教じゃなく、多分だけど、本当に『操作』してるんだろうと思うのには、他にも根拠はある。
この龍、テオの話の通り、確かに『成層圏』でも活動できる種族ではあるんだけど……それでも、その身にかかる負担はかなり大きい。活動『できる』ってだけで、普通どおりに活動でき、負担も何もないわけじゃないんだ。
飛んでいる最中から、酸素も少なく気温も低いしで、ずっと大きな負荷の中にいたはずだ。
ちなみに僕たちは、あの空中戦では、そういうのが兵器になる特殊な魔法薬やマジックアイテムを事前にいくつか使っていたので全然へっちゃらだった。
前にも使った、水中でも呼吸ができるようになったり(というか呼吸の必要がなくなる)、氷水の中に飛び込んでも体温を維持できるポーションとか、そのへんの強化版である。
そういうのもなしに超高高度を飛ばされ、戦わされていた彼らには、さぞ大きな負担がかかっていただろう……しかも、それを嫌がりもせず、苦しむそぶりも見せずに、おそらくは『飼い主』の指示通りに、死ぬまで戦い続けた。
そのくらいに徹底的に、命令には絶対に従うように仕込まれていたんだろう。
あるいは、あの戦いぶりを見る限り……その『苦しさ』すら感じていなかった可能性もあるか。
脳や神経をいじったり、特殊な薬品を使えば、戦闘に不要・不利な部分の感覚をマヒさせることも可能だ。痛覚とか、疲労感とか。
「もし僕らがここに来ずにのんびりしてたら、手の届かないこの『渡り星』で、量産されたクローンドラゴンが、また地球を襲ってきたかもしれないってことか。『ライン』は全部破壊したけど……また繋ぎ直せば済む話だろうし」
『あんまり想像したくない未来ね……。けど実際、私達みたいなのがいなきゃ、こんなところでこんなことをしていても、気づくことなんてできなかっただろうし……仮に予想はできても、ここに来ることなんてできないから、手を打つこともできなかった』
「こんな場所までくる手段なんて、普通はないだろうから、それも当然。『ダモクレス』も、そう思ったからこそここに研究施設を作ったんだと思う」
「連中は連中で、何かしらここと地上を行き来する方法があるんだろうが、それは俺達には使えないだろうと高をくくってたんだろうな。まあ実際、おそらくその方法は俺達がこうしてここに来たのとはまた別なもんだと思うが」
けど、その目論見は今、連中が想像もしなかった形で挫かれつつある。
連中がありえないと思っていた事態が起こった……すなわち、僕らがこうして、この『渡り星』に来てしまったことで。
絶対に大丈夫だと思っていた、肝心要・大前提の防御策の部分が突破されたわけだ。
何度も言うように、僕らが今回ここに来た主目的は、この『渡り星』自体をダンジョンに見立てた、冒険者活動の一環である。
それ自体が趣味全開のことなので、仕事であると同時に観光でもある。
けど、だからといって、ここにあの連中の心臓部とも呼ぶべきものがあるのなら……それを放置してむざむざ帰っていうのも、それはそれでなあ……。
そもそも、ここで連中を叩かず放置しておけば、近い将来、クローンドラゴンの軍勢が地球を襲いに来るのは半ば確定の未来なわけだし……もしかしたら次以降に来る時までに、これ以上の防御策を整えられてしまう可能性も否定できない。
そういうのを考えれば……まあ、やっとくべきだよなあ。
とりあえず、テオにこのことを話しつつ……明日以降の探索では、そのへんの情報とか手がかりももう少し力を入れて探ってみることにしよう。
☆☆☆
「迎撃は失敗ですか……まあ、想定内です。来たのがミナト殿であれば、この程度の戦力で落とせるとは思えませんでしたしね」
同時刻、『渡り星』のとある場所にある、『ダモクレス財団』の研究施設。
「しかし、それなりの数の龍を投入したにも関わらず、まったく被害らしい被害も与えられずとは……加えて、向こうはどうやら『女楼蜘蛛』と『邪香猫』が勢ぞろいできたらしい。控えめに言って……最悪の事態ですね」
ダモクレス財団総裁・バイラスは、ため息交じりにそう、淡々と呟いていた。
常に顔に浮かべている笑みはそこにはない。それだけ深刻な事態であり、真剣にこのことについて考えているのだと、ここに集っている者達は理解していた。
バイラスの執務机の前には、地球からここに来たダモクレスの生き残りの実力者達が揃っていた。
もっとも、『揃って』と言っても、その数はわずかに3人しかいないが。
最高幹部の一人にして、サメの獣人である、サロンダース。
同じく最高幹部ではあるが、戦闘能力を持たず、事務的な役割についてその力を発揮していた、ドロシー。
幹部格であり、ミナト達と『サンセスタ島』で戦い、破れながらも生き延びたバスク。
3人が3人とも、同じように真剣な顔になっている前で、バイラスは語り始める。
「この施設を破棄することはできません。様々な理由で、運び出すことができないものが数多くある……簡単には見つからないように隠してはいますが、それでも相手は、伝説の冒険者チームと、それに勝るとも劣らない非常識の権化……油断は禁物でしょう」
「では、迎撃する、あるいはこちらから撃って出るということでしょうか?」
「最初に襲撃した際のドラゴンを解析されれば、我々がここで何をしているのか……ミナト殿やクローナ殿あたりには露見してもおかしくない。そしてそれを理解すれば、黙って帰ってくれるとも思えませんからね……もちろんそうなってくれれば最善ではありますが。しかし、事ここに至っては……ことを構えるのは避けられないと見て動いた方がいいでしょう」
そこまで言って、バイラスは立ち上がり……サロンダース、ドロシー、バスクを順に見ながら、
「サロンダース、改造手術はもう体になじみましたね? 現在動かせる機動戦力を編成して、襲撃の準備を進めてください。ドロシーは新しい『ヘンゼル』の用意を。場合によってはあなたにも出てもらうことになりそうだ。それからバスクは……現在進めている実験体全てを、可能な限り急いで実用段階にまでもっていってください」
そう、1人1人に順に指示を出していく。
聞いていた3人は、いずれも神妙な面持ちを崩さないままに、黙ってそれを聞いていた。
「基本的には防衛を主軸斗詩、こちらからアクションは起こしません。どれだけ龍をぶつけても返り討ちにされるだけですからね。ここを探し当てることなく、あるいは探してもここに気づくことなく、帰ってくれればそれでいい。しかし、もし見つかってしまったとしたら……」
一拍、
「その時は……不本意ではありますが、彼らと雌雄を決することになるでしょうね。3人とも……頼りにしていますよ」
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