魔拳のデイドリーマー

osho

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第23章 幻の英雄

第555話 『渡り星』探索・初日

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 大気圏突入直後の襲撃の後は、特に何事もなく降下していくことができた。
 第2波、第3波とかが来るかもしれないと思って警戒してたんだけど、特に何もなかったな。まあ、そりゃ何もないに越したことはないけど。

 念のためそのまま警戒は続けつつ、適当な水面を探して着水。碇を下した。

 その後は予定通り、いよいよこの『渡り星』の探検のために、外に出る。
 そのために今日は、朝一番で大気圏に突入したわけだからね。まだ日が高い……どころか、バリバリ午前中なうちから、ゆっくり時間をかけて探検できる。

 外に出るメンバーだけど、まずは『女楼蜘蛛』からは、テレサさん以外全員。
 僕ら『邪香猫』からは、僕とエルク、シェリーとナナ、ザリーと義姉さん、サクヤが出る。
 それから、ペット枠から、アルバとストークとペル。
 最後に、この星出身の案内役として、テオ。

 残りのメンバー……ミュウとクロエ、ネリドラとリュドネラ、ビィにバベル、そしてテレサさんは留守番である。
 テレサさんも行きたそうにはしてたけど、『船を守る役割の人も必要でしょう?』って、船番役を買って出てくれたのだ。

 待機中はシールドとステルスを発生させっぱなしにするけど、何があるかわからないのはそうだし、この申し出はありがたい。



 そんな感じで船を出発したわけだが……初上陸となる異星の景色を見て、母さんがまず一言。
 
「なんていうか……思ったより普通ね。私達のいたところと、そんなに大きく変わらない感じ」

 母さんの言う通り、外に出て改めて周りを見てみたけど……意外と地球と変わらない景色だ。
 見渡す限りの大草原。一面背の低い草でいっぱいだけど、あちこちにぽつりぽつりと、木や背の高めの植物が点在している。

 船を着水させたのは、大きな湖みたいだ。そこから延びる形で、穏やかな流れの川があり、その周辺には砂地っぽい地面もある。

 水があって、草木があって、空があって、地面がある。
 ここが別の惑星だって知らずに……例えば、転移魔法の事故とかでいきなりここに来たら、ああ、こういう場所も世界のどこかにはあるんだな、くらいに納得してしまいそうな景色だ。

 もちろん、よくよく見てみれば、生えてる草木も、泳いでる魚も、なんか見慣れない種族ばかりだなとは思うんだけど……ファンタジーな世界で、そんな程度は割とどこにでもある話だし。

 まあでもさすがに、真昼間から月が、しかもあんだけ大きく空に見えるって言うのは、地球には絶対にない光景だけど。

「もっとこう……色々景色とか雰囲気とかからして、全然別世界って感じを予想してたんだけど。まあ、だからって何が悪いわけでもないけどさ。あーごめんテオ君、気を悪くしないでね? ボケ老人の妄想だと思ってくれればいいから」

「いえいえそんな。まあ……お気持ちはわかりますし。私も初めて地上に降りた時は、同じようなことを思いました。……ああでも、ミナトさんのおうちにご厄介になってからは、『ああ、割と別世界だな』って思ってましたけど」

「ああ、それはわかるニャ」

「あのへんは本当に混沌としとるからな、『カオスガーデン』の名の通り」

「あそこに住んでる私達でも、未だに満場一致で『人外魔境』って評価ですしね」

「そうだけど、あれはあれで楽しいじゃない。便利だし、退屈しないし」

「退屈しなさ過ぎて気疲れしますけどね……時々。いまだに完全には慣れられてませんよ」

 なんか途中から僕んちをディスる方面に話がシフトしてた気がするけど気にしないことにして。

 とりあえず、動植物は片っ端からサンプルをいくつか回収していくことにする。
 僕と師匠で手分けして、草とか木とか、魚とか……あと水も汲んでいく。地球にはいない微生物とか見つかるかも。

「穏やかで居心地よさそうなところではあるけど、ひとまず見える範囲には何もないねえ。景色を見るのはこれくらいにして、そろそろ移動しないかい?」

「そうね。ミナト、テオちゃん、どっちいけばいいとかわかる?」

「んー、特には。空中から見た感じ、特別面白そうな地形とか構造物も、この近くにはなかったしね……」

「私も……さすがに、『渡り星』全体の地形を把握しているわけではないので。目印になるような、私が知っているものが見つかればそこを起点に案内できるんですが」

「なら、もう一回空に上がって、空からそれっぽいの探す?」

 そう、母さん達に聞いてみる。
 母さん達は、『うーん』と、しばし考えてから、

「いやまあ……ホントにいつまで経っても何も見つからなかったら、それも手ではあるけど、ひとまず今日は足で歩いて探してみましょ」

「だね。全く未知の土地なんて、そうやって探索していくのがあたりまえだし。まあでも……空から様子を見るとか、あらかじめ何かありそうなところに目星をつけるっていうのも、やり方としては正解ではある。エレノア、ちょっと」

「聞こえてたニャよ。私は地上から探せばいいんニャね?」

「よろしく。ボクは空からいくからさ」

 そう言って、アイリーンさんは浮遊魔法で上空高く急上昇していく。
 ああ、なるほど。空から周囲を見るくらい、別に船に戻らなくても彼女なら簡単だしね。

 そしてエレノアさんはというと、アイリーンさんが飛び上がったのと同時に、消えたように見えるくらいの速さでその場から駆け出していた。
 もともとチームの斥候役である彼女だ。こういう時の周囲の探索はむしろ得意分野だろうね。

「そんなに時間はかからないでしょ。2人が返ってくるまで、私達はこの近くを探索してみましょっか。さらっとだけじゃなく、詳しく色々見てみれば、何かわかることもあるかもだし」

「そうだね」



 アイリーンさんとエレノアさんは、それから30分くらいで戻ってきた。

 2人とも、いくつか気になる場所……魔物の巣みたいになってる洞窟や、船を着水させた場所とは違う大きな湖なんかを見つけてきた。
 結構数があって、どれから調べてみたらいいか迷うところだ。

 ただ、人工物みたいなものは1つも見つからなかったらしい。

 まあ、もともと人間は住んでない星だけど、テオ曰く、古代の龍族が作った遺跡みたいなものもこの星にはあるらしいので、今回の偵察ではそれらは見つけられなかったってことだろう。

 それに、『ダモクレス財団』の連中がここに隠れ家ないしアジトを構えている、という可能性もあったわけだし……まあ、あったらあったで、そんなに簡単に見つかるようなところにあるとも考えにくいけど。

 ひとまず今日は、目についた気になるものを1つ1つ調べていくことにした。

 洞窟然り湖然り、1つ1つを調べるのにかかる時間はそんなでもなかったので、テンポよく調査を進めていく。

 さっきまでと同じく、見つかる生物こそ珍しかったものの……そこまで危険な魔物とかはいなかったので、スムーズに進めることができた。

 『神域の龍』の本拠地なわけだから、龍以外にもヤバい魔物がわんさかいるんじゃないかとか勝手に思ってたんだけど、そうでもなかった。
 ……まあ、そんなRPGのラストダンジョン付近みたいなことになってるはずもないか。れっきとした普通の生態系の1つなわけだし。捕食者もいれば被捕食者もいるだろう。

 ただ、そんな考察をする中で……というか、さっきから気になってたところではあるんだけど、

(龍に会わないな……?)

 さっきも言ったように、ここは『神域の龍』の本拠地だ。
 だから……まあ、さっきみたいなラストダンジョン云々の妄想はともかくとしても、探索していれば、地球で戦ったようなドラゴンと会う、ないし見る機会はあるんじゃないかと思ってた。

 実際、今朝降下するときに、思いっきりドラゴンの大群から襲われたわけだし。

 しかし、今日探索した範囲では……龍はほとんどいなかった。

 全く見なかったわけじゃないんだけど、それでもその数はかなり少なく、しかもどれも、遠目にその存在を確認できたくらいのもの。
 そのほとんどが、こっちに気づくこともなかったし、気づいたものも中にはいたけど、襲ってきたりすることもなかった。警戒はしてたし、こっちから近づこうとすると威嚇してきたけど。

 ……でもまあ、地球だってどこに行っても人間とか生物がいるわけでもないし、そういう地域もあるのかな。

 そう思って、探索の終わりごろになってからテオに確認すると、確かにこの星には、そういう地域もあるんだそうだ。
 そしてその地域は、ただ単に理由もなく龍が少ないわけじゃないという。

「今日一日見て回って……特に、ミナトさんやクローナさんは、住んでいる生き物とかも調べてたみたいですから、よくわかったかと思うんですが……このあたり、大きな生き物がいなかったでしょう? それはつまり、ほとんどの龍にとっては住みにくい環境なんです」

「ああ、なるほど……食料の問題?」

「はい。龍は総じて体が大きい生き物なので、それ相応に食料も必要になるんです。なので、ここみたいに、食いでのある生き物がいない場所には住みつかないんですよ。私みたいに、人間とか、別の姿に変身できる種であれば、その限りでもないのですが」

「それでもゼロじゃなかったけど……あれは? 燃費がいい龍とかかな?」

「いえ、多分……ほかの土地での縄張り争いに負けたり、群れを追放された、流れ者の龍じゃないかと。そういう行き場のなくなった龍は、やむをえず、競争相手のいないこういう場所に来ることもある、と聞きますから」

「なるほど……僕らを見ても襲ってこなかったのは、その辺が理由かな?」

「龍の社会も楽じゃないのねえ。自然の中でのびのび楽しく、ってわけにはいかないわけか」

 ザリーやセレナ姉さんが、自然の中にも世知辛い部分があることを察してそんな風に呟く。

「あれ? でもテオ、前に君……『神域の龍』は、飲食が必要ないって言ってなかった? 『渡り星』のエネルギーを取り込めばそれで生きていられるから、飲食はただの娯楽でしかないって」

「ええ、飲食しなくとも生きていくことはできますよ? ですが、より肉付きをよく、体を大きくしたりするには、あるかないかで言えばあったほうがいいんです。渡り星のエネルギーは、あくまで『最低限生きていくことはできる』というだけなので。龍も生き物には変わりありませんから、育ちもすれば衰えもするんですよ。ほかの生き物よりは融通利くだけで」

 ふーん……点滴で栄養注入だけで生きてる奴と、肉や野菜や穀物をバランスよく食べてるやつと、どっちが健康的で丈夫な体になるか……みたいなもんかな?

 テオ曰く、自分の強さとか戦いとかにそこまで頓着しない龍は、前に聞いたようにそんなに食べること自体をしないらしい。それでも体は維持できるし、普通に生きていけるから。
 さっきテオは『衰える』とは言ってたけど、それでも死ぬほど衰弱するとかそういうわけじゃなく、普通に生きていく分には問題ないようだ。

 けど、その『普通』以上になりたければ、そういう植物みたいな生活ではダメと。

 きちんと獲物を狩って食べて、血肉に変える。そうしないと体は大きく、強くはならない。

 本来必ずしも必要のない『飲食』にもそういう意味、ないし価値がきちんとあるから、そういうのに関心がある龍にとっては、食いでのある『獲物』というのは魅力的だし、それが取れるいい縄張りは価値があるものだということだ。

 生き死ににかかわってくるかっていう点以外は、普通の生き物と同じなんだな。

「それと、襲ってこなかったのは、私がいたから、っていうのも理由の1つかもしれません」

「? テオが? どういうこと?」

「同じ『渡り星』出身の龍であれば、私が、人間に化けた龍であるというのは、遠目からでも直感的に分かるでしょうから。それで警戒したか……あるいは、一緒にいるミナトさん達も、人間に化けている龍だと思ったのかもしれません」

「なるほどね……他に行き場のない身なら、そんな連中に喧嘩を売って、今いるこの場所にまでいられなくなりたくもないか。……まあ、実際には龍よりよっぽど危険な人間の群れなんだけどね」

 そういうことは言いっこなしだよ、エルク。

「ちなみに、テオやジャバウォックみたいに、意思疎通ができる龍ってどのくらいいるのかな? 仮にこの先、別な場所に行って龍と会ったとして……会話できると思う?」

「言語的にですか? それとも対話の余地的にですか?」

「もちろん両方」

「ある程度以上の知能を持つ種族であれば、対話そのものは可能ですよ? ただ、人間との間にそれが成立するのは……ジャバウォックや私みたいに、他種族にも通ずる念話などの手段を持っている場合に限られますね。でもそうでない場合でも、私が通訳できますからご安心を」

「そっか、それは助かるな。じゃあ、その時はよろしく」

「はい。……というか、龍との対話をお望みなのであれば……明日以降の探索では、そういう、対話できる龍がいる場所へ案内しましょうか?」

「え、わかるの? 場所」

「はい。今日の探索で……どんな環境で、どんな動植物があるのかを把握できましたし、『流れ者』らしい龍の種族も確認できました。それらを組み合わせて考えて、ここが『渡り星』のどのあたりにあるのかは大体予想がつきましたので。ただ、本当に『大体』なので、『多分こっち』くらいのフィーリング的な案内になっちゃうんですけど」

「いや、それでも何の手がかりもない状況よりは全然助かるよ。皆もそれでいい?」

「いいんじゃない? 適当に散策するのも嫌いじゃないけど、今日とはまた違う面白いものが見られるんなら、そっちの目印に行ってみるのもいいと思うわ」

 母さんがそう答え、他のメンバーも同意見の様子。
 よし、じゃあ明日はそういう感じで動いてみることにしようか。

 そんなわけで、本日の探索はここまで。船に戻って休もう。



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