魔拳のデイドリーマー

osho

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第23章 幻の英雄

第557話 龍の集落(?)

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 さて、本日は『渡り星』探索3日目である。

 ……え? なんでいきなり3日目かって? 2日目飛ばしてないかって?
 うん、飛ばしたとも飛ばしてないとも言えるかな。

 もちろん、これにはちゃんと理由があってね。2つほど。

 1つは、ただ単純に……2日目、つまり昨日1日は移動に費やしたから。
 このオルトヘイム号が、『帆船の限界速度? 何それ美味しいの?』と言わんばかりの結構なスピードで飛べるのはもう今更な話だけど、それでもここは『渡り星』という、1つの惑星。長距離を移動するにはそれなりに時間がかかる。

 シールドを発生させていても、さすがに大気圏で超音速出し続けるのは結構きついもんがあるからね。強度的にはもちろん、安全性の面で見ても。
 
 だから、それなりの速度で飛んでいたわけなんだが、そうなるとやっぱり多少なりとも時間はかかるわけで。
 テオの案内があったとはいえ、船を動かして移動するのにそれだけの時間がかかったのだ。

 ……あとは、そこそこゆっくりめなスピードで行かないと、何か面白そうなものがあったときに見逃すっていう懸念もあったから、っていうのも理由の1つではあるな。

 そして、2日目をスルーしたもう1つの理由。

 着陸前の話になるんだが……この星の1日が40時間あるっていう話をしたのを覚えているだろうか。
 さらに聞いたら、大体昼と夜……日が出ている時間と沈んでいる時間は半々くらいだそうだ。

 しかしだからといって、普段1日24時間で生活してる僕らが、いきなり1日40時間の生活にするってわけにもいかない。
 仮にそれをやろうとしても、絶対うまくいかないし。

 ええと、だいたい1日8時間寝て16時間起きてると仮定して……それを1日40時間に直すと……13時間くらい寝て27時間起きてる感じ? になる。

 ……うん、寝る方はともかく、そんな年に1回の特番みたいな長さ、起きてらんないだろ絶対。
 しかも、ただ起きてるだけならともかく、その27時間の中で探索とか、その探索で手に入れたものの調査やら解析もやるんだから。

 うん、いくら僕らでも絶対体壊すわ。
 仮に体壊さないとしてもしんどいし、やりたくない。

 なので僕らは、この40時間を20時間×2に分割し、1日を20時間とした生活サイクルで今は過ごしているのだ。

 起きている時間はそんなに変えず、だいたい12~14時間起きて、残り6~8時間寝る。寝る際には、必要に応じて、体力回復や疲労回復を助けるマジックアイテムを使って、その時間の睡眠でも寝られる+寝つきがよくなるように補助している。

 1日目(の、20時間)、僕らは起床時間の間に、調査やらその後のあれこれを済ませて、寝た。
 そしてその次の2日目(の、20時間)になってから、また12時間起きて8時間寝る形で1日を過ごして……しかしその1日は、移動に丸々費やしたわけだ。

 そもそも、『1日目』が昼だったってことは、『2日目』はこの星の夜、ほぼずっと暗い時間だ。
 探索……もまあ、できないことはないかもしれないが、効率的じゃない

 そんなわけで、2日目は丸ごと移動に使って、スキップさせてもらったわけである。説明終了。



 さて、丸1日の移動の後、僕らはまた、適当な湖的な場所を見つけて、そこに『オルトヘイム号』を停泊させた。
 そして今日も、探索担当と留守番担当の2チームに分かれ、僕らは探索のため外に出た。

 なお、前回の探索では留守番だったテレサさんは、今回、厳正なる抽選(くじ引き)の結果、テーガンさんと入れ替わる形で探索班に参加している。
 ウォルカの冒険者ギルドで見たっきりの、冒険者としての服―――動きやすそうな軽装に身を包んだ状態で。いつもシスターの修道服だから、やっぱ新鮮だ。

 そして、テオに案内されて向かった先にあったのは、

「ようやく到着しましたね……ここが、私が以前住んでいた、龍の集落の1つです」

「へえ……集、落?」

「集落、っつーか……」

「……家の一件もねーんだが?」

 テオに案内されて、彼女が昔澄んでいた……すなわち、彼女以外の話が通じる『神域の龍』がいる場所に案内してもらったわけなんだが……
 ……その、なんだ。『集落』って単語、ひょっとして地球と『渡り星』で意味違ったりする?

 そこに広がっているのは、雄大な大自然……だけ。
 平原と森の中間、とでもいえばいいんだろうか? かなり大きな木がたくさん生えているものの、それなりに開けた場所もあちこちにある、という感じの場所だった。

 しかし、それだけだ。

 集落といっているにも関わらず……家みたいなものはどこにも、1件もない。

 テオも僕らのこの反応については予想済みだったようで。
 苦笑しながらだが、きちんと補足説明してくれた。

「皆さんの住む大陸にある、人間や亜人用の集落とは、見た目やら何やらが大きく違いますので……驚かれるのも無理ないかと。ここでは、多くの龍は、元の姿……巨大なドラゴンとしての姿で暮らしています。家とかは特に用意していませんね、龍には小さいので」

「野宿ってこと?」

「ええ、まあ。今私は、皆さんに合わせて人間の姿になってますが、私達はもともと龍の姿が基本ですから。わざわざ家を建てて住むようなことまではしません。晴れの日はそのへんに寝転んでたり、空を飛んで体を動かしたり、狩りをしたりしますし、雨風の日は木陰や洞窟に避難する、みたいな感じです。『集落』っていう言い方にも、単にこのあたりに住んでいる、以上の意味は特にないんです。まあ、住みやすいように多少切り開いたりはしますけどね、時々」

 なるほど、そういう感じか。
 そう説明してもらうと、大体のイメージはできる。

 要するに……言い方はアレだけど、野生動物や魔物と同じなんだ。特に必要としてないし、体の大きさ的に狭いとしか思えないから、わざわざ『家』ってもんを建てることはない。野生の生き物と同じように、普通にその辺に寝そべって暮らしている。

 このあたりは、『集落』というよりは……テオの群れが定住している、いわば『縄張り』……みたいに言い換えた方がしっくりくるのかもしれない。

 ただ、そうだとしても……見る限り、『龍』がどこにもいないように見える。
 昼間だから、集団で狩りにでも出かけちゃってるのかな? 天気もいいし。

「いえ、そうしている者もいるでしょうが……ただ単に隠れているだけだと思います。ミナトさん達……ここらでは見かけない者達が何の前触れもなしに近づいてきたから、警戒してるのかもです。……うんしょっと」

 そう言うと、何とテオはその場で服を脱ぎだし……あっという間に裸になってしまった。ちょ、ちょっと何してんのいきなり?

 しかし、あわてた僕が何か言うより先に、テオの体が変わっていく。
 その光景を見て……僕は、彼女がいきなりオールヌードになった理由を理解した。

「……ああ、そういや君、初めて会った時はその姿だったっけね」

『はい。最近はずっと人の姿でしたから、私自身時々忘れちゃいそうでしたけどね。お借りしてる服を破いちゃいけないので、脱がせてもらいました。……あ、きちんとたたんでから変身すればよかった。すいません』

 そう言うテオの姿は、ここ最近すっかり見慣れた人間の姿から、彼女本来の姿である、白い鱗の巨大な龍―――『メテオドラゴン』としてのそれに戻っていた。
 人間としての発声機能がなくなったから、念話で頭に直接声が届いてくる。

 そういえば、初めてテオに出会った時……いきなり龍の姿から人間の姿になって……うん、その時も全裸だったからびっくりしたの思い出した。

 そして、翼を広げて空へ飛びあがると……同じように念話で、しかし僕達以外に向けて呼びかけ始めたようだった。
 僕らに向けてのものじゃないから、内容はわかんないけど。
 傍受しようと思えばできたかもしれないが、その前に終わったようだ。

 それからほどなくして……森(集落)のあちこちに、わかりやすい気配がぽつりぽつりと現れ始める。
 急に出てきたところを見ると……どうやら今までは、魔法か何かで意図的に隠れてたみたいだな。テオの言う通り、僕らを警戒してたのか。

 しかしまあ、魔法を使ったとはいえ、見事に隠れてたもんだな。こんな―――



 ―――何匹もの、大きな体の龍が……その気配も悟らせずに。



 僕らの目の前には、今、隠れるのをやめて出てきた龍達が、その姿を見せている。

 パッと見た感じ、種族は同じものばかりじゃない。いくつもの種族が入り混じって暮らしているみたいだ。
 体の色、大きさ、形……その他もろもろ、多種多様な見た目をしている。

 しかし、大きさに差はあれど、さすがは龍と言ってもいいくらいには体が大きい者達ばかりだし……そこそこ強面?でもあるから、圧迫感はある。
 というか、この大きさの集団が、魔法使ってたとはいえ、気配的にも物理的にも、よくこの森の中に隠れられてたもんだな。そっちの方がむしろ関心するんだが。

 その群れの中から、1体の龍が僕らの前に進み出て……正面に立った。

 ドラゴン……っていうより、トカゲ?
 コモドオオトカゲをさらに巨大にしたような見た目で、翼はない。歩行も4足で、陸上タイプの龍みたいだ。

 他の龍がさっと道を開けているところを見ると……この人、いや龍が、この集落の代表か何かなんだろうか?

 そのまま、じっとこっちをにらんでいる。けれど、何も話しかけてはこない。
 ただこっちを……油断なくうかがっているというか、観察しているような感じのままだ。
 警戒してるんだろうか? まあ、いきなり現れたよそ者なわけだし、当然と言えば当然……

 ……あ、いや違う、コレ多分、念話でテオにだけ話してるな。
 横目で見ると、テオもその龍の方をじっと見たまま口を閉じてるし。

 ちょっと内容が気になったので、マナー違反かもとは思いつつ、傍受してみる。
 すると、やはり2人の龍の間で交わされているやり取りが聞こえてきた。

『突然ふらりといなくなったかと思えば、今度は余所者をこの集落に連れてくるとは……一体何を考えているのだ?』

 龍の代表さん(暫定)、念話だけど、割と低くて渋いイケボである。
 年齢の重みを感じる声だな……いくつなんだろ? 龍って確か、1万年以上生きる奴もいるんだよな……

『旅先で仲良くなった人たちが、『渡り星』を見て回りたいと言っているので案内しているだけですよ。別に皆に危害を加える意図などはありません。何か問題でも?』

『我ら龍の生きるこの星に、この集落に、そう軽々しく余所者を招き入れることを問題でもないとでも思っているのか、むしろ、お前は?』

『……? そんな掟は聞いたこともありませんし、この集落とて、基本的に『来るもの拒まず、去る者追わず』のスタンスでしょう? 言い方はあれですが、あなたも含めて、元々の居場所を捨てた余所者の集まりですよ、この集落』

『それは我らやお前が『龍』であればこそだ。掟が存在しないのは、そもそもそのような事態を想定していなかったがため……よりにもよって他の星の住人を招くなど、我々にとって厄を呼び込む結果にしかならん』

『初対面の相手にそんなこと言ってはダメですよ、長老。ミナトさん達、すごくいい人達ですよ? ……まあ、確かに多少ぶっ飛んでる部分はありますけど。我々龍から見ても』

 あーうん、やっぱそういう評価なのね、テオ。君から見ても。
 まあ、いい人たちだって言ってくれてるのはうれしいし、『ぶっ飛んでる』なんて全然言われ慣れてる言葉だから、別に気にしないけども。

 しかしどうも相手のドラゴン……『長老』さんは、地球からやってきた僕らに対して、関わりを持つことに否定的なようだ。
 単に余所者が嫌いなのかと最初は思ったけど、この人(龍)のことをよく知っているであろうテオが、なんだか不思議そうというか、いぶかしんでいるような感じになってるのを見ると……何か理由があるのかな?

『何を言おうとも、我らはここに余所者を受け入れるつもりはない。早々に立ち去ってもらおう……大人しく去るのであれば、手荒な真似はせん。もし聞き入れぬとあれば、気の毒だがこの牙にかかってもらうほかないな』

『100%返り討ちにされて集落滅ぶと思いますのでそれはやめましょうね。……長老、何でそんなに、見ず知らずの相手を毛嫌いするんですか? 私の知っているあなたは、こちらに害がない限りは、そういう異物に対して、嫌うとか排除するよりは、単に無関心でいる感じだったと思いますけど……もしかして、私が留守にしている間に、『余所者』関係で何か嫌なことでもありました?』

 そうテオが聞いた瞬間。長老さんの表情がわずかに、ぴくりと動いたように見えた。
 龍の表情なんてものには疎い僕らでも気づけた変化だ。テオも確実にそれには気づいただろう。

『……そうみたいですね。何があったんですか? よくよく見れば、前よりも集落にいる龍の数や種類が増えているみたいですけど。……もしかして……』

 そこでテオは一拍置いて、

『他の星から来た『異物』が……どこかに我が物顔で陣取って、こちらに迷惑な好き勝手なことをやってたりします? 縄張りの圧迫とか、勝手に変な建物を建てたりとか』

 おっ、またぴくりと。図星のようだ。

 そして、今のテオが聞いた内容は、おそらく……そういうことだろうな。

『まあ、別に私達も、ここに何か見どころとかがあると思ってきたわけじゃないですし……そこまで歓迎されるともそもそも思ってませんでしたしね。それはいいですよ。お望み通りさっさと出て行きますので……そっちの話を聞かせてもらっていいですか?』



 それからしばし。

 テオの聞き取りで、ここから結構遠く離れた位置になるが……とあるエリアに、『外』からやってきた得体のしれない者達が、城のような神殿のようなものを建てて住み着いた、という話を聞くことができた。

 しかも、そいつらはただ住み着いただけではなく、その周辺のエリアに、どこからかいきなり現れた大量の龍を放ち、そこにもともと住んでいた龍達を追いやった。
 追いやられた龍達は、その突如現れた謎の龍達に対話を試みたものの、こちらの話を一切聞く気配はなく、逆にその龍達を率いていた……僕たちと同じような見た目の人間の指示に従ってこちらを攻撃してきたのだという。

 戦いの中では死者も出て、やむなくもともといた龍達は縄張りを捨てて……そのうちのいくらかはこの集落に流れ着いた。
 そういう感じで、全体から見ればごく一部だとは言え、数としては決して少なくない龍が、その『余所者』の被害に遭った。

 そしてその『余所者』は、その姿形からして、今『渡り星』が停泊している星に住む住民であるとみられている。
 それゆえに、同じ地球から来たと思しき僕らのことも、最初から警戒し、受け入れないような雰囲気になっていた……ということのようだ。ちゃんと理由があったんだな。

 ……僕や師匠が。『どんな素材が取れるのかな』とかふと思って好奇の視線を向けていたことが理由じゃなくてよかった(ぼそっ)。

 しかし……なるほど、なるほど。
 これはどうやら、見つかったかもしれないな。連中の拠点が。

 地球からここにやってきて、クローンドラゴンの養殖やら何やら好き勝手にやっているんであろう、あの悪の秘密結社の居場所が。

 結局、せっかく立ち寄ったドラゴン達の集落ではあったけど、歓迎されなかったということもあり。滞在と呼べるほどの時間もいないままに、僕らはそこを後にすることになった。

 まあ、残念と言えば残念だけど……次の目的地がはっきりしたし、良しとしよう。
 さっさと出ていく代わりに、長老さんから、その『余所者』の代々の居場所も聞けたしね。

 さあて、それじゃあ―――





 ―――焼き討ちにでも行こうか♪





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