記憶の中の彼女

益木 永

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第34話

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  *

 それは、まさしく神の気まぐれだっただろう始まりだった。
 少年はある日、よく神社に通う女性の存在に気づくようになった。その女性は、傍目から見ると高校生~大学生ぐらいの年齢の女性だった。
 その女性が来る時は大体朝~昼、たまに夜もあったがそれでも早い時間帯に来ることが多かった。もし、彼女が高校生だとしたら朝から昼に神社に来る事は最悪サボリだと見えるし、大学生だとしてもやはりほぼ毎日来ているのは不自然だと考えられる。
 けれど、その少年は彼女を一目見てわかっていた。
 その女性は病に侵されている。

 気づいた時から、しばらくその女性の様子をずっと眺めていた。
 ある日。その女性と少し話をしてみたいと、思いついた少年は姿を現して彼女の前に現れた。
「君は毎日、ここに来ているよね」
 そんな風に、声をかけた。
 いきなりこんな事を言われると大体の人は警戒するだろうけど、けれどこの様に声をかけてみたのだ。
「ふふっ、そうね。大事な事だから」
 けれど、彼女は急な声掛けに動じずに返してきたのだった。
 これを見た少年はその女性により強く関心を持つようになった。だから、更に話をしてみる事にした。
「大事な事か。それは、健康とかそういったもの?」
「そうね……」
 女性は考え込む様子を見せた後に、こういう事かと言う風に顔をまた上げて応える。
「それもあるけれど、ここに来るのは私にとっては日常みたいなものなの」
「へえ……」
 それから、少年は彼女が来る度に彼女の目の前に現れる様になった。思えば、彼女はこの時、少年の正体に気づいていたのかもしれない。
 別に、少年と彼女が顔を合わせる様になったからと言っても、何かを話すみたいな事は殆ど無かった。晴れの日も、雨の日も、曇りの日だって大きな事は話さない。
「また、来たんだね」
「ええ、また来たわ」
 そんな一言だけでこの山の中にある神社で、ゆっくりと過ごしていた。
 お互い何も言わず。

「私、妹がいるの」
 その日は、秋の紅葉が山を彩っていた時期だった。
 少年が女性の前に現れてから数カ月経って、彼女は突然このような話をし始めたのだ。
「……妹がいるんだね」
 少年はその妹について、聞いてみる事にしたのだ。
「ええ。私とは十歳位、年が離れているんだけど……可愛い妹なの」
 妹の事を話す時の彼女はとても楽しそうだ……けれど、何だか寂しそうだ。
「見舞いに来てくれる度に、新しい折り紙の作り方を教えて欲しいってせがまれちゃうの。その時の凛……私の妹の名前なんだけど……とっても可愛くて」
「……そっか」
 妹の名前は、凛と言うのか。
 少年はそこで彼女に名前を聞いていない事を思い出す。とはいっても、彼は人ではなく神とかそういった類の存在だった。能力を行使しない時の彼は、本当にただの人間と変わらないものの……病に侵されているのを感づいた時から、一緒に名前に付いても知っていた。
 今までは名前では言わなかったが、聞いてみようと考えた。
「そういえば、君……あなたの名前を聞いていなかったね」
「……そういえば、そうね……けど」
 そこで、少年は驚かされる事を言われた。
「あなたはもう、名前を知っている筈だと思うわ……しずっていう私の名前を」
 少年が神とかそういった存在だったとしても、最初に出会った時からその正体を彼女に気づかれていた事を知らなかったのは何かの運命だったのだろうか。
 けれど、それからも二人の交流は続いていった……この、神社の中でだけの交流は。

 そんなある時、少年は静の妹の身に起きるあの悲劇を予知する事になった。
「あなたは、未来予知とかそういった事は出来るのかしら?」
 静がある日、そんな事を聞いてきた。
 時期は春が見えてくる、そんな時期。冷えていた気候は少しずつ暖かい気候へと変化していった、そんな時期だった。
「出来るよ。この神社にいる神とか、そういった存在は内に秘めた能力を行使する事で起こせない事を起こせる」
 少年の能力は万能ではあったが、一方で制約もあった。
 しかし、それは目の前の人間の静に話せる事ではないので黙る。
「……そうなのね」
 静は遠くを眺める様にそう言った。
 そんな彼女の様子を見て、将来彼女の近くに現れる人がどんな出来事と遭遇するのか、能力を行使して見る事にした。
 その時は、軽い気持ちだったのだろう。
 けれど、思えばそれがもう一つの始まりだったと言えるだろう。

 能力を行使した少年が見えた光景。
 それは静の葬式だった。その中で、はっきりと目に見えたのは小さい女の子の姿。少年は、多分その女の子が静の言う妹の、凛だという事を理解した。
 彼女は、泣いていなかった。もしかしたら、姉が亡くなったという事実を理解できていないのかもしれない。けれど、少年の目には見えている。その手には姉に教えて貰った折り紙たちがある事を。
『……静の事が、大好きだったんだろうね』
 少年は呟いた。
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