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第4章 愛と硝煙の日々
9 女たちの挽歌
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「あと二十分ほどで、目的地に到着する。予定通り、フタマルマルマルに威圧攻撃を開始する」
『了解した。攻撃を確認したら、こちらも突入を開始する。以上、健闘を祈る』
アランが通話を切ったことを確認すると、龍成は隣で操縦桿を握っている凛桜に告げた。
「聞いたな、凛桜……。攻撃開始は予定通り二十時だ」
「了解……。青ヶ島の時と同じように、建物や人への直撃はできるだけ避けるわ」
龍成の言葉に頷くと、凛桜がステルス・コブラの速度を上げた。二十時ちょうどにレオナルド=ベーカーの別荘に到着するように、航行速度を調整したのだ。
「龍成、一つ訊いていい?」
「何だ……?」
昼間、龍成と瑞紀の通話を隣で聞いていた凛桜は、思い切って訊ねた。あの時の瑞紀の様子は、明らかに普通ではなかった。龍成も不審に思ったようだが、同性である凛桜にはその正体が何だったかはっきりと分かった。あれは、性感を噛み殺していた声であることを確信したのだ。そのことから凛桜は、瑞紀と神崎の関係に気づいたのだった。
「龍成はまだ瑞紀ちゃんを愛しているの?」
その答えを聞くことは、凛桜にとって勇気がいることだった。だが、確認せずにはいられなかった。
「ああ……。愛している」
即答した龍成の横顔を見つめ、凛桜は小さくため息をついた。
「もし、瑞紀ちゃんの気持ちが龍成から離れていったとしても、彼女を愛している?」
「そうだな……。そうなったとしても、俺の気持ちは変わらない」
龍成の答えに、凛桜は唇を噛みしめた。そして、抑えきれない感情のままに龍成に訊ねた。
「あたしは龍成の相棒になったわ。龍成は言った。相棒とは命を賭けて愛し、護るべき相手だと……。瑞紀ちゃんはもう、龍成の相棒じゃない。それなのに、龍成は彼女を愛し続けるって言うの?」
「凛桜……。お前の言いたいことは分かる。だが、俺にとって、瑞紀はただの女ではないんだ。あいつは、涼子の……俺の妻の妹だ。たとえ、あいつが俺を憎んでいたとしても、俺は瑞紀を愛し続ける」
龍成の言葉を聞いて、凛桜は黙り込んだ。そして、再び口を開くと、真剣な口調で訊ねた。
「それは、女として……? それとも、涼子さんの妹として……?」
「分からない……。だが、少なくても今は、一人の女として瑞紀を愛している。その気持ちが、妹を思う兄のように変わっていくのかは、俺にも分からない……」
「そう……。龍成、一つだけ本音を言っていい?」
凛桜が龍成の横顔を見つめながら訊ねた。
「何だ……?」
「正直に答えてんじゃねえよ、この唐変木ッ! 嘘でもいいから、あいつのことはもう何とも思ってないって言えないのかッ! 誠実さと優しさをはき違えてんじゃねえぞ、ばかやろうッ!」
激情に任せて、凛桜が龍成を怒鳴りつけた。その大きな瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「凛桜……」
驚きに言葉を失いながら、龍成が眼を見開いた。
「ああ、スッキリしたッ! 到着まであと十分よ。フタマルマルマルちょうどに攻撃を始めるから、準備しておいて……」
左手で涙を拭うと、凛桜がニッコリと微笑みながら告げた。
「分かった……。凛桜、お前、いい女だな……」
「ふんッ! 今頃気づくなんて、鈍感すぎるわよッ!」
龍成の言葉にカアッと顔を赤らめると、凛桜が冷たく言い放った。
灼熱の太陽が沈む海平線を目指して、AH-10Sステルス・コブラが時速四百キロ以上で航行していった。
「あッ、あッ、いやぁッ……! また、イクッ! 許してッ! イグぅうッ……!」
セミロングの髪を振り乱しながら、玲奈が緊縛された裸身を大きく仰け反らせた。縄掛けされた乳房を突き出すと、玲奈はビックンッビックンッと総身を激しく痙攣させて絶頂を極めた。焦点を失った瞳からは随喜の涙が滂沱となって流れ落ち、ワナワナと震える唇からは白濁の涎がネットリとした糸を引いて垂れ落ちた。
巨大なバイブレーターが挿し込まれた秘唇から、プシャアッという音を立てて大量の愛液が弧を描いて噴出した。赤く上気した裸身は痙攣が止まらなくなり、鴇色の乳首はガチガチに屹立していた。大きく開かれた両脚の間には、失禁したように大きな愛液だまりができていた。
「……お願い……もう……許して……ハァ……ハッ……」
愉悦の硬直を噛みしめた裸身を脱力させてベッドに沈み込むと、玲奈はせわしなく熱い吐息を漏らしながら哀願の言葉を告げた。絶頂に達した回数は、すでに十回を超えていた。凄絶な官能に全身の細胞は灼き溶け、脳髄さえもドロドロに溶かされていた。限界を超えた快感は、玲奈にとって苦痛以外の何ものでもなかった。
「続けろ……」
レオナルドの言葉を受けて、三人の女たちによる凌辱が再開された。キングサイズのベッドの中央に寝かされた玲奈の左右から、二人の女が豊かな乳房を揉みしだき、指先で乳首を扱き、唇で咥えながら甘噛みを始めた。そして、両脚の間にいる女はバイブレーターのスイッチを再び入れると、玲奈の花唇に挿し入れた。大きくウネリながら肉襞を抉られ、最奥まで何度も貫かれると、玲奈は激しく首を振って悶え啼いた。
「ひッ、ひぃいいッ……! だめぇえッ! あッ、あッ、あぁああッ……!」
快美の火柱が腰骨を灼き溶かし、背筋を舐め上げて脳天で弾けた。快絶の雷撃が脳髄を直撃し、四肢の先端まで痺れさせた。玲奈は総身を大きく仰け反らせると、ビクンッビックンッと激しく痙攣しながら瞬く間に絶頂に駆け上った。
「どうだ、レナ……? 少しは自分の立場を思い知ったか? まだ分からぬと言うのであれば、このまま続けるぞ。心臓が止まるのと発狂するのと、どちらが先かを見るのも一興だ」
冷酷なレオナルドの言葉に、玲奈は随喜の涙を流しながら小さく首を振った。
「もう……ゆるして……ください……ベーカーさま……」
昨夜、玲奈はこのハレムから逃亡を企てた。毎日のようにレオナルドに凌辱され、玲奈は忍耐の限界を超えていたのだ。だが、全裸で丸腰の玲奈にとって、その成功率は限りなく低かった。屋敷から出ることもできずに、玲奈は完全武装をした警備員に捕らえられた。その罰が、この女たちの責めによる絶頂地獄であった。
「<西新宿の女豹>と呼ばれた女が、ずいぶんとしおらしい言葉を吐くものだな。自分の立場を、自分の口から言ってみろ」
レオナルドの命令に、玲奈は懸命に息を整えながら答えた。
「私は……ベーカー様の……愛人です……」
だが、レオナルドは氷のような微笑を浮かべながら告げた。
「違うな……。私に逆らって逃亡しようとしたお前は、すでに愛人の地位を剥奪された。今のお前は、単なる奴隷に過ぎない。それも、最下級の性奴隷だ」
「性……奴隷……」
レオナルドの告げた言葉に、玲奈は愕然としながら震えた。その様子を楽しそうに見つめながら、レオナルドが追い打ちをかけるように告げた。
「愛人であれば、お前を抱くのは私だけだ。だが、性奴隷に堕ちたお前は、この屋敷にいる男たちすべての相手をしなければならない。当然ながら、お前に与えていた部屋や境遇も一変する。今日からお前は、地下牢で奴隷たちと一緒に暮らすことになる。恐らく、地下牢の中でも男の奴隷たちに凌辱され続けるだろう」
「そんな……」
レオナルドの言葉に、玲奈は恐怖に震え上がった。蒼白な表情で涙を流しながら、玲奈はレオナルドに哀願した。
「お願いします、レオナルド様……。どうか、お許しください。二度と逆らったりしません。性奴隷にすることだけは、許してください……」
ガクガクと全身を震わせて哀願する玲奈を見下ろして、レオナルドが冷徹な笑みを浮かべながら告げた。
「レナに首輪を付けろッ」
「はい……」
レナの左乳房を揉みしだいていた女がベッドから下りると、真っ赤な首輪を手に取った。そして、それを見せびらかせるようにレナの眼前に掲げた。
「ひッ……! いやッ……! やめてッ……!」
幅五センチくらいの真紅の革でできた首輪の接合部には、銀色に輝く長方形の箱が取り付けられていた。その箱の表面に刻印された髑髏の徽章を見て、玲奈は驚愕のあまり濃茶色の瞳を大きく見開いた。
「その首輪には、小型の爆弾が仕掛けてある。その威力はお前の頭部を粉々に粉砕するには十分なものだ。この屋敷から五十メートル離れた瞬間に、その爆弾は爆発する。外すことは、私にしかできない」
「いやぁああ……!」
恐怖のあまり絶叫した玲奈の首に、女がカチリと音を立てて真紅の首輪を嵌めた。次の瞬間、ピーッという音と同時に髑髏の眼孔が赤く光って起爆システムが起動した。
「お願いします、ベーカー様ッ! 取って……これを取ってくださいッ!」
セミロングの髪を振り乱しながら、必死で玲奈が懇願した。だが、レオナルドは蒼青色の瞳で玲奈を見据えると、ニヤリと微笑を浮かべながら言い足した。
「一つ言い忘れた。無理にそれを外そうとすれば、その瞬間に爆発するぞ。その髑髏の眼孔は網膜センサーになっていて、私の網膜パターンにしか反応しない」
「そんな……。取ってッ! 取ってください、ベーカー様ッ! 何でも言うことを聞きますッ! これを外してくださいッ!」
必死の形相で哀願する玲奈を楽しそうに見つめると、レオナルドが女たちに命じた。
「レナを地下牢に連れて行けッ!」
「いやぁああ……!」
女たちが力尽くで玲奈を立ち上がらせた。玲奈は必死で抵抗したが、数え切れないほど絶頂を迎えた体には思うように力が入らず、両腕を後ろ手で拘束されている状態では為す術もなかった。二人の女に両脇から腕を取られて、引きずられるように玲奈は地下牢へと連れて行かれた。
廊下に響き渡る玲奈の絶叫を協奏曲のように聴きながら、レオナルドは楽しげな微笑を浮かべた。
(レナは十分に堪能した。あとは死ぬまで奴隷として飼ってやるだけだ。次の標的は、ミズキ=ユズリハだな。あの王雲嵐が七年もの間、執着し続けた女か……。どれほどの女か、ぜひ味わってみたいものだ)
(レナ、ミズキを手に入れ、リューセイ=シロガネ、アラン=ブライト、ジュンイチロー=カンザキの三人を抹殺すれば、新宿を手に入れるのは容易い。新宿を手始めとして、銀座、六本木、渋谷、池袋……と、日本有数の繁華街を支配していけば膨大な金が手に入る。その金を使って、私はシチリアン・マフィアの頂点に立つ。そして、やがては世界中の裏組織を統合して巨大な帝国を作り、その帝王として君臨する)
見果てぬ夢を追い求める少年のように、レオナルドは蒼青色の瞳を輝かせた。
その瑞紀たちが玲奈を救出するためにこの別荘を襲撃しようとしていることを、レオナルドは部下からの報告ですでに知っていた。当然のことながら、その襲撃を迎え撃つ準備は万全に整えていた。
(早く来い、ミズキ……。お前の目の前で他の三人を殺し、お前を私のモノにしてやる)
レオナルドが口元を吊り上げてニヤリと笑みを浮かべた。その微笑が笑いとなり、哄笑となった。誰もいなくなった室内に、レオナルドの狂笑が高らかに響き渡った。
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ…………!
大気を震撼させる轟音とともに、次々と粉塵が舞い上がり土砂が噴水のように噴き上がった。ステルスコブラの回転式銃座にある30mmガトリング砲から、毎分六百五十発の速度で多目的榴弾が発射されたのだ。
凄まじい爆音を響かせながら大地が鳴動した。UZIーPROを持った警備員たちが一斉に地面に体を伏せて、両手で頭部と鼓膜を覆い尽くした。
『威圧射撃はあと二回行われる。三回目の威圧射撃が終了したら突入するッ!』
ヘルメットの内側に装着された骨伝導スピーカーから、アランの声が響いた。瑞紀はM4コマンドーZ3のグリップを右手で握り締めると、五十メートル先にある突入予定の西門を見据えた。西門前にいる二人の警備員は壁を背にして座り込み、上空を飛翔するAH-10Sステルス・コブラの機影を見上げていた。
「分かった。突入経路を確保するわッ!」
無線マイクに向かってそう告げると、瑞紀はM4コマンドーZ3の発射モードを「3shot」に切り替えた。
『左は私がやりますッ! 楪さんを右をお願いしますッ!』
骨伝導スピーカーから、早瀬はるかの声が聞こえた。左横を見ると、はるかがM16A7を構えながら頷いてきた。瑞紀ははるかに頷き返すと、M4コマンドーZ3の照準器を西門の右側にいる男の右肩に合わせた。
「同時に攻撃するわよ。スリー、ツゥー、ワン……ショットッ!」
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
ダンッ……ダンッ……ダンッ……!
3点射と単射の銃撃音が重なり、西門前の二人の警備員がほぼ同時にUZIーPROを取り落として右肩から鮮血を噴出させた。
ズッドーンッ……!
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ…………!
ステルス・コブラの兵器搭載ステーションから発射された空対地ミサイルが、大地に巨大なクレーターを形成して凄まじい勢いで粉塵を巻き上げた。同時に、機首下の回転式銃座から30mmガトリング砲が連射され、多目的榴弾が抉り取った土砂を噴水のように噴き上げた。
(凄え……、まるで戦争じゃねえか……? これに比べたら、ヤクザの抗争なんて子供の遊びみてえなもんだ……)
目の前で繰り広げられる爆撃を見つめながら、純一郎が愕然と言葉を失った。
『純、絶対に私から離れないで……!』
左横にいる瑞紀の声が骨伝導スピーカーを通して聞こえた。ステルス・コブラの威圧攻撃による爆音で、通常の会話など聞こえないのだ。
「分かった……」
立場が逆だと思ったが、純一郎は瑞紀の顔を見つめると素直に頷いた。この戦場では、自分が単なる足手まといの素人に過ぎないことを身をもって知らされた。
(これがさっきまで俺の腕の中で悶え啼いていた女かよ……。まるで別人じゃねえか……)
爆風に黒髪を靡かせながら黒曜石の瞳を爛々と輝かしている瑞紀は、戦い女神のように美しかった。
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ…………!
ステルス・コブラから30mmガトリング砲による多目的榴弾が斉射された。轟音とともに土砂が噴き上がり、西門の内側から敵の気配が完全に消失した。十数名いた警備兵たち全員が意識を失ったか、死亡したことは間違いなかった。
空対地ミサイルは当然のこと、30mmガトリング砲の多目的榴弾でさえ直撃を受けなくても着弾場所から半径数メートル以内にいれば、その衝撃と爆風で鼓膜は破れて手足の骨など簡単に骨折してしまうのだ。
『突入準備ッ! スリー、ツゥー、ワン……突入ッ!』
ヘルメット内の骨伝導スピーカーから、アランの号令が響き渡った。瑞紀はM4コマンドーZ3を右手で握り締めると、西面に向かって走り出した。そのルートは、純一郎と西門の直線上をキープした。自分の体を盾にして、純一郎への攻撃を防ぐつもりだった。
西門を通過した瞬間、瑞紀はゾクッとうなじの毛が逆立った。前方から圧倒的な威圧感を感じた。言葉よりも先に体が動いた。長い黒髪を舞い上げながら背後を振り向くと、瑞紀は純一郎に向かって体を投げ出しながら叫んだ。
「伏せてッ……!」
次の瞬間、ヒュルヒュルッという音が響き渡った。
『グレネード・ランチャーだッ! 伏せろッ!』
骨伝導スピーカーからアランの声が響き渡った。
ドッカーンッ……!
瑞紀とアランがいた場所のすぐ直前にグレネード・ランチャーが着弾し、轟音とともに粉塵を舞い上げた。瑞紀は豊かな胸を純一郎の顔に押しつけながら、凄まじい爆風から彼の頭部を守った。
「ばかやろうッ! 何考えてやがるッ!」
胸の下で純一郎の叫びが聞こえると、瑞紀は力づくで体を入れ替えられた。純一郎が瑞紀の上にのしかかり、全身で彼女を地面に押しつけた。
『壁を盾にして隠れろッ!』
アランの命令に、はるかたちが西門の壁の影に身を潜めた。だが、純一郎は瑞紀を地面に押しつけたまま、動こうとしなかった。
「純ッ! どいてッ!」
「伏せていろ、瑞紀ッ!」
西門の目の前で伏せ続けていることは、標的にしてくださいと敵に告げているようなものだった。
「ごめん、純ッ……!」
瑞紀はM4コマンドーZ3を左手に持ち替えると、右手で純一郎の胸ぐらを掴んだ。成人男性の六倍以上の筋力を持つ高性能義手によって、純一郎の体が宙に浮いた。瑞紀は純一郎の腹に右脚を入れると、巴投げの要領で彼の体を西門に向かって投げ飛ばした。
「うわあぁあッ……!」
純一郎は西門の外の地面に背中から落ちると、その勢いで数回転しながらアランたちがいる場所へ転がっていった。アランが素早く純一郎の左足首を掴むと、有無を言わさずに自分の元へ引き寄せた。
『瑞紀、お前も早く来いッ!』
骨伝導スピーカーから聞こえるアランの声に、瑞紀は叫び返した。
「グレネードの発射位置は見えた?」
『三階の右から三番目の窓だッ!』
瑞紀の意図を理解すると、アランが叫んだ。
「分かったッ! 狙撃するッ!」
瑞紀は膝立ち姿勢を取ると、両手でM4コマンドーZ3を構えて照準を三階の右三番目のまでに合わせた。
(アレねッ……!)
M4コマンドーZ3に取り付けた赤外線スコープで、グレネード・ランチャーを構える男の影を確認した。
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
3点射特有の連射音が響き渡った。瑞紀は銃爪を引き絞ると同時に、右前方に頭から飛び込んで地面を三回転した。
ヒュルヒュルッという音とともに、直前まで瑞紀がいた場所にグレネード・ランチャーが着弾した。瑞紀が撃ったのとほぼ同時に、狙撃手もグレネード・ランチャーを撃っていたのだ。
轟音とともに襲ってきた爆風を、瑞紀は地面に伏せながらやり過ごした。粉塵が途切れた瞬間に三階の窓を見上げると、狙撃手の姿は消えていた。狙撃手の右肩を撃ち抜いた手応えは、間違いではなかった。
『無茶するな、ミズキッ!』
「文句はあとで聞くわッ! 今のうちに突入しましょうッ!」
骨伝導スピーカーから聞こえてきたアランの叱責を無視すると、瑞紀が左耳から伸びているマイクロフォンに向かって叫んだ。
正門の方からステルス・コブラの30mmガトリング砲が響き渡った。敵の主力はフランソワーズが率いる正門部隊と交戦中のようだった。
『分かったッ! はるか、カンザキ、俺に続けッ! 瑞紀は援護を頼むッ!』
「了解ッ!」
アランの言葉に頷くと、瑞紀は建物の西入口から十メートル右にある窓に向かって走り出した。入口から敵が出てくればその位置から援護射撃し、出てこなければ自分は窓から突入するつもりだった。万一、アランたちが待ち伏せされた場合、別の位置からの援護が必要になるからだ。
ダンッ……ダンッ……ダンッ……!
入口の内側左右から、UZIーPROの射撃音が鳴り響いた。アランがワルサーPDP-VP5を連射して応戦した。警備員たちが入口の壁に身を潜め、銃撃が一瞬止んだ。瑞紀に気づいている様子はなかった。瑞紀は立ち止まると、立射姿勢のまま左側の警備員に向かって両手でM4コマンドーZ3を構えた。この位置からであれば、入口の壁に隠れた警備員まで遮蔽物はなかった。
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
3点射の連撃音とともに、左側の警備員が万歳をするように仰け反った。狙いはあやまたず、警備員の右肩に三発の銃弾が着弾した。右側の警備員が半身を出したところを、はるかがM16A7で右肩を撃ち抜いた。警備員がUZIーPROを取り落として右肩を押さえながらしゃがみ込んだ。アランが駆け寄ると、UZIーPROを蹴飛ばしながら警備員の右首筋に手刀を当てて意識を奪った。映画などでは銃把で殴りつけるシーンを見るが、実際には照準が狂ってしまうためプロは絶対にしない行為だった。
銃撃が止んだところを見ると、近くに警備員はいなそうだった。正門の方からは激しい銃撃の音が聞こえているため、そちらに戦力を集中しているようだった。瑞紀はアランの元に駆け寄ると、純一郎を庇いながら建物の中に足を踏み入れた。
入口を入ってすぐ右手に二階と地下へ向かう階段があった。アランがワルサーPDP-VP5を構えながら、瑞紀に短く告げた。
「ミズキ、後ろを頼む」
「了解ッ……」
アラン、はるか、純一郎、瑞紀の順で、階段を下りた。瑞紀は壁を背にすると、近づいてくる人の気配に注意しながらゆっくりと階段を進んだ。
地下一階の踊り場に着くと、アランが身を潜めながら周囲の様子を探った。奥から複数の人の気配を感じた。
踊り場の先は五メートルほど先で突き当たり、通路が右に伸びていた。アランが壁沿いにゆっくりと進み、警戒しながら壁際から顔を出した。その瞬間、アランの左頬をかすめながら銃弾が撃ち込まれた。
ダンッ……ダンッ……ダンッ……!
「二人、十メートルだ……」
壁際に身を引くと、アランが落ち着いた口調で告げた。
「了解ッ!」
そう告げると、瑞紀はヘッドスライディングをしながら廊下に飛び出し、M4コマンドーZ3の銃爪を二度引いた。
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
3点射の連撃音が二度響き渡ると、二人の警備員がUZIーPROを取り落として右肩を押さえた。アランが素早く駆け寄り、手前側の警備員の頭に銃口を向けた。瑞紀は奥の警備員に近づくと、彼の頭部にM4コマンドーZ3の銃口を向けながら床に落ちたUZIーPROを遠くに蹴った。
はるかと純一郎は、その連携と制圧速度に驚愕して眼を見開いた。
「レナ=ヒメカワはどこにいる?」
左手でワルサーPDP-VP5のスライドをカシャンと引くと、アランが銃口を向けている警備員に訊ねた。これでシングル・アクションとなり、少ない力で銃爪を引くことが可能になった。そのことに気づき、警備員が蒼白な表情でアランを見上げた。
「い、一番奥の牢屋だ……」
震える声で告げた警備員の言葉を聞き、純一郎が走り出した。
「玲奈ッ……!」
「待って、純ッ……!」
瑞紀の制止の言葉を無視して、純一郎が十五メートルほど先にある牢屋に向かった。次の瞬間、廊下の突き当たりの壁がスライドし、5.56mm機関銃の三連砲門が現れた。
「純ッ……! 伏せてッ……!」
瑞紀の絶叫を嘲笑うかのように、凄まじい銃撃音が地下通路を席巻した。
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
アランがはるかに飛びついて、右側の壁際に身を伏せた。瑞紀は左壁際に身を伏せながら、純一郎の背中を見つめた。
純一郎の体が、ダンスを踊っているかのように小刻みに揺れた。十メートルという至近距離から、無数の5.56mmNATO弾を全身に浴びていた。銃口初速975m/sで発射されたNATO弾は、純一郎の左腕を引き千切り、鮮血を撒き散らせた。
「純ッ……!」
三連砲門が三十発ずつの銃弾を放出して停止すると、瑞紀は純一郎の元に駆け寄った。純一郎は仰向けに倒れ、口から大量に血を吐いていた。左腕は肩から千切れ飛び、周囲に血の海を作っていた。
「しっかりして、純ッ……! 純ッ……!」
純一郎に縋り付きながら、瑞紀が叫んだ。その黒瞳から涙が溢れ出て、頬を伝って流れ落ちた。
「瑞……紀……」
激しい失血のあまり、純一郎の顔が蒼白を通り越して土色に変わっていった。彼の命の灯火が消えかかっていることを、瑞紀は実感した。握り締めた純一郎の右手が、見る見るうちに冷たくなっていった。
「純ッ! 死なないでッ! 純ッ……!」
血だらけになるのも構わずに、瑞紀は純一郎の顔に頬を寄せた。
「悪い……な……。最後で……ドジを……踏んじ……まった……。玲奈を……頼む……」
そう告げると、純一郎がガクリと首を折った。
「純ッ……? 純ッ……! 純ッ……!! いやぁああ……!」
純一郎の体に覆い縋ると、瑞紀は長い黒髪を舞い乱しながら絶叫した。最愛の男を目の前で失った衝撃は、まるで自分の半身を失ったようだった。
「建物内部に警備員の数が少なかったのは、このためか……。ハルカ、瑞紀の様子を見ていてくれ。俺はヒメカワ警視を助け出す。まだ、完全制圧したわけじゃない。油断するな……」
「はい……」
目の前で仲間が殺されたことに呆然としていたはるかは、アランの言葉でハッと我に返った。慌てて瑞紀に駆け寄ると、そっと右手を彼女の背中において告げた。
「楪さん……。気持ちは分かりますが、作戦はまだ終わっていません。神崎さんも最期に、姫川課長の救出を楪さんに託したはずです……」
「気持ちは分かる……? あなたに、何が分かるのよッ!」
はるかの言葉にカッとなって、瑞紀が怒鳴った。
「それは……」
「愛する人を喪った気持ちが、あなたに分かるなら言ってみなさいよッ!」
黒曜石の瞳から滂沱の涙を流しながら、瑞紀が叫んだ。
「瑞紀、ハルカに当たるのはやめろ……。正門側からの戦闘音がしなくなった。ハルカ、フランソワーズに連絡を取って、制圧に成功したらすぐに人を寄越すように依頼してくれ……」
アランの声に、はるかが顔を上げた。その瞬間、両手で口元を押さえてはるかが言葉を失った。
「姫川課長ッ……! 非道いッ……!」
アランに抱かれた玲奈は、グッタリと意識を失っていた。その美しい肢体は全裸で両腕を後ろに縛られており、乳房までX字に縄掛けされていた。そして、全身には生々しい凌辱の痕が刻まれていた。
「ボウッとするな、ハルカッ! すぐにフランソワーズに連絡しろッ!」
純一郎の横に玲奈を横たえると、アランは自分の上着を脱いで彼女の裸身に掛けながら叫んだ。
「は、はいッ……!」
はるかが通信マイクのスイッチを入れて、フランソワーズに状況を説明し始めた。
五分後、駆けつけたフランソワーズの部下たちの手によって、玲奈と純一郎は担架に乗せられて地下室から運び出された。その情景を、瑞紀は呆然としながら立ち尽くして見送った。
アランはチラリと瑞紀の横顔を見つめたが、何も言わずにフランソワーズと情報を交換し始めた。
「フランソワーズ、ヒメカワ警視の他にも数人の女性が捕らえられている。現地の警察に協力を要請して、救出してもらおう。それから、救急車の手配を頼む。ヒメカワ警視を取りあえず近くの病院に収容してもらおう」
「ヒメカワはそれでいいとして、カンザキはどうするの? このファヴィニーナには、設備の整った病院なんてないわ。AH-10Sでシチリア島のタオルミーナ市にあるインターナショナル・メディカル・センターに運んだ方がいいと思う」
フランソワーズの言葉に、アランが怪訝な表情を浮かべた。
「カンザキをインターナショナル・メディカル・センターに……?」
アランの態度に、フランソワーズが驚愕して叫んだ。
「アラン、あなた何やってるのッ! カンザキの脈も測らなかったのッ? 生死を彷徨う重傷だけど、彼は生きているわよッ! 早くリューセイに連絡しなさいッ!」
「生きている……? 分かったッ!」
アランが慌てて左腕のリスト・タブレットを操作し、龍成を呼び出した。
「純が……生きている……?」
フランソワーズの言葉に、瑞紀がハッと顔を上げた。
「アランもミズキも、何しているのよッ! それでも日本のトップ・エージェントなのッ? 仲間が撃たれたら、まず脈を取って生死を確認するなんて、基本中の基本でしょッ!」
5.56NATO弾を数十発も受けた純一郎が、生きているなど瑞紀は考えもしなかった。瑞紀は急いで駆け出すと、担架で運ばれた純一郎の後を追いかけた。
(純が生きている……! 純ッ……、絶対に助けるわッ!)
シルヴェリオから買った防弾ベストが、特殊ケプラー繊維と特殊チタンの複合素材で作られた最新型であったことを瑞紀は思い出した。胸部から腹部に受けた5.56mmNATO弾は最新型防弾ベストに阻まれ、複雑骨折はしたものの純一郎の体を貫通していなかったのだった。
純一郎を抱き締めながらAH-10Sステルス・コブラの後部座席に乗り込むと、瑞紀はシチリア島東海岸にあるインターナショナル・メディカル・センターに向かって飛び立った。
『了解した。攻撃を確認したら、こちらも突入を開始する。以上、健闘を祈る』
アランが通話を切ったことを確認すると、龍成は隣で操縦桿を握っている凛桜に告げた。
「聞いたな、凛桜……。攻撃開始は予定通り二十時だ」
「了解……。青ヶ島の時と同じように、建物や人への直撃はできるだけ避けるわ」
龍成の言葉に頷くと、凛桜がステルス・コブラの速度を上げた。二十時ちょうどにレオナルド=ベーカーの別荘に到着するように、航行速度を調整したのだ。
「龍成、一つ訊いていい?」
「何だ……?」
昼間、龍成と瑞紀の通話を隣で聞いていた凛桜は、思い切って訊ねた。あの時の瑞紀の様子は、明らかに普通ではなかった。龍成も不審に思ったようだが、同性である凛桜にはその正体が何だったかはっきりと分かった。あれは、性感を噛み殺していた声であることを確信したのだ。そのことから凛桜は、瑞紀と神崎の関係に気づいたのだった。
「龍成はまだ瑞紀ちゃんを愛しているの?」
その答えを聞くことは、凛桜にとって勇気がいることだった。だが、確認せずにはいられなかった。
「ああ……。愛している」
即答した龍成の横顔を見つめ、凛桜は小さくため息をついた。
「もし、瑞紀ちゃんの気持ちが龍成から離れていったとしても、彼女を愛している?」
「そうだな……。そうなったとしても、俺の気持ちは変わらない」
龍成の答えに、凛桜は唇を噛みしめた。そして、抑えきれない感情のままに龍成に訊ねた。
「あたしは龍成の相棒になったわ。龍成は言った。相棒とは命を賭けて愛し、護るべき相手だと……。瑞紀ちゃんはもう、龍成の相棒じゃない。それなのに、龍成は彼女を愛し続けるって言うの?」
「凛桜……。お前の言いたいことは分かる。だが、俺にとって、瑞紀はただの女ではないんだ。あいつは、涼子の……俺の妻の妹だ。たとえ、あいつが俺を憎んでいたとしても、俺は瑞紀を愛し続ける」
龍成の言葉を聞いて、凛桜は黙り込んだ。そして、再び口を開くと、真剣な口調で訊ねた。
「それは、女として……? それとも、涼子さんの妹として……?」
「分からない……。だが、少なくても今は、一人の女として瑞紀を愛している。その気持ちが、妹を思う兄のように変わっていくのかは、俺にも分からない……」
「そう……。龍成、一つだけ本音を言っていい?」
凛桜が龍成の横顔を見つめながら訊ねた。
「何だ……?」
「正直に答えてんじゃねえよ、この唐変木ッ! 嘘でもいいから、あいつのことはもう何とも思ってないって言えないのかッ! 誠実さと優しさをはき違えてんじゃねえぞ、ばかやろうッ!」
激情に任せて、凛桜が龍成を怒鳴りつけた。その大きな瞳からは大粒の涙が溢れていた。
「凛桜……」
驚きに言葉を失いながら、龍成が眼を見開いた。
「ああ、スッキリしたッ! 到着まであと十分よ。フタマルマルマルちょうどに攻撃を始めるから、準備しておいて……」
左手で涙を拭うと、凛桜がニッコリと微笑みながら告げた。
「分かった……。凛桜、お前、いい女だな……」
「ふんッ! 今頃気づくなんて、鈍感すぎるわよッ!」
龍成の言葉にカアッと顔を赤らめると、凛桜が冷たく言い放った。
灼熱の太陽が沈む海平線を目指して、AH-10Sステルス・コブラが時速四百キロ以上で航行していった。
「あッ、あッ、いやぁッ……! また、イクッ! 許してッ! イグぅうッ……!」
セミロングの髪を振り乱しながら、玲奈が緊縛された裸身を大きく仰け反らせた。縄掛けされた乳房を突き出すと、玲奈はビックンッビックンッと総身を激しく痙攣させて絶頂を極めた。焦点を失った瞳からは随喜の涙が滂沱となって流れ落ち、ワナワナと震える唇からは白濁の涎がネットリとした糸を引いて垂れ落ちた。
巨大なバイブレーターが挿し込まれた秘唇から、プシャアッという音を立てて大量の愛液が弧を描いて噴出した。赤く上気した裸身は痙攣が止まらなくなり、鴇色の乳首はガチガチに屹立していた。大きく開かれた両脚の間には、失禁したように大きな愛液だまりができていた。
「……お願い……もう……許して……ハァ……ハッ……」
愉悦の硬直を噛みしめた裸身を脱力させてベッドに沈み込むと、玲奈はせわしなく熱い吐息を漏らしながら哀願の言葉を告げた。絶頂に達した回数は、すでに十回を超えていた。凄絶な官能に全身の細胞は灼き溶け、脳髄さえもドロドロに溶かされていた。限界を超えた快感は、玲奈にとって苦痛以外の何ものでもなかった。
「続けろ……」
レオナルドの言葉を受けて、三人の女たちによる凌辱が再開された。キングサイズのベッドの中央に寝かされた玲奈の左右から、二人の女が豊かな乳房を揉みしだき、指先で乳首を扱き、唇で咥えながら甘噛みを始めた。そして、両脚の間にいる女はバイブレーターのスイッチを再び入れると、玲奈の花唇に挿し入れた。大きくウネリながら肉襞を抉られ、最奥まで何度も貫かれると、玲奈は激しく首を振って悶え啼いた。
「ひッ、ひぃいいッ……! だめぇえッ! あッ、あッ、あぁああッ……!」
快美の火柱が腰骨を灼き溶かし、背筋を舐め上げて脳天で弾けた。快絶の雷撃が脳髄を直撃し、四肢の先端まで痺れさせた。玲奈は総身を大きく仰け反らせると、ビクンッビックンッと激しく痙攣しながら瞬く間に絶頂に駆け上った。
「どうだ、レナ……? 少しは自分の立場を思い知ったか? まだ分からぬと言うのであれば、このまま続けるぞ。心臓が止まるのと発狂するのと、どちらが先かを見るのも一興だ」
冷酷なレオナルドの言葉に、玲奈は随喜の涙を流しながら小さく首を振った。
「もう……ゆるして……ください……ベーカーさま……」
昨夜、玲奈はこのハレムから逃亡を企てた。毎日のようにレオナルドに凌辱され、玲奈は忍耐の限界を超えていたのだ。だが、全裸で丸腰の玲奈にとって、その成功率は限りなく低かった。屋敷から出ることもできずに、玲奈は完全武装をした警備員に捕らえられた。その罰が、この女たちの責めによる絶頂地獄であった。
「<西新宿の女豹>と呼ばれた女が、ずいぶんとしおらしい言葉を吐くものだな。自分の立場を、自分の口から言ってみろ」
レオナルドの命令に、玲奈は懸命に息を整えながら答えた。
「私は……ベーカー様の……愛人です……」
だが、レオナルドは氷のような微笑を浮かべながら告げた。
「違うな……。私に逆らって逃亡しようとしたお前は、すでに愛人の地位を剥奪された。今のお前は、単なる奴隷に過ぎない。それも、最下級の性奴隷だ」
「性……奴隷……」
レオナルドの告げた言葉に、玲奈は愕然としながら震えた。その様子を楽しそうに見つめながら、レオナルドが追い打ちをかけるように告げた。
「愛人であれば、お前を抱くのは私だけだ。だが、性奴隷に堕ちたお前は、この屋敷にいる男たちすべての相手をしなければならない。当然ながら、お前に与えていた部屋や境遇も一変する。今日からお前は、地下牢で奴隷たちと一緒に暮らすことになる。恐らく、地下牢の中でも男の奴隷たちに凌辱され続けるだろう」
「そんな……」
レオナルドの言葉に、玲奈は恐怖に震え上がった。蒼白な表情で涙を流しながら、玲奈はレオナルドに哀願した。
「お願いします、レオナルド様……。どうか、お許しください。二度と逆らったりしません。性奴隷にすることだけは、許してください……」
ガクガクと全身を震わせて哀願する玲奈を見下ろして、レオナルドが冷徹な笑みを浮かべながら告げた。
「レナに首輪を付けろッ」
「はい……」
レナの左乳房を揉みしだいていた女がベッドから下りると、真っ赤な首輪を手に取った。そして、それを見せびらかせるようにレナの眼前に掲げた。
「ひッ……! いやッ……! やめてッ……!」
幅五センチくらいの真紅の革でできた首輪の接合部には、銀色に輝く長方形の箱が取り付けられていた。その箱の表面に刻印された髑髏の徽章を見て、玲奈は驚愕のあまり濃茶色の瞳を大きく見開いた。
「その首輪には、小型の爆弾が仕掛けてある。その威力はお前の頭部を粉々に粉砕するには十分なものだ。この屋敷から五十メートル離れた瞬間に、その爆弾は爆発する。外すことは、私にしかできない」
「いやぁああ……!」
恐怖のあまり絶叫した玲奈の首に、女がカチリと音を立てて真紅の首輪を嵌めた。次の瞬間、ピーッという音と同時に髑髏の眼孔が赤く光って起爆システムが起動した。
「お願いします、ベーカー様ッ! 取って……これを取ってくださいッ!」
セミロングの髪を振り乱しながら、必死で玲奈が懇願した。だが、レオナルドは蒼青色の瞳で玲奈を見据えると、ニヤリと微笑を浮かべながら言い足した。
「一つ言い忘れた。無理にそれを外そうとすれば、その瞬間に爆発するぞ。その髑髏の眼孔は網膜センサーになっていて、私の網膜パターンにしか反応しない」
「そんな……。取ってッ! 取ってください、ベーカー様ッ! 何でも言うことを聞きますッ! これを外してくださいッ!」
必死の形相で哀願する玲奈を楽しそうに見つめると、レオナルドが女たちに命じた。
「レナを地下牢に連れて行けッ!」
「いやぁああ……!」
女たちが力尽くで玲奈を立ち上がらせた。玲奈は必死で抵抗したが、数え切れないほど絶頂を迎えた体には思うように力が入らず、両腕を後ろ手で拘束されている状態では為す術もなかった。二人の女に両脇から腕を取られて、引きずられるように玲奈は地下牢へと連れて行かれた。
廊下に響き渡る玲奈の絶叫を協奏曲のように聴きながら、レオナルドは楽しげな微笑を浮かべた。
(レナは十分に堪能した。あとは死ぬまで奴隷として飼ってやるだけだ。次の標的は、ミズキ=ユズリハだな。あの王雲嵐が七年もの間、執着し続けた女か……。どれほどの女か、ぜひ味わってみたいものだ)
(レナ、ミズキを手に入れ、リューセイ=シロガネ、アラン=ブライト、ジュンイチロー=カンザキの三人を抹殺すれば、新宿を手に入れるのは容易い。新宿を手始めとして、銀座、六本木、渋谷、池袋……と、日本有数の繁華街を支配していけば膨大な金が手に入る。その金を使って、私はシチリアン・マフィアの頂点に立つ。そして、やがては世界中の裏組織を統合して巨大な帝国を作り、その帝王として君臨する)
見果てぬ夢を追い求める少年のように、レオナルドは蒼青色の瞳を輝かせた。
その瑞紀たちが玲奈を救出するためにこの別荘を襲撃しようとしていることを、レオナルドは部下からの報告ですでに知っていた。当然のことながら、その襲撃を迎え撃つ準備は万全に整えていた。
(早く来い、ミズキ……。お前の目の前で他の三人を殺し、お前を私のモノにしてやる)
レオナルドが口元を吊り上げてニヤリと笑みを浮かべた。その微笑が笑いとなり、哄笑となった。誰もいなくなった室内に、レオナルドの狂笑が高らかに響き渡った。
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ…………!
大気を震撼させる轟音とともに、次々と粉塵が舞い上がり土砂が噴水のように噴き上がった。ステルスコブラの回転式銃座にある30mmガトリング砲から、毎分六百五十発の速度で多目的榴弾が発射されたのだ。
凄まじい爆音を響かせながら大地が鳴動した。UZIーPROを持った警備員たちが一斉に地面に体を伏せて、両手で頭部と鼓膜を覆い尽くした。
『威圧射撃はあと二回行われる。三回目の威圧射撃が終了したら突入するッ!』
ヘルメットの内側に装着された骨伝導スピーカーから、アランの声が響いた。瑞紀はM4コマンドーZ3のグリップを右手で握り締めると、五十メートル先にある突入予定の西門を見据えた。西門前にいる二人の警備員は壁を背にして座り込み、上空を飛翔するAH-10Sステルス・コブラの機影を見上げていた。
「分かった。突入経路を確保するわッ!」
無線マイクに向かってそう告げると、瑞紀はM4コマンドーZ3の発射モードを「3shot」に切り替えた。
『左は私がやりますッ! 楪さんを右をお願いしますッ!』
骨伝導スピーカーから、早瀬はるかの声が聞こえた。左横を見ると、はるかがM16A7を構えながら頷いてきた。瑞紀ははるかに頷き返すと、M4コマンドーZ3の照準器を西門の右側にいる男の右肩に合わせた。
「同時に攻撃するわよ。スリー、ツゥー、ワン……ショットッ!」
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
ダンッ……ダンッ……ダンッ……!
3点射と単射の銃撃音が重なり、西門前の二人の警備員がほぼ同時にUZIーPROを取り落として右肩から鮮血を噴出させた。
ズッドーンッ……!
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ…………!
ステルス・コブラの兵器搭載ステーションから発射された空対地ミサイルが、大地に巨大なクレーターを形成して凄まじい勢いで粉塵を巻き上げた。同時に、機首下の回転式銃座から30mmガトリング砲が連射され、多目的榴弾が抉り取った土砂を噴水のように噴き上げた。
(凄え……、まるで戦争じゃねえか……? これに比べたら、ヤクザの抗争なんて子供の遊びみてえなもんだ……)
目の前で繰り広げられる爆撃を見つめながら、純一郎が愕然と言葉を失った。
『純、絶対に私から離れないで……!』
左横にいる瑞紀の声が骨伝導スピーカーを通して聞こえた。ステルス・コブラの威圧攻撃による爆音で、通常の会話など聞こえないのだ。
「分かった……」
立場が逆だと思ったが、純一郎は瑞紀の顔を見つめると素直に頷いた。この戦場では、自分が単なる足手まといの素人に過ぎないことを身をもって知らされた。
(これがさっきまで俺の腕の中で悶え啼いていた女かよ……。まるで別人じゃねえか……)
爆風に黒髪を靡かせながら黒曜石の瞳を爛々と輝かしている瑞紀は、戦い女神のように美しかった。
ダッ、ダッ、ダッ、ダッ、ダッ…………!
ステルス・コブラから30mmガトリング砲による多目的榴弾が斉射された。轟音とともに土砂が噴き上がり、西門の内側から敵の気配が完全に消失した。十数名いた警備兵たち全員が意識を失ったか、死亡したことは間違いなかった。
空対地ミサイルは当然のこと、30mmガトリング砲の多目的榴弾でさえ直撃を受けなくても着弾場所から半径数メートル以内にいれば、その衝撃と爆風で鼓膜は破れて手足の骨など簡単に骨折してしまうのだ。
『突入準備ッ! スリー、ツゥー、ワン……突入ッ!』
ヘルメット内の骨伝導スピーカーから、アランの号令が響き渡った。瑞紀はM4コマンドーZ3を右手で握り締めると、西面に向かって走り出した。そのルートは、純一郎と西門の直線上をキープした。自分の体を盾にして、純一郎への攻撃を防ぐつもりだった。
西門を通過した瞬間、瑞紀はゾクッとうなじの毛が逆立った。前方から圧倒的な威圧感を感じた。言葉よりも先に体が動いた。長い黒髪を舞い上げながら背後を振り向くと、瑞紀は純一郎に向かって体を投げ出しながら叫んだ。
「伏せてッ……!」
次の瞬間、ヒュルヒュルッという音が響き渡った。
『グレネード・ランチャーだッ! 伏せろッ!』
骨伝導スピーカーからアランの声が響き渡った。
ドッカーンッ……!
瑞紀とアランがいた場所のすぐ直前にグレネード・ランチャーが着弾し、轟音とともに粉塵を舞い上げた。瑞紀は豊かな胸を純一郎の顔に押しつけながら、凄まじい爆風から彼の頭部を守った。
「ばかやろうッ! 何考えてやがるッ!」
胸の下で純一郎の叫びが聞こえると、瑞紀は力づくで体を入れ替えられた。純一郎が瑞紀の上にのしかかり、全身で彼女を地面に押しつけた。
『壁を盾にして隠れろッ!』
アランの命令に、はるかたちが西門の壁の影に身を潜めた。だが、純一郎は瑞紀を地面に押しつけたまま、動こうとしなかった。
「純ッ! どいてッ!」
「伏せていろ、瑞紀ッ!」
西門の目の前で伏せ続けていることは、標的にしてくださいと敵に告げているようなものだった。
「ごめん、純ッ……!」
瑞紀はM4コマンドーZ3を左手に持ち替えると、右手で純一郎の胸ぐらを掴んだ。成人男性の六倍以上の筋力を持つ高性能義手によって、純一郎の体が宙に浮いた。瑞紀は純一郎の腹に右脚を入れると、巴投げの要領で彼の体を西門に向かって投げ飛ばした。
「うわあぁあッ……!」
純一郎は西門の外の地面に背中から落ちると、その勢いで数回転しながらアランたちがいる場所へ転がっていった。アランが素早く純一郎の左足首を掴むと、有無を言わさずに自分の元へ引き寄せた。
『瑞紀、お前も早く来いッ!』
骨伝導スピーカーから聞こえるアランの声に、瑞紀は叫び返した。
「グレネードの発射位置は見えた?」
『三階の右から三番目の窓だッ!』
瑞紀の意図を理解すると、アランが叫んだ。
「分かったッ! 狙撃するッ!」
瑞紀は膝立ち姿勢を取ると、両手でM4コマンドーZ3を構えて照準を三階の右三番目のまでに合わせた。
(アレねッ……!)
M4コマンドーZ3に取り付けた赤外線スコープで、グレネード・ランチャーを構える男の影を確認した。
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
3点射特有の連射音が響き渡った。瑞紀は銃爪を引き絞ると同時に、右前方に頭から飛び込んで地面を三回転した。
ヒュルヒュルッという音とともに、直前まで瑞紀がいた場所にグレネード・ランチャーが着弾した。瑞紀が撃ったのとほぼ同時に、狙撃手もグレネード・ランチャーを撃っていたのだ。
轟音とともに襲ってきた爆風を、瑞紀は地面に伏せながらやり過ごした。粉塵が途切れた瞬間に三階の窓を見上げると、狙撃手の姿は消えていた。狙撃手の右肩を撃ち抜いた手応えは、間違いではなかった。
『無茶するな、ミズキッ!』
「文句はあとで聞くわッ! 今のうちに突入しましょうッ!」
骨伝導スピーカーから聞こえてきたアランの叱責を無視すると、瑞紀が左耳から伸びているマイクロフォンに向かって叫んだ。
正門の方からステルス・コブラの30mmガトリング砲が響き渡った。敵の主力はフランソワーズが率いる正門部隊と交戦中のようだった。
『分かったッ! はるか、カンザキ、俺に続けッ! 瑞紀は援護を頼むッ!』
「了解ッ!」
アランの言葉に頷くと、瑞紀は建物の西入口から十メートル右にある窓に向かって走り出した。入口から敵が出てくればその位置から援護射撃し、出てこなければ自分は窓から突入するつもりだった。万一、アランたちが待ち伏せされた場合、別の位置からの援護が必要になるからだ。
ダンッ……ダンッ……ダンッ……!
入口の内側左右から、UZIーPROの射撃音が鳴り響いた。アランがワルサーPDP-VP5を連射して応戦した。警備員たちが入口の壁に身を潜め、銃撃が一瞬止んだ。瑞紀に気づいている様子はなかった。瑞紀は立ち止まると、立射姿勢のまま左側の警備員に向かって両手でM4コマンドーZ3を構えた。この位置からであれば、入口の壁に隠れた警備員まで遮蔽物はなかった。
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
3点射の連撃音とともに、左側の警備員が万歳をするように仰け反った。狙いはあやまたず、警備員の右肩に三発の銃弾が着弾した。右側の警備員が半身を出したところを、はるかがM16A7で右肩を撃ち抜いた。警備員がUZIーPROを取り落として右肩を押さえながらしゃがみ込んだ。アランが駆け寄ると、UZIーPROを蹴飛ばしながら警備員の右首筋に手刀を当てて意識を奪った。映画などでは銃把で殴りつけるシーンを見るが、実際には照準が狂ってしまうためプロは絶対にしない行為だった。
銃撃が止んだところを見ると、近くに警備員はいなそうだった。正門の方からは激しい銃撃の音が聞こえているため、そちらに戦力を集中しているようだった。瑞紀はアランの元に駆け寄ると、純一郎を庇いながら建物の中に足を踏み入れた。
入口を入ってすぐ右手に二階と地下へ向かう階段があった。アランがワルサーPDP-VP5を構えながら、瑞紀に短く告げた。
「ミズキ、後ろを頼む」
「了解ッ……」
アラン、はるか、純一郎、瑞紀の順で、階段を下りた。瑞紀は壁を背にすると、近づいてくる人の気配に注意しながらゆっくりと階段を進んだ。
地下一階の踊り場に着くと、アランが身を潜めながら周囲の様子を探った。奥から複数の人の気配を感じた。
踊り場の先は五メートルほど先で突き当たり、通路が右に伸びていた。アランが壁沿いにゆっくりと進み、警戒しながら壁際から顔を出した。その瞬間、アランの左頬をかすめながら銃弾が撃ち込まれた。
ダンッ……ダンッ……ダンッ……!
「二人、十メートルだ……」
壁際に身を引くと、アランが落ち着いた口調で告げた。
「了解ッ!」
そう告げると、瑞紀はヘッドスライディングをしながら廊下に飛び出し、M4コマンドーZ3の銃爪を二度引いた。
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
3点射の連撃音が二度響き渡ると、二人の警備員がUZIーPROを取り落として右肩を押さえた。アランが素早く駆け寄り、手前側の警備員の頭に銃口を向けた。瑞紀は奥の警備員に近づくと、彼の頭部にM4コマンドーZ3の銃口を向けながら床に落ちたUZIーPROを遠くに蹴った。
はるかと純一郎は、その連携と制圧速度に驚愕して眼を見開いた。
「レナ=ヒメカワはどこにいる?」
左手でワルサーPDP-VP5のスライドをカシャンと引くと、アランが銃口を向けている警備員に訊ねた。これでシングル・アクションとなり、少ない力で銃爪を引くことが可能になった。そのことに気づき、警備員が蒼白な表情でアランを見上げた。
「い、一番奥の牢屋だ……」
震える声で告げた警備員の言葉を聞き、純一郎が走り出した。
「玲奈ッ……!」
「待って、純ッ……!」
瑞紀の制止の言葉を無視して、純一郎が十五メートルほど先にある牢屋に向かった。次の瞬間、廊下の突き当たりの壁がスライドし、5.56mm機関銃の三連砲門が現れた。
「純ッ……! 伏せてッ……!」
瑞紀の絶叫を嘲笑うかのように、凄まじい銃撃音が地下通路を席巻した。
ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ、ダンッ……!
アランがはるかに飛びついて、右側の壁際に身を伏せた。瑞紀は左壁際に身を伏せながら、純一郎の背中を見つめた。
純一郎の体が、ダンスを踊っているかのように小刻みに揺れた。十メートルという至近距離から、無数の5.56mmNATO弾を全身に浴びていた。銃口初速975m/sで発射されたNATO弾は、純一郎の左腕を引き千切り、鮮血を撒き散らせた。
「純ッ……!」
三連砲門が三十発ずつの銃弾を放出して停止すると、瑞紀は純一郎の元に駆け寄った。純一郎は仰向けに倒れ、口から大量に血を吐いていた。左腕は肩から千切れ飛び、周囲に血の海を作っていた。
「しっかりして、純ッ……! 純ッ……!」
純一郎に縋り付きながら、瑞紀が叫んだ。その黒瞳から涙が溢れ出て、頬を伝って流れ落ちた。
「瑞……紀……」
激しい失血のあまり、純一郎の顔が蒼白を通り越して土色に変わっていった。彼の命の灯火が消えかかっていることを、瑞紀は実感した。握り締めた純一郎の右手が、見る見るうちに冷たくなっていった。
「純ッ! 死なないでッ! 純ッ……!」
血だらけになるのも構わずに、瑞紀は純一郎の顔に頬を寄せた。
「悪い……な……。最後で……ドジを……踏んじ……まった……。玲奈を……頼む……」
そう告げると、純一郎がガクリと首を折った。
「純ッ……? 純ッ……! 純ッ……!! いやぁああ……!」
純一郎の体に覆い縋ると、瑞紀は長い黒髪を舞い乱しながら絶叫した。最愛の男を目の前で失った衝撃は、まるで自分の半身を失ったようだった。
「建物内部に警備員の数が少なかったのは、このためか……。ハルカ、瑞紀の様子を見ていてくれ。俺はヒメカワ警視を助け出す。まだ、完全制圧したわけじゃない。油断するな……」
「はい……」
目の前で仲間が殺されたことに呆然としていたはるかは、アランの言葉でハッと我に返った。慌てて瑞紀に駆け寄ると、そっと右手を彼女の背中において告げた。
「楪さん……。気持ちは分かりますが、作戦はまだ終わっていません。神崎さんも最期に、姫川課長の救出を楪さんに託したはずです……」
「気持ちは分かる……? あなたに、何が分かるのよッ!」
はるかの言葉にカッとなって、瑞紀が怒鳴った。
「それは……」
「愛する人を喪った気持ちが、あなたに分かるなら言ってみなさいよッ!」
黒曜石の瞳から滂沱の涙を流しながら、瑞紀が叫んだ。
「瑞紀、ハルカに当たるのはやめろ……。正門側からの戦闘音がしなくなった。ハルカ、フランソワーズに連絡を取って、制圧に成功したらすぐに人を寄越すように依頼してくれ……」
アランの声に、はるかが顔を上げた。その瞬間、両手で口元を押さえてはるかが言葉を失った。
「姫川課長ッ……! 非道いッ……!」
アランに抱かれた玲奈は、グッタリと意識を失っていた。その美しい肢体は全裸で両腕を後ろに縛られており、乳房までX字に縄掛けされていた。そして、全身には生々しい凌辱の痕が刻まれていた。
「ボウッとするな、ハルカッ! すぐにフランソワーズに連絡しろッ!」
純一郎の横に玲奈を横たえると、アランは自分の上着を脱いで彼女の裸身に掛けながら叫んだ。
「は、はいッ……!」
はるかが通信マイクのスイッチを入れて、フランソワーズに状況を説明し始めた。
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「アラン、あなた何やってるのッ! カンザキの脈も測らなかったのッ? 生死を彷徨う重傷だけど、彼は生きているわよッ! 早くリューセイに連絡しなさいッ!」
「生きている……? 分かったッ!」
アランが慌てて左腕のリスト・タブレットを操作し、龍成を呼び出した。
「純が……生きている……?」
フランソワーズの言葉に、瑞紀がハッと顔を上げた。
「アランもミズキも、何しているのよッ! それでも日本のトップ・エージェントなのッ? 仲間が撃たれたら、まず脈を取って生死を確認するなんて、基本中の基本でしょッ!」
5.56NATO弾を数十発も受けた純一郎が、生きているなど瑞紀は考えもしなかった。瑞紀は急いで駆け出すと、担架で運ばれた純一郎の後を追いかけた。
(純が生きている……! 純ッ……、絶対に助けるわッ!)
シルヴェリオから買った防弾ベストが、特殊ケプラー繊維と特殊チタンの複合素材で作られた最新型であったことを瑞紀は思い出した。胸部から腹部に受けた5.56mmNATO弾は最新型防弾ベストに阻まれ、複雑骨折はしたものの純一郎の体を貫通していなかったのだった。
純一郎を抱き締めながらAH-10Sステルス・コブラの後部座席に乗り込むと、瑞紀はシチリア島東海岸にあるインターナショナル・メディカル・センターに向かって飛び立った。
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