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第4章 愛と硝煙の日々
8 女豹の休息
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「凄い部屋ですね。まるで、ハネムーンのカップルが泊まる部屋みたい……」
瑞紀たちが宿泊しているファヴィニーナのホテル<テンポ ディ マレ>のセミスイートに足を踏み入れた途端、はるかがその広く豪華な室内を見渡しながら感嘆のため息をついた。
「本当ね、あたしも今度、彼と一緒に来ようかしら?」
はるかの隣で、フランソワーズが長い金髪をかき上げながら呟いた。苦笑いを浮かべながら二人の様子を見つめると、アランが瑞紀に右手を差し出した。
「遅くなってすまなかった、ミズキ……。そちらがミスター・カンザキか?」
「ええ……。紹介するわ。<櫻華会>若頭の神崎純一郎さんよ」
アランの言葉に頷くと、瑞紀が隣りに立つ純一郎を紹介した。
「神崎だ。あんたがアラン=ブライトさんか? 噂は瑞紀から聞いている」
差し出されたアランの右手を握り締めながら、純一郎が不敵に笑った。
「こちらも紹介しておこう。警視庁西新宿署のハルカ=ハヤセ警部補だ。ミズキとは<星月夜>の射撃訓練場で一度顔を合わせたことがあるな。それと、<星月夜>リオン支部のトップ・エージェントで、ミス・フランソワーズ=アントワーヌだ。今回のヒメカワ警視救出に力を貸してくれている」
アランの紹介を受けて、はるかとフランソワーズが純一郎と握手を交わした。
「パリには美人が多いと聞くが、リヨンにもこんな美人がいたとは知らなかった。神崎だ。よろしく……」
「ありがとう、ミスター・カンザキ。こちらこそ、よろしくね……」
社交辞令として告げた純一郎の言葉に、瑞紀はムッとして彼の顔を睨んだ。
(ちょっと綺麗な女を見ると、すぐにニヤけた顔をして……。でも、口惜しいけど本当に美人ね……)
フランス人形のように整った容姿をしているフランソワーズの顔を、瑞紀は嫉妬のこもった視線で見つめた。
「立ち話もなんだ……。掛けてくれ……」
純一郎の言葉に頷いて、アランたちがリビングのソファに腰を下ろした。三人掛けのソファの中央にアラン、その右手にフランソワーズ、左手にはるかが座った。瑞紀と純一郎は彼らの向かいのソファに腰を下ろした。
「二人が同じ部屋に泊まっているとは思わなかった。リューセイが知ったら驚くぞ」
笑いながら告げたアランの言葉に、瑞紀はカアッと顔を赤らめながら慌てて告げた。
「き、急だったから、一部屋しか取れなかったのよ。別に、そんなんじゃ……」
「瑞紀は俺の女だ。愛し合う男と女が同じ部屋に泊まっていても、何も不思議じゃないだろう?」
純一郎の言葉に、アランたちが驚いて瑞紀の顔を見つめた。
「ち、ちょっと、純……。今、そんなことを言わなくても……」
「本当のことだろう? 何を隠す必要がある?」
真っ赤に顔を染めながら抗議する瑞紀を、純一郎が笑いながらたしなめた。
「そうなのか、ミズキ……? リューセイはこのことを知っているのか?」
「まだ、知らないわ……。私が自分で龍成に話すから、それまでは内緒にしておいて……」
驚きのあまり告げたアランの言葉に首を振りながら、瑞紀は彼の眼を見つめて言った。
「分かった……。そんなことになっていたとはな……」
「素敵ですねッ! こんな部屋に恋人同士で泊まれるなんて、羨ましいですッ!」
アランの感慨を無視して、はるかが興奮した口調で叫んだ。その様子を見て、純一郎が笑いながら告げた。
「あんたも、恋人に連れてきてもらうといい。ハネムーンで来るには、このファヴィニーナは最高だぞ」
「そうですね。あたしも、いつか二人で来たいなぁ……」
チラッと隣に座るアランの横顔を見つめると、はるかがうっとりとした表情で告げた。はるかのアランに対する気持ちに気づき、瑞紀たちは思わずニヤリと笑みを浮かべた。
「ところで、ヒメカワ警視救出の作戦について、摺り合わせをしたい」
ゴホンと咳払いを一つすると、アランが真面目な表情で話を始めた。この会合の目的を思い出し、瑞紀は気を引き締め直してアランの顔を見つめた。
「今回の作戦には、非常時特別発砲権が発令されている。よって、空からステルス・コブラによる威嚇攻撃を行い、連中が怯んだところで特別捜査官全員でヒメカワ警視救出に突入する。突入班は二手に分かれ、俺とフランソワーズが指揮を執る。ミズキとカンザキは俺の指揮下に入ってくれ」
「分かったわ。大した情報はないけど、私たちが調べたことを伝えておくわね」
アランの言葉に頷くと、瑞紀が昨日までの調査報告を行った。
「レオナルド=ベーカーの別荘はプンタルンガ地区の海沿いに建っているわ。敷地面積はこの<テンポ ディ マレ>よりも広大で、三階建ての建物も<テンポ ディ マレ>の本館くらいあるわ。地下があるかどうかは不明よ。部屋数は多く、昼間でもすべての部屋にカーテンが引かれている。恐らく、狙撃を警戒していると思われるわ」
瑞紀の報告を、アランたちが真剣な表情で聞いていた。
「入口は北にある正門と、西門、東門の三箇所……。南側は海に面した絶壁になっているわ。正門には四人、西と東門には二人の警備員が常時立っている。そして、庭園には十人以上の警備員が巡回していて、その全員がUZI-PROを携帯しているわ」
「内部の様子はどうだ? ヒメカワ警視が囚われている場所は特定できているのか?」
「内部はまったく分からない。玲奈さんの囚われている部屋も不明よ」
アランの質問に、瑞紀が首を振って答えた。
「そうか……。だが、一般的に捕虜を監禁する場合には地下か最上階が多い。フランソワーズは二階と三階を頼む。俺たちは一階と地下を調査する」
「分かったわ」
アランの指示に、フランソワーズが頷いた。その表情は自信と美しさに満ちていた。
「作戦の開始は何時だ?」
純一郎が左腕のリスト・タブレットを見ながら訊ねた。現在の時刻は、十五時四十五分だった。
「フタマルマルマル……二十時ちょうどを予定している。その時刻に龍成と凛桜がステルス・コブラで、ベーカーの別荘を奇襲することになっている。その少し前に俺たちは別荘の近くで待機し、奴らがステルス・コブラの威圧攻撃で混乱したら突入する」
アランの指示に、瑞紀が頷いた。
「私たちはM4コマンドーZ3二挺を準備しているわ。他に私はベレッタM93RCC、純はワルサーPPQを持っている。マガジンはそれぞれ五本ずつ用意してあるわ」
瑞紀の告げた武装に、アランは眼を見開いて驚いた。それは、たった二人でベーカーの別荘を奇襲し、玲奈を救出しようと考えていたことを物語るものだったからだ。
「俺たちは全員がM16A7を携帯している。他にそれぞれが使い慣れた自動拳銃を持っている。人数も全部で十人いるから、制圧力としては十分だ」
M16A7はM16系の最新バージョンで、各国の特殊部隊などに制式採用されている自動小銃だ。5.56×45mmNATO弾を毎分九百発の速度で発射可能で、銃口初速は1,075m/sだった。標準マガジンの弾数は、三十発である。
「楪さん、今、M93RCCって言いましたよね? M93系の軽量バージョンにも拘わらず、3点射が可能な自動拳銃ですよね? ぜひ、見せてくださいッ!」
銃器マニアのはるかが、目を輝かせながら身を乗り出した。
「ちょっと待ってね……。これよ……」
苦笑いを浮かべながら席を立つと、瑞紀はサイドボードの上に置いたバーキンの中からM93RCCを取り出してはるかに手渡した。
「軽いッ! グリップも握りやすいし、照準器も見やすいわッ! これ、どこで手に入れたんですかッ?」
壁に向けてM93RCCを右手で構えながら、羨ましそうにはるかが訊ねた。
「えっと……それは……」
シルヴェリオの店を教えていいのか分からずに、瑞紀が純一郎の顔を見上げた。
「俺の知り合いのブローカーから買ったんだ。金さえ払えば、大抵の銃は手に入るぞ。欲しい物があったら、口を利いてやろうか?」
はるかの様子を面白そうに見つめながら、純一郎が告げた。
「ホントですかッ! ぜひ、お願いしますッ! あたしも、M93系が欲しいんですッ! 3点射が可能な自動拳銃なんて、最高じゃないですかッ?」
興奮した口調ではるかが叫んだ。瑞紀はM93RCCがワン・オブ・サウザンドであることは黙っていようと心に決めた。そんなことを知ったら、はるかの興奮がピークに達するのは目に見えていた。
「早瀬さん、M93系の在庫はそれ一つしかなかったわよ。注文すると、二、三ヶ月かかるみたいだったけど……」
「注文できるんですねッ! 二、三ヶ月なら、待ちますッ! 神崎さん、すぐにそのお店を紹介してくださいッ!」
アランが大きなため息をつくと、はるかに向かって告げた。
「おいおい、ハルカ……。このファヴィニーナに、何しに来たのか覚えているか?」
「あッ……、ええと……。すみません。姫川課長を助け出した後で、そのお店を教えてください」
アランの言葉で目的を思い出したはるかが、身を小さくしながら小声で純一郎に告げた。玲奈を救出することは大切だが、はるかにとってはM93系の自動拳銃を手に入れることも同じくらい大事なことのようだった。
「紹介するのはいいが、M93系を注文しても日本へ送ることはできないぞ。今回のように<星月夜>の作戦の一環としてならともかく、銃器の個人輸入なんてどうやるつもりなんだ?」
楽しそうに笑いを浮かべながら、純一郎がはるかに訊ねた。その言葉の意味を理解し、はるかが絶望に満ちた表情で告げた。
「そんなあ……。瑞紀さん、日本に戻ったら、M93RCCを売ってくださいッ! お金なら何とかしますからッ!」
「イヤよ……。せっかくのワン・オブ・サウザンドなんだから……」
そう告げた後で、瑞紀はハッと失言に気づいた。はるかが驚愕の色を浮かべ、両目を大きく見開いていた。
「ワン・オブ・サウザンド……!? この銃が……? ホントですか、それってッ……?」
アランとフランソワーズも驚きの表情で、はるかが右手に握っているM93RCCを見つめた。
「実在したのか……?」
「あたしも初めて見たわ……」
千挺に一挺と言われる高命中精度を誇る銃は、ガンナーたちの間で伝説でもあった。驚愕に言葉を失う三人に、瑞紀は助けを求めるように純一郎を見つめた。
「まあ、それを手に入れたのは本当に偶然だった。シルヴェリオも瑞紀の射撃の腕を知って、その銃を売る気になったみたいだしな……」
「M93RMK2とM93RCCを手に入れるなんて、羨ましいです。まして、そのうちの一挺がワン・オブ・サウザンドだなんて……」
はるかが心から羨望しながら、瑞紀に告げた。その様子に同情したのか、純一郎がはるかに向かって言った。
「玲奈を無事に助け出したら、あんたにもシルヴェリオを紹介してやるよ。ただし、買った銃を日本に持ち込む方法は自分で考えろよ……」
「はい、ありがとうございます。こうなったら、裏の密輸入ルートを使ってでも、M93系を絶対に手に入れますッ!」
現役の警察官にあるまじきことを、はるかが堂々と宣言した。その言葉にアランとフランソワーズが顔を見合わせると、互いに肩を竦め合った。
「ところで、作戦開始まであと四時間はあるわ。その間、どうしているの? 現地の下見でもする?」
「そうだな。俺たちは現地を見に行こうと思う。ミズキたちはどうする? 一緒に行くか?」
「そうね……。私たちももう一度……」
アランに頷いた瑞紀の言葉を遮るように、純一郎が告げた。
「俺たちはここでゆっくりとしている。十九時三十分に現地で待ち合わせよう。待ち合わせ場所は、西側にある高台の上だ。そこから、別荘の中が見える」
「分かった。十九時三十分だな。それまでは、ゆっくりと体を休めておいてくれ」
そう告げると、アランは席を立った。彼に続いて、はるかとフランソワーズもソファから立ち上がった。
「では、俺たちは下見に行ってくる。また、後で……」
「うん、気をつけてね、アラン……」
そう告げると、瑞紀はチラッと純一郎の顔を見つめた。純一郎は相変わらず、ニヒルな笑いを浮かべていた。
「さて、瑞紀……。邪魔なヤツはいなくなった。準備する時間を入れても、あと三時間はある。俺たちは、ゆっくりとしようか?」
アランたちが部屋から退出すると、純一郎が意味ありげな視線を送ってきた。
「何言ってるの、この絶倫魔神……。しないわよ。ちゃんと休んで、体力を温存しておかないと……」
カアッと顔を赤らめると、瑞紀はジロリと純一郎を睨んだ。
「昔から男は戦いに出る前には必ず女を抱いたそうだ。猛々しい気持ちを落ち着かせるのと同時に、生きて帰ってきて再びその女を抱けるようにと祈ったそうだ」
「それは、男の勝手な事情でしょ……。それに、昔の女は戦いに出た男を家で待っているだけだったはずよ。今とは時代が違うわよ……」
力強い純一郎の腕に抱き締められながら、瑞紀が抵抗するように告げた。
「それもそうか……。では、瑞紀も猛る想いを俺にぶつけてこい……」
「私は別に猛ってなんて……んッ、んぅッ……」
抗議の言葉を遮るように、純一郎が唇を塞いできた。ネットリと舌を絡められ、瑞紀は猛るどころか全身が甘く痺れて力が抜けていった。
(だめ……、こんなキスされたら、私、我慢できなくなっちゃう……)
「んッ……はッ……んッ、んくッ……はあッ……」
瑞紀は瞳を閉じると、純一郎に縋り付きながら積極的に舌を絡め始めた。胸の鼓動が急速に高まり、子宮が疼き始めたのが自分で分かった。
(気持ちいい……。だめ、流されちゃ……)
「待って、純……」
唾液の糸を繋げながら唇を離すと、瑞紀はトロンと蕩けた瞳で純一郎を見つめた。
「今されたら……私、動けなくなっちゃう。玲奈さんを助けに行けなくなっちゃうわ……」
「心配するな、瑞紀……。ちゃんと手加減してやるから……」
ニヤリと笑いながらそう告げると、純一郎が再び瑞紀の唇を塞いできた。両手を純一郎の首に廻すと、瑞紀は自ら積極的に舌を絡めた。
(手加減してくれるって言うのなら……少しだけ……。気持ちいい……キスだけで、感じちゃう……)
ゾクゾクとした愉悦が背筋を舐め上げ、熱い官能が全身に広がっていった。ビクッビクンッと総身を震わせながら、瑞紀は濃厚に口づけを交わし続けた。だが、その三十分後、純一郎の甘い言葉に騙されたことを、瑞紀は身をもって知らされた。
「だめぇえッ! そんなに激しくしないでッ……! また、イッちゃうッ! 許してぇえッ! イクぅううッ!」
怒濤の如く後ろから責められ、瑞紀は白い裸身を大きく仰け反らせるとビックンッビックンッと激しく痙攣しながら絶頂を極めた。随喜の涙を流し、白濁の涎を垂らしながら瑞紀はガクガクと愉悦の硬直を噛みしめた。そして、全身の力を抜き放つと、グッタリとシーツの波間に倒れ込んだ。それが、三回目の絶頂だった。
「ハッ……ハァ……手加減……するって……ハッ、ハァ……言ったはず……」
せわしなく熱い吐息を漏らしながら、瑞紀が官能に蕩けた黒瞳で純一郎を恨めしそうに見つめた。
「でも、気持ちよかっただろう……?」
「もう……許して……。頭が真っ白で……何も……考えられない……」
ビクッビクンッと裸身を痙攣させながら、瑞紀が小声で呟いた。その口元からは、新たに涎がツッツーッと垂れ落ちた。
「じゃあ、最後に思いっきりイカせてやるよ……」
そう告げると、純一郎はうつ伏せで倒れている瑞紀の尻たぶを両手で掴み、左右に大きく広げた。そして、猛りきった男根をヌプリと瑞紀の秘唇に挿し込んできた。
「あぁああッ! いやッ! だめぇえッ!」
純一郎が粒だった天井部分を三回擦り上げると、一気に最奥まで貫いてきた。それは、女を狂わせる三浅一深の悪魔の律動だった。
「あッ、あッ、あッ、あぁああッ……! それ、いやぁあッ! おかしく……なるッ……!
両手でシーツを握り締めると、瑞紀は嫌々をするように激しく首を振った。長い黒髪が白いシーツの上を舞い乱れ、濃厚な女の色香を撒き散らした。
「気持ちいいッ! 凄いの来ちゃうッ……! 許してッ! また、イッちゃうッ!」
ビクンッビクンッと裸身を痙攣させながら、瑞紀が悶え啼いた。腰骨を灼き溶かすような愉悦が快美の火柱となって背筋を駆け抜け、壮絶な雷撃が脳天を何度も襲った。
「だめえぇえッ! イクッ! イクぅううッ……!」
歓喜の絶叫とともに、瑞紀が大きく総身を仰け反らせた。ビックンッビックンッと壮絶に痙攣すると、プシャアッと音を立てて秘唇から愛液を噴出し、シーツに淫らな染みを描いた。
「くッ……! 出すぞッ! 受け取れッ!」
最奥まで貫いていた男根がビクンと弾け、子宮口に熱い迸りを何度も放った。
「ひぃいいッ……! 熱いッ! イグぅうううッ!」
限界を超える快感と衝撃に、瑞紀は極致感を極めた。眉間に深い縦皺を刻み、閉じた睫毛を震わせながら随喜の涙が滂沱となって流れ落ちた。ガチガチを奥歯を噛みしめた唇からは、白濁の涎がトロリと糸を引いて垂れ落ちた。
それは紛れもなく快絶の頂点を極め、凄絶な快感に翻弄された女の顔に他ならなかった。ガクガクと裸身を震わせながら愉悦の硬直を解き放つと、瑞紀はバッタリと倒れるようにシーツに沈み込んだ。
「ハッ……ハッ……ハァ……ハヒッ……ハァ……」
フイゴのように熱い息を吐きながら、瑞紀はビクンッビックンッと白い裸身を痙攣させ続けた。
(こんな……凄いの……初めて……)
かつて経験したこともないほどの極致感に、瑞紀の意識は真っ白に灼き尽くされた。細胞の一つ一つまでもが快感に支配され、四肢の先端まで痺れて指一本動かせなかった。
「ずいぶんと激しくイッたな、瑞紀……。そんなに良かったのか?」
せわしなく熱い吐息を漏らしながら、瑞紀はコクリと小さく頷いた。
「凄……かった……。おかしく……なっちゃう……」
「もっとしてやろうか……?」
瑞紀の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべると、純一郎が長い黒髪を撫ぜながら訊ねた。
「もう……だめ……。ゆる……して……」
痙攣の止まらなくなった躰をビクつかせながら、瑞紀が小さく首を振った。これ以上されたら、間違いなく気が狂いそうだった。
「ホテルを出るまでには、まだ二時間以上ある。ゆっくりと休め……」
純一郎の言葉に頷くと、瑞紀はゆっくりと瞳を閉じた。全身を甘い快感が包み込み、純一郎に愛された感覚が倖せとなって瑞紀の心を満たした。
(これが……女の悦びなんだ……。愛しているわ、純……)
うっとりと倖せそうな微笑みを浮かべると、瑞紀は純一郎の腕の中で安らかな眠りに就いた。それは壮絶な戦いを目の前に控えた女豹の安らぎに他ならなかった。
瑞紀たちが宿泊しているファヴィニーナのホテル<テンポ ディ マレ>のセミスイートに足を踏み入れた途端、はるかがその広く豪華な室内を見渡しながら感嘆のため息をついた。
「本当ね、あたしも今度、彼と一緒に来ようかしら?」
はるかの隣で、フランソワーズが長い金髪をかき上げながら呟いた。苦笑いを浮かべながら二人の様子を見つめると、アランが瑞紀に右手を差し出した。
「遅くなってすまなかった、ミズキ……。そちらがミスター・カンザキか?」
「ええ……。紹介するわ。<櫻華会>若頭の神崎純一郎さんよ」
アランの言葉に頷くと、瑞紀が隣りに立つ純一郎を紹介した。
「神崎だ。あんたがアラン=ブライトさんか? 噂は瑞紀から聞いている」
差し出されたアランの右手を握り締めながら、純一郎が不敵に笑った。
「こちらも紹介しておこう。警視庁西新宿署のハルカ=ハヤセ警部補だ。ミズキとは<星月夜>の射撃訓練場で一度顔を合わせたことがあるな。それと、<星月夜>リオン支部のトップ・エージェントで、ミス・フランソワーズ=アントワーヌだ。今回のヒメカワ警視救出に力を貸してくれている」
アランの紹介を受けて、はるかとフランソワーズが純一郎と握手を交わした。
「パリには美人が多いと聞くが、リヨンにもこんな美人がいたとは知らなかった。神崎だ。よろしく……」
「ありがとう、ミスター・カンザキ。こちらこそ、よろしくね……」
社交辞令として告げた純一郎の言葉に、瑞紀はムッとして彼の顔を睨んだ。
(ちょっと綺麗な女を見ると、すぐにニヤけた顔をして……。でも、口惜しいけど本当に美人ね……)
フランス人形のように整った容姿をしているフランソワーズの顔を、瑞紀は嫉妬のこもった視線で見つめた。
「立ち話もなんだ……。掛けてくれ……」
純一郎の言葉に頷いて、アランたちがリビングのソファに腰を下ろした。三人掛けのソファの中央にアラン、その右手にフランソワーズ、左手にはるかが座った。瑞紀と純一郎は彼らの向かいのソファに腰を下ろした。
「二人が同じ部屋に泊まっているとは思わなかった。リューセイが知ったら驚くぞ」
笑いながら告げたアランの言葉に、瑞紀はカアッと顔を赤らめながら慌てて告げた。
「き、急だったから、一部屋しか取れなかったのよ。別に、そんなんじゃ……」
「瑞紀は俺の女だ。愛し合う男と女が同じ部屋に泊まっていても、何も不思議じゃないだろう?」
純一郎の言葉に、アランたちが驚いて瑞紀の顔を見つめた。
「ち、ちょっと、純……。今、そんなことを言わなくても……」
「本当のことだろう? 何を隠す必要がある?」
真っ赤に顔を染めながら抗議する瑞紀を、純一郎が笑いながらたしなめた。
「そうなのか、ミズキ……? リューセイはこのことを知っているのか?」
「まだ、知らないわ……。私が自分で龍成に話すから、それまでは内緒にしておいて……」
驚きのあまり告げたアランの言葉に首を振りながら、瑞紀は彼の眼を見つめて言った。
「分かった……。そんなことになっていたとはな……」
「素敵ですねッ! こんな部屋に恋人同士で泊まれるなんて、羨ましいですッ!」
アランの感慨を無視して、はるかが興奮した口調で叫んだ。その様子を見て、純一郎が笑いながら告げた。
「あんたも、恋人に連れてきてもらうといい。ハネムーンで来るには、このファヴィニーナは最高だぞ」
「そうですね。あたしも、いつか二人で来たいなぁ……」
チラッと隣に座るアランの横顔を見つめると、はるかがうっとりとした表情で告げた。はるかのアランに対する気持ちに気づき、瑞紀たちは思わずニヤリと笑みを浮かべた。
「ところで、ヒメカワ警視救出の作戦について、摺り合わせをしたい」
ゴホンと咳払いを一つすると、アランが真面目な表情で話を始めた。この会合の目的を思い出し、瑞紀は気を引き締め直してアランの顔を見つめた。
「今回の作戦には、非常時特別発砲権が発令されている。よって、空からステルス・コブラによる威嚇攻撃を行い、連中が怯んだところで特別捜査官全員でヒメカワ警視救出に突入する。突入班は二手に分かれ、俺とフランソワーズが指揮を執る。ミズキとカンザキは俺の指揮下に入ってくれ」
「分かったわ。大した情報はないけど、私たちが調べたことを伝えておくわね」
アランの言葉に頷くと、瑞紀が昨日までの調査報告を行った。
「レオナルド=ベーカーの別荘はプンタルンガ地区の海沿いに建っているわ。敷地面積はこの<テンポ ディ マレ>よりも広大で、三階建ての建物も<テンポ ディ マレ>の本館くらいあるわ。地下があるかどうかは不明よ。部屋数は多く、昼間でもすべての部屋にカーテンが引かれている。恐らく、狙撃を警戒していると思われるわ」
瑞紀の報告を、アランたちが真剣な表情で聞いていた。
「入口は北にある正門と、西門、東門の三箇所……。南側は海に面した絶壁になっているわ。正門には四人、西と東門には二人の警備員が常時立っている。そして、庭園には十人以上の警備員が巡回していて、その全員がUZI-PROを携帯しているわ」
「内部の様子はどうだ? ヒメカワ警視が囚われている場所は特定できているのか?」
「内部はまったく分からない。玲奈さんの囚われている部屋も不明よ」
アランの質問に、瑞紀が首を振って答えた。
「そうか……。だが、一般的に捕虜を監禁する場合には地下か最上階が多い。フランソワーズは二階と三階を頼む。俺たちは一階と地下を調査する」
「分かったわ」
アランの指示に、フランソワーズが頷いた。その表情は自信と美しさに満ちていた。
「作戦の開始は何時だ?」
純一郎が左腕のリスト・タブレットを見ながら訊ねた。現在の時刻は、十五時四十五分だった。
「フタマルマルマル……二十時ちょうどを予定している。その時刻に龍成と凛桜がステルス・コブラで、ベーカーの別荘を奇襲することになっている。その少し前に俺たちは別荘の近くで待機し、奴らがステルス・コブラの威圧攻撃で混乱したら突入する」
アランの指示に、瑞紀が頷いた。
「私たちはM4コマンドーZ3二挺を準備しているわ。他に私はベレッタM93RCC、純はワルサーPPQを持っている。マガジンはそれぞれ五本ずつ用意してあるわ」
瑞紀の告げた武装に、アランは眼を見開いて驚いた。それは、たった二人でベーカーの別荘を奇襲し、玲奈を救出しようと考えていたことを物語るものだったからだ。
「俺たちは全員がM16A7を携帯している。他にそれぞれが使い慣れた自動拳銃を持っている。人数も全部で十人いるから、制圧力としては十分だ」
M16A7はM16系の最新バージョンで、各国の特殊部隊などに制式採用されている自動小銃だ。5.56×45mmNATO弾を毎分九百発の速度で発射可能で、銃口初速は1,075m/sだった。標準マガジンの弾数は、三十発である。
「楪さん、今、M93RCCって言いましたよね? M93系の軽量バージョンにも拘わらず、3点射が可能な自動拳銃ですよね? ぜひ、見せてくださいッ!」
銃器マニアのはるかが、目を輝かせながら身を乗り出した。
「ちょっと待ってね……。これよ……」
苦笑いを浮かべながら席を立つと、瑞紀はサイドボードの上に置いたバーキンの中からM93RCCを取り出してはるかに手渡した。
「軽いッ! グリップも握りやすいし、照準器も見やすいわッ! これ、どこで手に入れたんですかッ?」
壁に向けてM93RCCを右手で構えながら、羨ましそうにはるかが訊ねた。
「えっと……それは……」
シルヴェリオの店を教えていいのか分からずに、瑞紀が純一郎の顔を見上げた。
「俺の知り合いのブローカーから買ったんだ。金さえ払えば、大抵の銃は手に入るぞ。欲しい物があったら、口を利いてやろうか?」
はるかの様子を面白そうに見つめながら、純一郎が告げた。
「ホントですかッ! ぜひ、お願いしますッ! あたしも、M93系が欲しいんですッ! 3点射が可能な自動拳銃なんて、最高じゃないですかッ?」
興奮した口調ではるかが叫んだ。瑞紀はM93RCCがワン・オブ・サウザンドであることは黙っていようと心に決めた。そんなことを知ったら、はるかの興奮がピークに達するのは目に見えていた。
「早瀬さん、M93系の在庫はそれ一つしかなかったわよ。注文すると、二、三ヶ月かかるみたいだったけど……」
「注文できるんですねッ! 二、三ヶ月なら、待ちますッ! 神崎さん、すぐにそのお店を紹介してくださいッ!」
アランが大きなため息をつくと、はるかに向かって告げた。
「おいおい、ハルカ……。このファヴィニーナに、何しに来たのか覚えているか?」
「あッ……、ええと……。すみません。姫川課長を助け出した後で、そのお店を教えてください」
アランの言葉で目的を思い出したはるかが、身を小さくしながら小声で純一郎に告げた。玲奈を救出することは大切だが、はるかにとってはM93系の自動拳銃を手に入れることも同じくらい大事なことのようだった。
「紹介するのはいいが、M93系を注文しても日本へ送ることはできないぞ。今回のように<星月夜>の作戦の一環としてならともかく、銃器の個人輸入なんてどうやるつもりなんだ?」
楽しそうに笑いを浮かべながら、純一郎がはるかに訊ねた。その言葉の意味を理解し、はるかが絶望に満ちた表情で告げた。
「そんなあ……。瑞紀さん、日本に戻ったら、M93RCCを売ってくださいッ! お金なら何とかしますからッ!」
「イヤよ……。せっかくのワン・オブ・サウザンドなんだから……」
そう告げた後で、瑞紀はハッと失言に気づいた。はるかが驚愕の色を浮かべ、両目を大きく見開いていた。
「ワン・オブ・サウザンド……!? この銃が……? ホントですか、それってッ……?」
アランとフランソワーズも驚きの表情で、はるかが右手に握っているM93RCCを見つめた。
「実在したのか……?」
「あたしも初めて見たわ……」
千挺に一挺と言われる高命中精度を誇る銃は、ガンナーたちの間で伝説でもあった。驚愕に言葉を失う三人に、瑞紀は助けを求めるように純一郎を見つめた。
「まあ、それを手に入れたのは本当に偶然だった。シルヴェリオも瑞紀の射撃の腕を知って、その銃を売る気になったみたいだしな……」
「M93RMK2とM93RCCを手に入れるなんて、羨ましいです。まして、そのうちの一挺がワン・オブ・サウザンドだなんて……」
はるかが心から羨望しながら、瑞紀に告げた。その様子に同情したのか、純一郎がはるかに向かって言った。
「玲奈を無事に助け出したら、あんたにもシルヴェリオを紹介してやるよ。ただし、買った銃を日本に持ち込む方法は自分で考えろよ……」
「はい、ありがとうございます。こうなったら、裏の密輸入ルートを使ってでも、M93系を絶対に手に入れますッ!」
現役の警察官にあるまじきことを、はるかが堂々と宣言した。その言葉にアランとフランソワーズが顔を見合わせると、互いに肩を竦め合った。
「ところで、作戦開始まであと四時間はあるわ。その間、どうしているの? 現地の下見でもする?」
「そうだな。俺たちは現地を見に行こうと思う。ミズキたちはどうする? 一緒に行くか?」
「そうね……。私たちももう一度……」
アランに頷いた瑞紀の言葉を遮るように、純一郎が告げた。
「俺たちはここでゆっくりとしている。十九時三十分に現地で待ち合わせよう。待ち合わせ場所は、西側にある高台の上だ。そこから、別荘の中が見える」
「分かった。十九時三十分だな。それまでは、ゆっくりと体を休めておいてくれ」
そう告げると、アランは席を立った。彼に続いて、はるかとフランソワーズもソファから立ち上がった。
「では、俺たちは下見に行ってくる。また、後で……」
「うん、気をつけてね、アラン……」
そう告げると、瑞紀はチラッと純一郎の顔を見つめた。純一郎は相変わらず、ニヒルな笑いを浮かべていた。
「さて、瑞紀……。邪魔なヤツはいなくなった。準備する時間を入れても、あと三時間はある。俺たちは、ゆっくりとしようか?」
アランたちが部屋から退出すると、純一郎が意味ありげな視線を送ってきた。
「何言ってるの、この絶倫魔神……。しないわよ。ちゃんと休んで、体力を温存しておかないと……」
カアッと顔を赤らめると、瑞紀はジロリと純一郎を睨んだ。
「昔から男は戦いに出る前には必ず女を抱いたそうだ。猛々しい気持ちを落ち着かせるのと同時に、生きて帰ってきて再びその女を抱けるようにと祈ったそうだ」
「それは、男の勝手な事情でしょ……。それに、昔の女は戦いに出た男を家で待っているだけだったはずよ。今とは時代が違うわよ……」
力強い純一郎の腕に抱き締められながら、瑞紀が抵抗するように告げた。
「それもそうか……。では、瑞紀も猛る想いを俺にぶつけてこい……」
「私は別に猛ってなんて……んッ、んぅッ……」
抗議の言葉を遮るように、純一郎が唇を塞いできた。ネットリと舌を絡められ、瑞紀は猛るどころか全身が甘く痺れて力が抜けていった。
(だめ……、こんなキスされたら、私、我慢できなくなっちゃう……)
「んッ……はッ……んッ、んくッ……はあッ……」
瑞紀は瞳を閉じると、純一郎に縋り付きながら積極的に舌を絡め始めた。胸の鼓動が急速に高まり、子宮が疼き始めたのが自分で分かった。
(気持ちいい……。だめ、流されちゃ……)
「待って、純……」
唾液の糸を繋げながら唇を離すと、瑞紀はトロンと蕩けた瞳で純一郎を見つめた。
「今されたら……私、動けなくなっちゃう。玲奈さんを助けに行けなくなっちゃうわ……」
「心配するな、瑞紀……。ちゃんと手加減してやるから……」
ニヤリと笑いながらそう告げると、純一郎が再び瑞紀の唇を塞いできた。両手を純一郎の首に廻すと、瑞紀は自ら積極的に舌を絡めた。
(手加減してくれるって言うのなら……少しだけ……。気持ちいい……キスだけで、感じちゃう……)
ゾクゾクとした愉悦が背筋を舐め上げ、熱い官能が全身に広がっていった。ビクッビクンッと総身を震わせながら、瑞紀は濃厚に口づけを交わし続けた。だが、その三十分後、純一郎の甘い言葉に騙されたことを、瑞紀は身をもって知らされた。
「だめぇえッ! そんなに激しくしないでッ……! また、イッちゃうッ! 許してぇえッ! イクぅううッ!」
怒濤の如く後ろから責められ、瑞紀は白い裸身を大きく仰け反らせるとビックンッビックンッと激しく痙攣しながら絶頂を極めた。随喜の涙を流し、白濁の涎を垂らしながら瑞紀はガクガクと愉悦の硬直を噛みしめた。そして、全身の力を抜き放つと、グッタリとシーツの波間に倒れ込んだ。それが、三回目の絶頂だった。
「ハッ……ハァ……手加減……するって……ハッ、ハァ……言ったはず……」
せわしなく熱い吐息を漏らしながら、瑞紀が官能に蕩けた黒瞳で純一郎を恨めしそうに見つめた。
「でも、気持ちよかっただろう……?」
「もう……許して……。頭が真っ白で……何も……考えられない……」
ビクッビクンッと裸身を痙攣させながら、瑞紀が小声で呟いた。その口元からは、新たに涎がツッツーッと垂れ落ちた。
「じゃあ、最後に思いっきりイカせてやるよ……」
そう告げると、純一郎はうつ伏せで倒れている瑞紀の尻たぶを両手で掴み、左右に大きく広げた。そして、猛りきった男根をヌプリと瑞紀の秘唇に挿し込んできた。
「あぁああッ! いやッ! だめぇえッ!」
純一郎が粒だった天井部分を三回擦り上げると、一気に最奥まで貫いてきた。それは、女を狂わせる三浅一深の悪魔の律動だった。
「あッ、あッ、あッ、あぁああッ……! それ、いやぁあッ! おかしく……なるッ……!
両手でシーツを握り締めると、瑞紀は嫌々をするように激しく首を振った。長い黒髪が白いシーツの上を舞い乱れ、濃厚な女の色香を撒き散らした。
「気持ちいいッ! 凄いの来ちゃうッ……! 許してッ! また、イッちゃうッ!」
ビクンッビクンッと裸身を痙攣させながら、瑞紀が悶え啼いた。腰骨を灼き溶かすような愉悦が快美の火柱となって背筋を駆け抜け、壮絶な雷撃が脳天を何度も襲った。
「だめえぇえッ! イクッ! イクぅううッ……!」
歓喜の絶叫とともに、瑞紀が大きく総身を仰け反らせた。ビックンッビックンッと壮絶に痙攣すると、プシャアッと音を立てて秘唇から愛液を噴出し、シーツに淫らな染みを描いた。
「くッ……! 出すぞッ! 受け取れッ!」
最奥まで貫いていた男根がビクンと弾け、子宮口に熱い迸りを何度も放った。
「ひぃいいッ……! 熱いッ! イグぅうううッ!」
限界を超える快感と衝撃に、瑞紀は極致感を極めた。眉間に深い縦皺を刻み、閉じた睫毛を震わせながら随喜の涙が滂沱となって流れ落ちた。ガチガチを奥歯を噛みしめた唇からは、白濁の涎がトロリと糸を引いて垂れ落ちた。
それは紛れもなく快絶の頂点を極め、凄絶な快感に翻弄された女の顔に他ならなかった。ガクガクと裸身を震わせながら愉悦の硬直を解き放つと、瑞紀はバッタリと倒れるようにシーツに沈み込んだ。
「ハッ……ハッ……ハァ……ハヒッ……ハァ……」
フイゴのように熱い息を吐きながら、瑞紀はビクンッビックンッと白い裸身を痙攣させ続けた。
(こんな……凄いの……初めて……)
かつて経験したこともないほどの極致感に、瑞紀の意識は真っ白に灼き尽くされた。細胞の一つ一つまでもが快感に支配され、四肢の先端まで痺れて指一本動かせなかった。
「ずいぶんと激しくイッたな、瑞紀……。そんなに良かったのか?」
せわしなく熱い吐息を漏らしながら、瑞紀はコクリと小さく頷いた。
「凄……かった……。おかしく……なっちゃう……」
「もっとしてやろうか……?」
瑞紀の言葉に嬉しそうな笑みを浮かべると、純一郎が長い黒髪を撫ぜながら訊ねた。
「もう……だめ……。ゆる……して……」
痙攣の止まらなくなった躰をビクつかせながら、瑞紀が小さく首を振った。これ以上されたら、間違いなく気が狂いそうだった。
「ホテルを出るまでには、まだ二時間以上ある。ゆっくりと休め……」
純一郎の言葉に頷くと、瑞紀はゆっくりと瞳を閉じた。全身を甘い快感が包み込み、純一郎に愛された感覚が倖せとなって瑞紀の心を満たした。
(これが……女の悦びなんだ……。愛しているわ、純……)
うっとりと倖せそうな微笑みを浮かべると、瑞紀は純一郎の腕の中で安らかな眠りに就いた。それは壮絶な戦いを目の前に控えた女豹の安らぎに他ならなかった。
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