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連載
さわこさんと、夏祭り その1
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
今夜も居酒屋さわこさんは元気に営業しております。
「いやぁ、今まで中級酒場組合の酒場には来たことがなかったのだが、いや、まさかこんなに美味しい料理やお酒を食べることが出来るとは思ってなかったな」
役場のヒーロさんはそう言いながら焼き鳥と日本酒を召し上がっておられます。
今日は、パルマ酒ではなく、加賀美人をお勧めさせて頂いております。
お料理に合うお酒は1種類ではありませんからね、せっかくですのであれこれ楽しんで頂けたらと思っている次第です。
そんなヒーロさんの様子を、カウンターの隣の席に座っているジュチさんが苦笑しながら見つめておられます。
「へ、以前のあんた達はさ、中級酒場組合の酒場ってだけで見下してさ、近寄ろうともしなかったじゃねぇか」
「う、うむ……」
ジュチさんの言葉に、ヒーロさんは思わず言葉に詰まられてしまいました。
その様子を確認したジュチさんは
「……いや、今のは少し言い過ぎた。アタシ達も酒を異常に薄めて提供したりとか、料理もろくに勉強しないで適当に出してたんだ、あんたらがこっちに見向きもしなくて当然さ」
「なんだ、その……そこまで言う気はないのだが……確かに、お前達中級酒場組合の酒場からはろくな噂を聞いてなかったからな……食べると口の中の水分を全部もっていかれるジャルガイモが出るとか、火がろくに通っていない焼き物が出るとか……」
「うぐ……」
ヒーロさんの言葉に、今度はジュチさんが言葉に詰まってしまわれました。
ですが、ヒーロさんのお言葉をお聞きした私は、思わず苦笑してしまいました。
だって……私がこの世界にやってきて始めてジュチさんの酒場に連れて行って頂いた際に抱いたのとまったく同じ感想を口になさっておられるのですから。
「で、でもよ。今はそうじゃねぇぜ、さわこがアタシ達に料理を教えてくれてるしな」
「ほう、道理で……」
ジュチさんの言葉に、ヒーロさんは感心した表情を浮かべながら私を見つめてくださいました。
「いや、上級酒場組合の酒場が相変わらず休業中のせいで、私の部下達が中級酒場組合の酒場に多く出向いているようなのだが、皆、『酒も料理も見違えるくらい美味くなってました』と言ってくるもんでね」
「だろ? アタシのさわこはホントすごいんだぜ、アタシ達の酒場を一変させちまったんだからさ」
ジュチさんは、嬉しそうに笑ってそうおっしゃったのですが、そのジュチさんの頭の上にバテアさんがお酌用に手になさっていた一升瓶をゴン、とぶつけられました。
「あいたぁ!?」
「こらジュチ、なぁにが『アタシのさわこ』よ? さわこはあんたの所有物じゃないと何度言えばわかるのさ?」
「い、いいじゃんか、少しくらいさぁ……さわこのことが大好きなのはホントなわけだし
ゴン
って、あいたたたぁ!?」
再び一升瓶を脳天にぶつけられて、ジュチさんは頭を抱えてカウンターにつっぷなさってしまいました。
「ジュ、バテアがやきもち焼いてるジュ」
一升瓶を肩に担いでいるバテアさんに、冒険者のジューイさんが笑いながら声をかけておられます。
バテアさんは、そんなジューイさんに向かってクスクス笑われました。
「ばぁか、アタシとさわこは親友だっての。ジュチのようにやましい気持ちなんてもってないわよ」
「あ、アタシだってやましい気持ちは……」
「あら? じゃあ、あんたが店員の女の子に手を出してるって話は嘘なのかしら?」
「うぐ……」
「色々聞いてるわよぉ? メメちゃんだったっけ? あの眼鏡の女の子……」
「わーわーわー」
クスクス笑いながら言葉を続けていらっしゃるバテアさん。
そんなバテアさんに、ジュチさんは両手をぶんぶん振り回しながら大慌てなさっておられます。
そんなお2人の光景に、満員の店内から一斉に笑い声があがっていきました。
◇◇
「で、だ……今日、こうして中級酒場組合の組合長をなさっておられるジュチにも来てもらったわけなんだが……」
皆の会話が一段落した頃合いを見計らわれたヒーロさんがおもむろに口を開かれました。
「この週末に夏祭りが開催されるのはみんな知っていると思う」
「あぁ、それはもちろん知ってるよ。アタシ達も準備してるぜ」
ヒーロさんの言葉に、ジュチさんは頭をさすりながら頷かれました。
「うむ……そのことなんだが……ジュチは良く知っていると思うのだが、例年夏祭りは上級酒場組合が中央広場一帯で屋台を出して、その周辺の街道に中級酒場組合が屋台を出す格好になっておったわけなんだが……知っての通り、今の上級酒場組合の酒場は全て臨時休業している状態なわけでな、祭りの実行委員を務めている私としても非常に頭が痛いところなんだ」
「バット、それは上級酒場組合が悪いんだから仕方ないわ、自業自得よ」
ヒーロさんの言葉に、エミリアが少し頬を膨らませながら頷いています。
エミリアだけでなく、バテアさん・ジュチさん・リンシンさん、それにお店の中の常連客の皆様まで頷いておられました。
「まぁまぁ、それはよくわかっている。別にそのことで文句を言いに来たわけじゃないんだよ」
ヒーロさんは苦笑しながら私達を見回していかれました。
「私が言いたいのは、上級酒場組合が出店していた中央広場に、中級酒場組合とさわこさんの屋台を出してもらえないかと思ってね」
ヒーロさんがそう言われた途端に、ジュチさんがすごい勢いで立ち上がられました。
「ちょ、ヒーロ、それマジで言ってるの?」
「あぁ、超大真面目に言わせてもらっているよ」
ヒーロさんの言葉に、ジュチさんは目を丸くなさっていました。
◇◇
ヒーロさんがお帰りになった後、営業時間を終了いたしまして閉店した居酒屋さわこさんの店内で、私はジュチさんとお話をしておりました。
「いや……確かに嬉しいんだよ、中央広場に屋台を出せるのはさ……でもさ、現実問題として屋台の数がなぁ……」
「屋台の数、ですか?」
「あぁ、アタシ達中級酒場組合が中央広場で出店したとして、じゃあアタシ達が今まで出店していたあたりの屋台を出さなくていいのか、っていうとそう言うわけにはいかないんだ。それじゃあ祭りの屋台が中央広場だけに偏っちまって盛り上がりに欠けちまうからさ……それに、そんなに屋台を出すだけの人員を準備出来るかどうか……」
ジュチさんはそう言いながら苦渋の表情をなさっておられます。
「それにさ、1つの店が複数の店を出すにしても、同じ料理を提供する屋台を出すわけにもいかないし……おいおい、どうしたらいいんだこりゃ」
そんなジュチさんの様子を横で見つめていたバテアさんも首をひねっておられます。
「そうよねぇ……以前は上級酒場組合の酒場が出してる屋台と、中級酒場組合の酒場が出している屋台じゃ、料理のグレードが違い過ぎてたから、いい意味でも悪い意味でも差別化が図られてていい感じになってたわけだしねぇ……はてさて、どんな食べ物を出すのがいいのかしらね」
バテアさんは、ジュチさんと顔を見合わせると、大きなため息をつかれました。
「でも、夏祭りっていいですよね。私も大好きです。綿菓子や林檎飴を食べながら、金魚すくいをしたり、射的をしたり……」
私は洗い物をしながら、昔、私の世界の夏祭りに行った際の事を思い出しておりました。
すると、そんな私を、ジュチさんとバテアさん、リンシンさんとエミリアまで不思議そうな顔をしながら見つめていました。
「さわこ……何、そのワタガシって?」
「それに、リンゴアメ?」
「キンギョスクイ?……何を救うの?……」
「ほわっと? シャテキ? 何なのかしら?」
皆さんは、疑問形の言葉を口になさりながら、私を見つめ続けておられました。
ーつづく
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