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さわこさんと、夏祭り その2

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HJネット小説大賞一次審査通過しました


イラスト:NOGI先生

 昨夜、ジュチさんや皆さんにもお話を聞かせていただいたのですが……

 この世界の夏祭りはですね、主に食堂や酒場のお店が出店を出されていまして、お店でお出ししている料理や夏祭り限定の料理を出したりなさっておられるそうなのですが、それ以外の出店はほとんどないとのことでした。
「さわこの世界の夏祭りには、食べ物以外にも出店が出るの?」
「はい、食べ物の屋台が多いですけど、食べ物以外の屋台も多いですよ。それに料理の出店も一品だけ売っているお店が多いですね」
「一品だけ? そんなので儲けになるのかい?」
「品数が少ない分、仕入れ値が抑えられますし、作業を行う人を少なくすることが出来ますのでその分人件費も浮かせることができます。それに難しい調理を必要としない料理を扱いますので素人の方でも対応出来るんですよ」
 私の言葉に、ジュチさんは目を丸くなさりながらびっくりなさっていました。

 その後、私は、私の世界の夏祭りのことをジュチさんやバテアさん達に詳しくご説明していったのですが……
「……あれ、これって、結構いいんじゃない?」
「……そうね」
 私のお話を聞いてくださっていたジュチさんとバテアさんは、そう言って頷かれました。
「はい?」
 そのお2人を見つめながら、私は首をかしげていました。

 その夜、ジュチさんと私は、バテアさんやエミリア、リンシンさんも交えて、遅くまであれこれ話し合いを行いました。

 私の世界の夏祭りの出店を参考にして、今回の夏祭りを実施してみようとの内容での話し合いでした。
 お祭りの中心になります中央広場周辺の出店の形態は今までのやり方を踏まえることにいたしまして、それ以外の、今まで中級酒場組合の皆様が屋台を展開なさっていたあたりに、私の世界の夏祭りでよく見かける屋台を展開してみようとの方向で話し合っていった次第です。
 私の話を元にして、ジュチさんとバテアさんがそれをあれこれ吟味なさり、リンシンさんが魔獣などの調達のことで意見を述べてくださり、それをエミリアがレポートの形でまとめてくれた次第です。

 翌朝、エミリアがまとめてくれたレポートを元にいたしまして、ジュチさんと私、バテアさんは役場のヒーロさんの元を尋ねました。
 そこで、私の世界の屋台を元にした出店計画について説明していったのですが、
「ふむ……正直、私も始めて耳にする内容なのでなんともいえないのだが、これで祭りの体裁が保てるのであればぜひやってもらおう。何かあったら責任はすべて私が取ろう」
 そう言ってくださいました。
 こうしてヒーロさんの了承と、合わせて役場の協力を取り付ける事が出来た私達は、すぐにバテアさんの家に戻りました。

 途中、ジュチさんは私達と別れまして中級酒場組合の皆さんの元へと急がれました。
 今回の計画に対する中級酒場組合の皆様の承諾と、協力を取り付けるためです。

 ジュチさんと別れた私とバテアさんさんは、家に戻ると待ち構えていたリンシンさんとエミリアに
「計画が了承されました。では、予定通り準備を急ぎましょう」
 そうお伝えしました。
 私の言葉を受けまして、リンシンさんは
「わかった、まかせて……」
 そう言うと、巨大な網を持って山に向かわれました。
 エミリアも、
「オッケーよ、さわこ、アミリア姉さんと一緒にやってみせるわ」
 そう言うと、バテアさんの転移ドアをくぐって、通称「さわこの森」のある異世界に向かわれました。

 そして、私とバテアさんは、エミリアがくぐったドアとは別の転移ドアをくぐりまして、私の元いた世界へと転移していきました。
「では、必要な資材を借りにいきましょう」
 そう言うと、私はバテアさんと一緒にビルの合間を早足に進んでいきました。

◇◇

 私が出向いたのは善治郎さんのお店でした。
 善治郎さんは、以前私がこちらの世界で居酒屋を営業していた際に、お野菜の仕入れなどで御世話になっていたお方です。
「おぉ、さわこじゃないか、久しぶりじゃな、元気そうでなによりじゃ」
 私の顔を見た善治郎さんは、嬉しそうに笑ってくださいました。
「善治郎さん、ご無沙汰いたしております。おかげさまで元気に過ごしております」
 私は、善治郎さんに笑顔で頭をさげていきました。
 しばらく雑談を交わすと、私は善治郎さんに本題を切り出しました。
「……善治郎さん、今日は折り入ってお願いがあって参りました」
「ほう、なんじゃ? さわこちゃんのお願いならできる限りきかせてもらうぞい」
「実はですね……」
 
 善治郎さんは、八百屋を中心に商っておられるのですが、この町内会の会長もなさっておられるのです。
 そのため、町内会で開催されるお祭りなども取り仕切られているものですから、そのお祭りの際に使用されている機材などに関しても非常にお詳しいとお聞きしたことがありました。
 今回の私は、そういった機材を善治郎さんを通してお借りできたら、と思っておりまして、そのお願いをさせて頂いている次第です。

「ふむ……祭りの機材を、のぉ……」
 そう言うと、善治郎さんは少し困った顔をなさいました。
「さわこちゃんも知っとると思うがの、この時期はどこもかしこもお祭りだらけじゃ、機材はいくらあっても足りないんじゃよ」
「そ、そうですね……やっぱりそうですよね」
 善治郎さんの言葉に、私は落胆した表情を浮かべました。
 すると、善治郎さんはそんな私の顔を見つめながら、
「……と、言うわけでな、少々古い機材しか貸すことは出来んのじゃが、それでも良いかの?」
 そう言われたのです。
 その言葉に、私は顔を輝かせました。
「は、はい! 是非お願いいたします」
 そう言うと、私は深々と頭を下げました。
 そんな私の隣で、バテアさんがクスクスと笑っておられます。
「ちょっと爺さん、趣味が悪いわね、そうならそうと最初から言いなさいよ」
「物事には順序っちゅうもんがあるんじゃ。最終的にお前さんやさわこにとって良い話になったんじゃから、そう文句を言うでない」
 バテアさんの言葉に、善治郎さんは、豪快に笑われました。

◇◇

 こうして、私達は善治郎さんから大量の屋台の機材をお借りすることが出来ました。
 商店街の倉庫の中に保存されている機材の中からお借り出来た機材をバテアさんは魔法袋の中にどんどん詰めていかれていました。
 善治郎が目の前におられるのに……私は思わず冷や汗を流していたのですが、善治郎さんはそんなバテアさんを見つめながら、
「なんとのぉ……最近は便利な道具があるんじゃな」
 そう言われただけで、それ以上突っ込むことも、驚かれることもありませんでした。

 後でお聞きしたのですが……
 この時バテアさんは、善治郎さんに魔法をかけておられたのだそうです。
 魔法袋に物を詰めるのが不思議に思わなくなる……そんな魔法? とのことでした。
 もう少し詳しい説明をしてくださったのですが、私にはまったく理解出来なかった次第でございます。

 善治郎さんは、当初、古くなったため使わなくなり、予備として保存している機材を貸してくださると言われていたのですが、
「少々よかろう」
 そう言いながら、新品を私達にお貸しくださいまして、代わりに中古の予備品をそこに置いたりされるものですから、私の方が困惑してしまっていた次第です。
 この間に、善治郎さんが携帯電話で連絡をとってくださった業者の方々が続々と倉庫に集まって来てくださいました。

 金魚すくいを行うための機材一式と金魚と水が詰まった袋
 射的を行うための台やコルク銃
 綿菓子をつくるためのナイロン袋やざらめなどのセット
 鯛焼きを焼くための機材と、材料一式

 皆さんが置いていってくださる品々を、私は
「ありがとうございます、ありがとうございます」
 何度もお礼を言いながら、頭を下げながらそれらの品々受け取らせて頂きました。

◇◇

 善治郎さんのおかげで、屋台を展開するための資材を無事入手することが出来ました。
「予定していた以上に、資材をお借りする事が出来ましたね」
 バテアさんの家に戻ってきた私は、笑顔でバテアさんに言いました。
 バテアさんはそんな私を見つめながら
「さわこがそう言うんだから、良いことなんだとは思うけど……ごめん、アタシにはまだ何がなんだか、いまいち理解出来てないのよね」
 そう言って苦笑なさいました。
 ちなみに、今のバテアさんは善治郎さんが近くの駄菓子屋で買ってくださったバニラ最中を頬張っておられるところです。
 そんなバテアさんに、私は 
「あとはお任せくださいな、今度はジュチさんと相談しながら屋台の配置を考えていきましょう」
 そう言いました。

 その時でした。
 私は、お店の前に誰かが立っているのに気が付きました。
 その方は、何やら店の戸をノックしようとしては躊躇なさっておられるようです。
「どなたでしょう?」
 私は、首をかしげながら扉を開けました。
「……あ」
 そこには、私の顔を見つめながら困惑した表情を浮かべているラニィさんの姿がありました。

 その時の私は、無意識のうちに、近くに塩がないか手探りしていたように思います。
 何しろ、上級酒場組合のラニィさんですからね……
 
 ーつづく




 
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