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連載
さわこさんと、幽霊
しおりを挟むイラスト:NOGI先生
無事ヒーロさんの食事会を終えることが出来ました。
食事会では、料理もですが、お酒も大変評判になりました。
「この酒はパルマ酒というのか?」
「聞いたことがない酒だが、非常にうまい! ぜひ土産に持って帰りたい」
と、王都の皆様が口々に言われまして、一升瓶にして100本近くをお土産としてお買い上げくださいました。
これには、ワノンさんも
「前のワノン酒の時は目も向けなかった奴らがこんなに買っていったんだわ。これは最高に爽快だわ」
そう言いながら笑っておられました。
その横で、和音まで
「社長のお酒を馬鹿にするでないですよ! どのお酒も美味しいんですよ!」
そう言って笑っていました。
ちなみに今日の2人は、『パルマ酒最高』と手書きされているシャツを着て、肩を組んでいた次第です。
本当に息があっている2人です。
◇◇
後片付けを終えて帰宅した私は、もうくたくたになっていました。
昨夜から料理の仕込みを行い、今朝は朝早くから調理を続け、夕方からは会場で焼き鳥を焼きながら皆様のお話のお相手をさせて頂き続けたわけですので、さもありなんではあるのですが……
すると、そんな私の状態に気付いてくださったバテアさんが
「さわこ、温泉にでも行こうか?」
そう言ってくださいました。
「ありがとうございます、とてもありがたいです」
バテアさんのお誘いに、私はそうお答えさせえて頂きました。
バテアさんはすぐに魔法陣を展開してくださり、温泉へ通じている転移ドアを出現させてくださいました。
「今日はさ、新しい温泉宿を見つけたからそこに行きましょ」
バテアさんについて転移ドアをくぐると、そこは森の中でした。
その一角に、とても大きな宿屋が建っています。
「ここは……」
私や、リンシンさん、エミリアが周囲を見回していると、バテアさんは、
「リバティコンベってとこにある温泉よ。王都近隣では一番有名な温泉なんだって」
そう言いながら温泉宿へと入っていきました。
「リバティコンベ温泉宿へようこそ」
私達を、エルフの女将さんが出迎えてくださいました。
「温泉だけ利用でお願い」
「はい、かしこまりました」
慣れた手つきで、エルフの女将さんとあれこれやりとりを行っていったバテアさんは、
「さ、行くわよ」
そう言うと、私達を温泉へと連れて行ってくださいました。
廊下は木造で、とても趣深い造りになっています。
どこか秘湯を思わせる風情がありますね。
脱衣所で服を脱ぎ、浴場へと足を踏み入れた私は思わず目を丸くしました。
温泉は、壁が大窓になっていまして外の景色を一望出来るつくりになっていました。
大窓の向こうには、深い渓谷が広がっているのですが、その絶景を一望出来るのです。
私は、湯船の中を歩いて窓際まで移動していきました。
「うわぁ……綺麗ですねぇ……」
私は窓の外に広がっている光景に、思わず目を奪われてしまいました。
気が付くと、私の周囲にはリンシンさんとエミリアまで歩み寄って来ていまして、私同様に大窓からの光景に目を奪われていました。
すると、先に入っていらした女性の方がクスクス笑いながら私達を見つめているのに気が付きました。
「ねぇ、すごいでしょ、この光景。この光景を楽しみながら一杯やるのが、また格別なのよねぇ」
その女性は、そう言いながらお酒の入ったグラスを傾けておられます。
そうですね、この女性の言われるように、この光景を満喫しながら、その上で温泉につかりながらのんびり出来るのは最高の贅沢といわざるを得ません。
私が、そうしている自分の姿を想像しながらぽややんとしておりますと、その女性は
「アタシはお仕事があるからお先に失礼するわね。せっかくだから温泉楽しんでいってねぇ」
そう言うと、
一瞬にして姿を消してしまわれました。
「え?」
その光景に、私は思わず唖然といいますか……目を丸くしてしまいました。
リンシンさんとエミリアも同様に固まっております。
そんな私達を見つめながら、今度はバテアさんがクスクス笑い始めておられました。
「今の人はね、フォルデンテさんって言うだけどさ。数十年前に肉体がなくなっていて、思念体だけの存在なんだってさ」
「しねんたい?」
バテアさんの言葉に、私は思わず首をひねっていきました。
そんな私を見つめながら、バテアさんは少し考えを巡らせると
「……そうね……さわこの世界で例えるなら……『幽霊』かしらね」
「ゆ……ゆ う れ い ……?」
バテアさんの言葉に、私はしばし固まっておりました。
そして、その言葉の意味を徐々に理解していき……そして
お風呂場の中で悲鳴をあげてしましました。
◇◇
世の中には地震・雷・火事・親父という怖い物の例えがございます。
ですが、私にとっては、幽霊・地震・雷・火事・親父なのでございます。
はい、私……この世で幽霊ほど苦手な物はございません。
終止バテアさんに抱きついたまま温泉につかっていた私は、その後もバテアさんにくっついたまま更衣をすませ、家に戻るまでずっとバテアさんにくっついたままでした。
……いえ……家に帰ってからも、まだくっついたままです、はい。
「さわこってば、幽霊苦手だったのね」
ベッドの中で、バテアさんはそう言いながら苦笑なさっています。
私は、そんなバテアさんの腕に抱きつきながら横になっています。
「だ、だ、だ、だって……ユーレイですよ? お化けですよ……そ、そ、そ、そんな人とお話しちゃったんですよ……あわわ……」
私は、自分でもはっきりわかるほどにガタガタ震えていました。
バテアさんは、そんな私を優しく抱き寄せてくださいました。
「まぁ、こっちの世界にはあんな存在も少なくないしね。そのうち慣れるわよ」
そう言ってくださるバテアさんですけど、
「お、お、お、お断りします……慣れたくありません~……」
私は、ガタガタ震えながら、今度はバテアさん本体に抱きついていきました。
その様子に、リンシンさんも
「さわこ、こわがり……大丈夫、私もいるから……」
そう言ってくださったのですが……私はバテアさんの体に強く抱きつきながら小さく頷くのがやっとでした。
◇◇
そんな醜態をさらしてしまった私ですけど、一晩眠るとすっかり元気になっておりました。
あの温泉のおかげでしょうか……昨夜、温泉に入る前にはヘトヘトだったにもかかわらず、体も頭もすっきりしています。
「うわぁ……ホントにあの温泉はすごいですねぇ……」
こんなに効果があるのなら、是非また行ってみたい……と、思った瞬間に、またあのフォルデンテさんの顔を思い出してしまいまして、私はガタガタ震え始めてしまいました。
ただ、こんなにガタガタ震え続けているわけにはいきません。
数日後にはお祭りが始まりますしね……お祭りといえば夜ですし……
今日の私は、仕込みの準備を始めるたびに、フォルデンテさんのお顔を思い出してしまいまして、一日中ガタガタ震えていた次第でした。
とにもかくにも、夏祭りまでにはどうにかしないといけないのですが……こ、今夜だけはもう一度バテアさんに抱きつかせてもらって眠らせてもらおうと思っております。
ーつづく
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