余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

結城芙由奈@コミカライズ連載中

文字の大きさ
20 / 73
連載

マルセル・ハイム 3

しおりを挟む
 早く帰らせて貰いたい…。俺はもううんざりしていた。モニカ嬢のまるでままごとのような遊びに付き合うのは我慢の限界だ。何故俺は婚約者のアゼリアではなく、妹とアビゲイル様に付き合わなければならないのだろう…。モニカ譲とアビゲイル様はお世辞にも賢い女性とは言えない。俺は賢くない女性は好きではない。母が教授、父も伯爵の身分を持ちながら医学博士の資格を持っているのだ。なので両親とも、モニカ嬢とアビゲイル様の事を快く思ってはいなかった。

はあ…

アゼリア、早くピアノのレッスンを終わらせてくれ…俺はお前に会う為に睡眠不足の疲れた身体でこの母娘のお遊びにつきあわされているのだから…。

「フフフ、マルセル様ーっ見ていてくださいねー。今からキングに私が教えた芸をさせてみせますからねーっ」

モニカ嬢が自分の飼い犬…キングを前にして俺に笑顔で手を振ってくる。やれやれ…俺も愛想笑を浮かべて手を振りながら心の中で何度目かのため息をついた時…。

「奥様ーっ!アビゲイル様ーっ!」

アゼリアのピアノ教師の女性が長いスカートをたくし上げながらこちらへ向かって駆けてきた。

「まぁ、どうしたのですか?マルゴ先生」

ベンチに腰掛けていたアビゲイル様が立ち上がった。

「それが…アゼリア様が…」

マルゴと呼ばれたピアノ教師はハアハアと呼吸を整えると言った。

「『こんなレッスン続けていられないわ』と言って勝手に部屋を出ていってしまったのです」

何っ?!アゼリアがっ?!

「な、何ですってっ?!」

アビゲイル様がベンチから立ち上った。

「あの子ったら!勝手な事を!」

それはこっちの台詞だ!俺はお前に会いにわざわざここまでやってきて、頭の足りない義母と義妹の相手をして待っていたというのに、こんな仕打ちをするのかっ?!激しい怒りで身体が震えた。
そこへモニカ嬢が俺の傍へやってくると言った。

「本当に酷いお姉様ですわ。本当は私がピアノを習いたかったのに…貴女にはマルゴ先生のレッスンについていけるわけないから、私が代わりにピアノをならって教えて上げるわって言ってたくせに…一度もピアノを教えてくれた事はないのですよ?」

そしてさり気なく俺にしなだれかかってくる。

「それは…本当の話なのですか?」

俺はアゼリアに対する怒りを押さえながらモニカ嬢を見た。

「ええ。本当です。お姉様は私達を…いえ、この家を嫌っているのです。だから当てつけで出掛ける時も我が家の馬車を使わないのですよ」

「アゼリアが…」

なんて我儘な女なんだ?もう我慢の限界だ。今度会ったときは、はっきりアゼリアの間違いを正してやらなければ。例えどんな相手でもお前は俺の婚約者なのだから、礼儀ぐらいわきまえろと言ってやるのだ。

前方ではアビゲイル様とピアノ教師が話をしている。

「それでは私はこれで失礼いたします。今回はアゼリア様が勝手にいなくなられてしまったのですから、レッスン料はいつもどおり請求させて頂きますから」

「ええ…仕方ありませんね。アゼリアが悪いのですから料金は定額通りお支払い致します。あの子にはきちんと言い聞かせますから。」

アビゲイル様はため息をついて頭を下げている。流石にこの時ばかりはアビゲイル様を気の毒に思ってしまった。アゼリア…一体お前は何処まで人を困らせれば気がすむのだ?

 この後、全員でアゼリアの部屋を尋ねてみたものの部屋の中はもぬけの殻だった。

「あの子ったら…一体何処へ行ったのかしら?今日に限ってケリーもいないし…」

アビゲイル様はどこか怒りをにじませながら親指を噛んだ。ケリー…?初めて聞く名前だ。アゼリアの専属メイドだろうか…?しかし、アゼリアが不在ならば、もうこの屋敷には用は無い。そこで俺は2人に言った。

「アゼリアがいないようなので、本日はこれで帰らせて頂きます」

そして部屋を出ていこうとすると、2人に止められた。

「いいえ!ひょっとするとすぐに帰ってくるかも知れません!どうかお待ちになって下さい!」

「ええ。お姉様は気まぐれだから、そのうちひょっこり帰って来るに決まってます!どうか帰らないで下さい!」

「しかし…」

だが、2人は俺の袖を握りしめて離そうとしない。

「分かりました…。但し18時まで待ってアゼリアが戻らなければ帰らせて頂きますからね」

俺はとうとう諦めることにした。この2人はアゼリアの母と妹。無下にすることは出来なかった。大丈夫…きっとすぐに帰ってくるだろう。俺はこの2人の言葉を信じた。

だが、結局アゼリアは帰ってこなかった。俺は18時まで滞在させられ、ようやく屋敷を出ることが出来た。



「くそっ…!アゼリアめ…っ!」

すっかり暗くなった空の下、イライラしながら馬に乗って門扉を目指していた時、屋敷の敷地内にある噴水前で俺は見た。辻馬車から降りてきたアゼリアの姿を…。
途端に俺の中でアゼリアに対する激しいい怒りが沸き起こった。

そして俺は馬に乗ったままゆっくりアゼリアに近付いた―。




しおりを挟む
感想 1,487

あなたにおすすめの小説

余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめる事にしました 〜once again〜

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【アゼリア亡き後、残された人々のその後の物語】 白血病で僅か20歳でこの世を去った前作のヒロイン、アゼリア。彼女を大切に思っていた人々のその後の物語 ※他サイトでも投稿中

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

妹と旦那様に子供ができたので、離縁して隣国に嫁ぎます

冬月光輝
恋愛
私がベルモンド公爵家に嫁いで3年の間、夫婦に子供は出来ませんでした。 そんな中、夫のファルマンは裏切り行為を働きます。 しかも相手は妹のレナ。 最初は夫を叱っていた義両親でしたが、レナに子供が出来たと知ると私を責めだしました。 夫も婚約中から私からの愛は感じていないと口にしており、あの頃に婚約破棄していればと謝罪すらしません。 最後には、二人と子供の幸せを害する権利はないと言われて離縁させられてしまいます。 それからまもなくして、隣国の王子であるレオン殿下が我が家に現れました。 「約束どおり、私の妻になってもらうぞ」 確かにそんな約束をした覚えがあるような気がしますが、殿下はまだ5歳だったような……。 言われるがままに、隣国へ向かった私。 その頃になって、子供が出来ない理由は元旦那にあることが発覚して――。 ベルモンド公爵家ではひと悶着起こりそうらしいのですが、もう私には関係ありません。 ※ざまぁパートは第16話〜です

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

転生先がヒロインに恋する悪役令息のモブ婚約者だったので、推しの為に身を引こうと思います

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【だって、私はただのモブですから】 10歳になったある日のこと。「婚約者」として現れた少年を見て思い出した。彼はヒロインに恋するも報われない悪役令息で、私の推しだった。そして私は名も無いモブ婚約者。ゲームのストーリー通りに進めば、彼と共に私も破滅まっしぐら。それを防ぐにはヒロインと彼が結ばれるしか無い。そこで私はゲームの知識を利用して、彼とヒロインとの仲を取り持つことにした―― ※他サイトでも投稿中

余命六年の幼妻の願い~旦那様は私に興味が無い様なので自由気ままに過ごさせて頂きます。~

流雲青人
恋愛
商人と商品。そんな関係の伯爵家に生まれたアンジェは、十二歳の誕生日を迎えた日に医師から余命六年を言い渡された。 しかし、既に公爵家へと嫁ぐことが決まっていたアンジェは、公爵へは病気の存在を明かさずに嫁ぐ事を余儀なくされる。 けれど、幼いアンジェに公爵が興味を抱く訳もなく…余命だけが過ぎる毎日を過ごしていく。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。