余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました

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マルセル・ハイム 13

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「ごめんなさいね。何とか…貴女と一緒に居られる方法を探すから…だからもうそんなに泣かないで?」

部屋の中では泣いているアゼリアがケリーの頭を撫でていた。



「はぁ…」

俺はトレーの上に乗っているすっかり冷めてしまった2人分の紅茶を見てため息をついた。

覗き見するつもりは俺には全く無かった。言い訳するつもりは少しも無いが、本当に俺は2人の為に紅茶を運んできただけだったのだ。しかし、ケリーが泣きながらアゼリアと話している姿を見て…また教会で世話になろうかと思っていると言う話を聞いて…部屋の中に入ることも出来ず、かと言ってその場を立ち去ることも出来ずに結局アゼリアとケリーの話を盗み聞きしてしまうとう最低な事をしてしまったのだった。

「アゼリア…まさか本気で俺に婚約破棄して貰うのを望んでいたのか…?そんなに‥俺の事が嫌だったのか‥?」

思わず言葉に出てしまった。いや、でもアゼリアにそう思わせてしまったのは全て俺の責任なのだ。俺はアゼリアの婚約者だったのに、彼女があの屋敷で孤立どころか、あんな風に陰湿な…時には暴力的ともいえる嫌がらせを受けていたなんて…。

「俺は…最低な男だ‥」

その時―

「マルセル。こんなところで何をしているの?」

突然背後で声を掛けられた。

「あ…母さん…」

母は俺の手にしているトレーの上で、とっくに冷めてしまった紅茶を見ると言った。

「マルセル、2人の為に紅茶を届けてくると言っていたのに、何故こんな所で突っ立っているの?もうすっかり冷めてしまったじゃないの」

そう言って母は2人のいる部屋を覗いた。

「あっ!い、今は…!」

俺は母を引き留めたが遅かった。

「…」

母は俺に背を向けたまま少しの間アゼリアたちの様子を見ていたが、すぐに俺の方を振り向くと言った。

「ふ~ん…成程。そう言う事なのね」

母は俺をジロリと見ると言った。

「マルセル、話があるからリビングへいらっしゃい」

「はい…」

俺は…覚悟を決めた―。



****

「マルセルッ!お前と言う奴は‥‥何て勝手な事をしたのだっ!」

普段は温厚な父が怒鳴りつけて来た。

「も、申し訳ありません…」

俺は頭を下げた。

「全く…何故アゼリアの許可も得ずに‥しかも何の医学の知識も無いお前が勝手な判断でケリーに病の事を話すのだ?!しかも余命まで…!」

父はかなり憤慨していた。

「ほ、本当に俺は悪気が無かったのです。ただ…アゼリアがケリーに自分の病気の事をずっと話さないつもりなんじゃないかと思って…。ケリーは知っておくべきなんじゃないかと思ったんです」

「それこそ余計な事です。まずはアゼリアに先に相談すべきだったのよ」

母は腕組みをしながら俺を睨み付けている。

「はい…本当に申し訳ありません」

父と母の言う通りだ。俺は何て浅はかな男なのだろう。思わず項垂れてしまった。

「大体…私はアゼリアの余命を半年で終わらせるつもりは毛頭無いからな」

父の言葉に俺は顔を上げた。

「え…?そ、それじゃ…」

「楽観視するな。今の医学ではアゼリアの病気を完治させる事は無理だ。あんなに身体が弱るまで耐えていたなんて…可哀相に。相当辛かったと思う」

「アゼリア…」

父の言葉に思わず鼻がツンとなってしまった。

「だがな、何とかしてアゼリアの寿命がもっと伸びるように手は尽くすつもりだ。その為にもアゼリアの様子を常に看る事が出来るように側に置いておかなくてはならない」

「し、しかし…アゼリアはここを出て行くつもりです」

俺の言葉に母が険しい顔でこちらを見た。

「何ですってっ?!あんな身体で何所へ行くつもりなの?言っておくけどあのフレーベル家には絶対に帰すわけにはいきませんからね?!許せないわ…っ!あの家族‥!」

母は怒りをたぎらせながらテーブルの上に置いた両手をギュッと握りしめた。

「母さん、落ち着きなさい。今一番大事なのはアゼリアの心を落ち着かせ、治療に専念させる事だ。彼女の病状が落ち着くまでは何もしない方がいい」

父が母を宥めている。母は許せないのだ。自分が可愛がっていた大切な教え子を…あの様な眼に合わせたフレーベル家を…。

だが…

俺だって…同罪だ。
きっとアゼリアは俺を許してはくれないだろう。

そう思うと心が苦しかった―。



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