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マルセル・ハイム 2
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結局俺は母の言いつけどおり、婚約者であるアゼリアの屋敷に行かざるを得なくなってしまった。
「全く…どうせ行っても毎回殆ど会えた試しはないのに様子を伺って来い等と…」
厩舎で愛馬に蔵を付けていると、御者のイーサンがやってきた。
「あ、マルセル様。お出掛けですか?馬車が必要ならお出ししますよ?」
「いや、遠乗りのつもりで気分転換に馬に乗って行こうと思っているから気にしないでくれ」
それだけ言うとひらりと馬に飛び乗った。
「では、出掛けてくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
イーサンは被っていた帽子を外すと頭を下げてきた。そして俺はフレーベル家へ向けて馬を走らせた―。
馬を走らせて30分―
フレーベル家へやってきた。
「まぁ、ようこそいらっしゃいました。マルセル様」
いつものように応接室に現れたのはアゼリアの義母であるアビゲイル様とモニカ嬢だった。…例の如く、アゼリアの姿はない。
「今日も来てくださったのね。マルセル様」
モニカは頬を染めて俺を見る。
「はい、本日もお邪魔させていただきました」
頭を下げながら素早くアビゲイル様とモニカ嬢の着ている洋服を見た。まるで2人ともこれからパーティーにでも行くかのような豪華な服を着ている。シルク生地の素材の服は光沢があり、2人が着ているワンピースには豪華な刺繍が施されている。全く、贅沢な事をしている…俺は心の中でため息を付いた。
一方のアゼリアは見かける度にいつも地味な服装をしていた。とても伯爵家の娘が着る服とは思えない粗末なものだったので、母に相談して何度かアゼリアに服をプレゼントしたことがあった。しかし、その服をアゼリアは着ることは一度も無かった。その代わりに何故かモニカが着ていたのだ。何故モニカが着用しているのか訳を尋ねた時、アゼリアがこう言ったそうだ。
「こんな趣味の悪い服、着れるはずがないでしょう?」
と―。
その後、俺は数回母とアゼリアが似合いそうな服を送ったがどれもアゼリアが袖を通す事は無く、全てモニカの物になっていた。俺と母が吟味してプレゼントした服はどれもアゼリアは気に入らなかったそうだ。
その日以来、俺はアゼリアにプレゼントを渡すことをやめた―。
****
「アゼリアは今日はどうしているのですか?」
ソファに座り、メイドが淹れてくれたコーヒーを飲みながらアビゲイル様に尋ねた。
「ああ、アゼリアは昨日ピアノのレッスンをさぼったから今個人レッスンを受けていますのよ」
「そうですか。そのレッスンを中断する事は出来ないでしょうか?彼女に会いたいのですけど」
カチャリとコーヒーカップをソーサーに戻しながらアビゲイル様に尋ねた。
「それは無理ですわ。マルセル様。姉は集中力が切れてしまうからと言って、ピアノのレッスンを中断させるとヒステリーを起こしますの」
モニカが脇から口を挟んできた。
「ですが…私は彼女の婚約者です。私が会いに来たと言えばアゼリアは会ってくれるのではありませんか?」
するとアビゲイル様とモニカ嬢が2人で顔を合わせると言った。
「マルセル様…あの子は自分の思うようにいかないと、娘のモニカに八つ当たりするのです。モニカだけではありません。時には私や夫にも噛み付いてくることがあります。私達家族を嫌っているのですよ。こちらはいつもあの子の顔色を伺ってビクビクしているのは前からお話していましたよね?私がいけなかったのです。あの子を甘やかして育ててしまった私が…」
アビゲイル様はそう言うと俯いた。
「お母様…そんな風にご自分を責めないで?いつかお姉様も心を入れ替えて下さるはずよ」
モニカがアビゲイル様の肩に手を置き、俺を見た。
「マルセル様、少し嫌な空気になってしまいましたわね。気分転換に芝生で私の可愛い愛犬と一緒に遊びませんか?」
モニカ嬢が笑みを浮かべながら俺を見る。芝生で小型犬と遊ぶ?冗談じゃない。俺は心のなかで毒づいた。俺が今日疲れた身体でフレーベル家にやってきたのは犬と芝生で遊ぶ為では無い。アゼリアに会いに来たのだ。彼女に会えないならここにいる意味は無い。
「すみませんが、アゼリアに会えないのであれば今日はおいとまさせて下さい」
するとモニカ譲とアビゲイル様が慌てた様子で俺を引き止めた。
「お待ち下さい!マルセル様。ピアノのレッスンが終わればアゼリアに会えますから」
「ええ、お姉様のピアノのレッスンが終わるまでお待ちになって?」
「…では今日こそアゼリアに会えるのですね?」
立ち上がりかけた俺はソファに座り直すと尋ねた。
「ええ。勿論ですわ」
アビゲイル様が答えた。
「分かりました。ではその様に致しましょう」
俺は不承不承、承諾した。
しかし、その期待はもろくも裏切られた。
アゼリアがピアノのレッスンを中断していなくなってしまったとピアノ教師が報告に来たのだ―。
「全く…どうせ行っても毎回殆ど会えた試しはないのに様子を伺って来い等と…」
厩舎で愛馬に蔵を付けていると、御者のイーサンがやってきた。
「あ、マルセル様。お出掛けですか?馬車が必要ならお出ししますよ?」
「いや、遠乗りのつもりで気分転換に馬に乗って行こうと思っているから気にしないでくれ」
それだけ言うとひらりと馬に飛び乗った。
「では、出掛けてくる」
「はい、行ってらっしゃいませ」
イーサンは被っていた帽子を外すと頭を下げてきた。そして俺はフレーベル家へ向けて馬を走らせた―。
馬を走らせて30分―
フレーベル家へやってきた。
「まぁ、ようこそいらっしゃいました。マルセル様」
いつものように応接室に現れたのはアゼリアの義母であるアビゲイル様とモニカ嬢だった。…例の如く、アゼリアの姿はない。
「今日も来てくださったのね。マルセル様」
モニカは頬を染めて俺を見る。
「はい、本日もお邪魔させていただきました」
頭を下げながら素早くアビゲイル様とモニカ嬢の着ている洋服を見た。まるで2人ともこれからパーティーにでも行くかのような豪華な服を着ている。シルク生地の素材の服は光沢があり、2人が着ているワンピースには豪華な刺繍が施されている。全く、贅沢な事をしている…俺は心の中でため息を付いた。
一方のアゼリアは見かける度にいつも地味な服装をしていた。とても伯爵家の娘が着る服とは思えない粗末なものだったので、母に相談して何度かアゼリアに服をプレゼントしたことがあった。しかし、その服をアゼリアは着ることは一度も無かった。その代わりに何故かモニカが着ていたのだ。何故モニカが着用しているのか訳を尋ねた時、アゼリアがこう言ったそうだ。
「こんな趣味の悪い服、着れるはずがないでしょう?」
と―。
その後、俺は数回母とアゼリアが似合いそうな服を送ったがどれもアゼリアが袖を通す事は無く、全てモニカの物になっていた。俺と母が吟味してプレゼントした服はどれもアゼリアは気に入らなかったそうだ。
その日以来、俺はアゼリアにプレゼントを渡すことをやめた―。
****
「アゼリアは今日はどうしているのですか?」
ソファに座り、メイドが淹れてくれたコーヒーを飲みながらアビゲイル様に尋ねた。
「ああ、アゼリアは昨日ピアノのレッスンをさぼったから今個人レッスンを受けていますのよ」
「そうですか。そのレッスンを中断する事は出来ないでしょうか?彼女に会いたいのですけど」
カチャリとコーヒーカップをソーサーに戻しながらアビゲイル様に尋ねた。
「それは無理ですわ。マルセル様。姉は集中力が切れてしまうからと言って、ピアノのレッスンを中断させるとヒステリーを起こしますの」
モニカが脇から口を挟んできた。
「ですが…私は彼女の婚約者です。私が会いに来たと言えばアゼリアは会ってくれるのではありませんか?」
するとアビゲイル様とモニカ嬢が2人で顔を合わせると言った。
「マルセル様…あの子は自分の思うようにいかないと、娘のモニカに八つ当たりするのです。モニカだけではありません。時には私や夫にも噛み付いてくることがあります。私達家族を嫌っているのですよ。こちらはいつもあの子の顔色を伺ってビクビクしているのは前からお話していましたよね?私がいけなかったのです。あの子を甘やかして育ててしまった私が…」
アビゲイル様はそう言うと俯いた。
「お母様…そんな風にご自分を責めないで?いつかお姉様も心を入れ替えて下さるはずよ」
モニカがアビゲイル様の肩に手を置き、俺を見た。
「マルセル様、少し嫌な空気になってしまいましたわね。気分転換に芝生で私の可愛い愛犬と一緒に遊びませんか?」
モニカ嬢が笑みを浮かべながら俺を見る。芝生で小型犬と遊ぶ?冗談じゃない。俺は心のなかで毒づいた。俺が今日疲れた身体でフレーベル家にやってきたのは犬と芝生で遊ぶ為では無い。アゼリアに会いに来たのだ。彼女に会えないならここにいる意味は無い。
「すみませんが、アゼリアに会えないのであれば今日はおいとまさせて下さい」
するとモニカ譲とアビゲイル様が慌てた様子で俺を引き止めた。
「お待ち下さい!マルセル様。ピアノのレッスンが終わればアゼリアに会えますから」
「ええ、お姉様のピアノのレッスンが終わるまでお待ちになって?」
「…では今日こそアゼリアに会えるのですね?」
立ち上がりかけた俺はソファに座り直すと尋ねた。
「ええ。勿論ですわ」
アビゲイル様が答えた。
「分かりました。ではその様に致しましょう」
俺は不承不承、承諾した。
しかし、その期待はもろくも裏切られた。
アゼリアがピアノのレッスンを中断していなくなってしまったとピアノ教師が報告に来たのだ―。
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