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5 龍認定されました   ▲

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     ◆龍認定されました

 富士山(らしき山)の裾野にある平野で、手裏軍と戦う日々が三週間ほど続いていた。
 つい最近まで、平和な暮らしをしていた紫輝が。人が命を散らす場面を見たくないと思ってしまうのは仕方がないことだ。
 右を見ても左を見ても、殺伐とした戦闘が繰り広げられている。
 ここでの日常が本当につらくてたまらない。

 紫輝は肉体的疲労と精神的苦痛がピークに達していた。

「龍鬼だっ、将堂の龍鬼を狙えっ」
 なるべく気配を消して『自分はここにいませんモード』になっているつもりなのだが。
 手裏兵は、一番前の隊にいて、翼がなく、紫色の派手な軍服を身につける紫輝を標的にしがちだ。
 そりゃそうだ。

 紫輝は襲い来る手裏兵ひとりひとりに、確実に剣を合わせていく。
「紫輝、助太刀するぜ」
 メタリックブルーの翼を羽ばたかせ、後方から千夜がやってきた。
 走って、というよりも。水平に飛んできた千夜は、横手から紫輝に斬りかかろうとしていた手裏兵の懐に入り込む。回転しながら剣を敵に叩き入れ、手裏兵を弾き飛ばした。
 まさに青いつむじ風だ。

「上は俺が当たる。紫輝は他の奴らを…」
 前の世界でも、紫輝は戦闘などしたことがないが。目の前の敵に集中することはできる。
 でも、この世界の人物には羽があるのだ。
 紫輝は上からの攻撃への対応がおろそかになりがちだった。

 手裏兵は翼のない紫輝の弱みをついて、黒い翼で跳躍し、上下左右と入れ替わりながら多彩な攻撃を見せた。
 戦闘スタイル的にも、紫輝は攻撃を受けるのみだ。
 剣を当てれば、ライラに生気を吸われ、敵は倒れていくけれど。
 相手は全然ひるまない。

「囲め、全員で襲い掛かれ」
 周囲にいた手裏兵が十人ほど集まり、紫輝に向かってきた。
 本気で殺しにかかる、敵の狂気にさらされ。
 猫が背中の毛を逆立てるみたいな危機感で、紫輝はビビッと身をすくめる。

「うわ、こりゃ駄目だ。紫輝、アレ使え」
「あれって、なに?」
「前にライラと打ち合わせしたって言ってたやつ。アレ、早くしろ!」

 今まで使う機会がなかったが、敵に囲まれたらライラがいっぱい吸うと言っていたのを。紫輝は千夜に言われて思い出した。
 班長の千夜と組長の廣伊にだけは、このことを伝えておいたのだ。

 だが、いきなり言われ、急かされて、紫輝はおおいに慌てた。

「ら…らいかみっ」
 敵が迫る恐怖と、焦りが相まって。口が回らず、噛んだ。
『ライラ、カミン』と言うところを、滅茶苦茶はしょってしまった。
 だが、技は発動したらしい。

 紫輝の体から紫色の炎のようなオーラが立ち昇り。
 ゴロゴロという重低音が、地上をわずかに揺らす。

 その瞬間、パーンと辺りを切り裂く激音と共に、紫色の雷がライラ剣めがけて落ちてきた。

 幅の広い稲妻の中心から、さらに電光が枝分かれし、紫輝の周りに飛び散った。
「ひぇっ…」
 光の洪水、音の衝撃、ものすごい展開が、目の前で繰り広げられ。紫輝は、びっくりして目を閉じてしまった。
 しばらくして、辺りが静まり。恐る恐る目を開ける。

 すると紫輝の周りにいた手裏兵が、三十人ほど地に倒れ込んでいたのだ。

「え、えぇ…」
 その、あまりにも凄絶な光景に、紫輝もさすがにビビってしまった。
 雷が落ちるなんて、聞いてないよぉ。
 そこでハッとした。ライラに、雷が落ちた。

「ら、ライラ…大丈夫? 痛くない? 生きてる?」
「あい。生きてる。ちゃいちゃいないわぁ」
 ちゃいちゃいは、痛いことだ。お腹が痛いときは、ぽんぽんちゃいちゃい。
 それはともかく。
 とりあえず、ホッとする。
 それにしても『らいかみっ』やべぇ。破壊力が半端ねぇ。

 大勢の人が倒れる現場を目にし、手の震えが止まらなくなった。
 敵だとわかっていたが、倒れている手裏兵に思わず駆け寄る。
 とうとう人を殺してしまった。そう思ったのだ。

 でも首を触ると、頸動脈の拍動が感じられる。
 剣を合わせて生気を吸われた人たちと同じく、意識を失っているだけのようで、胸を撫で下ろした。
 紫輝は、気絶している人たちをひとりずつ見て回った。
 羽のない人物、天誠に似た人物はいないか、確認するためだ。

 手裏の兵士は、ほとんどが黒髪で黒い翼だから。金髪の天誠は目立つはず。
 眞仲もこの前、天誠について何も言わなかったから。手裏軍に天誠はいないはずだ。
 けれど、眞仲は幹部だから。一般の兵士にまで目が行っていないかもしれないし。
 もし天誠が手裏軍に紛れ込むとしたら。金髪を黒髪に染めて馴染むくらいはしそう。
 だから黒髪だって、よく見てみなくちゃ。

 今、自分が剣を持って、この戦場にいるように。
 手裏兵の中に弟がいたら。
 剣を持って、ひとり戦っていたら。
 そう思うと、怖くて。涙が出そう。

「天誠…天誠…」
 探してみたが、天誠はいなかった。
 倒れている手裏兵にはみんな翼がある。ため息を漏らし、紫輝は荒野に立ち尽くした。

 すがるように、左手首を触る。
 そこには天誠が紫輝のために手作りしてくれた、革の腕輪がはまっている。
 腕輪に触れて思い出すのは、優しくて、少し甘ったれの弟の姿ばかりだ。

 天誠は必ず、紫輝を中心に動いていた。
 子供の頃は、漫画やゲームよりも。紫輝と遊ぶ方を選び。
 中学に上がったあとも、休日に同級生と外出するよりも、紫輝と家でゆっくり過ごす方が好きだった。
 紫輝が高校一年のとき。天誠は中学三年で、校舎が別になったが。
 登校も下校も、時間を合わせて必ず一緒に帰ったし。
 お腹が空いたとつぶやいて、紫輝にご飯の用意をさせたが。簡単な料理でも文句を言わず食べてくれて。
 誕生日プレゼントを作るために、春休みを革細工講習で潰すことも厭わない。

 そんな天誠の望みは、ただひとつ。
 紫輝がずっとそばにいること…。

「くそぉ…天誠。俺を守るって言ってたろ。早く助けに来いよ…」
 とうとう紫輝の目に、熱いものが込み上げてきた。

 もし自分のいないところで、天誠が殺されていたら…。
 いいや、そんなことはない。
 天誠はこの世界のどこかで、元気に暮らしているのだ。
 きっと人里離れた山奥で、サバイバル生活を楽しんでいるのだ。
 それか、将堂の上官にVIP待遇で迎えられている。だからみつからないのだ。そうに決まっている。

 一生懸命、紫輝は自分に言い聞かせるが。頬を伝う涙は止められなかった。

 自分はここで、なにをしているんだろう。
 いつ来るかわからない天誠の情報を、ただ待つばかりで。
 誰のために、なんのためにしているのかもわからないいくさに参加している。
 自分をここへ連れてきた龍鬼にも、会えていない。

 もしかしたら、間違えたのかも。

 軍に入って、元の世界に戻してくれる龍鬼を探すのではなく。
 先に天誠を、なにがなんでも探し出すべきだったのではないか?
 いやでも、すぐに探し出せると思ったのだ。
 だって天誠には翼がない。この世界では龍鬼扱いなのだから、すぐ、みつかると…。

「紫輝、すごかったな。『らいかみっ』が、これほどの威力だとは思わなかったぜ」
 足元の闇に引きずり込まれそうになっていたとき、千夜が笑いながら紫輝の肩を組んできた。
 親友のぬくもりに、紫輝は我に返る。

「あれ? なんで泣いてんだ? 雷が怖かったのか? ん?」
 からかう口調で言う千夜は、紫輝の深刻さを吹き飛ばすように少し乱暴に頭をぐりぐり撫でた。

「まぁ、さすがの俺様も落雷にはビビッて、しばらく動けなかったがな。雷光が目の前をバババッて走っていったぜ。でも、ちゃんと味方を避けてた。ライラは賢いな」
 千夜の明るい声で、紫輝もようやくしんみりした気持ちを立て直せた。
 ぎこちないながらも笑みを顔に乗せて、紫輝は照れくさそうに言う。

「そうなんだよ、ライラは賢いんだ。ようやく、そこんところわかってくれたな、千夜。俺もさ、ライラ、カミンって言うところを、間違えたんだけど。ライラが認識してくれて助かった。さすが、うちの天才ちゃんだ」
「えぇ? らいかみって雷神のことじゃねぇのか。いいよ、このままの方が格好いいって。マジ、雷だし。これからも『らいかみっ』にしておけ」

 犬歯が見えるほど、にっかりと笑い。千夜は他の班員に向かって手を振った。
「おーい、九班集合。順次退却の命令が出たから。敵に注意を払いつつ、後退するぞ」

 彼の言葉に、紫輝は辺りを見回す。
 思えば、考え事ができるくらいに手裏の攻撃が止んでいた。
 泣きながら、結構ふらふらしてたのに。

 もしかして、やり過ぎた?

「え、俺のせい? 日没までまだ時間あるけど、下がっちゃって大丈夫なのか?」
 暗黙の了解のように、両軍とも日が出ているうちは戦闘、日没は戦いを中止して隠れ潜む、という行為を繰り返している。
 明かりのない中での戦闘は、敵味方の判別ができないから、というのが理由だ。
 決して、鳥目だから(鳥は夜、目が見えないらしい)というわけではない。たぶん。

 以前の世界では、戦争映画やニュースを見ると夜間も戦闘していたが。ここでは圧倒的に光量が足りない。
 松明の火も、平野の中では蛍の光ほどのもの。
 この世界で、夜間の戦闘は不向きだった。

 しかし今は体感で午後二時くらいだろうか。日没にはまだ時間があり、いつもと違うタイミングでの退却に紫輝は戸惑った。

「いや、紫輝のせいじゃねぇよ。おまえが『らいかみっ』撃つ前に、退却の伝令が入っていたからな。第七大隊の方で右将軍が前面に出て、相対していた敵軍が壊滅したんだよ。陣形が崩れたので、手裏軍が下がるようだ。深追いするなという命令が出ている」
「え、じゃあ『らいかみっ』撃たなくて良かったんじゃね?」
 単純な紫輝の質問に、千夜はらしくない、爽やかな笑顔を浮かべた。

「いやいや…敵、多かったじゃん。つぅか一度、紫輝の必殺技が見たかったしぃ」
 千夜の好奇心で、余分な大技を撃たされたのかと思うと、腹立たしかったが。
 紫輝も興味はあったので、まぁいいかとその場を流した。

 それよりも気になるワードがあったのだ。
「右将軍って、時雨堺だろ?」
 千夜はギョッとして紫輝の頭を手ではたき、囁き声で叱った。
「おい、上官だぞ。様をつけろ。時雨様だ。こんな戦場のど真ん中で、誰が聞いてるかわかんねぇんだから。告げ口されたら、廣伊に殺されるぞ」
「わかったよ。それで、どこ? いま、どこに?」
 先ほど天誠のことでナーバスになっていた紫輝は、とにかく早く龍鬼に会いたくなったのだ。

 千夜の胸倉を掴んで、彼を揺さぶる。
「紫輝、やめろ。もう本陣に戻ったよ。それに、ここからじゃ第七大隊も視認できない」
 千夜は虫を払う程度の仕草で紫輝を引きはがし。遠くにいる仲間にも、手を振って合図を出していた。
 九班も、二十四組の他の班も、ゆっくり下がり始める。
 周りに戦闘可能な手裏兵は、もういなかった。

「同じ軍にいるのに、どうして会えないんだ。もどかしいな…」
「上官級になると、テコ入れ目的でしか前線には下りてこないからな。でもここ二十四組は、テコ入れなんて必要としない精鋭部隊だ。俺らが乱されることなんかねぇ!」
 千夜が拳を振り上げると、将堂の兵士が高ぶって、オオッと叫んだ。
 彼は、仲間の気持ちを奮い立たせるのが上手い。
 疲弊した兵士の士気を上げることは意外と難しいのだが。それができる千夜は、リーダーの素質があるということだ。

「だから右将軍がうちにテコ入れに来ることはないぞ。紫輝が時雨様に会える機会は、当分なさそうだな」
「それでも、俺はすぐにも時雨様に会いたいんだ。絶対に、会う!」
「ま、健闘を祈る」
 仲間たちと帰路に着きながら、そうは言ってもどうしたらいいのか、と。紫輝は唸る。

 それにしても、たいした時間もかけずに大隊ひとつを壊滅させるなんて。どれほどの能力が氷龍にはあるのだろうか。
 彼が、強い能力を持つのだと知れば知るほど。自分たちをこの世界に呼び寄せた犯人なのではないか、と思ってしまう。
 呼び寄せておいて、挨拶なしかっ。
 いや、天誠だけで目的は達しているのか?
 などと不満を抱きつつ。

 早く氷龍に会えますようにと願う紫輝だった。

     ★★★★★

 今日も無事、紫輝は前線基地まで戻れた。
 夕食後。体を洗うために水場へ向かっているところだ。

 着替えを巾着袋に入れ、リュックみたいに背負っている。
 ライラ剣と重なり、見栄えが最悪だが。手には提灯を持っているので仕方がない。

 基地内には、兵士が順番に入れる大浴場がある。
 うらやましい。
 龍鬼と同じ湯船に入りたくない、という反対意見が多いため。紫輝はそこを見たこともないのだが。
 だから水場で体を拭くくらいしかできないのだ。
 各家庭に風呂がある世界からやってきた紫輝は、切実に思うのだった。

「あぁぁぁ、肩までどっぷり浸かりたいぃ…」

 正直な心の声が、口からダダ漏れてしまった。
 風呂は、眞仲の家で入ったのが最後だった。
 水を汲むため、川と家を何度も往復したけれど。眞仲とライラと話しながらだったから、楽しかったし。
 浴槽、という名の大きなタライは。外にあって。
 星を眺められる露天風呂で、サイコーッ!
 あれは、本当に良かった。
 あの風呂が最後になるのなら、もっとあのお湯を堪能しておけばよかった。

「だったら、あそこへ行けばいいじゃなーい?」
 心の中でしくしく泣いている紫輝に。剣の姿のライラが言った。
 鞘から剣を抜くと、でっかい、長毛白毛スペシャル可愛いライラが現れる。

「あそこって、どこ?」
「おんちゃんがぁ、ちゅうしたところ」
 まだ言うかっ、と。
 紫輝は、あの日のことを思い出して、赤面するが。
 それで思い出した。

 眞仲と話をした、あの泉。

 お湯ではないけれど。贅沢など言っていられない。
 豊かに溜まった綺麗な水は、貴重なのだ。
 水場で体を拭くだけでも、水を飛び散らしたりするとすぐに苦情が来る。
 だから思いっきり水浴びができるだけでも、最高なのだ。

「ナイスアイデア、行くぞ、ライラ」

 軽い足取りで、紫輝は基地を囲む防御塀へと向かう。
 そこを、ライラに跨って飛び越え。あとは道を知っているライラのあとを、ついていくのだ。
 提灯を持っていても、樹海の中は照らせないし。木々ばかりだから、どこも似たような景色だ。

 やっぱり、どこかわからない。

「なんだか、疲れが溜まっているなぁ。水浴びで楽になるかなぁ?」
 泉への道すがら、ライラに話しかけた。
 彼女の能力のおかげで、紫輝は人を殺さずに済んでいる。
 しかし剣を交えるだけでも、それなりの恐怖と体力の消耗があった。

 たとえば、千夜と剣の稽古をすると。いまだに剣を交える前に体幹に打ち込まれるときがある。
 つまり剣の達人と相対したら。無事ではいられないかもしれないのだ。
 敵は死に物狂いだから。
 その気合だけで圧倒されるし、何人も相手にしたら体力が削られる。

「それはそうよ。生気を吸いこむのに、すこし、おんちゃんの力をかりているのだもの」
 ライラの答えに、紫輝は目をみはった。

「え、そうなの? ライラの食事ってだけじゃなかったのか?」
「あたし、わからないわぁ。でも、おんちゃんの力をかりないと、いっぱい食べられないもの。そういうものなの」

 生気を吸うのが、ライラの食事。それは理解していた。
 でもライラがどれだけの人数の生気を吸えるのか。その能力を出すのに、なにが必要なのか。全く聞いていなかった。
 ライラのこと、もっと聞いて理解しなくちゃと、今更ながら反省する。

「そうなのか。今まで詳しく聞かなかったけど、ライラにいろいろ教えてもらわなきゃな」
「あたし、むずかしいことは、わからないわぁ」
「そうか。じゃあ、たとえば『らいかみっ』は何回くらい撃てる?」
「そぉねぇ…一日一回ね。いっぱい吸うと、おんちゃんがつかれちゃうの。あぶないときだけ、バーンしてね」
 ライラはニパッと笑い、口元を丸い手で拭った。

 確かに『らいかみっ』を撃ったあと。いつも以上に、ドッと疲れた。
 それはそうだ。一度に大人数を倒せる大きな能力を、無償で使える方が気持ち悪い。
 そもそもこの過酷な世界で生き延びることができているのは、百パーセントライラのおかげだ。
 自然のことわりに反したことで、命を永らえているのだから。リスクは甘んじて受け入れなければならない。

「でも、でも、よる、ねんねすればなおるはずよ。そういうものなの」
 ライラにそう言われ、気づく。
 紫輝は、翌日まで疲労が残るようなことはなかった。それも特別なことなのかもしれない。
 地味だけど、これがチート能力ってやつか? なんて考えた。

 そんな話をするうちに、泉に到着した。
 紫輝はわくわくして、満面の笑みを浮かべる。

 さっそく服を脱いで水浴びを…と思った矢先。
 泉の中央に白く浮いた人影が見え。手裏兵かもしれないと思って、紫輝は提灯の明かりを消し、茂みに隠れた。
「ライラ、剣に戻って。あいつが攻撃してきたら、危ない」
「あい」
 くるりとライラが前転すると、手元に剣の柄が現れる。
 紫輝はとりあえず、ライラを鞘に戻し。
 注意深く、泉の中にいる人物をみつめた。

 泉の上には、丸い月がぽっかりと浮かんでいる。
 月光は実に明るく。水面のさざ波をキラキラと輝かせていた。

 泉で体を清めている人物の肌も、月の光を受けて白く輝いている。
 腰の辺りまで水に浸かり。こちらには背中を向けているが。体格から見て、男性だ。
 肩から二の腕にかけての筋肉のつき方が見事だが、体つきはごつくもなく、華奢でもない。
 長身で、しなやかな背筋のラインが優美で。
 毛先が水に浸かるほど長い髪は、赤く染まっているが。手で梳くことで洗われると、白い絹糸のようにきらめく。

 その情景は、とにかく美しい…の一言に尽きた。

「なに見てんだ?」
 突然、耳元で。こっそりと声を掛けられ、紫輝は茂みを揺らすほどに驚いた。
 いつの間にかそばにいた人物が。青い翼を、楽しげにぴくぴく動かしていた。

「せ、千夜っ?」
 名を呼ぶと。当然その気配に気づき、水浴びをしている人も振り返った。
 腰から下は水に隠れているが。彼は全裸だから。男だとわかっていても、盗み見していた後ろめたさに紫輝は恥ずかしくなる。

「誰ですか?」
 泉の中の男が、手をかざす。すると彼の手は全く届いていないのに、紫輝の前にあった茂みが掻き分けたかのように左右に開いた。

 穏やかで、柔らかく響くテノールが。丁寧にたずねる。
 それに千夜は片膝を地につき、顔を上げない、上官へ向けた挨拶を返した。

「右第五大隊二十四組九班班長の、望月千夜と申します。隣は、間宮紫輝です」
「なにをしているのですか?」
「…のぞきか?」
 どういうつもりか、千夜が紫輝に確認を取るものだから、慌てて首を横に振った。

「ち、違います…あの…」
 だが男は興味なさそうに、カーテンを閉めるような動きで手を振った。
 分かれていた茂みが、元に戻り。さらに小枝が複雑に絡み合って、まるで生き物みたいに、男の姿を草木が隠してしまった。

「今の人、そういえば、羽がなかったんじゃね?」
 急に気づいて、紫輝はつぶやく。
 この世界に来るまで、羽が生えた人物など見たことはない。だから羽がない方が、紫輝には違和感がないのだ。
 だからつい、普通に見ていたけど。

 あれは龍鬼ではないか?

「なんだ、気づいていなかったのか? 彼が氷龍の時雨堺様だ」
 千夜が肯定し、紫輝は喜びと期待に胸を躍らせ、瞳を輝かせた。

 彼が技を発動したとき、なんの気負いも感じられなかった。
 廣伊は緑を芽吹かせるとき、神経を集中させ、命を燃やすようなオーラを発したのに。
 彼は、日常の動作のように容易に木々を動かした。

 その能力の高さに、ぞくりと肌を粟立てる。
 この人ならば、自分たちをここに連れてくることも、元に戻すことも、可能なのではないか?

「し、時雨様、俺、話が…」
 慌てた紫輝は、明かりが消えた提灯を地に放り投げ、両手で木々をかき分けた。
 しかし分けても分けても。木々は、なぜか元に戻ってしまう。
 必死の想いで、紫輝は手を動かし続けたが。
 その手に手を重ね、千夜がやんわり止めた。

「紫輝、ダメだ。下の者から上官に声をかけてはならないんだ」
「それは、わかっているけど…」
 やっと会えたのだ。
 彼には聞きたいことが山ほどあるのだ。
 この絶好の機会を、逃すわけにはいかないっ。

「手を放してくれ、千夜。時雨様に、どうしても聞きたいことがある。俺の命に関わる、大事なことなんだ。頼む…」
 思いつめた顔つきの紫輝にみつめられ、千夜はものすごく渋そうな顔をした。

「もうっ! 仕方ねぇなぁ。おい、俺が殺されそうになったら、全力でかばえよな、マジで…」
 言って、千夜は立ち上がった。

 あ、立てば良かったのか。
 超、必死な自分の馬鹿さ加減に、紫輝は呆れた。

「失礼します、時雨様。こいつは、あの雷龍らいりゅうなんですが。話したいことがあるようなので、どうか聞いてやってくれませんか?」
 すでに泉から上がり着替えを済ませていた氷龍は、ゆっくり振り返った。
「雷龍?」
 空色の軍服が、彼の白い髪をより美しく際立たせている。

 目が合い、紫輝は会釈した。
「良いですよ。お聞きしましょう」
 許しを得て、彼の前に進み出た紫輝と千夜は、慣例に従い、再び片膝をついて頭を垂れる。
 顔を上げた紫輝は、氷龍を間近に目にした。
 彼の白髪は、紫輝のようにごわごわの髪質ではなく。しっとりとした、ストレートだ。
 額をあらわにしていて、すっと流れる切れ長な目元は、眞仲ほどの鋭さはなく。どちらかというと、柔和だった。
 氷の彫像のごとく、薄青の瞳。
 薄めの唇は引き結ばれ、表情の変化は乏しく見えた。

「鶴、みたいだ」

 口をついて出た紫輝の言葉に。氷龍はふと、口元をほころばせた。
「えぇ、タンチョウです。羽がないのに、よくおわかりですね?」

 彼はなんとなく。白い翼のイメージだった。加えて凛としたたたずまいに当てはまるのは、白鳥よりも、鶴かな、と思ったのだ。
 血脈クイズがが当たって、ちょっとテンションが上がった。

 直後、彼が。紫輝の前で正座をしたので。慌てて変な言葉遣いが出た。
「や、お、お立ちになってて、よろしい、んですが…」
「話をするのに、立ったままでは失礼ですから」
「でも、あの…せっかく洗ったばかりの髪が、汚れてしまいそうで」

 泉に入っていたとき、彼の髪は赤く染まっていた。
 敵軍を壊滅させたとき、返り血で汚れたのだろう。
 だが洗髪した今、透明感のある、光る白髪だった。
 頬に濡れ髪がひと筋かかり。とても綺麗で。だけど長い髪なので、座ると毛先が地を掃いてしまう。

 すると全く表情を変えず、氷龍は短剣を取り出した。
 そして髪に刃を当てる…。

「ちょ、ちょ、ちょ、待って、待って。なにする気ですかっ?」
 突飛な彼の行動に、驚き。慌てて、紫輝は思わぬ大声を出して彼を止めた。
「汚れるのが気になるようなので、切ろうかと」

「そんな綺麗な髪、切ったらダメぇ。切らないでくださいっ」

 手のひらを横に振って、必死に彼に頼み込んだ。
 紫輝が憧れるスルスルさらさらストレートへアーっ。
 これほどに美しい髪を切るなんて、神を冒涜するに等しい、残虐行為である。
 世のゴワゴワダメージヘア人に謝れっ。

「綺麗ではありません。私は醜く、汚らわしいので、忌み嫌われているのです」
 あきらめているようなせつない眼差しで、彼が言うので。紫輝は呆気にとられた。

 氷龍は、本気だ。

 自分が美形であることに、全く気づいていない様子だ。
 ただの美形ではない。凄まじい美形なのに。

「いやいや、時雨様は、髪も顔もとてもお綺麗ですよ。俺だけじゃないですよ、みんな言ってるよ…な? 千夜」
 紫輝は千夜に確認する。
 隣に座っていた千夜は、あまりな展開に固まって動けなくなっていたようだが。
 紫輝にうながされ、大きく縦にうなずきを入れた。

「貴方は、お優しい方なのですね」
 しかし氷龍は。全く紫輝の話を真に受けていなかった。
 それどころか、お気を遣っていただきありがとうございます…という。己を卑下する印象を受けた。

 それについては、紫輝はちょっと黙っていられなかった。

「そんなの、ダメです。龍鬼として、俺も…つらいこと、いろいろ言われたけど。だからあきらめちゃう気になるのもわかるけど。今、俺たちは、時雨様のことを綺麗だと言ってんだから、その気持ちを無視しないで。目の前にある好意を、退けちゃダメでしょ?」
 彼が、少し目線を上げた。
 紫輝をみつめるその視線は。どこか自信のない眼差しであり。
 叱られた子供が親にすがり、本当に? 大丈夫? 怒っていない? と探るような眼差しでもあった。

 千夜の話では、氷龍は無敵で、恐ろしい怪物みたいな存在だった。
 けれど正面に座る彼は、なんだか頼りなく、儚げだ。
 彼に、本当に、大隊を壊滅させるだけの力があるのか疑ってしまうほどに。

「大丈夫。時雨様は本当に綺麗で、髪も、マジ綺麗。だから切らないで、ね?」
 両手を合わせてお願いする紫輝に。氷龍は少し考える。
 そして、全く別なことを切り出した。

「私のことは堺と呼んでください。時雨の名は、私には重すぎるので。受け入れてもらえないなら、髪を切ります」
 無表情で髪に刃を入れようとする彼に。紫輝は、必死にうなずいて見せた。
「わぁ、わ、わかりましたから。だから切らないで…堺」

 紫輝が名を呼ぶのを確認し、堺はひとつうなずくと。髪を切らず、短剣を鞘に収めて懐にしまった。
 千夜は胸を手で撫でて、安堵している。
 紫輝は(なんだか氷龍の話のテンポ、おかしくね? ちょっと天然入ってるかも)と感じていた。

 とりあえず、話が全然進んでいないので。紫輝は無理矢理、本題に入ることにした。
 堺が正座をしているので、紫輝も千夜も正座に座り直す。

「あの…俺は異世界から来たんです。来たっていうか…庭に大きな手が出てきて、掴まれたと思ったら、ここにいたんです。誰かに、その大きな手に連れて来られたんですよ」
「……………え」
 堺は理解不能という顔で、紫輝に問い返した。

「そんなことができるのは、龍鬼しかいないんでしょう? だから強い龍鬼に会いたくて、将堂軍に入ったんです。でも廣伊には、そんなことできないって言われました」
「第五大隊の高槻廣伊か?」
「はい。俺の上司です。でも廣伊は、しぐ…堺なら、元の世界に俺を戻せるかもしれないって。だから俺、ずっと堺に会いたかったんです」

 ジッとみつめる堺の前で、紫輝は背筋を伸ばし、改まる。
「貴方が、俺たちをここへ連れてきたんですか?」

 核心に触れ、彼の返事を待つ間、紫輝はものすごく緊張した。
 堺が、自分たちをこの世界に連れてきた張本人なのか。
 元の世界に戻せる力があるのか。
 何故そんなことをしたのか。

 すべての謎が、明らかになると思っていた。

「いいえ、違います」
 あまりにも簡潔な堺の答えに。紫輝は、心底がっかりした。
 でも、まだ食いついてみた。

「あの、俺には弟がいて。天誠って言うんです。間宮天誠。髪は金色で、目が青くて、身長は千夜くらいあって。とにかくその弟が、すごく有能なんですよ。だから俺、将堂軍の上層部が、天誠を召喚したんじゃないかと思っているんですけど…そういう事実はありませんか?」

「ないですね。将堂軍の龍鬼は、私と高槻だけで。私も高槻も、その件に関わっていませんし。そもそも、有能とはいえ、一般人をこちらに招いても、利がない」
「…天誠が将堂に必要なら、俺、邪魔しない。天誠が無事なら、それでいい。だから上層部で天誠を保護しているなら、会わせてほしいんです」
「申し訳ありません。紫輝のお役に立ちたいとは思うのですが。私も上層部も、天誠を知らない」

 困ったように眉尻を下げる堺を見て。
 紫輝は、打ちのめされ。項垂れた。

 堺が犯人だと、ここ二ヶ月、思い込んでいたのだ。
 堺に会えれば、元の世界に帰してもらえると期待していた。

 でも、すべてがガラガラと音をたてて崩れていく。

「貴方の話ですが。まず、異世界というものがわからない。それと、貴方は龍鬼でしょう? 戦場で能力を発揮しているという報告を聞いています」
「俺は龍鬼じゃないです。戦場でのことは、ライラが力を貸してくれているので。ライラ、出てきて」
 紫輝が頼むと、ライラ剣がでっかい猫型に変化し、紫輝の横に座った。
 剣が、正座する紫輝よりも大きな猫に変わったので。表情に乏しい堺も、さすがに驚いた顔を見せた。

「…あの、なんですか? これ。猛獣? 妖獣?」
「ライラは、俺の飼い猫です。あの大きな手に掴まれたとき、俺が抱っこしていたものだから、弟共々、この地に連れて来られたんです。で、異世界転移したためか、でっかくなったり、その、不思議な能力を使えるようになったみたいで。ライラは俺を助けるために、力を貸してくれているんだ。だから戦場で手裏を倒しているのはライラで、俺は龍鬼じゃない。龍鬼のフリをしている、なんの能力もないただの人なんです」

 なんとなく疑わしい目で、堺は紫輝をまじまじと見た。
「では、その…異世界? の話は一度置いて。私の能力についてお話ししましょう」

 堺はライラのことを華麗にスルーした。
 理解不能な話をのみ込む前に、わかっていることに話をシフトしたのだ。

「龍鬼には、それぞれ特化した能力があります。私は人の心を惑わす能力に長けています」
「人を惑わす?」
「意識消失、記憶操作、人の心を読む、そのようなことです」
「その能力で、今日大隊を壊滅させたんですか? 敵が意識をなくしている間に斬る、とか」
 ズバッと斬る仕草をする紫輝に、堺は首を横に振った。

「能力を使う際は、多大な集中力を要します。ですから、戦場で能力を発揮することは、ほぼできません。他人の記憶を操作すれば、以後一年ほど発動不能になりますし。今日の戦闘では、単純に剣で対応いたしました」
「それじゃ廣伊と一緒で、剣技に優れているのですね? 隊を壊滅するくらい…」
「えぇ、大抵の龍鬼は身体機能が並外れている。だから戦場で重宝されるのですよ」

 それはそれで、恐ろしい能力だと紫輝は思う。
 異世界渡った己より、龍鬼の方がよほどチートだ。

「私が知るほとんどの龍鬼が、集中できない場所で能力を使えません。だから剣を合わせるだけで敵の意識を失わせる新しい龍鬼、雷龍は。すごい能力の持ち主だと…幹部間でも、すでに評判になっています」
「雷、龍?」
 先ほど千夜もそんなことを言っていたが。聞き慣れない呼び方に、紫輝は首を傾げる。

「えぇ、私は冷気を帯び、氷を出せるので、氷龍という龍鬼の称号があります」
 そう言って、堺は手のひらを出すと。苦もない感じで、氷玉をポロリと出した。

「炎を出す、兄の藤王は炎龍。高槻は花龍。手裏軍の不破は、よく空を飛ぶそうなので、天龍。安曇は知略に長けているので、賢龍。そして貴方は…ずっと相応しい称号をつけられずにいたのですが。今日、雷を落としたということで、雷龍となりました。すでに前線基地全体に広まっていますよ」
「それは、ライラが」
 雷を落とすのは、ライラだから。紫輝は隣に座るライラを自慢げに両手で示す。
 うちの子、本当にすごいんです。そんな気持ちを込めて。
 彼女も、胸を張ってドヤ顔していた。

 しかし堺は。不思議な顔で、ライラを見やるのだった。

「でも、堺は記憶操作? するみたいだけど。今も氷出したし。さっきは遠くから、茂みを動かしたし。いろいろできるじゃないですか」
 話を戻した紫輝に、堺は淡々と答える。

「私の能力が、それなりに高いことは、否定しません。物体を触れずに動かすくらいのことなら、少しの集中でできますし。瞬間的に、場を移動することもできます」
「なら、俺たちを元の世界に戻すことができるんじゃ?」

 場の移動というのは、異世界からここに連れてくることと似ているような気がして。紫輝は期待して身を乗り出したのだが。

「場所移動には、大きな負荷がかかるんです。私はそれをすると、体のどこかに傷を負います。空間移動で傷を負うのは、理を無視したことの代償です。距離が長ければ長いほど、重い傷を受けることになる。もし貴方が、誰かの手でこちらに連れて来られたとするならば、貴方も、相手も、かなりの深手を負っているはずだ」

 紫輝は自分の体を見やり。ライラの毛も、かき分けて見た。
「ここへ来たのは、二ヶ月前ですが。怪我はしていません」
「なにも変わっていないのなら、もっと簡単な仮説がある。貴方は元々この世界の住人で。誰かに記憶を操作されている、ということだ。私はしていませんが。手裏軍の龍鬼がそうしたと。考えられなくはない」

 堺の意見に、紫輝は、ただただびっくりした。
 元の世界の記憶が、嘘の記憶だと彼は言っているのか?
 そんなはずはない。
 今も鮮やかに思い起こせるのだから。
 天誠と手を繋いだ感触も。
 ファーストキスのときめきも。
 小さなライラを抱っこする、あのぬくもりも。
 脳裏に深く刻まれた、この、まばゆく輝く記憶が。すべて作られた幻想だなんて。
 ありえない。絶対に。

 紫輝は、堺の話を否定する。
 天誠の存在は、虚構じゃない。ライラも、子供のときからそばにいたのだ。
 自分の記憶が嘘ではないと、確信している。

 なのに、ショックで。声が出なかった。

「でも、傷ではないが、その猫は明らかに変質していますよね?」
 なにも言えずにいる紫輝を手助けするように、千夜が口をはさんだ。

「しかしその猫が、彼に暗示をかけているかもしれませんよ? 彼のそばにいるために、飼い猫だという嘘の記憶を刷り込んだのでは?」
「ひどいわっ、あたし、おんちゃんをのろってないわよぉ」

 ライラが金緑色の瞳を潤ませる。
 紫輝はライラを抱き締め、堺に言い返した。
「そうだ、ひどいよ、堺。そんな、ライラを邪悪な化け物みたいに言うなんて…」
「いや、猫が剣になるんだから、かなり妖しげだけどな」
 味方だと思っていた千夜に裏切られて。

 紫輝は唇をとがらせ、おおいに拗ねた。

「でも紫輝がこちらに来たとき。負荷により、その猫が異種に変質したという推論は成り立ちます。つまり紫輝が何者かにここへ連れて来られたという話は、否定できません」
「…そうですね」
 熟考したあと、堺はうなずいた。
 千夜に、良かったなという顔で笑いかけられ。紫輝は半泣きで、彼に本当に感謝した。

 おそらく自分だけだったら反論できなかった。

「だとすると…異世界というのは、よくわかりませんが。他人を無傷で、長距離移動させられる龍鬼が、どこかに存在するということでしょうか?」
 堺は自分で仮定を述べ、難しいことだと言わんばかりに首を振る。

「今、確認されている龍鬼の中には、そういう方はいないんですか?」
「可能性があるのは、能力があまり知られていない安曇眞仲か。現在行方不明ですが、非常に能力が高い私の兄。藤王です」
 紫輝は、堺の言葉にドキリとする。
 安曇眞仲が龍鬼でないことを、紫輝は知っている。
 そして龍鬼のことを調べるうちに、藤王が八年前から行方不明で、死亡説が囁かれてることも知っていた。

「それって…」
 紫輝は、ライラをみつめた。
 彼女はなにが起きたかわからないようで、ただ紫輝と目が合ったことに喜んで、喉をゴロゴロと鳴らしている。

 だが、たった今、元の世界に戻る可能性が消えたのだ。

「もう、元の世界に戻れない…」
 戻りたかった。あの家に。
 家族の元に。天誠と、ライラと。三人一緒に。

 堺に会えば、必ず戻れると信じていた。
 でも、戻れない。
 胸に、絶望の嵐が吹き荒れ。紫輝は泣いた。

「なんで…なんで、こんな目に…」
 あとからあとから涙がこぼれる。気持ちがざわついて。どうしたらいいのかわからない。
 紫輝はライラの首にしがみつき、長く白い毛の中に顔をうずめた。

「おんちゃん、なかないで。あたしが守ってあげる。守ってあげるからぁ」
 泣き声を押し殺す紫輝に反応し、ライラも大声で泣いた。
 派手に泣く猫と、しくしく泣く紫輝に、堺は戸惑いつつ。でもしっかりと宣言した。

「あきらめないで、紫輝。私はあきらめたりしませんよ」
 それでも顔を上げないでいると。堺が。紫輝の肩に手を添えた。
 思いのほか柔らかい彼の指先は、かすかに震えている。
 紫輝は。なぜ彼が震えているのか、そのときはわからなかった。

「敵の…手裏の龍鬼と会うことは、とても難しいことですし。紫輝はおそらく…藤王が死んだと、思っているのでしょう。でも私は、兄は生きていると信じている。あきらめない。何年かかっても、必ず探し出すと決めています」

 願いを込めて言う、堺に。紫輝は視線を向けた。
 堺も、八年もの間ずっと兄の行方を捜しているのだ。
 あきらめない、ということが。無謀なことだと自覚があるから、紫輝に添えられた手は、震える。
 でも、決して。あきらめたりしないのだ。
 兄弟と生き別れという境遇が似ているから、紫輝は堺の心情に大いに共鳴した。

 そして、思い出す。
 自分も眞仲に、十年経ってもあきらめないと豪語したではないか、と。
 まだ天誠と出会えてもいない。
 彼を探す間に、藤王がみつかるかもしれないし。
 まだみつかっていない、強い龍鬼に出会えるかもしれないのだ。

「俺だって…あきらめない」
 ボロリと大粒の涙をこぼし、紫輝も宣言した。

 あきらめたら、その瞬間。すべてが、終わる。
 天誠に再会することも。元の世界に戻ることも。そんなことは絶対に嫌だ。

「紫輝を、元の世界に戻してあげられないこと。龍鬼として不甲斐なく思います。でもどうか、気持ちを強く持って。私も藤王を全力で探しますし。私に手伝えることがあるなら、協力を惜しみません。私を綺麗だと言ってくれた貴方のために、力を尽くしますから」
「ありがとう、堺。俺、元の世界に戻る手立てを、必ずみつけてみせます。そして天誠と必ず再会して、ライラも一緒に、みんなで家に帰ります」
 頬を伝う涙をグイッと拭って、紫輝は堺に笑顔を向けた。

 堺は、一瞬びっくりした。
 兄以外に、こんな真っ直ぐな笑顔を向けられたことなんてなかったから。
 堺は生まれたときから、龍鬼だから。
 龍鬼は、忌み嫌われる存在だから。
 両親にすら笑いかけられたことはない。
 だから紫輝が笑ってくれて、嬉しい。
 嬉しいという感情すら、久しぶりだ。

 今日は、いっぱいしゃべったな。
 そう思うと、胸がじんわりと温かくなった。そして自然に笑みが浮かんだ。

 柔らかい表情で微笑む堺を見て、紫輝は月の加護を受ける龍のごとく荘厳だ、と思った。

     ★★★★★

 堺と別れたあと、紫輝は服を全部脱いで泉に入った。ようやく水浴びの時間である。
 久しぶりに、体をごしごし洗えるのが嬉しい。

「千夜、ありがとうな。俺ひとりじゃ、堺にうまく説明できなかったから」
 泉のほとりに目を向けると、青系の千夜と白系のライラが、仲良く並んで座っている。
 出会った頃、ライラは。千夜のことも、吉木と同列扱いで。嫌いよぉと叫んでいたけれど。
 ようやく千夜は紫輝の友達として、ライラに認定されたらしい。

「いや、紫輝の力になれて俺も嬉しいよ」
 泉の右手には、切り立った崖があり。その上から、白い布を垂らしたかのように流れる、小さな滝があった。
 滝から泉に流れ落ち、泉からあふれた水は、崖の岩場や裂けた地盤の間に流れ込んでいく。
 川のように流れていくのではなく、水が、どこへ行くのかわからないけれど。泉の水は、増えることも減ることもなく、ずっと豊かだ。
 一番深いところは、紫輝の胸の辺りまで水がくる。
 富士(らしき山)の天然水に浸かる贅沢、本当にごめんなさい。

 でも毎日風呂に入っていた生活をしていた紫輝は。ずっと水に、できればお湯に浸かりたかったのだ。
 肌をすべる、水の感触が心地よく。思い切って頭までもぐってみた。
 水の中は、なにもないんじゃないかと錯覚するほどの、透明度で。夜でも月明かりで水底まではっきり見えた。
 水の底にある細かい石粒が、浮き上がって踊っている。
 滝からの水だけではない、そこからも水が湧いているのがわかった。

 プハッと水から顔を出し、紫輝は千夜にたずねた。
「そういえば、千夜はどうしてこんなところにいたんだ?」
「いや、今日戦場で、おまえが妙に思いつめた表情で泣いてたから、心配で。話しでもしようかと思っていたんだが。そうしたら防御塀の外へ出て行ったから。もしかして脱走するんじゃないかって…慌てて追いかけたんだよ」
「え、俺を追ってきたの? いやいや、脱走なんかしないよ。ここに水浴びしに来ただけ。ほら、着替えも持ってきているだろ? それに堺も、ここで水浴びしてた。龍鬼は風呂場が使えないから、マジ大変なんだよ。頼むから、見逃して?」

 両手を合わせて千夜に拝み倒すと、彼は困った顔つきで笑った。
「仕方ねぇなぁ。陣営から出るのは、基本ダメなんだぞ。けど、おまえが苦労してんのは知ってるから、見なかったことにしてやる。防御塀の外には敵兵がいるかもしれない。それだけは、よくよく注意しろよ?」
「ありがと、千夜。でもさ、あの塀、意味なくね? 千夜も飛び越えたんだろ?」

 さりげなくも強引に、紫輝は話題を変えた。
 龍鬼にとって大変貴重なこのオアシスは、絶対に失えない。だから焦点をずらしたのだ。
「俺でもギリギリ、最後はよじ登ったからな。あの塀は、猛禽の翼がないと越えられない」
「猛禽の翼?」

 意味がよくわからなくて、紫輝は体を洗いながらも千夜に問うた。
「猛禽類が種の者が持つ、翼のことだ。俺の羽は大きな方だが、カモメは渡り鳥系だから、高さを出すには助走がいる。だから塀を、一度では飛び越えられない。でも猛禽は、上にギュンと上がれるんだよ」

 手の指をそろえ、千夜は紙飛行機が飛ぶような形を作って見せた。
「瞬発力なのか、構造自体が違うのか、猛禽の翼は肉厚だから、こういう動きも、こういう動きも、急な方向転換ができる。渡り鳥系は基本直線で、旋回しないと方向を変えられないんだよな」

 手で示す飛行機をあちこち動かして、千夜はひとり悩んでいた。
「ふーん、翼の大きさで飛距離が変わるとは聞いていたけど、飛び方にも種類があるんだな?」
「あぁ。まぁ、ともかく、塀は手裏のカラス羽根が越えられない高さに設定してあるから、意味なくはないんだ」

 でも眞仲は、越えていた。
 しかし、そういえば。戦場で、眞仲ほどの立派な大翼の手裏兵を、見たことがない。
 みんな眞仲より、三十センチくらい羽が短かった。
 初めて眞仲と会ったとき、彼の羽は、カラスとハクトウワシの掛け合わせだと言っていたな…と追憶し、ようやく眞仲が猛禽類なのだと思い出した。

「…でも、猛禽類っていっぱいいるんだろ?」
「希少種だから、将堂軍内部にも、数える程度しかいないぞ。大体、将堂の一族の者か、名門、軍幹部にいる何人か」
「手裏にも、猛禽はいるだろ?」
「どうかな。俺はここ数年、手裏軍の中に猛禽を見たことがない。いないんじゃないかなぁ…あぁ、手裏一族の者が、猛禽と掛け合わせているという噂だ。今は、当主の手裏基成しか表に出ていないから、彼だけなんじゃないかな?」

 紫輝はゾワリと肌を粟立てた。
 それって、眞仲が手裏一族ってこと?
 それとも眞仲は、安曇眞仲ではなく手裏基成ってことなのか?

 混乱し、紫輝はジャボンと大きな水音をたてて、泉にもぐった。
 頭を冷やして顔を出すと、ほとりにいた千夜とライラが目を丸くしている。
「びっくりした。動きが唐突だな、おまえは」

 ハハッと軽く笑って、千夜は話を続ける。
「なぁ、紫輝。さっきの話だけどさぁ…金髪碧眼の、羽なしに、俺、会ったことがあるんだ」
 千夜の言葉に、紫輝は一瞬フリーズした。

 それって、天誠じゃないか。

「ま、ま、マジで、どこで、いつ…って言うか、早く言えよ」
 水をジャバジャバかき回して、陸に上がろうとする紫輝を、千夜は手で止めた。
「まぁ、待て。ちゃんと体を洗っていろ。多分、おまえの弟じゃないから」

 あんまり千夜がきっぱり言うので、紫輝はその場に正座し、肩まで水に浸かった。
「俺が新兵で…十五歳くらいだったんだが。おおよそ、七年前か。戦場で、金髪碧眼の龍鬼に会った。べらぼうに剣の腕が立って、命の危機ってやつを体験したよ。彼が、安曇眞仲だ」

 紫輝はギョッとした。
 金髪碧眼の龍鬼は、安曇眞仲。

 だとしたら、自分が知っている安曇眞仲は、誰?

「でもあいつ、廣伊と同じくらい俊足だし、剣技もヤバかった。確実に龍鬼だろ。それに俺より年上だった。それ以降、目撃情報がないので、時雨様は安曇を見ていなくて、さっき紫輝に知らないと言ったんだろう。つまり俺より年上で、確実に龍鬼であるあいつは、おまえの弟じゃない。でも気になったから、一応報告いたしました」

 上司への報告風に、千夜はおどけて言うけれど。
 紫輝は混乱極まれりで、脳みそが完全停止してしまった。

 眞仲が、基成で、天誠が、眞仲で…。でも千夜より年上だから、眞仲は天誠じゃない、のか?

 もう一度、今度は静かに水の中にもぐった。
 水の中から天を見上げると、月がゆらゆら揺れている。

 月明かりの中、彼に抱かれて空を飛んだときのことを、思い出す。
 怖かったけれど、そばに眞仲の顔があって。彼が微笑みかけてくれたら、怖さが薄れた。
 なにもかも、委ねられる安心感。

 それは幸せだった。

 考えたくないけれど。
 安曇眞仲という存在が、嘘で固められた虚像だったら?
 愛していると言ってくれた、あの言葉も…嘘だったら?

 息が苦しくなって、水から顔を上げる。
 水滴が紫輝の頬を伝って、顎からぽたぽたと落ちる。
 一滴のしずくが、水面に波紋を広げるように。
 いきなり出現した謎が、紫輝の心に、ひそかなシミを作った。

「あとさぁ、おまえ、足抜けとか考えんなよ」
 紫輝の動揺などに、気づかず。千夜はマイペースに話を続けていた。

「んー、足抜けはしないけど。さっき堺に会って、将堂の龍鬼には話を聞いたから。とりあえず天誠の行方を捜すことに集中したいかなって。ほら、元の世界に戻れるとしても、天誠と合流していなきゃ意味ないだろ? 早く天誠に会いたいんだ。待ってても情報が来ないから、あちこち村を巡って、弟探しの旅ってやつ?」

 動揺を押し殺しているのを、髪を洗う動作で誤魔化し、千夜の言葉に答えた。
 だが、彼が硬い声を出す。
「そんなこと、できねぇよ」

 ん? と、なんの気なしに振り返ると。
 すごく真剣な顔つきで、千夜がみつめていた。

「紫輝はさ、もう将堂の龍鬼なんだよ。俺たちは、紫輝が龍鬼じゃないって知っているが。みんな、おまえを龍鬼だと思ってる。雷、落として。多くの敵を倒す、大きな戦闘力を持つ雷龍を。将堂は決して手放さないぜ」

 未だ聞きなれない、雷龍の称号。
 いつの間にか、しっかり『龍認定』されていたようで、紫輝は戸惑ってしまう。
『らいかみっ』はライラの能力だ。
 でも、それを知らない他者は、落雷を、紫輝の能力だと誤解している。
 紫輝はなんの能力も持たない、ただの高校三年生なのに。
 なんだか人を騙しているみたいな、嫌な気持ちになった。

「おまえは、主義や思想で、将堂を選んだわけじゃない。弟を探すため、龍鬼に会って元の世界に戻るため、入軍したんだろうけど。ここは組織だから、簡単に抜けますってわけにはいかないんだ。紫輝が将堂を出られるのは、戦闘不能になったときか、死んだときだけだ」

 あまりにもシビアな話で、紫輝はたじろいでしまう。
 少し、安易に考えていたのだ。
 軍に入ることを、学校に入学するような、会社に就職するような感覚で受け止めていた。
 確かに転校も転職も、簡単にはできないが。
 もし自分に合わないところで、死ぬほどつらい思いをするくらいなら。離脱も選択のひとつになるだろう。
 そういう社会で暮らしていた紫輝には、死ぬまで逃れられない、選択の自由がないというこの世界の仕組みが、すぐにのみ込めなかった。

「じゃあ俺が、天誠や藤王を探したいって言っても、ダメなのか?」
 そうしたらどうしようと困って、眉尻が下がる情けない表情をしてしまう。
 そんな紫輝に、千夜は手のひらを横に振って、訂正した。

「いやぁ、ダメじゃないさ。自由な時間が全くないというわけじゃない。もし弟を探しに行くなら、前線基地に駐留する任期を終えたあと、三週間くらい休みが取れるから、そこで行くか。冬季休みを利用するか、だな。だがおまえは将堂の切り札だから、休みの間も監視がつくかもしれないが」
「マジで? あり得ねぇ」

 そんな窮屈なことになるのかと思うと、気が滅入る。
 それを聞いて、一番に心配したのは眞仲のことだった。

 もしかしたら敵である眞仲に会うことなんか、もう一生できないかもしれない。
 それは精神的にきついな。そう、紫輝は思ったのだ。

 疑念は、今もあるし。
 というか、頭の中が整理できていなくて、なにがなんだかわからないのだけど。
 たとえ彼が紫輝に嘘をついていたとしても。彼のことを、紫輝は大事に想っているのだ。
 その気持ちは、絶対、間違いない。
 敵でも、悪人でも。もう彼を愛してしまった。
 だから眞仲と会えないことは、やはりつらいことなのだ。

「だからって、逃げたりしたら罪人だからな。一生逃亡生活になるぞ。俺や廣伊が、おまえの追討に駆り出されるなんて状況を作ったら、許さねぇから」

 千夜は、怒り口調だけど。
 その言葉はある意味、愛にあふれていた。
 紫輝を追い詰めたり殺したりしたくないのだ。そんな彼の心からの叫びのように聞こえたから。

 紫輝だって、千夜や廣伊を大事な友達だと思っている。
 だから彼らがそんな状況にならないよう、努めようと思う。

「わかってる。天誠のことを、あきらめたりはしないけど。軍に迷惑が掛からないよう、考えて行動する。短絡的に逃げたりしない。それでいい?」
「わかってくれたら、ありがたい。じゃあ、そろそろ帰ろうぜ。紫輝もさすがに、ふやけるだろうし。点呼に間に合わなかったら、俺も追討されちまうかもしれねぇ。な?」

 軽く笑って千夜が緊迫した空気を解いてくれたので、紫輝もホッとする。
 泉から上がり、真新しい軍服を身につけた。
「それに、帰りは。ライラの助けがないと、あの防御塀を越えられる自信がねぇんだ」

 瑠璃色の羽をパタリとはためかせる千夜と、紫輝は。笑い合った。

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