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問6 等速で進む線と線の交点をさぐれ

答6-7

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 そして、にゃんすたへ戻った俺は、早速集まっていたBUPPA!のメンバーに「世紀の発見」を伝えた。
 みんなの反応は様々だった。

 孤狼丸やチョッキには今すぐ大々的に公表するべきと言われた。
 だがミューミューがそれを止める。曰く「スペルカードが使われる可能性が高いダブルスでは、切り札になる」とのことだった。
 俺はそれに同意し、みずちが「見つけたりょーちんが決めたほうでいいんじゃない?」と後押ししてくれたので、まだ不満そうだった2人も口を閉じた。
 ということで、自分たちから情報は広めないように決めたのが発見初日。

 次の日には、あっさり孤狼丸の口からぴょん吉へ。そしてぴょん吉の口からリーダーへと渡ってしまっていた。それはリーダーから俺へ伝わり、すぐに孤狼丸を呼び出した。
 またぴょん吉と小競り合いをして、口を滑らせたらしい。
 ミューミューから非情なる強制脱退クビ案が出たが、まあ俺はこうなることは予測済なので「朝までGO! 8時間耐久実験レース」の相手になってもらう事でお灸とした。
 一応リーダーとぴょん吉にはもうしばし話さないで欲しいと伝えるとあっさり承諾してくれたので、まぁそれ以上問題にはならなかった。
 
 レミングスによる何らかのアクションも特に無く、いつも巡回しているネクロ関連のウェブサイトでもその情報がお漏らしリークされた様子はなかった。わざわざ外部サイトの掲示板まではチェックしていないが、まとめサイトなんかに目立った動きが無ければ大丈夫だろう。
 そう思いこんでいた。

 そして、発見から3日後の今日。

「くっそ……。どうりであのおっさん、余裕こいてた訳だ……」

 大きな空中ディスプレイには、【光弾:小】がヒットし詠唱のキャンセルに驚くレミングスと俺の姿が映し出されていた。

 まさかの、公式リークだった。
 いや、元からデータはあった訳だし、試合の様子は誰にでも開示されている。
 わざわざ俺の試合なんかを選択して見ない限りは他者の目に止まることはない、と安心しすぎた。

 だからって、承諾もなく勝手に人の試合動画使うか? フツー。

 俺はむくむくと怒りが湧き上がってくるのを感じる。
 ゲーム外からの干渉は考えていなかった。
 流石にこれは問題だと思ったのか、ミューミューが立ち上がり、俺に詰め寄った。

「この映像の使用も許可されたんですか?」

 怒ってはいない。だが、困惑した様子のミューミューに俺は事情を説明した。

「え、じゃあ、これ勝手に放送されてるんですか!?」

 大きな声だったので、周りにいたメンツもなんだなんだと集まってきた。

「あー、みんなにも言っとく。これ、俺、無許可」

 俺、で自分を指差し、無許可、で大きく頭の上でバツマークを作った。

 「はぁ?」とか「なんで?」と声が上がる。

 俺が聞きたい。いや、分かるんだけどさ。間違いなく、鬼ヶ島さんの策謀だ。こんな強行手段に出るとは思わなかったし、俺というただの木っ端プレイヤーにここまで執着するとは思わなかった。
 どんだけ俺を魔法使いのおっさんの手で「シンデレラ」に仕立て上げたいんだよ。

「でも、これは不味いです。私達の情報アドバンテージは完全に消えますし、『フライングエクスプレス』のデッキ戦略も大きく広まってしまいます」
「あー、それな。うーん、どうしよう」

 と、俺は口で言いながらも、その2つについてはさほど慌ててはいなかった。
 詠唱キャンセルなんて由々しき事態を、食らったプレイヤーが黙っていられるはずがない。レミングスのようにわざわざ交渉したり、俺との対話を持つプレイヤーなんて超希少だろう。
 普通は勝手に情報を持ち帰って、どんどん広めてしまいそうなもんだ。
 そうなると、アドバンテージは薄れ、意味を成さなくなる。
 だから有利な期間なんてせいぜい数試合か数日分だろうと思っていたし、それだけのためにずっと箝口令を敷き続けるのは無理だ。意図的に利益を生み出そうとしない限り、この情報を持つこと自体は大したメリットではない。

 もうひとつの懸念点、デッキの戦略も特に問題はない。
 そもそも、ネタがバレても戦えるようにプレイヤースキル寄りのデッキなのだ。
 ネクロはじゃんけんゲームではない。俺がパーで相手がチョキでも、パーで張り倒し続ければ勝てる。
 だからレミングス並に上手いプレイヤーじゃなければ大丈夫だ。
 あんなのがうじゃうじゃ居てたまるか。……いや、実はいるのか? 上の方には。
 それはそれで怖いが、越えればいいだけだ。俺の努力次第だろう。

「まあ、多分大丈夫でしょ。ペアデッキ次第かな、とは思ってたし」
「そうでしょうか?」
「と、思うよ。理由は後で説明するよ」

 俺はミューミューの心配そうな顔に、ぎこちない笑顔を向けた。
 ミューミューは少し驚いたように目を見開くと、クスクスと口を隠して笑う。

「その顔、無理矢理ってすぐ分かりますよ?」
「あー……駄目か」
「駄目じゃないです。そうやって笑ってて下さい。……うん! 今回の件も前向きに考えましょう!」

 ぐっ、とミューミューは拳を握った。

「先に知っていた、それ自体がアドバンテージです! 今調整してるペアデッキ、いち早く完成させてババッと持ち込んで、ダブルスランクを席巻しましょう!!」
「そうだそうだ!」

 さほど話を聞いていなかったみずちが、適当に横から入ってきた。
 今度は俺は、作った顔じゃなく、素直に笑う。

 だが、そうして一時的に笑っても、本当の問題は解決しそうにない。

 真の問題は、俺の名前が広く認識されてしまった事。
 せっかくチョッキの影で霞んできた存在感なのに、これでまた有名人として舞台に引っ張り出された。
 こんなの、ただの無茶振りだ。
 誇張表現に、演出過多のサンドイッチがそうさせているだけだ。
 画面ではまた、俺の【濁流の垂下】が決まっているシーンが、迫力満点で流れていた。
 わー、と数人がのんきに拍手を送っている。

『眠っていた天才が、ついに起きた! という感じですね!? 強さもアイディアも、これほどのレベルのプレイヤーを見たことが有りません!』

 画面の向こうで、モモノヒさんが俺をそう称していた。大げさも良いところだ。
 俺はまだ自分が未熟である事を知っている。余計な称号も、期待も、こんな放送も望んじゃいない。
 頭をもたげた不安に、俺は顔を曇らせた。

 チョッキが俺の背中を軽く叩く。

「やっぱ、まだこういうの、嫌か?」

 その一言は、ありがたかった。
 俺は安心すると同時に、ふぅ、と息を吐き出した。

「いや、大丈夫。もう、多分乗り越えられる」
「そっか?」
「応よ」

 強がりでも良い。今は。
 俺は傍らの彼女に顔を向けた。
 
 強がる顔、心配する顔、戦う顔。
 どれも面白い。ミューミューは意外とコロコロ笑う。
 そして、ここ数日でやっぱり思い知った。
 本当に、戦いというものにストイックで、他人にも自分にも厳しい彼女の姿。とても真似出来ない。
 でも、それを見るたび、俺は鼓舞される。
 その姿に近づくために、隣に立つために、俺は努力する事を思い出した。

 救世主じゃない。眠っていた天才じゃない。
 彼女に引っ張り上げられる存在じゃなくて。
 誰かに持ち上げられる存在じゃなくて。

 自らの力で。


 俺は、ミューミューの本当の相棒ペアになりたい。

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