どうして許されると思ったの?

わらびもち

文字の大きさ
3 / 136

先触れの無い来客

しおりを挟む
 それからも特に問題なく普通の新婚生活を過ごすシスティーナ。
 夫となったレイモンドは自分をとても大切にしてくれ、慈しんでくれる。

「それでは行ってくるよ、システィーナ」

「はい。行ってらっしゃいませ、旦那様」

 若く美しい妻を抱きしめ、その白い額に口付ける。
 新婚夫婦の仲睦まじい姿を使用人達は微笑ましく見守っていた。

 美しい旦那様に溺愛されるなんて、どこぞの恋愛小説みたいだ。
 だが、だからこそシスティーナは腑に落ちなかった。

(前の奥様達は、何が理由で離縁されたのかしら? 未だに不明だわ……)

 前妻達の離婚理由─“高位貴族の礼儀作法に馴染めなかった”はおそらく嘘だろう。
 もしかするとこの家独自に伝わる面倒くさいしきたりでもあるのかと身構えたがそういうものは特に見当たらない。いたって普通の伯爵家、といった印象である。

 そもそも前妻どちらもベロア家までとは言わないがそれなりに資産家の娘であり、淑女教育にも力を入れていたらしい。彼女達の家庭教師に聞き込みしたところ、どちらも礼儀作法には問題ないとの回答が返ってきたそうだ。

 回りくどい方法を取っていないで直接本人に聞くのが一番なのだろうが、実は二人共遠い異国の地にいるらしく、接触するにも時間がかかる。早くしないと別の家が鉱山に目をつけてしまうと焦った父により事前の調査が不十分のまま嫁がされてしまった。

 引き続き前妻に接触できるよう試みてはくれているらしいが、それが叶うのはいつになるやら。

 軽く溜息をつくシスティーナの傍にフレン伯爵家の使用人が近づいてきた。

「おくつろぎのところ失礼いたします。奥様にお客様がお見えです」

「お客様? 今日は誰かが訪ねてくる予定はなかったはずだけど?」

「ええ、先触れはございません。応接室でお待ちいただいております」

 平然と先触れがない来客を告げ、暗に「会え」と圧をかけてくる年嵩の女。
 この女は確かフレン伯爵家の侍女長だ。
 年若い伯爵夫人など強い口調で言えばどうとでもなる、と思っていそうな自信に満ち溢れた顔。
 確かに気弱な小娘であれば言われるがまま従ってしまう圧がある。

 だが、システィーナはこの国でも頂点に位置する資産家の娘。
 彼女は従う側ではなく、他人を従わせる側だ。
 使用人風情が従わせようとするなど片腹痛い、と毅然とした態度で告げる。

「先触れがないなら帰ってもらいなさい」

 有無を言わせぬ口調。女王然とした姿。
 小娘らしからぬ妙な圧力に侍女長は驚いて顔を上げた。

「あ……ですが、相手は旦那様の幼馴染みの方でして……」

「まあ! 旦那様はの幼馴染みがいらっしゃるの?」

「へ? え……? お、王族……?」

 どうしてここで王族という言葉が出てくるのか、と侍女長は目を丸くした。

「あら、だってわたくしは王妃殿下の姪にして、国内有数の資産家ベロア侯爵家の娘なのよ? 公爵家ですら先触れなしにわたくしに会うなんて出来やしないわ。出来るとしたら王族の方くらいかしらね? まあ、されたことはないけども」

 言外に「約束なしでこの私に会えるのは王族のみだ。それ以外は許されない」という圧をこめる。

『ベロア侯爵を敵に回すな』という暗黙の了解が貴族社会に蔓延しているほどシスティーナの父親の影響力は強い。 
 あまりの影響力と権力に国王が侯爵の妹を王妃に望んだことは有名である。

 ここで初めて侍女長は自分が小娘だと侮っていた人物が、とんでもない権力者であったことに気づき顔面蒼白となった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】初めて嫁ぎ先に行ってみたら、私と同名の妻と嫡男がいました。さて、どうしましょうか?

との
恋愛
「なんかさぁ、おかしな噂聞いたんだけど」 結婚式の時から一度もあった事のない私の夫には、最近子供が産まれたらしい。 夫のストマック辺境伯から領地には来るなと言われていたアナベルだが、流石に放っておくわけにもいかず訪ねてみると、 えっ? アナベルって奥様がここに住んでる。 どう言う事? しかも私が毎月支援していたお金はどこに? ーーーーーー 完結、予約投稿済みです。 R15は、今回も念の為

皆さん勘違いなさっているようですが、この家の当主はわたしです。

和泉 凪紗
恋愛
侯爵家の後継者であるリアーネは父親に呼びされる。 「次期当主はエリザベスにしようと思う」 父親は腹違いの姉であるエリザベスを次期当主に指名してきた。理由はリアーネの婚約者であるリンハルトがエリザベスと結婚するから。 リンハルトは侯爵家に婿に入ることになっていた。 「エリザベスとリンハルト殿が一緒になりたいそうだ。エリザベスはちょうど適齢期だし、二人が思い合っているなら結婚させたい。急に婚約者がいなくなってリアーネも不安だろうが、適齢期までまだ時間はある。お前にふさわしい結婚相手を見つけるから安心しなさい。エリザベスの結婚が決まったのだ。こんなにめでたいことはないだろう?」 破談になってめでたいことなんてないと思いますけど?  婚約破棄になるのは構いませんが、この家を渡すつもりはありません。

離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。

しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。 私たち夫婦には娘が1人。 愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。 だけど娘が選んだのは夫の方だった。 失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。 事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。 再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。

実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~

空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」 氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。 「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」 ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。 成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。

【完結】恋人との子を我が家の跡取りにする? 冗談も大概にして下さいませ

水月 潮
恋愛
侯爵家令嬢アイリーン・エヴァンスは遠縁の伯爵家令息のシリル・マイソンと婚約している。 ある日、シリルの恋人と名乗る女性・エイダ・バーク男爵家令嬢がエヴァンス侯爵邸を訪れた。 なんでも彼の子供が出来たから、シリルと別れてくれとのこと。 アイリーンはそれを承諾し、二人を追い返そうとするが、シリルとエイダはこの子を侯爵家の跡取りにして、アイリーンは侯爵家から出て行けというとんでもないことを主張する。 ※設定は緩いので物語としてお楽しみ頂けたらと思います ☆HOTランキング20位(2021.6.21) 感謝です*.* HOTランキング5位(2021.6.22)

美男美女の同僚のおまけとして異世界召喚された私、ゴミ無能扱いされ王城から叩き出されるも、才能を見出してくれた隣国の王子様とスローライフ 

さら
恋愛
 会社では地味で目立たない、ただの事務員だった私。  ある日突然、美男美女の同僚二人のおまけとして、異世界に召喚されてしまった。  けれど、測定された“能力値”は最低。  「無能」「お荷物」「役立たず」と王たちに笑われ、王城を追い出されて――私は一人、行くあてもなく途方に暮れていた。  そんな私を拾ってくれたのは、隣国の第二王子・レオン。  優しく、誠実で、誰よりも人の心を見てくれる人だった。  彼に導かれ、私は“癒しの力”を持つことを知る。  人の心を穏やかにし、傷を癒す――それは“無能”と呼ばれた私だけが持っていた奇跡だった。  やがて、王子と共に過ごす穏やかな日々の中で芽生える、恋の予感。  不器用だけど優しい彼の言葉に、心が少しずつ満たされていく。

〖完結〗私はあなたのせいで死ぬのです。

藍川みいな
恋愛
「シュリル嬢、俺と結婚してくれませんか?」 憧れのレナード・ドリスト侯爵からのプロポーズ。 彼は美しいだけでなく、とても紳士的で頼りがいがあって、何より私を愛してくれていました。 すごく幸せでした……あの日までは。 結婚して1年が過ぎた頃、旦那様は愛人を連れて来ました。次々に愛人を連れて来て、愛人に子供まで出来た。 それでも愛しているのは君だけだと、離婚さえしてくれません。 そして、妹のダリアが旦那様の子を授かった…… もう耐える事は出来ません。 旦那様、私はあなたのせいで死にます。 だから、後悔しながら生きてください。 設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全15話で完結になります。 この物語は、主人公が8話で登場しなくなります。 感想の返信が出来なくて、申し訳ありません。 たくさんの感想ありがとうございます。 次作の『もう二度とあなたの妻にはなりません!』は、このお話の続編になっております。 このお話はバッドエンドでしたが、次作はただただシュリルが幸せになるお話です。 良かったら読んでください。

結婚して5年、冷たい夫に離縁を申し立てたらみんなに止められています。

真田どんぐり
恋愛
ー5年前、ストレイ伯爵家の美しい令嬢、アルヴィラ・ストレイはアレンベル侯爵家の侯爵、ダリウス・アレンベルと結婚してアルヴィラ・アレンベルへとなった。 親同士に決められた政略結婚だったが、アルヴィラは旦那様とちゃんと愛し合ってやっていこうと決意していたのに……。 そんな決意を打ち砕くかのように旦那様の態度はずっと冷たかった。 (しかも私にだけ!!) 社交界に行っても、使用人の前でもどんな時でも冷たい態度を取られた私は周りの噂の恰好の的。 最初こそ我慢していたが、ある日、偶然旦那様とその幼馴染の不倫疑惑を耳にする。 (((こんな仕打ち、あんまりよーー!!))) 旦那様の態度にとうとう耐えられなくなった私は、ついに離縁を決意したーーーー。

処理中です...