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先触れの無い来客
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それからも特に問題なく普通の新婚生活を過ごすシスティーナ。
夫となったレイモンドは自分をとても大切にしてくれ、慈しんでくれる。
「それでは行ってくるよ、システィーナ」
「はい。行ってらっしゃいませ、旦那様」
若く美しい妻を抱きしめ、その白い額に口付ける。
新婚夫婦の仲睦まじい姿を使用人達は微笑ましく見守っていた。
美しい旦那様に溺愛されるなんて、どこぞの恋愛小説みたいだ。
だが、だからこそシスティーナは腑に落ちなかった。
(前の奥様達は、何が理由で離縁されたのかしら? 未だに不明だわ……)
前妻達の離婚理由─“高位貴族の礼儀作法に馴染めなかった”はおそらく嘘だろう。
もしかするとこの家独自に伝わる面倒くさいしきたりでもあるのかと身構えたがそういうものは特に見当たらない。いたって普通の伯爵家、といった印象である。
そもそも前妻どちらもベロア家までとは言わないがそれなりに資産家の娘であり、淑女教育にも力を入れていたらしい。彼女達の家庭教師に聞き込みしたところ、どちらも礼儀作法には問題ないとの回答が返ってきたそうだ。
回りくどい方法を取っていないで直接本人に聞くのが一番なのだろうが、実は二人共遠い異国の地にいるらしく、接触するにも時間がかかる。早くしないと別の家が鉱山に目をつけてしまうと焦った父により事前の調査が不十分のまま嫁がされてしまった。
引き続き前妻に接触できるよう試みてはくれているらしいが、それが叶うのはいつになるやら。
軽く溜息をつくシスティーナの傍にフレン伯爵家の使用人が近づいてきた。
「おくつろぎのところ失礼いたします。奥様にお客様がお見えです」
「お客様? 今日は誰かが訪ねてくる予定はなかったはずだけど?」
「ええ、先触れはございません。応接室でお待ちいただいております」
平然と先触れがない来客を告げ、暗に「会え」と圧をかけてくる年嵩の女。
この女は確かフレン伯爵家の侍女長だ。
年若い伯爵夫人など強い口調で言えばどうとでもなる、と思っていそうな自信に満ち溢れた顔。
確かに気弱な小娘であれば言われるがまま従ってしまう圧がある。
だが、システィーナはこの国でも頂点に位置する資産家の娘。
彼女は従う側ではなく、他人を従わせる側だ。
使用人風情が従わせようとするなど片腹痛い、と毅然とした態度で告げる。
「先触れがないなら帰ってもらいなさい」
有無を言わせぬ口調。女王然とした姿。
小娘らしからぬ妙な圧力に侍女長は驚いて顔を上げた。
「あ……ですが、相手は旦那様の幼馴染みの方でして……」
「まあ! 旦那様は王族の幼馴染みがいらっしゃるの?」
「へ? え……? お、王族……?」
どうしてここで王族という言葉が出てくるのか、と侍女長は目を丸くした。
「あら、だってわたくしは王妃殿下の姪にして、国内有数の資産家ベロア侯爵家の娘なのよ? 公爵家ですら先触れなしにわたくしに会うなんて出来やしないわ。出来るとしたら王族の方くらいかしらね? まあ、されたことはないけども」
言外に「約束なしでこの私に会えるのは王族のみだ。それ以外は許されない」という圧をこめる。
『ベロア侯爵を敵に回すな』という暗黙の了解が貴族社会に蔓延しているほどシスティーナの父親の影響力は強い。
あまりの影響力と権力に国王が侯爵の妹を王妃に望んだことは有名である。
ここで初めて侍女長は自分が小娘だと侮っていた人物が、とんでもない権力者であったことに気づき顔面蒼白となった。
夫となったレイモンドは自分をとても大切にしてくれ、慈しんでくれる。
「それでは行ってくるよ、システィーナ」
「はい。行ってらっしゃいませ、旦那様」
若く美しい妻を抱きしめ、その白い額に口付ける。
新婚夫婦の仲睦まじい姿を使用人達は微笑ましく見守っていた。
美しい旦那様に溺愛されるなんて、どこぞの恋愛小説みたいだ。
だが、だからこそシスティーナは腑に落ちなかった。
(前の奥様達は、何が理由で離縁されたのかしら? 未だに不明だわ……)
前妻達の離婚理由─“高位貴族の礼儀作法に馴染めなかった”はおそらく嘘だろう。
もしかするとこの家独自に伝わる面倒くさいしきたりでもあるのかと身構えたがそういうものは特に見当たらない。いたって普通の伯爵家、といった印象である。
そもそも前妻どちらもベロア家までとは言わないがそれなりに資産家の娘であり、淑女教育にも力を入れていたらしい。彼女達の家庭教師に聞き込みしたところ、どちらも礼儀作法には問題ないとの回答が返ってきたそうだ。
回りくどい方法を取っていないで直接本人に聞くのが一番なのだろうが、実は二人共遠い異国の地にいるらしく、接触するにも時間がかかる。早くしないと別の家が鉱山に目をつけてしまうと焦った父により事前の調査が不十分のまま嫁がされてしまった。
引き続き前妻に接触できるよう試みてはくれているらしいが、それが叶うのはいつになるやら。
軽く溜息をつくシスティーナの傍にフレン伯爵家の使用人が近づいてきた。
「おくつろぎのところ失礼いたします。奥様にお客様がお見えです」
「お客様? 今日は誰かが訪ねてくる予定はなかったはずだけど?」
「ええ、先触れはございません。応接室でお待ちいただいております」
平然と先触れがない来客を告げ、暗に「会え」と圧をかけてくる年嵩の女。
この女は確かフレン伯爵家の侍女長だ。
年若い伯爵夫人など強い口調で言えばどうとでもなる、と思っていそうな自信に満ち溢れた顔。
確かに気弱な小娘であれば言われるがまま従ってしまう圧がある。
だが、システィーナはこの国でも頂点に位置する資産家の娘。
彼女は従う側ではなく、他人を従わせる側だ。
使用人風情が従わせようとするなど片腹痛い、と毅然とした態度で告げる。
「先触れがないなら帰ってもらいなさい」
有無を言わせぬ口調。女王然とした姿。
小娘らしからぬ妙な圧力に侍女長は驚いて顔を上げた。
「あ……ですが、相手は旦那様の幼馴染みの方でして……」
「まあ! 旦那様は王族の幼馴染みがいらっしゃるの?」
「へ? え……? お、王族……?」
どうしてここで王族という言葉が出てくるのか、と侍女長は目を丸くした。
「あら、だってわたくしは王妃殿下の姪にして、国内有数の資産家ベロア侯爵家の娘なのよ? 公爵家ですら先触れなしにわたくしに会うなんて出来やしないわ。出来るとしたら王族の方くらいかしらね? まあ、されたことはないけども」
言外に「約束なしでこの私に会えるのは王族のみだ。それ以外は許されない」という圧をこめる。
『ベロア侯爵を敵に回すな』という暗黙の了解が貴族社会に蔓延しているほどシスティーナの父親の影響力は強い。
あまりの影響力と権力に国王が侯爵の妹を王妃に望んだことは有名である。
ここで初めて侍女長は自分が小娘だと侮っていた人物が、とんでもない権力者であったことに気づき顔面蒼白となった。
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