どうして許されると思ったの?

わらびもち

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わたくしを舐めているのかしら?

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「もっ……申し訳ございません、奥様!! すぐに追い返しますのでっ……平にご容赦を……!!」

 システィーナの背後にある強大な権力に恐れをなした侍女長は床に額をつけて必死に許しを請うた。その哀れな姿を冷めた目で一瞥したシスティーナは、同じく冷めた声音で叱責する。

「当たり前でしょう? 先触れの無い客を通すなど有り得ないわ。罰として鞭打ちよ」

「むっ、鞭打ち!?」

 ヒイイッと小さく悲鳴をあげる侍女長に対してシスティーナはただ冷たい目を向けるだけだった。生家では使用人に体罰を命じたことなんて無かったが、こういう無礼な奴にはどちらが上かを最初から叩き込んでおかなくてはならない。

 はて、鞭打ちは通常何回程やればいいのかしら……と考えるシスティーナに侍女長は頭を何度も床に打ち付けて許しを請う。

「お、お許しを! 何卒お許しください、奥様……」

「泣くくらいなら最初から無礼な態度などとらなければいいでしょう?」

 謝る位なら最初からやらなければいい話だ。
 ベロア侯爵家から嫁いできた以前に彼女のそれは邸の女主人に対しての態度ではない。

「どうかお慈悲を……! もう二度としないと誓いますので……何卒……」

 涙を流して許しを請う侍女長を一瞥し、システィーナはどうしたものかと考えた。
 ここまで上下関係を分かっていない女をこのまま雇用し続けていいものか悩む。
 鞭打ちの上紹介状無しで解雇するのが定石だろうが、長年この邸に勤めているということを考えるとそれも惜しい気がする。

「……そうね、一度目くらいは慈悲を与えてやりましょう。鞭打ちは止めてを施すことにします」

 まだ使える(・)かもしれないので一度くらいは機会を与えてやってもいい。
 それでも駄目なら捨ててしまえばいいとシスティーナは侍女長に罰を与えるのではなくしてやることにした。

「えっ……? さ、再教育、ですか……?」

「ええ、そうよ。今のままではフレン伯爵家の侍女をまとめる長としての資質に欠けます。女主人に対してその態度……わたくしを小娘だと侮っているわよね? 舐めているの?」

 絶対的な権力者の風格を纏う少女からは小娘のか弱さなど微塵も見当たらない。
 喧嘩を売ってはいけない相手に売りつけようとしてしまった、と侍女長は自分の愚かさを悔いた。戻れるものなら数分前に戻って全部無かったことにしたい。

「も……申し訳ございません! わたくしめのような矮小なゴミ虫が奥様のような尊き御方に大変失礼な真似を……」

 恐ろしさで思わず侍女長は自分をかなり卑下した言い方で謝罪を続ける。
 先程までの不遜な態度は見る影もない。

「自覚があるなら結構。これからもこの邸の侍女長でいたいのなら精々精進することね」

 システィーナのまるで女王の如き振る舞いに侍女長は圧倒された。

 この絶対的権力者の不興を買ってはいけないと嫌というほど思い知り、己の言動を深く後悔する。
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