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第二部第十三章スチムソンドクトリン
第十三章第三十六節(斡旋)
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三十六
同盟国イギリスの理解は得られたものの、北京政府の主権侵害や「機会均等原則」への抵触を危険視するワシントン政府の説得は一層念入りに行われた。
取り分け主権について--。
既述の通り、満州の警察制度がいまだ不備で、地方行政官が任意に設定する警察法令など在住の日本居留民に把握されていないものが随所にあり、また課税問題でも地方官吏の裁量に基づく税制が多数あって、税率も一定しない。こうした実情を再度訴えた上で、「各国が同国の司法制度を信頼できないのは、領事裁判権を留保しているのと同じ精神に基づくものだ」と主張した。
また「同国の法令や条例を外国が承認するのは主権の侵害にあたる」というが、実際には「鉱山条例」や「印紙税法」など、列国の承認を前提とする慣例が定着している。
さらに「主権の保持」に最も敏感な合衆国自身が「一九〇三年の『米支通商条約』第七条および第十二条において、ある種の法令に対して事実上の承認権を有している」と指摘。「日本領事による承認が北京政府の主権を制約するとするならば、米国をはじめとした列国中、この種の制約を加えていない国などないではないか」と反論した。
だがこうした日本の訴えも、ワシントンの耳には届かなかった。ブライアン長官は五月五日、ロンドン、パリ、サンクトペテルブルグの米国大使へ次の訓令を送り、各国へ米国との共同勧告を出すよう働きかけた。
「現在の交渉を継続すべきだと、日華両国へ友誼的にして熱心なるアピール(勧告)を出すべく米国政府と協調する意思はないか尋ねるべし」
そもそも、交渉を“破断”に追い込んだのは誰なのか--?
米政府のこの不可解な振る舞いに、さしもの珍田大使も不快の念を禁じえなかった。
翌六日、再度長官を訪ねた珍田は「もはやそのような“勧告”を考慮する段階にない」と難色を示し、「北京側は誰か第三者の援助を得られると勘違いして、却って時局の収拾を困難にする」と強い口調で突っぱねた。
さらに「今回の米政府の対応は、日華交渉への干渉と見なさざるを得ない」と不満を漏らし、「そのようなことになれば、ただでさえ“デリケート”な日米関係に望ましくない影響を及ぼすことになろう」と警告すら与えたのだった。
確たる証拠がないから正式抗議にはいたらなかったものの、日本側は四月中旬になって北京側が態度を急変させたのは、米国のラインシュ公使が提示した「覚書」に過剰な期待を寄せたがために違いない--との認識を共有していた。加藤外相にいたっては、すぐさまロンドンへ電報を送り、「日華国交断絶の危機を防止する唯一の手段は、交渉の解決を両国へ一任することだ」とワシントンの申し出には応じないよう求めた。
もちろんパリもペテルブルグも、ワシントンには振り向かなかった。
もとよりグレー外相には米国と協調するつもりなどなく、北京のジョン・ジョルダン公使へ訓令し、「袁世凱総統を説得して日本の最終案を受諾するよう勧告すべし」と命じた。
かくて北京側は「対華二十一箇条」なるものの残骸を受諾した。
彼らは日本の「最後通牒」に屈したのではなく、英国政府のこの斡旋に応じたのである。この点、間違いのないよう強調しておきたい。
同盟国イギリスの理解は得られたものの、北京政府の主権侵害や「機会均等原則」への抵触を危険視するワシントン政府の説得は一層念入りに行われた。
取り分け主権について--。
既述の通り、満州の警察制度がいまだ不備で、地方行政官が任意に設定する警察法令など在住の日本居留民に把握されていないものが随所にあり、また課税問題でも地方官吏の裁量に基づく税制が多数あって、税率も一定しない。こうした実情を再度訴えた上で、「各国が同国の司法制度を信頼できないのは、領事裁判権を留保しているのと同じ精神に基づくものだ」と主張した。
また「同国の法令や条例を外国が承認するのは主権の侵害にあたる」というが、実際には「鉱山条例」や「印紙税法」など、列国の承認を前提とする慣例が定着している。
さらに「主権の保持」に最も敏感な合衆国自身が「一九〇三年の『米支通商条約』第七条および第十二条において、ある種の法令に対して事実上の承認権を有している」と指摘。「日本領事による承認が北京政府の主権を制約するとするならば、米国をはじめとした列国中、この種の制約を加えていない国などないではないか」と反論した。
だがこうした日本の訴えも、ワシントンの耳には届かなかった。ブライアン長官は五月五日、ロンドン、パリ、サンクトペテルブルグの米国大使へ次の訓令を送り、各国へ米国との共同勧告を出すよう働きかけた。
「現在の交渉を継続すべきだと、日華両国へ友誼的にして熱心なるアピール(勧告)を出すべく米国政府と協調する意思はないか尋ねるべし」
そもそも、交渉を“破断”に追い込んだのは誰なのか--?
米政府のこの不可解な振る舞いに、さしもの珍田大使も不快の念を禁じえなかった。
翌六日、再度長官を訪ねた珍田は「もはやそのような“勧告”を考慮する段階にない」と難色を示し、「北京側は誰か第三者の援助を得られると勘違いして、却って時局の収拾を困難にする」と強い口調で突っぱねた。
さらに「今回の米政府の対応は、日華交渉への干渉と見なさざるを得ない」と不満を漏らし、「そのようなことになれば、ただでさえ“デリケート”な日米関係に望ましくない影響を及ぼすことになろう」と警告すら与えたのだった。
確たる証拠がないから正式抗議にはいたらなかったものの、日本側は四月中旬になって北京側が態度を急変させたのは、米国のラインシュ公使が提示した「覚書」に過剰な期待を寄せたがために違いない--との認識を共有していた。加藤外相にいたっては、すぐさまロンドンへ電報を送り、「日華国交断絶の危機を防止する唯一の手段は、交渉の解決を両国へ一任することだ」とワシントンの申し出には応じないよう求めた。
もちろんパリもペテルブルグも、ワシントンには振り向かなかった。
もとよりグレー外相には米国と協調するつもりなどなく、北京のジョン・ジョルダン公使へ訓令し、「袁世凱総統を説得して日本の最終案を受諾するよう勧告すべし」と命じた。
かくて北京側は「対華二十一箇条」なるものの残骸を受諾した。
彼らは日本の「最後通牒」に屈したのではなく、英国政府のこの斡旋に応じたのである。この点、間違いのないよう強調しておきたい。
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