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第2章 カフェから巡る四季

第79話 あんこ、作ってみる

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 たまたま北海道産のあずきを手に入れた莉子だが、どう使おうか、悩んでいた。
 とはいえ、あずきの料理など、本当に少ない。

「定番のあんこでも作るか……」

 莉子は暇になった時間で、作業にとりかかる。
 あんこの作り方はいろんな作り方がある。
 それこそ、本格的なものから、手軽なものまで。
 莉子が選んだ作り方は、そこそこ時間がかかるが、手間は少ないあんこレシピだ。

 出来上がりまで、3時間ほどかかるが、今日は雨降りの日。
 ランチも過ぎた今日は、夜の営業すら、お客が来るか心配な日になるだろう。

 あずきを200gはかり、1.5リットルの水を入れて火にかけていく。
 15分ほどグツグツとさせるので、チラチラしながら放置だ。
 だが少しずつあずきの皮が膨らんでいるのがわかる。

 一人、お客様が来店。
 コーヒーのオーダーをこなし、鍋をみる。
 ぷっくりとふくらんだあずきが並ぶ。
 30分は煮たので、お湯を捨てていく。
 これを渋抜きというそうだ。
 ザルでお湯をきるが、触らないように放置。
 煮ていた鍋を一度洗って、水を1リットルはり、あずきを戻すと、強火で沸騰させていく。

 二人、お客様が来店。
 マダムのお二人は、紅茶とタルトのご注文だ。
 ちらっとみると、あずきが割れはじめた。
 ここでは弱火に変える。
 じんわりとゆらゆら泡立たないように、火を入れていく。
 ……ここからが長い。

 紅茶を出し、タルトの盛り付けをしてもお湯の色は変わらない。
 一人、退店して、赤茶にお湯が濁り始める。

 マダムのお茶は空となり、タルトの皿も乾いている。
 ようやくほとんどのあずきの皮がやぶれだした。
 ようやく1時間が過ぎた頃だが、まだまだである。
 これから芯がなくなるまで40分ほど炊いていく。

 マダムたちが退店したタイミングであずきを見てみる。
 スプーンでそっとすくって、指でつぶしてみる。

「……お、芯がない、っぽい」

 数回確認し、完全にないことを確認。
 今度は、冷やしていく。
 水を少しずつ入れ、鍋の水をゆっくり交換していくイメージだ。

「きっと、自然に冷ました方がいいんだろうな」

 莉子は口に出しながら、作業を進めていく。
 誰もいない店内は、ジャズの音と、雨音が混じり、寂しいのだ。

 しっかりあずきが冷めれば、豆の皮がきゅっと締まり、おたまですくっても崩れないほど。
 ザルで水気を切ってる間、砂糖を250g、用意する。
 ザラメや三温糖がいいなんていうが、今、ここにあるのは、グラニュー糖しかない。

「……いっか」

 莉子はあずきを再び鍋に戻し、そのままグラニュー糖を投入。
 砂糖をあずきにまぶすように鍋を揺すって、温めていく。
 透明になり、くつくつと砂糖水であずきが満たされていく。
 そのままグツグツとに続け、鍋底からしっかりと混ざるように火を入れていくと、次第に水気がなくなり、もったりしたら、あとはあずきを潰して、ほどよい加減で練れば、完成だ。

「莉子さーん、コーヒーちょうだーい」

 瑞樹だ。
 出来上がったところでのいいタイミングである。

「もう疲れたー。雨の日の外回り、いやだー。コーヒー飲んでから、帰る!」
「はいはい。今いれますね」

 コーヒーの準備をしている間、瑞樹が鼻をひくつかせる。

「あまい、匂いする……なんだろ、この匂い……」
「あんこですよ。あずきの匂いですかね、きっと」
「莉子さん、あんこも作れるの?」
「今は、ネットの時代です。だいたいはできますよ、誰でも」

 コーヒーを落としながら、パンを軽く焼き、常温のバターと出来上がったばかりのあんこを添える。
 そして、芳しいコーヒーを瑞樹の前に並べた。

「小倉トースト食べて、もう少し、お仕事がんばってください」

 艶やかに溶けたバターがあんこに染みる。
 小麦色に焼けたパンが、ふわりと香りで誘ってくる。

「いただきまーす!」

 さっそくとパンを頬張った瑞樹だが、ひと口目で、もう笑顔いっぱいだ。

「おいし……めっちゃおいしい……あんこって、こんな風味があるんだ……バターの塩気と合って、めっちゃおいし……」

 そこに、すかさずコーヒーだ。

「………あー……来てよかった……」

 残りのあずきをバットに移しながら、温泉に浸かるように小倉トーストとコーヒーを堪能する瑞樹に、莉子は笑う。
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