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第2章 カフェから巡る四季
第78話 鶏肉の焼き方
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今日のディナーは、チキンソテーがメインだ。
すでにフライパンにはマリネされた鶏モモが、じわじわと音を立てて焼かれている。
今日は連藤と三井が来ている。
残業もなかった今日、ゆっくりと夕食が食べたいと来店だ。
「今日のチキンソテーはどんなのかな」
連藤は楽しそうに白ワインを飲み干した。
前菜として出した生ハムのサラダと、ホタテのグリルをおいしそうに食べている。
莉子は空いたグラスにワインを注ぎながら、
「鶏皮が美味しいチキンソテーです」
「オレ、もう食いてぇ。もう、15分は焼いてんじゃねーの?」
「これ、弱火で肉が焼けるまでなんで。もうちょっとかかります。今、ゴルゴンゾーラのペンネ、出しますね」
三井の言ったとおり、今回のチキンソテーは時間がかかる。
適当に焼き目をつけ、オーブンで焼いても美味しいのだが、皮面をずっと焼き続けると、鶏皮がパリッパリのサックサクに仕上がり、お肉もしっとり焼きあがるのだ。
だが、本当に時間がかかる。ちょっと厚めの鶏肉にしたのも、よくなかったかもしれない。
思いながらも、莉子は手際よくパスタを出すと、塩気と風味がいいゴルゴンゾーラで、ワインが進みだす。
「莉子さんは、食べないのか?」
連藤がペンネを頬張り、微笑んでいる。
莉子は店内を見回し、連藤の手をなでた。
「今日はまだお客様が多いので。おふたりが食べ終えた頃かな」
「そうか……」
残念そうに俯いた連藤だが、莉子は接客へとカウンターを出て行った。
「あますなら、オレが食うぞ」
「違う。俺は、莉子さんと、食べたかったんだ」
「うぜぇ」
「それより、三井、最近太ったんじゃないのか?」
「……え」
絶句する三井に、連藤は笑う。
「声の質が少し変わった。太ったからだろうな」
慌ててお腹の肉をつまんだ三井だが、それほどの変化はないようにも感じる。
「そんなにかわってねぇぞ?」
「なら、内臓のほうについたんじゃないのか」
「や、やめろよ」
言いつつも、思い当たる節もあるようで、スケジュール帳を眺めだす。
「最近、ジムは?」
「女とのデートで忙しくてな……。はぁ。明日からでもジム行くかぁ」
今日が飲み納め。そう言って、さらにワインが飲み干された。
莉子はすかさず新しいワインを開けて、ふたりに注ぎ、他のテーブルをまわりつつ、メインの盛りつけに取りかかった。
ベビーリーフと、トマトを添え、フライドポテトを乗せる。
しっかり肉が焼けているのを確認し、肉の面を下にすると、黄金色の鶏皮が現れる。
「おー、いい感じ」
莉子は肉の面を少し強火で火を入れてから、皿にのせ、バルサミコをくるくるとかける。
横にマスタードと、岩塩をそえて、ふたりの前に差しだした。
「はい、チキンソテー。ガーリックトーストもあるので、そちらも召し上がれ」
さっそくとナイフでチキンソテーにナイフがはいる。
さっくりという音と、感触に、連藤は驚いきながらも嬉しそうだ。
「いい、焼き加減だな」
「でしょ? 私の今のお気に入りの焼き方です」
「お! うま! バルサミコいいな。ワインくれ」
「はいはい」
注ぎつつ、莉子も飲みつつ、再び接客へと動きだす。
「今日も忙しそうだな、莉子さんは」
連藤は足音を聞きつつ、チキンを頬張る。
マスタードが効いたのか、少し眉間にシワがよる。
「暇よりはいいだろ」
「そうだがな……」
「何が不満だよ」
「不満ではない。が、寂しいと思うことがある」
「へぇ」
三井はそれ以上言わなかったが、連藤が莉子と描きたい画がわかったからだ。
それは、ごくごくありふれた普通の画だ。
そう想像したとき、三井は笑っていた。
「なんだ、笑って」
「いや、お前がそんなこと考えるんだなって。変わったな、お前も」
「そうか? ……そうか」
連藤は二度言葉を繰り返し、噛みしめる。
「変わるもの、悪くないな」
「確かにな。……あ、莉子、マスタード追加でくれよ」
「あ、はーい」
莉子は器用に会計をすましながら、マスタードを出してくる。
忙しく夜が更けていく───
すでにフライパンにはマリネされた鶏モモが、じわじわと音を立てて焼かれている。
今日は連藤と三井が来ている。
残業もなかった今日、ゆっくりと夕食が食べたいと来店だ。
「今日のチキンソテーはどんなのかな」
連藤は楽しそうに白ワインを飲み干した。
前菜として出した生ハムのサラダと、ホタテのグリルをおいしそうに食べている。
莉子は空いたグラスにワインを注ぎながら、
「鶏皮が美味しいチキンソテーです」
「オレ、もう食いてぇ。もう、15分は焼いてんじゃねーの?」
「これ、弱火で肉が焼けるまでなんで。もうちょっとかかります。今、ゴルゴンゾーラのペンネ、出しますね」
三井の言ったとおり、今回のチキンソテーは時間がかかる。
適当に焼き目をつけ、オーブンで焼いても美味しいのだが、皮面をずっと焼き続けると、鶏皮がパリッパリのサックサクに仕上がり、お肉もしっとり焼きあがるのだ。
だが、本当に時間がかかる。ちょっと厚めの鶏肉にしたのも、よくなかったかもしれない。
思いながらも、莉子は手際よくパスタを出すと、塩気と風味がいいゴルゴンゾーラで、ワインが進みだす。
「莉子さんは、食べないのか?」
連藤がペンネを頬張り、微笑んでいる。
莉子は店内を見回し、連藤の手をなでた。
「今日はまだお客様が多いので。おふたりが食べ終えた頃かな」
「そうか……」
残念そうに俯いた連藤だが、莉子は接客へとカウンターを出て行った。
「あますなら、オレが食うぞ」
「違う。俺は、莉子さんと、食べたかったんだ」
「うぜぇ」
「それより、三井、最近太ったんじゃないのか?」
「……え」
絶句する三井に、連藤は笑う。
「声の質が少し変わった。太ったからだろうな」
慌ててお腹の肉をつまんだ三井だが、それほどの変化はないようにも感じる。
「そんなにかわってねぇぞ?」
「なら、内臓のほうについたんじゃないのか」
「や、やめろよ」
言いつつも、思い当たる節もあるようで、スケジュール帳を眺めだす。
「最近、ジムは?」
「女とのデートで忙しくてな……。はぁ。明日からでもジム行くかぁ」
今日が飲み納め。そう言って、さらにワインが飲み干された。
莉子はすかさず新しいワインを開けて、ふたりに注ぎ、他のテーブルをまわりつつ、メインの盛りつけに取りかかった。
ベビーリーフと、トマトを添え、フライドポテトを乗せる。
しっかり肉が焼けているのを確認し、肉の面を下にすると、黄金色の鶏皮が現れる。
「おー、いい感じ」
莉子は肉の面を少し強火で火を入れてから、皿にのせ、バルサミコをくるくるとかける。
横にマスタードと、岩塩をそえて、ふたりの前に差しだした。
「はい、チキンソテー。ガーリックトーストもあるので、そちらも召し上がれ」
さっそくとナイフでチキンソテーにナイフがはいる。
さっくりという音と、感触に、連藤は驚いきながらも嬉しそうだ。
「いい、焼き加減だな」
「でしょ? 私の今のお気に入りの焼き方です」
「お! うま! バルサミコいいな。ワインくれ」
「はいはい」
注ぎつつ、莉子も飲みつつ、再び接客へと動きだす。
「今日も忙しそうだな、莉子さんは」
連藤は足音を聞きつつ、チキンを頬張る。
マスタードが効いたのか、少し眉間にシワがよる。
「暇よりはいいだろ」
「そうだがな……」
「何が不満だよ」
「不満ではない。が、寂しいと思うことがある」
「へぇ」
三井はそれ以上言わなかったが、連藤が莉子と描きたい画がわかったからだ。
それは、ごくごくありふれた普通の画だ。
そう想像したとき、三井は笑っていた。
「なんだ、笑って」
「いや、お前がそんなこと考えるんだなって。変わったな、お前も」
「そうか? ……そうか」
連藤は二度言葉を繰り返し、噛みしめる。
「変わるもの、悪くないな」
「確かにな。……あ、莉子、マスタード追加でくれよ」
「あ、はーい」
莉子は器用に会計をすましながら、マスタードを出してくる。
忙しく夜が更けていく───
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