42 / 152
第2章 カフェから巡る四季
第42話 ランチタイム
しおりを挟む
潮風を浴び始めてからそれほど経たないうちに、車はゆっくりと停車した。
人の声が聞こえ、子供の声や犬の声もする。
「展望台に着きましたー!」
莉子が背伸びをしながら声がかかる。
「となりに公園もあるんです。にぎやかですね」
莉子の声に連藤があたりの音に耳をすましていると、電子音が響いてくる。
日差しが消えたことで、車のホロを戻したのがわかった。
「さ、お昼にしましょうか」
莉子がいうと、連藤は素早く車をおりてしまった。
「ちょっと、連藤さん、早い!」
莉子が慌てつつ、トランクから敷物一式バッグ、お弁当一式を取り出すと、連藤に敷物一式バッグを手渡した。
「お弁当の方を持つが」
「連藤さん転けたら大変なことになるので」
「俺はそんな失敗はしない」
「いやいや。これから砂利道を歩くんですよ? 油断禁物です」
莉子は手早く連藤に白杖を渡し、先導していく。
砂利道の幅は50センチ程度の細い通路だ。
くねくねと川のように道があり、それをたどってあるいていく。
「芝生に入ります。ちょうどいい木の下が空いているので、そこまで行きます」
ふわりと足の裏がくすぐられる。
それを莉子は慎重に歩いている。
体がちらちらと連藤を見ているのがわかる。
「莉子さん、それほど振り返らなくても、俺は大丈夫」
「そうですか? いや、でも、心配になります。だって、初めてですからね、こんなところ一緒に歩くの」
莉子にいわれ、連藤ははっとする。
いつもはアスファルトだ。
つい、自分基準で考えがちだが、莉子にとっては、連藤とすることはなんでも初めてなのだ。
「すまない、莉子さん。初めてだった」
「はい。私は初めてです。連藤さんとすることはなんでも初めてなので、初めてすることを大事にさせてください」
莉子の手が少し強く握られる。
気持ちを込めた手の力かと連藤は思ったが違った。
短い坂のようだが、かなりの急角度だ。
「もっとゆるやかかと思ったんですけど……」
一瞬しかなかった坂だが、莉子の息は上がっている。
だが、すぐに莉子の足は止まった。
「着きましたー!」
連藤を安全な場所に立たせると、見事な早さでシートを取りだし、そこに連藤の腰をおろさせる。
莉子はというと、
「ちょっと、休みますー」
いいながら寝転がっていた。
「あー、きもちいーですねー。連日の疲れが飛ばされていきますー」
少し強めの風を浴びながら、連藤はそれに笑うが、「お疲れ様」とても優しい声もする。
「そうだ、連藤さん、初めての遠出に乾杯しましょう」
莉子はがばりと起き上がると、意気揚々とスパークリングワインを取りだし、注いでいく。
「これはノンアルコールのスパークリングワインになります。色味も味も似ていて、すごく美味しいんですよ?」
連藤に手渡すと、すぐにグラスが鼻先へと運ばれる。
「お……意外と本格的な香りがするな……」
「そうなんですよ。では、乾杯! かちーん」
プラスチックなので音が出ないので、声で演出である。
「葡萄のフレッシュな感じがするし、味もすっきりとしててよく似てる」
連藤がそう言うと、
「気に入っていただけたら嬉しいです。今、おつまみあげますね」
生ハムやチーズを適当に乗せると、クーラーバックをテーブルにする。
連藤の手を一度とって、場所を知らせると、連藤は好物のオリーブを口へと放り込んだ。
「パンもありますし、エビフライも用意しました。食べたくなったらいってください」
連藤はうなずくと、なぜかあぐらをかきなおした。
「莉子さん、お昼寝したいっていつも言ってただろ?」
「はい、言ってましたが」
「どうぞ?」
そういって叩く場所は、連藤の太ももだ。
「いやいやいやいやいや………」
「俺がしたいんだ」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!」
抵抗する莉子だったが、手首をつかまれ、引っ張られる。
ストンと転がされた場所は、連藤の太ももの上だ。
覗き込んでくる連藤の顔に、莉子は思わず赤くなる。
「莉子さん、日に焼けたかな? 頬が熱いな……」
「そ、そうですね!!! オープンにしてましたし!!!!」
連藤の手は、優しく莉子の頭をなでる。
それが魔法の手のようだ。
どんどんと疲れが抜けていく。
どんどんと瞼も落ちていく。
「寝ちゃったか……」
寝息をたてる莉子の頬をもう一度なでた連藤は、再びオリーブをつまみ、見えない空を見上げる。
「……いい日だね、莉子さん」
海鳥の声と、潮風を浴びながら、連藤は幸せそうに頬をゆるめた。
人の声が聞こえ、子供の声や犬の声もする。
「展望台に着きましたー!」
莉子が背伸びをしながら声がかかる。
「となりに公園もあるんです。にぎやかですね」
莉子の声に連藤があたりの音に耳をすましていると、電子音が響いてくる。
日差しが消えたことで、車のホロを戻したのがわかった。
「さ、お昼にしましょうか」
莉子がいうと、連藤は素早く車をおりてしまった。
「ちょっと、連藤さん、早い!」
莉子が慌てつつ、トランクから敷物一式バッグ、お弁当一式を取り出すと、連藤に敷物一式バッグを手渡した。
「お弁当の方を持つが」
「連藤さん転けたら大変なことになるので」
「俺はそんな失敗はしない」
「いやいや。これから砂利道を歩くんですよ? 油断禁物です」
莉子は手早く連藤に白杖を渡し、先導していく。
砂利道の幅は50センチ程度の細い通路だ。
くねくねと川のように道があり、それをたどってあるいていく。
「芝生に入ります。ちょうどいい木の下が空いているので、そこまで行きます」
ふわりと足の裏がくすぐられる。
それを莉子は慎重に歩いている。
体がちらちらと連藤を見ているのがわかる。
「莉子さん、それほど振り返らなくても、俺は大丈夫」
「そうですか? いや、でも、心配になります。だって、初めてですからね、こんなところ一緒に歩くの」
莉子にいわれ、連藤ははっとする。
いつもはアスファルトだ。
つい、自分基準で考えがちだが、莉子にとっては、連藤とすることはなんでも初めてなのだ。
「すまない、莉子さん。初めてだった」
「はい。私は初めてです。連藤さんとすることはなんでも初めてなので、初めてすることを大事にさせてください」
莉子の手が少し強く握られる。
気持ちを込めた手の力かと連藤は思ったが違った。
短い坂のようだが、かなりの急角度だ。
「もっとゆるやかかと思ったんですけど……」
一瞬しかなかった坂だが、莉子の息は上がっている。
だが、すぐに莉子の足は止まった。
「着きましたー!」
連藤を安全な場所に立たせると、見事な早さでシートを取りだし、そこに連藤の腰をおろさせる。
莉子はというと、
「ちょっと、休みますー」
いいながら寝転がっていた。
「あー、きもちいーですねー。連日の疲れが飛ばされていきますー」
少し強めの風を浴びながら、連藤はそれに笑うが、「お疲れ様」とても優しい声もする。
「そうだ、連藤さん、初めての遠出に乾杯しましょう」
莉子はがばりと起き上がると、意気揚々とスパークリングワインを取りだし、注いでいく。
「これはノンアルコールのスパークリングワインになります。色味も味も似ていて、すごく美味しいんですよ?」
連藤に手渡すと、すぐにグラスが鼻先へと運ばれる。
「お……意外と本格的な香りがするな……」
「そうなんですよ。では、乾杯! かちーん」
プラスチックなので音が出ないので、声で演出である。
「葡萄のフレッシュな感じがするし、味もすっきりとしててよく似てる」
連藤がそう言うと、
「気に入っていただけたら嬉しいです。今、おつまみあげますね」
生ハムやチーズを適当に乗せると、クーラーバックをテーブルにする。
連藤の手を一度とって、場所を知らせると、連藤は好物のオリーブを口へと放り込んだ。
「パンもありますし、エビフライも用意しました。食べたくなったらいってください」
連藤はうなずくと、なぜかあぐらをかきなおした。
「莉子さん、お昼寝したいっていつも言ってただろ?」
「はい、言ってましたが」
「どうぞ?」
そういって叩く場所は、連藤の太ももだ。
「いやいやいやいやいや………」
「俺がしたいんだ」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいや!!!!」
抵抗する莉子だったが、手首をつかまれ、引っ張られる。
ストンと転がされた場所は、連藤の太ももの上だ。
覗き込んでくる連藤の顔に、莉子は思わず赤くなる。
「莉子さん、日に焼けたかな? 頬が熱いな……」
「そ、そうですね!!! オープンにしてましたし!!!!」
連藤の手は、優しく莉子の頭をなでる。
それが魔法の手のようだ。
どんどんと疲れが抜けていく。
どんどんと瞼も落ちていく。
「寝ちゃったか……」
寝息をたてる莉子の頬をもう一度なでた連藤は、再びオリーブをつまみ、見えない空を見上げる。
「……いい日だね、莉子さん」
海鳥の声と、潮風を浴びながら、連藤は幸せそうに頬をゆるめた。
0
お気に入りに追加
139
あなたにおすすめの小説
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
あなたの子ですが、内緒で育てます
椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」
突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。
夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。
私は強くなることを決意する。
「この子は私が育てます!」
お腹にいる子供は王の子。
王の子だけが不思議な力を持つ。
私は育った子供を連れて王宮へ戻る。
――そして、私を追い出したことを後悔してください。
※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ
※他サイト様でも掲載しております。
※hotランキング1位&エールありがとうございます!
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
婚約者の浮気相手が子を授かったので
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。
ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。
アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。
ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。
自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。
しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。
彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。
ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。
まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。
※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。
※完結しました
Husband's secret (夫の秘密)
設樂理沙
ライト文芸
果たして・・
秘密などあったのだろうか!
夫のカノジョ / 垣谷 美雨 さま(著) を読んで
Another Storyを考えてみました。
むちゃくちゃ、1回投稿文が短いです。(^^ゞ💦アセアセ
10秒~30秒?
何気ない隠し事が、とんでもないことに繋がっていくこともあるんですね。
❦ イラストはAI生成画像 自作
【完結】選ばれなかった王女は、手紙を残して消えることにした。
曽根原ツタ
恋愛
「お姉様、私はヴィンス様と愛し合っているの。だから邪魔者は――消えてくれない?」
「分かったわ」
「えっ……」
男が生まれない王家の第一王女ノルティマは、次の女王になるべく全てを犠牲にして教育を受けていた。
毎日奴隷のように働かされた挙句、将来王配として彼女を支えるはずだった婚約者ヴィンスは──妹と想いあっていた。
裏切りを知ったノルティマは、手紙を残して王宮を去ることに。
何もかも諦めて、崖から湖に飛び降りたとき──救いの手を差し伸べる男が現れて……?
★小説家になろう様で先行更新中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる