café R ~料理とワインと、ちょっぴり恋愛~

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第2章 カフェから巡る四季

第41話 ドライブ! ドライブ!

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 莉子は荷物を積むと、クリーム色の車に乗りこんだ。
 天井は黒い布で覆われている。
 莉子はさっそくとエンジンをかけ、天井のホロを開いていく。

「今日は絶対、オープンカー日和ですからね!」

 木陰の清々しい香りを胸いっぱいに吸いこみ、莉子はパーキングからドライブへとレバーを動かした。


 すぐにマンションの前に到着すると、すでに連藤は外に立って待ってくれていた。
 ハザードをだしながら連藤の前に停まると、連藤が白杖と一緒に手をあげた。

「おはようございます、連藤さん」
「おはよう、莉子さん。ドライブだなんて、久しぶりだから昨日から楽しみだったんだ」

 歯を見せ笑う連藤に、莉子もつられて笑ってしまう。

「それは私もですよ、連藤さんっ」

 いいながら手をつなぐと、車のドア前まで移動する。
 カツカツと白杖で車との距離をつかんだ連藤は、おもむろにドアノブに手をかけた。
 白杖を座席にたてかけると、背もたれに手をかけ、するりと乗ってしまう。

「本革のシートでゆったり座れていいな。車種はなんだろう?」



 あまりの見事な動きに、莉子の動きがおいつけない……!



 慌てて運転席へと腰をおろすと、連藤はすでにシートベルトすら付けおえている……

 ……こう、胸元に、こう!!!!!!

 という莉子の妄想は叶うことはないまま、車は動き始めた。

「この車はビートルのカブリオレです。連藤さん、車は得意ですか?」

 連藤は頬をゆるめて風を感じているようだ。

「……ああ、知識はある。だがオープンカーは初めて乗った。意外と声が聞こえるものだな」

 信号で停まり、喧騒が流れてくる。
 車が走りだすと消えていく音に、連藤は目を細めた。

「日常から走り去る感じがする」
「私もです」

 10分ほど走っただろうか。
 街独特の音が消え、あたりが静かなのに気づいたようだ。
 さらに腕をさすり、あたりを見回す連藤がいる。

「……ここは、どこだ、莉子さん」
「さぁ、どこでしょう?」

 連藤は耳をそばだて、肌で空気を感じ、あたりの香りをかぐ。

「土の香り……? 青い草の匂いもしてるな……木の揺れる音もする……本当に、どこだ、莉子さん……?」
「じゃ、どこのそばを走ってるで、しょーか!」
「どこの、そば……?」

 莉子の口からはタイムを刻むように、「チチチチチチ」と声がする。
 連藤は必死に耳を外によせたとき、左手の手のひらをポンと叩く。

「わかったぞ! 畑だ!」
「正解、連藤さんっ!」

 莉子が声でパチパチというのに笑うが、少し首をひねっている。

「こんなところ、10分程度で来れるのか……?」

 莉子は「ふっ、ふっ、ふっ!」と声にだす。

「私、これでも抜け道探すの得意なんですっ!」

 自信いっぱいに答えた。
 だが連藤は知っている。


 ……自分の体を休めるための臨時休業なのに、こんな裏道まで調べて今日のドライブの準備をしたことを───


「莉子さん、ありがとう。すごく、ドライブ、楽しめてるよ」
「私も連藤さんと一緒の景色が見れて、嬉しいですっ」

 ふたりの笑い声があがったとき、ゴーという音に包まれた。

「莉子さん、トンネルかなっ?」

 連藤から少し大きめの声が上がる。

「そんなに長いトンネルじゃないので、少しの辛抱ですっ」


 轟音が止んだ。
 まぶたの裏に白い光が差しこむ。
 連藤の目でも、強い光は感じられるのだ。

 思わず、手で日差しを受け取るようにかざしたとき、独特の匂いが鼻につく。



 ───海だ。



「ここ、トンネル抜けたら海なんです! なんか、夢のある景色だと思いません? 私好きなんですっ」

 莉子の笑顔の声に、連藤は笑う。
 きっと莉子の目には、白く煌めく海の波が見えているはずだ。


 連藤は莉子の目を通して海を見て、もう一度、微笑んだ。
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