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第二章
第28話 アルト王国
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「では、せめて陛下のために剣を打っていただけませんか。」
アルト王国からの使者ハタヒさんが頭を下げてきた。
「でも、うちの国に何のメリットもないし、見たことのない国王のためって意欲湧かないでしょ。」
「ススム君、国政とはそういうものではないぞ。気が進まない時でも、そこは表に出さないでだな。」
「あなた方は、他国の使者の前だというのに、その態度はないでしょ。」
「あっ、ハタヒさんが切れた。」
「だってなあ、新しい魔道具とか極秘魔法とか、新種の果実とかならともかく、たかだか剣のために他国まで来ているんだぞ。君は、自分でおかしいと思わないのかね。」
「そりゃあ、多少は思いましたけど……。」
「いいかね。彼のヤマト国には世界中の果実や穀物があふれ、想像を絶する魔法と魔道具が存在する。当然、知識と技術もだ。」
「はあ……。」
「例えば、彼がさっき剣を取り出したこのバッグを見て、君は何も感じないのかね。」
「えっ……、そういえば、なんでそんなところから……。」
「鈍すぎるだろう。なんで彼がいまここにいるのか、君は不思議じゃないのかね。」
「それは、たまたま……。」
「君が来た時、彼は5千キロ離れたヤマト国にいたとしたらどうだね。」
「まさか、そんな……。」
「ヤマト国には、瞬時に何千キロでも移動する魔法が存在するし、時速千キロ近くで空を飛ぶ魔道具の乗り物も使われている。」
「いや、そんなことが……現実に……。」
「それだけの国の代表に対して、国王のための剣を作ってくれという。茶番だよ、私から見たら。」
「宝剣クラスが茶番……なんですか……。」
「ああ。ヤマト国に勉強に行かせた娘が、一週間勉強しただけで、500キロ離れた町に3時間で移動できる乗り物が作れそうだと言ってきた。」
「500キロを3時間……。」
「アルト王国にも、王都から離れた町があるだろう。」
「辺境……サカイ……。」
「国政としては、宝剣なんぞよりも、遠隔地への移動手段のほうが数百倍役に立つ……と私は思っている。」
「た、確かに……。」
「知らないということは、損失を招くことがある。この話を聞いてなお、君は剣を望むのかい。」
「い、いえ、それは……。」
「あっ、忘れてた。」
「「?」」
「国王代理、これ使います?」
「ま、まさか……。」
「6メートル四方の容量しかありませんけど、ウエストポーチ型マジックバッグです。まあ、国王の服装にはマッチしませんから使わないかとも思ったんですけど。」
俺の手からウエストポーチが一瞬で消えた。
「ああ、憧れのマジックバッグが……。」
「あ、あの……。」
「はい?」
「できれば、わが国王にも……。」
「信頼関係がなければ無理ですよ。」
「いや、しかし……ブランドン国王には……。」
「彼のお嬢さんがわが国で学んでいますし、政治に対する姿勢を評価していますからね。」
「これだけ年齢的な開きがあっても、ススム君のことは尊敬しているし、娘を預けられるほど信用している。彼の信頼を裏切らないよう、私も努力を重ねるつもりだよ。」
「ラインハルト副団長とは面識もありますし、それなりに信頼できる人物だと思います。でも、国王なんて会ったこともないですから、現時点で信用なんてありませんよ。」
「では、一度、お目通りを……。」
「会ってもいいですけど、アルト王国からヤマト国まで、船で3か月くらいかかりますよ。」
「い、いえ、そうではなく……その……。」
「まさか、用もないのに、こっちから会いに来いと?」
「そうお願いできれば……。」
「どこに、僕が出向く必要があるんですか?ナイル国王にさえ会いにいってないのに。」
「ああ、相手を呼びつけるのは、格下と見ているからだよ。」
「め、滅相もございません。」
「それに、国王との面会を決定できるだけの権限があるんですか?」
「そ、それは……。」
「権限もないあなたが、国王に会いに来いという。越権行為ですよね。もし口説き落とせれば、自分の功績にできるかもしれない。あなた自身がヤマト国を下に見ているって自白しているような「ものですよね。」
「ああ、普通なら仕切りなおすところだろうな。」
「こんなところまで二度も足を運ぶのは嫌だって顔に書いてあるな。」
「えっと、アルト王国との時差は3時間くらいか。まだ夕方だな。よし、これから面会に行ってみようかな。」
「「えっ?」」
「この使者さんは、このままお帰りいただくとして、一人でギルダー国王に会って、どんな人か見てきますよ。」
「そんな、いきなり行っても無理ですよ。」
「だって僕を探しているのなら会えるでしょう。ラインハルトさんという知り合いもいるしね。会えなければ、縁がなかったということですよ。」
「まあ、その通りかもしれませんな。」
「いや、国の代表が一人で……。」
「いえ、このメイドさんも一緒ですよ。」
「あはは、このメイドさんは強いですぞ。」
「戦争をしに行くんじゃないですから、近衛兵団とかと戦いませんよ。」
俺はメイドさんと共に、アルト王国駐在のアンズさんの元に転移した。
「ギルダー国王って、どんな人?」
「特に良い噂も、悪い噂もありませんね。ただ、ラインハルト副隊長の武勇は知られていて、数年前に起きたヤード王国からの侵略で貴族として唯一前線で戦ったことで市民からの評価は高いです。」
「実直そうな人だったもんね。じゃあさ、ここの魔法と魔道具のレベルは?」
「魔法は、4属性に対する中級魔法までですね。魔道具についても、生活魔法レベルで、戦闘への導入はされていないようです。」
「そうすると、魔法石の質も中程度かな。」
「レベルの高いダンジョンがありませんので、高品質の魔法石は確保されていません。」
「そうか、使える魔法石が少ないから開発が遅れているって考えたほうがよさそうだね。ほかに知っておいた良い情報はあるかな?」
「特にございませんが、一部に貴族の特権意識が高い集団が存在しています。噂では、魔法局内と産業局内となっています。」
「魔法局と産業局ね、注意しておくよ。ありがとう。」
アンズさんは、まだ身バレしない方がよい。
今回、仲たがいした場合に備えて、城へは俺とメイドさん二人で向かった。
馬車にするか迷ったが、キックボードで飛んで行った。
「すみません。近衛兵団のラインハルト副団長に面会をお願いしたいのですが。」
門番さんは、俺たちが飛んできたのを目撃して、返答に数十秒要した。
「坊主、城は初めてなのか?」
「はい。」
「近衛兵団に用があるなら、一階に入った中央に受付があるから、そこで取り次いでもらいな。」
うん。門はスルーなんだな。
それと、16才は、まだ坊主と呼ばれるんだと知った。これは新鮮な驚きだった。
「分かった。おじさんありがとう。」
受付のお姉さんは、鑑定メガネによると総務局の所属だった。
「すみません。近衛兵団のラインハルト副隊長さんに会いたいんですけど。」
「近衛兵団ですね。このまま真っすぐ進むと一旦外に出るから、そこの右側にある赤い屋根の建物が詰め所になります。」
「直接行っても大丈夫なんですか?」
「ええ。構いませんよ。」
「ありがとうございました。」
「いいえ。」
ふむ。総務局は丁寧な対応をしてくれるんだな。
俺たちはいわれた建物に移動し、ドアを開けて中に入った。
「うん?入隊希望かな?」
入ってすぐのところにいた兵士に声をかけられた。
「いえ、ラインハルト副隊長にお会いしたいのですが。僕はヤマト国か来たススム・ホリスギと言います。」
「ちょっと待っててね、今呼んでくるから。」
そういって兵士は奥へ走っていった。
【あとがき】
アルト王国です。イメージはドイツとフランスの中間あたりですか。
アルト王国からの使者ハタヒさんが頭を下げてきた。
「でも、うちの国に何のメリットもないし、見たことのない国王のためって意欲湧かないでしょ。」
「ススム君、国政とはそういうものではないぞ。気が進まない時でも、そこは表に出さないでだな。」
「あなた方は、他国の使者の前だというのに、その態度はないでしょ。」
「あっ、ハタヒさんが切れた。」
「だってなあ、新しい魔道具とか極秘魔法とか、新種の果実とかならともかく、たかだか剣のために他国まで来ているんだぞ。君は、自分でおかしいと思わないのかね。」
「そりゃあ、多少は思いましたけど……。」
「いいかね。彼のヤマト国には世界中の果実や穀物があふれ、想像を絶する魔法と魔道具が存在する。当然、知識と技術もだ。」
「はあ……。」
「例えば、彼がさっき剣を取り出したこのバッグを見て、君は何も感じないのかね。」
「えっ……、そういえば、なんでそんなところから……。」
「鈍すぎるだろう。なんで彼がいまここにいるのか、君は不思議じゃないのかね。」
「それは、たまたま……。」
「君が来た時、彼は5千キロ離れたヤマト国にいたとしたらどうだね。」
「まさか、そんな……。」
「ヤマト国には、瞬時に何千キロでも移動する魔法が存在するし、時速千キロ近くで空を飛ぶ魔道具の乗り物も使われている。」
「いや、そんなことが……現実に……。」
「それだけの国の代表に対して、国王のための剣を作ってくれという。茶番だよ、私から見たら。」
「宝剣クラスが茶番……なんですか……。」
「ああ。ヤマト国に勉強に行かせた娘が、一週間勉強しただけで、500キロ離れた町に3時間で移動できる乗り物が作れそうだと言ってきた。」
「500キロを3時間……。」
「アルト王国にも、王都から離れた町があるだろう。」
「辺境……サカイ……。」
「国政としては、宝剣なんぞよりも、遠隔地への移動手段のほうが数百倍役に立つ……と私は思っている。」
「た、確かに……。」
「知らないということは、損失を招くことがある。この話を聞いてなお、君は剣を望むのかい。」
「い、いえ、それは……。」
「あっ、忘れてた。」
「「?」」
「国王代理、これ使います?」
「ま、まさか……。」
「6メートル四方の容量しかありませんけど、ウエストポーチ型マジックバッグです。まあ、国王の服装にはマッチしませんから使わないかとも思ったんですけど。」
俺の手からウエストポーチが一瞬で消えた。
「ああ、憧れのマジックバッグが……。」
「あ、あの……。」
「はい?」
「できれば、わが国王にも……。」
「信頼関係がなければ無理ですよ。」
「いや、しかし……ブランドン国王には……。」
「彼のお嬢さんがわが国で学んでいますし、政治に対する姿勢を評価していますからね。」
「これだけ年齢的な開きがあっても、ススム君のことは尊敬しているし、娘を預けられるほど信用している。彼の信頼を裏切らないよう、私も努力を重ねるつもりだよ。」
「ラインハルト副団長とは面識もありますし、それなりに信頼できる人物だと思います。でも、国王なんて会ったこともないですから、現時点で信用なんてありませんよ。」
「では、一度、お目通りを……。」
「会ってもいいですけど、アルト王国からヤマト国まで、船で3か月くらいかかりますよ。」
「い、いえ、そうではなく……その……。」
「まさか、用もないのに、こっちから会いに来いと?」
「そうお願いできれば……。」
「どこに、僕が出向く必要があるんですか?ナイル国王にさえ会いにいってないのに。」
「ああ、相手を呼びつけるのは、格下と見ているからだよ。」
「め、滅相もございません。」
「それに、国王との面会を決定できるだけの権限があるんですか?」
「そ、それは……。」
「権限もないあなたが、国王に会いに来いという。越権行為ですよね。もし口説き落とせれば、自分の功績にできるかもしれない。あなた自身がヤマト国を下に見ているって自白しているような「ものですよね。」
「ああ、普通なら仕切りなおすところだろうな。」
「こんなところまで二度も足を運ぶのは嫌だって顔に書いてあるな。」
「えっと、アルト王国との時差は3時間くらいか。まだ夕方だな。よし、これから面会に行ってみようかな。」
「「えっ?」」
「この使者さんは、このままお帰りいただくとして、一人でギルダー国王に会って、どんな人か見てきますよ。」
「そんな、いきなり行っても無理ですよ。」
「だって僕を探しているのなら会えるでしょう。ラインハルトさんという知り合いもいるしね。会えなければ、縁がなかったということですよ。」
「まあ、その通りかもしれませんな。」
「いや、国の代表が一人で……。」
「いえ、このメイドさんも一緒ですよ。」
「あはは、このメイドさんは強いですぞ。」
「戦争をしに行くんじゃないですから、近衛兵団とかと戦いませんよ。」
俺はメイドさんと共に、アルト王国駐在のアンズさんの元に転移した。
「ギルダー国王って、どんな人?」
「特に良い噂も、悪い噂もありませんね。ただ、ラインハルト副隊長の武勇は知られていて、数年前に起きたヤード王国からの侵略で貴族として唯一前線で戦ったことで市民からの評価は高いです。」
「実直そうな人だったもんね。じゃあさ、ここの魔法と魔道具のレベルは?」
「魔法は、4属性に対する中級魔法までですね。魔道具についても、生活魔法レベルで、戦闘への導入はされていないようです。」
「そうすると、魔法石の質も中程度かな。」
「レベルの高いダンジョンがありませんので、高品質の魔法石は確保されていません。」
「そうか、使える魔法石が少ないから開発が遅れているって考えたほうがよさそうだね。ほかに知っておいた良い情報はあるかな?」
「特にございませんが、一部に貴族の特権意識が高い集団が存在しています。噂では、魔法局内と産業局内となっています。」
「魔法局と産業局ね、注意しておくよ。ありがとう。」
アンズさんは、まだ身バレしない方がよい。
今回、仲たがいした場合に備えて、城へは俺とメイドさん二人で向かった。
馬車にするか迷ったが、キックボードで飛んで行った。
「すみません。近衛兵団のラインハルト副団長に面会をお願いしたいのですが。」
門番さんは、俺たちが飛んできたのを目撃して、返答に数十秒要した。
「坊主、城は初めてなのか?」
「はい。」
「近衛兵団に用があるなら、一階に入った中央に受付があるから、そこで取り次いでもらいな。」
うん。門はスルーなんだな。
それと、16才は、まだ坊主と呼ばれるんだと知った。これは新鮮な驚きだった。
「分かった。おじさんありがとう。」
受付のお姉さんは、鑑定メガネによると総務局の所属だった。
「すみません。近衛兵団のラインハルト副隊長さんに会いたいんですけど。」
「近衛兵団ですね。このまま真っすぐ進むと一旦外に出るから、そこの右側にある赤い屋根の建物が詰め所になります。」
「直接行っても大丈夫なんですか?」
「ええ。構いませんよ。」
「ありがとうございました。」
「いいえ。」
ふむ。総務局は丁寧な対応をしてくれるんだな。
俺たちはいわれた建物に移動し、ドアを開けて中に入った。
「うん?入隊希望かな?」
入ってすぐのところにいた兵士に声をかけられた。
「いえ、ラインハルト副隊長にお会いしたいのですが。僕はヤマト国か来たススム・ホリスギと言います。」
「ちょっと待っててね、今呼んでくるから。」
そういって兵士は奥へ走っていった。
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