上 下
86 / 168
第三章

3-28 祭の誘い

しおりを挟む
 眞瀬木ませき家を出ると少し薄暗くなっていた。
 
「ただいまー」
 
「あ!梢賢しょうけんくん!良かった、帰ってきた」
 
 雨都の家に戻ると楠俊なんしゅんが珍しく慌てて四人を出迎える。
 
「なんや、ナンちゃん。慌てて」
 
「いいから急いで入って!皆も!」
 
「どうかしたんですか?」
 
 はるかが聞くと楠俊はさらに大慌てで言った。
 
康乃やすの様がいらしてるんだよ、君達に会いにね!」
 
「えええっ!」
 
 それを聞いた梢賢は腰が抜けそうなほどに驚いて奇声を上げた。


 
 雨都うとの家で一番格式の高い奥座敷へと急いだ四人は、梢賢を筆頭に恐る恐る襖を開けた。
 
「失礼しますぅ……」
 
「遅いぞお前達!里の門限は三時だろうが!」
 
 息子の顔を見るやいなや、柊達しゅうたつが怒鳴った。普段なら愛想笑いで揶揄うくらいはする梢賢も、康乃の眼前ではそうはいかない。
 
「すいません、お客人達は慣れない道なもんで……」
 
「……だったら三時に帰れって言ってくれねえと」
 
「ライくん、シー!」
 
 小声で文句をたれる蕾生らいおを永はさらに小声で制して康乃に一礼した。
 
「遅くなって申し訳ありません」
 
 それを受けていち早く鈴心すずねが跪いて正座し、手をついて頭を下げた。それに永と蕾生も続くと、上座に座る康乃は笑って答える。
 
「あら、いいのよ。若い人達は元気に遊ぶのも大事だもの。それにいきなり来てしまった私達が悪いんだし」
 
「そんな、滅相もないことです!お前達、早く康乃様と剛太ごうた様の前に」
 
 恐縮しきりの柊達に逆らえるはずもなく、四人は康乃と剛太に相対して座った。すると康乃はまず隣の剛太を紹介する。
 
「皆さんにはまだ紹介していませんでしたね、孫の剛太です」
 
藤生ふじき剛太ごうたです。初めまして。よろしくお願いします」
 
 礼儀正しく一礼する姿は先日見た時よりも大人びて見えた。
 
「ははっ!」
 
 慌てて土下座する梢賢に続いて永達も挨拶をする。
 
「これはどうもご丁寧に。周防すおうはるかです」
 
ただ蕾生らいお……ッス」
 
御堂みどう鈴心すずねと申します」
 
 鈴心が顔を上げると、剛太は目を丸くして顔を赤らめた。だが鈴心には伝わっていなかった。
 
「今日はね、お誘いをしに来たの」
 
「お誘い、ですか?」
 
「せっかく里に来ていただいたのに、うちの墨砥ぼくとが堅物だからろくなおもてなしができなくて──ごめんなさいね?」
 
 康乃はかなり気安く接してくる。その雰囲気に少々面くらいながら永は慌てて答えた。
 
「ああ、いえ、そんな!僕らこそ図々しくご厄介になってますから」
 
「もうすぐ里でお祭があるのだけど、ご存じ?」
 
「あ──、いえ……」
 
 ついさっき聞いたばかりだが、隣の梢賢が目で訴えてくるので永は素知らぬ振りをした。
 
織魂祭しょくこんさいって言って、お盆のようなものなんだけどね、それに貴方がたをご招待したいと思ってるの」
 
「ええええっ!!」
 
「あなた!」
 
 先に驚いて奇声を上げたのは柊達で、横で座っていた橙子とうこに叱責された。
 
「も、申し訳ない……。ですが御前、彼らは部外者ですよ!眞瀬木ませき殿はなんと?」
 
「あら、いちいち墨ちゃんの許しを取らなくちゃいけないの?当主は私ですよ」
 
「は、はあ……」
 
 簡単に柊達をあしらった後、康乃はにこにこしながら話を進めた。







===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

転生帰録──鵺が啼く空は虚ろ

城山リツ
ファンタジー
 九百年あまり前、宮中に帝を悩ませる怪物が現れた。頭は猿、胴体は猪、尾は蛇、手足は虎である鵺という怪物はある武将とその郎党によって討ち取られた。だが鵺を倒したことによって武将達はその身に呪いを受けてしまい、翌年命を落とす。  それでも呪いは終わらない。鵺は彼らを何度も人間に転生させ殺し続ける。その回数は三十三回。  そして三十四回目の転生者、唯蕾生(ただらいお)と周防永(すおうはるか)は現在男子高校生。蕾生は人よりも怪力なのが悩みの種。幼馴染でオカルトマニアの永に誘われて、とある研究所に見学に行った。そこで二人は不思議な少女と出会う。彼女はリン。九百年前に共に鵺を倒した仲間だった。だがリンは二人を拒絶して──  彼らは今度こそ鵺の呪いに打ち勝とうと足掻き始める。 ◎感想などいただけたら嬉しいです! ※本作品は「ノベルアップ+」「ラノベストリート」などにも投稿しています。 ※※表紙は友人の百和様に描いていただきました。転載転用等はしないでください。 【2024年11月2日追記】 作品全体の体裁を整えるとともに、一部加筆修正を行いました。 セクションごとの内容は以前とほぼ変わっていません。 ☆まあまあ加筆したセクションは以下の通りです☆ 第一章第17話 鵺の一番濃い呪い(旧第一章1-17 一番濃い呪い) 第四章第16話 侵入計画(旧第四章4-16 侵入計画)

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

処理中です...