転生帰録2──鵺が嗤う絹の楔

城山リツ

文字の大きさ
上 下
87 / 174
第三章

3-29 奉納品

しおりを挟む
織魂祭しょくこんさいと言うのはね、里の守り神である資実姫たちみひめとその弟子になった我々の先祖をお祀りする大切な行事なの。そこに貴賓としてご出席願いたいわ」
 
「えええー……」
 
「あなた!しっかりなさい!」
 
 はるか達よりも先に反応して青ざめる柊達しゅうたつ橙子とうこがまた怒鳴る。その後ようやく永は慎重に尋ねた。
 
「そんな大事な催しに僕らなんかが出席させていただいていいんですか?」
 
「ええ。是非」
 
 康乃やすのは笑って頷いている。元々興味を引かれていた祭だ、断る理由はない。
 
「それは身に余る光栄です」
 
 永が一礼の後に承諾すると、またもや横で柊達が「受けるの?」と言わんばかりに声を上げた。
 
「えええー?」
 
「あーた!」
 
 雨都うと夫妻の反応を完全に無視して、康乃は嬉しそうに手を打った。
 
「良かった。今年は特別なお祭りになりそうね。ところで、どなたか手芸なんかおできになる?」
 
「あ、僕、趣味でレース編みを少々……」
 
「マジか、ハル坊!?」
 
 今度は先に梢賢しょうけんが驚いていた。似たもの父子なのである。
 そういう雨都のコミカルさには慣れているのだろう、康乃はそれを咎めたりもせずに孫の剛太ごうたを促した。
 
「まあ、すごい!人は見かけによらないのねえ。剛太、お出ししなさい」
 
「はい、お祖母様」
 
 剛太は陰から三宝を出して永の前に置いた。その上には美しい糸の束がひとつ乗せられている。
 
「わあ……」
 
「なんて美しい……」
 
 永も鈴心すずねもその清廉な美しさに感嘆の声を上げる。
 
「祭祀用の絹糸です。ご査収ください」
 
「いいんですか?」
 
 あまりの美しさに永が物怖じしていると、康乃はまたにっこり笑った。
 
「ええ。同じ糸を里の者にも配るのでね。せっかくですからそれで何か編んでいただきたいと思って。織魂祭で奉納させていただきたいわ」
 
「どんなものを編めばよろしいので?」
 
「なんでも結構よ。少ししかないから、皆もちょっとした物を編んでます。靴下とか、ハンカチとかね」
 
「なるほど、わかりました。お預かりします」
 
 永は丁重にその糸の束を受け取った。手触りも素晴らしく良く、こんな極上のものは初めてだった。
 
「良かったわ、楽しみにしています。それから後で八雲やくもに編み棒を届けさせますね」
 
「ひええええっ!」
 
「あなた、しっかり!」
 
 新たな単語の登場に、柊達はついに腰を抜かした。橙子もうろたえながらその腰を摩っている。
 
「やくも……?」
 
眞瀬木ませきの一族の中に呪具職人がいるの。彼が作った針や編み棒で里の者も絹糸を織ったり編んだりしてるのよ」
 
「はー、そんな方がいらっしゃるんですか」
 
「ええ。会っておいて損はないと思うわ」
 
 何かを含んだ康乃の物言いが少し気になったけれど、すぐに話題が変わってしまった。







===============================
お読みいただきありがとうございます
感想、いいね、お気に入り登録などいただけたら嬉しいです!
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

トップ冒険者の付与師、「もう不要」と言われ解雇。トップ2のパーティーに入り現実を知った。

ファンタジー
そこは、ダンジョンと呼ばれる地下迷宮を舞台にモンスターと人間が暮らす世界。 冒険者と呼ばれる、ダンジョン攻略とモンスター討伐を生業として者達がいる。 その中で、常にトップの成績を残している冒険者達がいた。 その内の一人である、付与師という少し特殊な職業を持つ、ライドという青年がいる。 ある日、ライドはその冒険者パーティーから、攻略が上手くいかない事を理由に、「もう不要」と言われ解雇された。 新しいパーティーを見つけるか、入るなりするため、冒険者ギルドに相談。 いつもお世話になっている受付嬢の助言によって、トップ2の冒険者パーティーに参加することになった。 これまでとの扱いの違いに戸惑うライド。 そして、この出来事を通して、本当の現実を知っていく。 そんな物語です。 多分それほど長くなる内容ではないと思うので、短編に設定しました。 内容としては、ざまぁ系になると思います。 気軽に読める内容だと思うので、ぜひ読んでやってください。

引きこもりアラフォーはポツンと一軒家でイモつくりをはじめます

ジャン・幸田
キャラ文芸
 アラフォー世代で引きこもりの村瀬は住まいを奪われホームレスになるところを救われた! それは山奥のポツンと一軒家で生活するという依頼だった。条件はヘンテコなイモの栽培!  そのイモ自体はなんの変哲もないものだったが、なぜか村瀬の一軒家には物の怪たちが集まるようになった! 一体全体なんなんだ?

目覚めれば異世界!ところ変われば!

秋吉美寿
ファンタジー
体育会系、武闘派女子高生の美羽は空手、柔道、弓道の有段者!女子からは頼られ男子たちからは男扱い!そんなたくましくもちょっぴり残念な彼女もじつはキラキラふわふわなお姫様に憧れる隠れ乙女だった。 ある日体調不良から歩道橋の階段を上から下までまっさかさま! 目覚めると自分はふわふわキラキラな憧れのお姫様…なにこれ!なんて素敵な夢かしら!と思っていたが何やらどうも夢ではないようで…。 公爵家の一人娘ルミアーナそれが目覚めた異なる世界でのもう一人の自分。 命を狙われてたり鬼将軍に恋をしたり、王太子に襲われそうになったり、この世界でもやっぱり大人しくなんてしてられそうにありません。 身体を鍛えて自分の身は自分で守ります!

処理中です...