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第三章
3-27 祭の話
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各自タルトを堪能して疲れが取れた頃、瑠深が聞いた。
「あんた達、いつまでここにいるの?」
しまった長居し過ぎた、と梢賢はギクリと肩を震わせる。だが時既に遅い。それで永ものんびりとした口調ではぐらかそうとした。
「え?えーっと、そうですねえ、蔵の書物の件がひと段落つくまでですかね?」
「最大で夏休みが終わるまでです」
しかし鈴心が真面目に回答してしまい、瑠深の方が驚いていた。
「はあ!?あんたらバカじゃないの?そんなに置いておける訳ないでしょ!」
「はあ……やっぱご迷惑ですよねえ」
「当たり前じゃない!夏は織魂祭で忙しいんだから!たださえ兄貴が──とと」
永は愛想笑いを浮かべ続けたが、瑠深は困惑と苛立ちでテンションが上がりつい口を滑らせた。
「しょく、こんさい、とは?」
「うっ!」
鈴心が首を傾げてきくと、瑠深はあきらかに狼狽して言葉に詰まる。だが、梢賢はそれにあっさり答えた。
「里でやる祭や。お盆みたいなもんやで」
「梢賢!?」
「ええやん、参加させる訳やなし。なんなら祭の間は高紫市のホテルにでも行ってもらうから。なあ?」
「ああ、はい。地域のお祭りに部外者が禁止なのはわかりますから」
永としてはその祭には当然興味がある。だがここで教えてもらうことは叶わないだろうと踏んで、興味のない振りをした。後で梢賢に教えてもらえばいいのだから。
だが永の態度をイマイチ信用できない瑠深は不服そうな顔をしていた。
「……」
「それはどういう祭なんだ?」
すると蕾生が聞いてしまった。さっきの鈴心と言い、どうも意思の疎通がままならないと永は心で残念がった。きっと体力を使い過ぎて頭が回っていないんだろうと思うことにする。
案の定瑠深は喧嘩腰で言う。
「はあ!?部外者のあんたらに教える訳ないでしょ!」
「そうか……」
「そ、そんなにしおらしくしてもダメなんだからね!」
蕾生ががっかりした態度を見せると、瑠深は急にうろたえる。そこへ梢賢が割って入った。
「まあまあまあ。ちょっとくらいええやろ、あんな、うちの寺が資実姫様をお祀りしてるのは言うたよな?
里の先祖は資実姫様のお弟子さんやろ。里の信仰では、亡くなった先祖は今も資実姫様の元で修行中やねん。ご先祖さま、よう頑張ってはるなあ、達者でなあって応援する祭やねん」
「へえ……結構珍しい考えだね。普通のお盆だと帰ってくるご先祖をおもてなしするのに」
永はますます興味が湧いた。雨辺や麓紫村の独自の宗教観は自分達がこんな運命でなければワクワクするものばかりだ。
「んで、修行中のご先祖のために、各家庭で織物をこさえて奉納すんねん。あなたの子孫も頑張ってますよーってな」
「ということは、ここではその修行というのは織物のことですか?」
「せやね。資実姫様は糸の神様やから、ご先祖は織物を資実姫様から教わってるっちゅー設定やねん」
鈴心は修行という単語に注視していた。雨辺の言う修行に比べたらこちらのものは健全な考えに思える。
「設定とか言うな!まったく、あんたそれでも寺の息子!?」
喚く瑠深を無視して梢賢は更に続ける。
「でな、祭で奉納する織物の材料はちょっと特別でな。毎年藤生の当主がお籠もりやって祭祀用の糸を用意して、それを皆に配るんや。そういや、そろそろ時期やな」
「喋りすぎだ!」
「ふがっ!」
ついに瑠深の怒りの平手が飛んだ。次いで永達を凄みながら脅す。
「あんた達、今の話は絶対に外で漏らすんじゃないよ!てか知ってるって事も黙ってな、死にたくなかったらな!」
「はあ……」
永はなぜ梢賢がここで教えたのかが気になっていた。後で雨都家に帰ってから存分に聞こうと思っていたのに、何故眞瀬木瑠深が同席した場でわざわざ。
もしかしたら梢賢は瑠深を味方に引き入れようとしているのでは、と思うのは考え過ぎだろうか。
「さ、もう話はおしまい!食べ終わったらとっとと帰る!」
「ご、ごちそう様でした」
「おー、こわ。じゃあ、うちに帰るか」
流石に引き時だろう。これ以上は瑠深を怒らせるだけだと全員が思った所で帰り支度をする。
「……梢賢」
「なんや?」
帰り際、瑠深は真面目な顔で静かに注告した。
「あんたがこいつらにペラペラ余計な事話してるのは黙っといてあげる。でもくれぐれも気をつけな」
「──おう」
梢賢は力強く頷いた。
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「あんた達、いつまでここにいるの?」
しまった長居し過ぎた、と梢賢はギクリと肩を震わせる。だが時既に遅い。それで永ものんびりとした口調ではぐらかそうとした。
「え?えーっと、そうですねえ、蔵の書物の件がひと段落つくまでですかね?」
「最大で夏休みが終わるまでです」
しかし鈴心が真面目に回答してしまい、瑠深の方が驚いていた。
「はあ!?あんたらバカじゃないの?そんなに置いておける訳ないでしょ!」
「はあ……やっぱご迷惑ですよねえ」
「当たり前じゃない!夏は織魂祭で忙しいんだから!たださえ兄貴が──とと」
永は愛想笑いを浮かべ続けたが、瑠深は困惑と苛立ちでテンションが上がりつい口を滑らせた。
「しょく、こんさい、とは?」
「うっ!」
鈴心が首を傾げてきくと、瑠深はあきらかに狼狽して言葉に詰まる。だが、梢賢はそれにあっさり答えた。
「里でやる祭や。お盆みたいなもんやで」
「梢賢!?」
「ええやん、参加させる訳やなし。なんなら祭の間は高紫市のホテルにでも行ってもらうから。なあ?」
「ああ、はい。地域のお祭りに部外者が禁止なのはわかりますから」
永としてはその祭には当然興味がある。だがここで教えてもらうことは叶わないだろうと踏んで、興味のない振りをした。後で梢賢に教えてもらえばいいのだから。
だが永の態度をイマイチ信用できない瑠深は不服そうな顔をしていた。
「……」
「それはどういう祭なんだ?」
すると蕾生が聞いてしまった。さっきの鈴心と言い、どうも意思の疎通がままならないと永は心で残念がった。きっと体力を使い過ぎて頭が回っていないんだろうと思うことにする。
案の定瑠深は喧嘩腰で言う。
「はあ!?部外者のあんたらに教える訳ないでしょ!」
「そうか……」
「そ、そんなにしおらしくしてもダメなんだからね!」
蕾生ががっかりした態度を見せると、瑠深は急にうろたえる。そこへ梢賢が割って入った。
「まあまあまあ。ちょっとくらいええやろ、あんな、うちの寺が資実姫様をお祀りしてるのは言うたよな?
里の先祖は資実姫様のお弟子さんやろ。里の信仰では、亡くなった先祖は今も資実姫様の元で修行中やねん。ご先祖さま、よう頑張ってはるなあ、達者でなあって応援する祭やねん」
「へえ……結構珍しい考えだね。普通のお盆だと帰ってくるご先祖をおもてなしするのに」
永はますます興味が湧いた。雨辺や麓紫村の独自の宗教観は自分達がこんな運命でなければワクワクするものばかりだ。
「んで、修行中のご先祖のために、各家庭で織物をこさえて奉納すんねん。あなたの子孫も頑張ってますよーってな」
「ということは、ここではその修行というのは織物のことですか?」
「せやね。資実姫様は糸の神様やから、ご先祖は織物を資実姫様から教わってるっちゅー設定やねん」
鈴心は修行という単語に注視していた。雨辺の言う修行に比べたらこちらのものは健全な考えに思える。
「設定とか言うな!まったく、あんたそれでも寺の息子!?」
喚く瑠深を無視して梢賢は更に続ける。
「でな、祭で奉納する織物の材料はちょっと特別でな。毎年藤生の当主がお籠もりやって祭祀用の糸を用意して、それを皆に配るんや。そういや、そろそろ時期やな」
「喋りすぎだ!」
「ふがっ!」
ついに瑠深の怒りの平手が飛んだ。次いで永達を凄みながら脅す。
「あんた達、今の話は絶対に外で漏らすんじゃないよ!てか知ってるって事も黙ってな、死にたくなかったらな!」
「はあ……」
永はなぜ梢賢がここで教えたのかが気になっていた。後で雨都家に帰ってから存分に聞こうと思っていたのに、何故眞瀬木瑠深が同席した場でわざわざ。
もしかしたら梢賢は瑠深を味方に引き入れようとしているのでは、と思うのは考え過ぎだろうか。
「さ、もう話はおしまい!食べ終わったらとっとと帰る!」
「ご、ごちそう様でした」
「おー、こわ。じゃあ、うちに帰るか」
流石に引き時だろう。これ以上は瑠深を怒らせるだけだと全員が思った所で帰り支度をする。
「……梢賢」
「なんや?」
帰り際、瑠深は真面目な顔で静かに注告した。
「あんたがこいつらにペラペラ余計な事話してるのは黙っといてあげる。でもくれぐれも気をつけな」
「──おう」
梢賢は力強く頷いた。
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