遥かなる物語

うなぎ太郎

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第2章

アンティロ城攻略戦

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僕は一瞬、耳を疑った。
アンティロ城、ラロニア共和国に佇むその城塞。鉄のような堅固さで知られる、難攻不落の名城。僕たちだけでその城を落とせるなど、考えられないことだ。

「しかしシモン伯爵、アンティロ城は非常に堅固で、難攻不落と言われています。私達だけの力で落とせるのでしょうか?我々は兵数も少なく、敵に比べて装備も十分ではありません。」
「ベルタン伯爵、戦の本質とは、数や装備といったものではありません。何にも増して、戦略や作戦が重要です。」

「では、シモン伯爵はアンティロ城を落とせるだけの作戦がお有りなのですね?」僕は腑に落ちない感情を感じながらそう訊いた。
「そうです。有ります。」

その場にいる全員が疑いの目を向けていた。

「では、その作戦とは一体何なのですか?」僕は再度訊ねた。

シモン伯爵は静かに深呼吸をし、答えた。「クダシソウです。」
「クダシソウ?」
「クダシソウというのは、この辺りに多く自生している毒草です。葉には有害な物質が含まれており、体内に取り込むと激しい嘔吐や下痢を起こします。これを粉にしてアンティロ城の水源に流すのです。」

「なるほど…」シモン伯爵の言葉は説得力があり、少しずつ疑いが晴れていくのを感じた。

「では、アンティロ城の城兵がクダシソウの粉を含んだ水を飲めば、皆下痢や嘔吐に襲われて戦おうにも戦えなくなるという算段なのですね?」
「その通りです。アンティロ城の水源は近くを流れるアンティロ川の取水関であり、ダムよりも上流から大量の粉を流せば、十分な被害が出ると想定できます。」

シモン伯爵の声は確信に満ちていた。彼の策略は単純だが効果的であり、城を直接攻撃するよりも成功の可能性が高そうだった。

「しかし、その作戦で城を完全に制圧できるのでしょうか?敵の防衛設備や反撃に対してどうするつもりですか?」と、僕は問いかけた。

シモン伯爵は答えた。「クダシソウの毒性が作戦成功の鍵ですが、その後も準備が整っています。火矢によって城壁上の防衛隊を無力化してから、破城槌という攻城兵器によって城門を破壊し、一気に城内へなだれ込みます。」

「それはすばらしい計画ですね。ただし、クダシソウを使った毒作戦の成功が前提ですが、その準備や配分にはどのくらいの時間がかかるのでしょうか?」僕は詳細を知ろうと尋ねた。

シモン伯爵は慎重に答えた。「自生しているクダシソウを刈り取ってから粉末化、そしてアンティロ川に流出させるには数日かかります。さらに敵の兵士たちが実際に症状に苦しんでいるかどうか、偵察部隊を用いて確認する必要があります。」
「了解しました。では、クダシソウの刈取作業から行いましょう。」

翌日、ポリアーヌの草原で、ひたすらクダシソウを刈り取る作業が総力をあげて行われた。
「黄色いベリーがなって、葉がギサギサで濃い緑色のやつだ!」
僕はベルタン軍の兵士たちに指示を出した。
シモン軍もまた、伯爵の指示を受け、鎌でどんどんクダシソウを刈っていた。

日もすでに高く上り、7月、真夏の炎天下、僕たちは延々と作業を続けた。僕自身も汗だくになりながらクダシソウを刈り続けていた。
「シャルル様はこんなことしなくても良いんですよ!あちらでお休み下さい!」ロジェが言った。
「いや、僕もやるよ。」
「な、何故ですか?」
僕は瞬時間を取り、深い溜息をついて言った。「何故かって?亡き父上は遺言書の中で仰ったんだ。人々は領主のためにあるのでは無く、領主が人々のためにあるのだと。皆が苦労して作業している中で、僕だけが休んでいるわけには行かないと思うんだ。」

ロジェはしばらく黙って僕を見つめた後、頷いた。「分かりました、シャルル様。では、一緒に頑張りましょう。」
「ありがとう、ロジェ。一緒に頑張ろう。」

日差しは容赦なく降り注ぎ、作業は続いた。僕たちは汗を流しながら、ただ一つの目標に向かって努力を重ねた。それは、アンティロ城を落とし、平和を取り戻すことだった。

「この辺で休憩にしようか?」僕が兵士たちに言った。
シモン伯爵が昼食を用意してくれた。焼きたてのパンと魚のムニエルで、兵士たちは食事を取って疲れを癒しながら、次なる行動に備えた。

僕はシモン伯爵のところへ行き、今後の動きについて計画を練った。
「クダシソウは沢山集まりましたが、もっと必要でしょうか?」僕はシモン伯爵に訊いた。
「いえ、これだけの量があれば良いでしょう。これを粉末化して、3回に分けて、アンティロ川へ流そうと思います。各回のタイミングを見極めながら、城内での影響を最大化させるつもりです。」

僕は彼の計画に対して深い理解を示し、次なるステップに向けて準備を進めることを了承した。その後、僕たちは再び兵士たちの元へと戻り、準備を進めるように指示を出した。

「シモン伯爵によると、明日の夜明けまでにはクダシソウを粉末化し、アンティロ川への流入を開始するということだ。その際には特に気をつけて作業を進めて欲しい。」

僕たちはその日はクダシソウの根や茎など、不要な部分を除去し、一晩かけてクダシソウを乾燥させ、粉末化しやすくした。翌朝からクダシソウを臼に入れ、杵でついて粉々に砕き、粉末にした。

「ふぅ、シモン伯爵、何とか間に合ったようです。1回目の流入を始めましょう。」僕が言った。
「了解しました。では、1回目の流入を始めましょう。」

シモン伯爵の指示に従い、僕たちは粉末化されたクダシソウを大量に取り、アンティロ川の上流部に運んだ。既に日が翳り始めている中で、水を汲み上げるための準備を整えた。

「水が満たされたら、流入を始めよ!」シモン伯爵が命令を下した。準備が整い、シモン軍の兵士たちは大量の粉末を川に注ぎ始めた。粉末は水に混ざり、川の流れと共に取水関の方へと向かっていった。

僕もベルタン軍に指示を出し、粉末を全部流入させた。粉末は川の水に溶け込み、傍目では何の変哲も無い水だった。
取水関ではゴミしか取ることが出来ないため、粉の溶けた水は水道管を通り、敵兵たちのもとへ運ばれていった。

その夜、シモン伯爵が密偵を派遣して城内の様子を調べさせたところ、案の定敵の兵士たちは症状に苦しめられているということで、下痢を起こす者もいれば、何度も嘔吐する者もいた。
水は農兵から大将に至るまで、誰もが飲む。だから、水に何か入った時の被害は大きい。

「次の2回も同じ手順で行います。敵が気付かないうちに効果を最大化するために、タイミングが重要です。」
翌朝には2回目の準備に取り掛かった。兵士たちは疲労困憊していたが、使命感に燃えており、素早く行動した。

「もう少しで終わる。最後まで集中してくれ!」僕は兵士たちに声をかけた。彼らは頷き、一層集中して作業を進めた。

「2回目も成功しました。最後の1回を残すのみです。」
その夜、僕たちは再び流入を終え、3回目の粉末化作業を行った。時間が迫る中、焦りなく作業を進め、最後の一瞬に全力を注いだ。

「最後の流入を始めてください!」翌日、シモン伯爵の声が響く中、川の水面がクダシソウの粉で薄く濁り始めた。これで全ての作業が完了した。

「ベルタン伯爵、これで全ての作業が完了しました。明朝、全兵力を以て総攻撃を行います。我々は北門を攻撃しますので、ベルタン伯爵には南側からの攻撃をお願いします。」
「了解しました。我々も準備を開始します。」

その夜、夕食を終えた僕は、蓄積された過度の疲労のために、テントの中で死んだように眠った。
「ラファエル、ロジェ、ジョゼフ、おやすみ。今日は本当に疲れた。」

翌朝、僕たちは万全な体勢を整え、アンティロ城へと向かっていった。
アンティロ城は堅固な城だが、そこからラロニア共和国首都、モエダールまでの道のりに大きな拠点は無く、ここを制圧出来ればラロニア共和国に対する勝利に向けて、大きな一歩となるだろう。

「進めー!」シモン伯爵が叫び、ポリアーヌ軍が攻撃を開始した。僕も同じように叫んだ。
「進めー!」

続く
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