遥かなる物語

うなぎ太郎

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第2章

さらば戦場よ

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「進めー!」僕の号令によって、ベルタン軍も攻撃を開始した。
シモン伯爵による計画通り、火矢で城壁の上の敵部隊を攻撃すると、下痢で弱っていた彼らは、すぐに倒れてしまった。

「よし、これで上から狙われる心配は無い!破城槌で城門を破るのだー!」
破城槌が城門に何度も打ち込まれ、その度に巨大な轟音が響く。
そしてついに城門が崩れ、城内が視界に入った。

城門が崩れた瞬間、ベルタン軍の戦士たちは勇猛に城内に突入した。敵の抵抗は激しかったが、僕たちの勢いは止まらなかった。

シモン伯爵率いるポリアーヌ軍もまた、反対側で果敢に攻勢をかけていた。北側の門も打ち破られ窮地に追いやられたラロニア軍は、シモン伯爵の指揮の下統制された攻撃になす術もなく、混乱状態に陥った。

そしてついに城の上でラロニア国旗が下げられ、スラーレン帝国の国旗が掲げられていくのが見えた。
僕たちは難攻不落と言われたアンティロ城をわずか5日で、もっと言えば直接の攻撃3時間だけで落としたのだ。

「シモン伯爵、おめでとうございます!あなたの作戦のおかげで、無事攻城戦を終えることが出来ました!」
「いえいえベルタン伯爵、あなたのお力添えが無ければ実現出来なかったことです。心より感謝を申し上げます。」

シモン伯爵は謙遜しながらも誇らしげに笑った。彼の指揮の下での戦いは、迅速かつ効果的に城を落とすことができた。城内では混乱が続き、敵の残党は一部抵抗を続けたものの、夕暮れまでに全部隊が降伏した。

その夜、僕たちはアンティロ城内で、城の陥落を祝う酒宴を開いていた。
「ラファエル!ロジェ!ジョゼフ!喜べ!皇帝陛下から帰還のお許しが出たぞー!」
「「「本当ですか!?やったーーーーーー!」」」

皆本当に故郷へ帰れることを喜んでいる様だった。僕も同じ気持ちだった。屋敷を離れてから1週間余りしか経過していなかったが、ちょうど何年も帝都の店へ奉公に出ていた農民の子が、ようやく家へ帰れる様な気持ちだった。

ワインを何杯も飲むうちに、強烈な睡魔が僕を襲った。限界まで疲労に耐えていた僕は、うとうと眠ってしまいそうになった。
「すまないが、私は先にテントへ戻る。」
家来たちの前で眠りこけて威厳を損なう前に、自分のテントへ撤退した僕は、布団の中で爆睡した。

翌朝、ベルタン軍全軍を率いて僕はボルフォーヌへ帰還を開始した。
シモン伯爵とその部下たちや、物資を提供してくれたポリアーヌの人々にもお礼を言い、僕は帰路についた。

戦争の緊張感が無いと、行軍の際には気づかない景色が見えてくる。
ポリアーヌ地域の田舎では、心無しか農民たちの姿がボルフォーヌよりもふくよかだ。

ボルフォーヌでは石製や木製の農具を未だに使用しているのに対し、ポリアーヌの農民は皆鉄器を使っている様で、より多くの作物を生産できるのだろう。
領地に帰ったら是非とも鉄器を民の間に広めようと思った。

やがて田や畑が減り、野原や森が一面に広がる。ボルフォーヌ地域に入り、周りは山々に囲まれた高原地帯に入った。高原の風は平地よりも涼しく、国境地域にいた時より快適な夏を過ごせそうだ。

ボルフォーヌの小さな町が見えてくると、町の人々が街道沿いに出てきて、僕の帰還を温かく迎えてくれた。
彼らは喜びと感謝の言葉をかけてくれ、中には手を振ったり、頭を下げて礼を述べる者もいた。
「「シャルル様ー!アンティロ城陥落おめでとうございます!」」
僕は彼らに手を振りながら、屋敷への道を進んでいった。

屋敷の門が見えてくると、僕は溶ける様な安堵感を覚えた。
今の僕は、まだ学園にいた3年前に、戦争が終わり夏休みにこの家に帰ってきた時と同じ気持ちだ。
辛い時期が過ぎてこの家に帰ってくると、本当に幸福感と安心感に包まれるのだ。

「シャルルー!お帰りなさい!」母上が温かく出迎えてくれた。
「母上、ただいま帰りました!」僕は笑顔で答えた。母上は僕を抱きしめ、手を握ってくれた。
「シャルル、あなたが無事であること、そして勝利をもたらしてくれたこと、本当に感謝しています。」
「母上、私はただ皆のために戦っただけです。そして、帰還できて本当に嬉しいです。」

「「お兄様ー!お帰りなさいー!」」妹のルネと弟のイザークが駆け寄ってきた。
「ルネ、イザーク、元気だったか?」僕は2人に微笑みながら声をかけた。

「お兄様、本当に戻ってきてくれたんだね!すごいよ、アンティロ城を落としたなんて!」ルネが興奮気味に言った。
「お兄ちゃん、お帰りなさい!また一緒に遊ぼうね。」弟のイザークも笑顔で言った。

ジャンやフローランも出迎えてくれた。
「シャルル様!御無事で何よりです!初陣と攻略戦お疲れ様でした!」ジャンが僕を励ましてくれた。
「シャルル様、御無事で本当に良かったです!そしてアンティロ城陥落おめでとうございます!」フローランが言った。
「2人とも本当にありがとう。シモン伯爵とベルタン軍の皆のおかげで無事に初陣と攻略戦を終えることが出来たよ。」

夕食の時間、家族と共に食卓を囲んだ。食事の間、戦争の話やアンティロ城の攻略について話題が盛り上がった。
「シャルル、アンティロ城の攻略、本当に見事だったわね。あなたの勇気と指揮力に感心していますわ。」母上が言った。
「母上、それは僕だけではなく、シモン伯爵やベルタン軍の皆のおかげです。彼らの協力があってこそ、成功したのです。」僕は謙虚に答えた。

夕食が終わり、母上が「シャルル、今夜は早めに休むことね。明日からゆっくりと休息をとりなさい」と言ってくれた。それから僕は自分の部屋に戻り、長い戦いの疲れを癒すために布団に横になった。
窓からは穏やかな風が差し込み、心地よい静寂が包み込んでくれた。

これで暫くの間、戦場へ行く必要はない。死の恐怖に怯えることも、望郷の念にかられることも、人を殺す罪悪感に苛まれる事も無く、このボルフォーヌで家族と幸せに暮らせる。

そして僕はある人のことが気になって仕方が無かった。マリーだ。彼女のことを思い出すと、心がざわめく。彼女のことを考えると、この戦いの中で疲れ果てた心が安らぐようだった。もう1年も会っていない。

明日、彼女に会いに行こう。僕は決意した。

続く
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