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説教
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週末、奏と幸尚は『Jail Jewels 』の扉を叩いていた。
幸いにもあかりの熱は金曜には下がり、週明けからは登校できると芽衣子……奏の母は言っていた。
元々あかりの体力は底なしだ。大人しくしていれば回復も早いのだろう。
「もう大丈夫だと思うけど、あかりちゃんだし……激しい運動は1週間は控えるように言っておかないと無茶しちゃうわねえ」
「それは俺と尚がちゃんと見張ってるから大丈夫だって!」
「幸尚君が、でしょ?奏はいっつもあかりちゃんと一緒になって暴走する側なんだから」
「ちょ、自分の息子だろ!?ちょっとは信用してくれよぉ……」
何だかなあと複雑な気分になりつつも、迎えにきた幸尚と共に電車に乗る。
母から言われた事を幸尚に愚痴れば「それはそう」とうんうん頷かれて、恋人なのに味方になってくれないのかよと拗ねて見せたら、慌ててキスして誤魔化してきた。
どうもこの可愛い恋人は、奏が快楽にとても弱いと思っているらしい。だが比べる相手がいないから、弱くないことにしておきたい。
「……あのさ、キスして誤魔化すの、ズルくね?」
「だって……僕じゃ奏には口では勝てないし…………奏、キスするとすぐに蕩けてふにゃふにゃになっちゃうから……」
「誰のせいでこんな敏感になったと思ってんだよ!」
軽口を叩くその表情も明るい。
ここにあかりがいないのはやっぱり何か物足りなさを感じさせるが、それも明日までだ。明後日にはまた、3人で学校に通える。
だから、その前に一度来ておきたかったのだ。
「いらっしゃい、待ってたわよ」
「お、今日も貸切?オーナー商売っ気無さすぎじゃね?」
「こ、こんにちは……」
「そんなに緊張しなくていいわよ、幸尚君。ほら、奥へいらっしゃい」
「は、はいっ……!」
今回の顛末と、今後の調教の進め方を相談するために。
…………
「…………一言言っていいかしら」
「おう」
「奴隷を寝込ませるなんて、ご主人様失格ね」
「は、反論できねぇ…………」
「すみません……」
「そのすみませんは、私じゃなくてあかりちゃんに言いなさい」
事情を話せば、塚野はそれはそれはバッサリと二人を断罪する。
厳しい言い方をするわよ、と前置きした塚野の説教は、ぐうの音も出ないものだった。
「3人で合意したからって何でもやっていいってもんじゃないのよ、プレイってのは!」
あかりがまだ若く体力もあったから良かったものの、腎盂炎は入院になることも多い病気だし、そもそも診察した芽衣子の言う通り、この歳で膀胱炎止まりにならなかったこと自体があかりに無理をさせていた証左だと、塚野は言い切る。
いくら調べて念入りに準備をしたとはいえ、まだ学生である。清潔の概念も甘ければ、女性の身体への理解も浅い。
そんな状態で、一つ間違えば身体に大きなダメージを残す危険がある調教をやるなど言語道断である。
「部屋は暖房をかけてたって言ってたわね?それ、あんた達が全裸でフローリングに座った状態で快適だったの?」
「…………そ、そこまではやってなかった……」
「全裸って思った以上に冷えるのよ、まして女性は男性より冷えやすい。こんな寒い季節にプレイをするならそこまで考慮しなさい!」
「はいぃ…………」
それからたっぷり30分、延々と説教をくらった二人はもはや満身創痍である。
並んで肩を落とし、しょんぼりとする二人に「でもまあ、よかったんじゃない?」と塚野は表情を和らげた。
「今のうちに、取り返しがつかないほどじゃないけど手痛い失敗ができた。それを相談して叱ってくれる私がいた。あんた達は幸運よ、早い段階で学べたんだから」
「オーナー…………」
さ、説教はここまでにして相談を聞きましょ、と塚野がお茶のおかわりを注いでくれる。
今日のお茶請けは最中だ。何でも田舎の親戚から大量に届いたらしい。だから今日は珍しくほうじ茶なのか。
暖房が効いていても空調の関係か時折ヒヤリとする事務室だから、その暖かさと甘さが身体に染みる。
…………残念ながら、次の瞬間部屋の雰囲気は絶対零度に凍え切ってしまうのだが。
「で?今日は何を相談しに来たの?」
「…………ええと、あかりに、貞操帯をつけようと思ってその相談に……え、あ、あわわ」
「ふぅん…………今の話を聞いていて良くその言葉が吐けたわねぇ……?」
「ひいぃぃっごめんなさいいっ!!」
再び青筋を立てる塚野に、奏と幸尚は慌てて事情を説明する。
もちろん奏とあかりの管理欲を満たし、あかりの心を自由にするために貞操帯をつける事は決めていたが、せめて大学に入ってからかなとぼんやり思っていたこと。
それを今装着すると決断した一番の理由は、『触れる状態なのに触れない』ストレスで無意識に自慰するほど追い詰められたあかりを物理的に触れない状況に置くことで、少しでも精神的に楽にできると踏んだからだと。
二人の必死の説明に、意外にも「発想は悪くないわ」と塚野も頷く。
ただ、と二人を見つめる大人の目は厳しい。
「……あんた達にはまだ早すぎるわよ、さっきの説教でわかってると思うけど」
「っ、それでも…………はいそうですかって引き下がれねえんだよ。今のあかりじゃ、多分ピアスを外しても無意識のオナニーは止められねえと思う。なら、やるしかねえじゃん!」
「そこは依存症として専門家に紹介すれば治療はできる、もちろん時間はかかるし、性癖は変わらないままだけど」
「んなことしたら親にバレるだろ?それだけはダメだ。やっとあかりが自分を演じずにいられる場所が作れそうなのに、バレたらあかりはまた誰かのために踊る人形に戻っちまう!!」
「一旦は仕方ないわね」
「……っ、俺はそれだけはダメだと思ってる」
「それは「塚野さん」」
しばらく二人の口論に気圧され静かにしていた幸尚が、口を開く。
塚野の説教で目を真っ赤にしたままの幸尚は、しかし白熱する二人を怯ませるほどの強い意志を瞳に湛えていた。
「塚野さん……僕ら、塚野さんが止めてもやります」
「幸尚君」
「それであかりちゃんが少しでも楽になるなら、僕はやりたい。それ以外に方法がないなら尚更です。だから」
幸尚が、膝に置いた両手をギュッと握る。
(僕は、二人のようにあかりちゃんの性癖を理解できない。本当の意味であかりちゃんの気持ちを分かってはあげられない)
その上、今の自分には何もかもが足りない。
経験も、知識も、スキルも…………
このまま闇雲にネットで調べながらやったところで、また同じことを繰り返してしまう気がする。
それなら、自分にできることは、一つしかない。
(僕にできることは、あかりちゃんを守る知識とスキルを、プロから教わってきちんと身につけることだ)
「僕らに、貞操帯の管理の仕方を教えてください」
「……私が教えるの?あんた達に?……一応これでも私、現役の女王様だって……プロだって分かってるわよね。それをタダで教わろうっての?」
「っ、今は……お小遣いの分しか払えないけど……大学に入ったらバイトして払いますから!お願いします…………っ!!」
幸尚はガバッと頭を下げる。
それに釣られて奏も「俺も、バーのバイト代から払うから……お願いします」と深々と頭を下げた。
そう来たか、と塚野は深々とため息をつく。
だがその内心は(やるじゃない)と呟いていた
(大人に頭を下げるなんて嫌な年頃だろうに…………この子達は本気であかりちゃんが大切で、本気で『ご主人様』になろうとしている)
自分にも若い頃はこんな情熱があったっけ、と昔を懐かしみながら「……冗談よ」と塚野は二人に顔を上げるよう促した。
「いいわ、いくつか条件を出すから、それを飲めるならタダで教えてあげる」
「「!!」」
「ただし私の指導は厳しいわよ?あと、元気になったら真っ先にあかりちゃんを連れてきなさい。あの子にも説教がいるから」
「っ、はい!!」
「ありがとうございます、塚野さん!」
じゃあ条件は話すとして、これを持って行きなさい、と塚野が店の奥から出してきたものに、二人は目を丸くする。
「表面に傷があるから返品しようとしていたのよ。ちょうどいいからこれ、持って行きなさい」と塚野は手にしたものをテーブルの上に置いて説明を始めた。
「あんた達のお試しで使うには、これで十分だから」
…………
「あかり、もう大丈夫なのか?」
「うん、ごめんね心配かけちゃって」
「僕たちこそごめん……絶対無理しないでね、まだ走り回っちゃだめだから、ね!」
あかりが熱を出してから1週間。
やっと元気になったあかりは、いつものように迎えにきた奏と幸尚と共に学校に向かっていた。
「奏ちゃんのお母さんに、疲れが溜まってたんだろうって言われちゃった。こないだの調教、やりすぎたのかな……」
「直接の原因は調教だろうけどな。その前からずっと触らせてもらえなくてストレス溜めてたんだろ、手が勝手に動くくらい追い詰められてたんだし」
「うっ…………私、このまま淫乱なままになっちゃうのかなぁ……奏ちゃん、尚くん、私がただの変態しか取り柄がなくなってもお家で飼ってくれる?」
「んんっ、いいなあ室内飼い……俺の理想だわ……」
「はいはい、それは働き出してから、ね!」
その事なんだけど、と幸尚は元気になってまた発情に苛まれているのだろう、歩きながらも無意識に右手を股間に持っていきそうになるあかりに「あかりちゃん、手を繋いでようか」と左手を差し出しながら話す。
「色々奏と話してさ、早くあかりちゃんに貞操帯をつけようって話になったんだ」
「てい、そうたい…………!」
(とうとう、来た)
その言葉だけで、全身にじわん、と何かが走る。
目の前の通い慣れた通学路が、一瞬時間を止めたようにすら感じた。
この関係が始まってから……いや、それよりずっと前から憧れていた。
あかりにとって貞操帯は『管理』の象徴でもあって、何度あれを着けられ欲情に苦しむ自分を妄想しながら火照る身体を慰めたか分からない。
みるみるうちに、あかりの瞳がどろりと欲情に溶ける。
いくら住宅街で人通りが少ないとはいえ、その顔はまずい。奏の下半身的にもまずい。
慌てて奏は「あかりストップ!」と声を上げた。
「あかり、妄想が先走ってエロい顔になってる」
「へっ……あはは、ごめんねぇ……もうその言葉だけで涎でそう」
「ブレねぇなあかりは。…………それで、詳しく説明したいからさ、今日あかりん家に行っていい?」
「うん、いいけど……うち、ずっと親いるよ?部屋に入れば話は聞こえないけどプレイは」
「いやいや病み上がりでプレイとかねーから!!」
本当に、本当にあかりはブレない。
いや、それだけ体調が回復した証左だろうが流石に今は勘弁してほしい。欲望に負けてプレイなんかした暁には、塚野からどんなお仕置きを食らうか……考えただけで恐ろしい。
「まだうちで集まるより、あかりちゃん家の方が落ち着くかなって。お母さんも安心だと思うよ」
「あ、そっか。…………うう、もう頭がえっちなことばっかりになっちゃうよう……」
「俺はそういうの、大好きだけどな!…………尚、顔が怖い」
「あかりちゃんを煽ってどうすんの!なんなら奏も、僕の大好きなトロトロの顔にしてあげてもいいんだよ?…………今ここで、ね?」
「すいませんでしたあああぁぁ!!」
1週間ぶりに戻ってきた3人の生活は全てがいつも通りで、でもその内側は全くいつも通りではなくて。
きっとこの関係がまたひとつ変わるであろう貞操帯を、着けると決めたこと。
いつかではなくなるべく早く、と一気に『その日』が現実に近づいてきたことへの期待と、不安と、そして責任感。
……それぞれの想いを抱きながら、1日は過ぎていくのだ。
…………
その日の夜。
あかりの家でご飯を食べた3人は、あかりの部屋でこたつに潜っていた。
さっきご飯を食べたばかりだと言うのに、幸尚はあかりの母に持たされたみかんを早速頬張っているし、奏は奏で「こたつにはアイスだろ」とこれまた持ち込んだアイスを齧ってるし、彼らの胃袋はブラックホールなんじゃないかとあかりは時々思う。
「はぁ……あったけぇ…………ホットカーペットとこたつ布団の相性やべぇ……」
「床が暖かいっていいよね。私、フローリングがあんなに冷たいだなんて思わなかったもん」
「あーやっぱり冷たかったんだな……冬のプレイはフローリング直座り厳禁だよな、もしくはガンガンに暖房入れるか」
そう言えばあかりの部屋に入るのは久しぶりだ。
この間はお見舞いでとてもじっくり見る暇はなかったが、考えてみたら中学に上がってからは大抵幸尚の家に集まっていたしな……と奏は何となく女の子らしくなった部屋を見回す。
……本棚の一角がずいぶん過激そうな薄い本で占拠されている光景は見なかった事にしよう。
下手に突っ込んだらあかりの腐女子魂に火がつくし、それに煽られた幸尚がまた奏の新しい扉をこじ開けかねない。
いや、いずれはこじ開けられるだろうけど、奏だってちょっとは抗いたいのだ。
こほん、と咳払いをして奏が幸尚と話し合った内容をあかりに説明する。
「貞操帯なんだけどさ。着ける前にルールを決めて、その上で本当にできるかお試しをしたいんだ」
「うん。私もその方がいいかな……早く着けて管理されたいけど、いきなりってのは」
「だな。これまでにも話したけどさ、装着する以上はあかりは俺らとの関係が続く限りクリトリスと膣には触らせないから……俺らが触る必要があるんだ」
「洗浄もあるし、発散させるのも僕たちがするからね。その……こないだはおっぱいだったけど…………あかりちゃんの大事な部分に、僕らが触れるのは」
「試してみる?」
「「今やろうとするな」」
早速ズボンに手をかけたあかりを、二人は必死で押しとどめる。
「触られるって聞いて嫌じゃねーかを聞きてえの!」と奏が突っ込めば「何とも思わないよ?」とこれまたあかりもあっさりしたものだ。
「だって、奏ちゃんも尚くんも、酷いことはしないでしょ?大事なところにいきなりおちんちん突っ込んだり」
「「するか!!」」
「まあ奏ちゃんは尚くんのオンナノコになってるから、そもそも出来るかどうか」
「いや流石にできるぞ!できる、はずだ!!……何だよその目、不安になるじゃんかぁ…………」
「ま、ほら、そもそもあかりちゃんが嫌でしょ?恋人でもない男と……そういうのは」
幸尚の問いかけに「んんん……」と頭を抱えたあかりは「正直に言っていい?」と少し頬を赤らめる。
「……気持ちいいって聞くから、気にはなる」
「誰から聞くんだそんな事」
「えークラスの女の子とか、経験済みの子何人かいるしさ。花恋ちゃんとかなっちゃんとか」
「…………なっちゃんて西岡!?嘘だろあんな真面目が服着て歩いてそうな奴が」
「凄いね……もう経験済みだなんて……」
しばらくその話で盛り上がる3人は、側から見れば年齢なりの恋バナで盛り上がる子供達にしか見えない。
そんな可愛らしい話が吹っ飛ぶくらいの経験を現在進行形でしているだなんて、本人たちがうっかり口を滑らせてもにわかには信じ難いだろう。
……そもそも、彼ら自身は「あかりを『普通』の呪縛から解き放って、ついでに奏とあかりの性癖を満たす」ためにこの関係を選んだだけで、精々親にバレたらこっぴどく叱られるだろうな位の感覚しかない。まったく若さとは恐ろしいものである。
あかり曰く、膣にも興味はあるらしい。ただ、見ることすら何となく怖くてできないような場所に触れるのは躊躇するようだ。
そこでアナルに手が伸びたのは、腐女子の好奇心が恐怖をあっさりぶち壊したせいだというから、薄い本の威力は凄まじい。
「ま、とにかく俺らはあかりにそう言うことをする気はねえよ。あかりが将来恋人ができた時にさ、好きでもない男に初めてを捧げてしまってたら悲しくなるかもしれねえじゃん?」
「それは約束する、僕らはあかりちゃんの膣には、指一本触れない」
「…………お尻は、触る?」
「そもそも既に開発済みのところは、むしろ触らねえと辛いのはあかりじゃね?」
「うっ、そうだよねぇ…………」
「あ、でもあかりちゃんが泣いておねだりするまでは触らないから、安心して!」
あかりが寝込んでいる間に、奏と幸尚は何度も話し合いを重ね、あかりに触れるためのルールを作っていた。
先週末に塚野にも相談し、それでいいと許可ももらっている。
それをあかりに話し、同意を取るのも今日の目的の一つだ。
奏は一つずつルールについて説明する。
あかりが自ら触ってくださいと懇願しない限り性感帯には一切触れないこと。
使うのは手と道具だけにすること。口や、まして性器を使うことは絶対にしないこと。
そしてあかりの性器に触れる時には、必ず医療用のディスポの手袋をつけること。
これは衛生面と共に、恋人の前で女性に性的な意図で触れるのはあかりでも躊躇う奏や幸尚の気持ちへの配慮だ。
ついでに幸尚の暴走も抑制できないかと目論んでいる。いや、暴走して犠牲になるのはあかりじゃなくて奏だが。
ちなみに手袋や今後利用する医療器具は『あんまり備品を拝借していたら芽衣子さんにバレるわよ』と塚野に釘を刺され、今後は塚野の店を通して格安で購入する形を取ることになった。
手袋は塚野曰く『ラテックスフリーだからアレルギーも出にくいし、これはパウダーフリーなのがいいのよ』らしい。奏や幸尚にはさっぱりわからないが、塚野のおすすめなら問題はないのだろう。
「生身で触れた方が、あかりは熱が伝わって気持ちがいいんだろうなとは思うんだけどさ、俺はどうしても幸尚への罪悪感が……」
「だから、ごめんね。素手では触れられない……って、あの何であかりちゃんは興奮してるのかな…………?」
「え……だってぇ…………そんな、素手で触らないだなんて…………人間じゃない扱いみたいで……はぁっ…………!」
「そんなスイッチが入るとは」
「俺思うけどさ、Mって割と何でもご褒美にして気持ちよくなれるの、強すぎね?」
「……塚野さんが言ってたよね、お仕置きまでご褒美になっちゃうから、年々お仕置きがグレートアップするわよって…………」
うっとりするあかりを前に「今からこれじゃ、こんなの見せたらどうなっちまうんだろうな」と二人は顔を見合わせて苦笑する。
「本格的な貞操帯は、俺らが冬休みにバイトしてお金を貯めてから注文するからな」
「採寸して注文して、2ヶ月くらいかかるんだって。だから装着は春休みかな……父さんたちもその頃にはまた海外行ってるし」
「で、これが俺たちの決めた貞操帯」
「…………!!」
奏があるサイトをスマホで開いて、あかりに見せる。
それは、あかりがネットで見てきた貞操帯とは一風異なったものだった。
腰のベルトは幅広の金属ではなくロープのような形状だし、何より股間を覆うシールドが透明なのだ。
ブラウザでサイトを翻訳して、説明を読み込む。
ロープのようなベルトはステンレスのワイヤーを医療用のシリコンで覆っているらしい。
このデザインなら、夏でもあまりラインを気にせずに身につけられそうだ。袴の下でももたつかなさそうだな、と想像する。
クロッチ部分はラビアをすっぽりと覆うドーム状で、2ミリのアクリル板で作られている。
排尿用の穴があるから、トイレに困ることもなさそうだ。この穴の開け方ならあまり飛び散らなさなそうに感じる。
「…………これ、すごいね…………」
「いいだろ?丸見えなのに触れないっての」
「う、うん…………うわあ、金属製じゃないんだ……」
感動するあかりに奏が「ま、事情もあってさ」とぽりぽり頭をかく。
「これさ、ドーム状になっているからあかりのピアスとも干渉しないんだよ。一般的なラビアを挟み込む形を考えていたんだけど、それだとピアスと干渉するからスリット部分を特注にしなきゃダメらしくて…………」
「今僕たちが購入できるのはこれかなって。大学入ってバイト代を貯めてから、もう一段本格的な貞操帯を作ろうって奏と決めたんだ。その頃にはあかりちゃんも貞操帯に慣れて、色々希望もでてくるだろうしね」
「ええええ、そんな、二人ともいくら何でもお金かけすぎなんじゃ……」
あわあわするあかりに「当然だろ」と二人はあっさりしたものだ。
「言っただろ、生涯管理するつもりだって」
「あかりちゃんは、僕たちが結婚してもずっと一緒に飼われるんでしょ?それなら、その時々に合わせて変えていくのは当たり前だと思うよ」
「…………!!」
ああ、彼らは本気であかりの夢物語を実現しようとしているのだと、その瞳を見たあかりの身体に震えが走る。
いくら幼馴染ったって、こんなとんでもない性癖を明かされたらドン引きされたって仕方ないし、そうでなくても半分冗談として流されたり、触れないようにされたっておかしくない事はあかりだって良く分かっている。
だって知られる事で3人の関係を変えてしまいたくなくて、彼らにすら話さないと決めずっと胸にしまい込んでいたのだから。
けれど、同じように性癖を拗らせた奏はともかく、全くこんな世界に縁がなかった幸尚までもが、ずっと3人の関係を続けられるよう考えてくれる。
それが、ただ、嬉しくて。
「…………ありがとう、奏ちゃん、尚くん」
思わずこぼれた感謝の言葉は、涙交じりだった。
…………
「で、注文前にまずはお試しやるのはこれな」
「……これは」
「塚野さんにもらったんだ。ジョークグッズ寄りの安物の貞操帯だけど最低限の目的……とりあえずあかりが学校で自慰するのを防ぐくらいは果たせるだろうって」
「えええ、貰ったって……お金は!?」
「その辺は後で話すよ」
目の前にコトリと置かれたのは、確かにジョークグッズだとわかる貞操帯だった。
形は先ほどの貞操帯に似ているが、クロッチ部分の覆いが細い。
「本物ほど何が何でも触らせないって感じじゃねーけどさ」と奏がそれを手に取る。
「これもウエスト部分はステンレスのワイヤーをシリコンで包んであるんだ。で、クロッチ部分はパンチング加工。よくある貞操帯だとここが二重構造でスリットにラビアを挟み込むんだけど、このスリットじゃ挟み込むと言うより単に押し付けるだけになるだろうって。外側はパンチング加工だから、おしっこはできる、らしいんだけどいけそうか?」
「うん、ちょっと飛び散りそうかな……でもうちの学校は洋式トイレだから、大丈夫だと思う」
「お尻はリングになってるから、大きい方もこのままトイレでできると思うよ」
前面にあるロックは南京錠だ。
塚野が「付属の南京錠はしょぼいから、せめてこれだけでも」と交換してくれたそれは堅牢性に優れたメーカーの製品で、鍵もシリンダー錠とかなりこだわりがあるらしい。
「とりあえずこれで、貞操帯がどんな物なのか、つけた状態で生活に問題が無いかを試したいんだ」
「で、僕らが鍵を管理するのは日中だけ。学校の帰りにはあかりちゃんに鍵を渡して、自分で外して洗ってもらう。登校する時にまた自分でつけて僕らに鍵を渡してね」
「えっと、それだとお風呂とか寝るときは」
「着けない。と言うかこれはあくまでジョークグッズで長期装用を念頭に置いてないから、学校にいる時だけにした方がいいってオーナーも言ってた」
「そっか、うん、そうだね」
夜は外せると言う奏の言葉にあかりはホッとした表情を浮かべた。
いずれは常時装着事になるとは言え、流石にまだ心の準備ができていないし、貞操帯をつけた生活は妄想でしか経験がないから、実際に近い体験が先にできるのはありがたい。
そしてそれは管理する奏や幸尚も同じだった。
塚野にもこの土日で最低限の知識やケアは叩き込まれたものの、まずは短時間の装用から慣らすように厳命されていた。
塚野曰く「あかりちゃんの負担が大きいのは当然として、キーホルダーになるあんた達だって生活がガラッと変わるのよ。ある意味貞操帯に縛られるのは同じなんだから、まずはその状態で学校生活が送れるかを確認しなさい」だそうだ。
「あ、あのっ、とりあえず着けてみていいか…………な?」
「あかり、顔が期待で大変な事になってる」
そわそわしながら貞操帯を手にするあかりに、その前に一つやることがあるんだと奏が手鏡を取り出した。
「……手鏡?」
「おう。……実はさ、貞操帯のことでオーナーに相談に行って、しこたま説教されてきた」
「へっ」
二人は先週、塚野に会った時のことを話す。
案の定「私が寝込んじゃったから……ごめんね」と謝るあかりに「いや今回はむしろ俺らのせいだから」と奏はあかりには非がない事を強調する。
「それで、貞操帯での管理を塚野さんに教わることになったんだ」
「だからあかりちゃんの調教にも今まで以上にアドバイスをしてもらうけど、最終的にやることは僕ら3人で決めるから、それは安心して」
「オーナーのアドバイスでも、俺らが無しと思ったことはしねえ。あくまでもあかりのご主人様は俺と尚だから」
「ただ僕たち以外の意見が入るのを、あかりちゃんが嫌でないことが条件…………全然嫌じゃなさそうだね……」
話を進めるうちにまた被虐のスイッチが入ってしまったあかりに「うん、まあ、嬉しいのは分かった」と二人は安堵する。
あかりからすれば、あのピアスを開けた日の調教は本当に衝撃的で……とても忘れられない甘美な時間だったから、全く反対する理由がないのだ。
「……はぁっ…………ちゃんと、最後は3人で決めるなら……あは、妄想が止まんない……!」
「うん、落ち着こうかあかりちゃん。……それでさ、教えてもらう代わりにいくつか条件を出されたんだ」
「条件……?はっ、まさか2人の身体を」
「…………うん、あかりちゃんはびいえる時空に毒されすぎだと思う」
「元気になった途端飛ばしてるなー、心配ねえよ、俺らの尻は無事だ」
「………………えっと、奏ちゃんのお尻はそもそも」
「あかりそれ以上はいけない、頼む突っ込まないでくれ俺が凹む」
「突っ込むのは後で僕がするから。……それで、その条件の一つをこれからやるよ」
幸尚が「はい」とあかりに手鏡を渡す。
「あかりちゃんに、自分の性器がどうなってるのか見せて説明しなさいって」
「…………へっ?」
…………
「あかり、寒いから脱ぐのは下だけでいい。んで、この鏡を左手に持って」
「う、うん。えっと、挨拶は」
「今日はプレイじゃねーからいい。体調だって本調子じゃねえし、じきに期末試験だろ?この際だから期末試験が終わるまではプレイはなしな」
「貞操帯をつけてない時の自慰や絶頂は自由にしていいよ、期末試験が終わるまではね」
「あは……その後は…………」
「ま、その時のお楽しみってことで」
幸尚の指示で手を石鹸で綺麗に洗いパンツを脱いだあかりを、奏はクッションに股を開かせて座らせる。
そして手鏡を持った手を股間に誘った。
鏡に映る自分の性器……思った以上にグロテスクに感じるその形に、あかりは「うわぁ……」と顔を顰める。
世の男の子はこれを見て興奮すると言うが、一体何がいいのかさっぱりわからない。まだおっぱいの方が良さを理解できそうだ、ふわふわしてるし。
「その様子じゃ、やっぱり見たこと無かったな?あかり、奴隷なんだから自分のマンコくらいちゃんと観察しておかねーと。ピアス開けた時にもオーナーに言われてただろ?」
「ご、ごめんなさい…………うわ…………こんな、なんだ……」
「これ、拡大鏡だから見やすいだろ。で、マンコの構造は知ってる?」
「っ、おちんちんは詳しくわかるけど…………こっちは……」
「…………さすが腐女子、そこはブレないんだよねえ」
じゃあ教えてやるよ、と奏が手袋を箱から取り出す。
それはあかりが想像していた手袋よりずっと薄く奏の手にピッタリフィットしていて、あれなら手袋越しでも二人の熱を感じられそうだと、つい胸を触られた……いや触らせた時のことを思い出して腰が揺れる。
そんなあかりに「期待しすぎな、今日は気持ちよくしねぇぞ?」と苦笑しつつ、奏は脱毛されてすべすべの割れ目を指でそっと開いた。
途端に「んっ」と目を閉じたあかりから悩ましい声が漏れる。
「目、つぶらずにちゃんと見ろよ。この外側の部分が大陰唇。で、ピアスで貫かれてビンビンに勃ってるここがクリトリス、なのは知ってるよな?」
「んひっ!!は、はい……こんなに、大きいの…………!?」
「あかりは上からしか見てねーからもっと小さく見えてんのか。ズル向けでデカいぜ、あかりのは。ま、俺らもいくつか画像で見ただけだけど、少なくともその中じゃデカい方だった」
「はぁっ…………おっきいんだ……」
「これだけ大きいと触りやすくて良さそうだよね、ピアスも映えるし」
ひとつひとつ説明しながら触れていくその手は、あかりを煽る言葉とは裏腹にとても優しく、そして緊張しているのが伝わってくる。
きっと今日のために知識も、触れ方も塚野から叩き込まれたのだろう。
触れるのが奏だけなのは、幸尚がこの間のおっぱい事件みたいに暴走するのを防ぐためかな、とすこしふわふわした頭であかりは考える。
「で、尿道口が……これ、かな?こないだおしっこが出てたのこの辺だったし」
「んひぃ…………」
「うんうんそれだね。ほら、よく見たらちんちんの先っぽと同じ形してる」
「あ、ほんとだ。……あかり、付いてきてるかー?」
「あわわ…………おしっこってそんなところから出てたの……!?もっと前だと思ってた……」
「感覚として分かんねえの?」
「だって、男の子のおちんちんみたいに出てるところは見えないし…………」
「そんなもんなんだ。それで……ここが膣の入り口」
「!!」
尿道口の少し下にぽっかりと空いた穴。
指が1本くらいは入りそうなその穴は、柔らかそうなひだが周りについている。
「周りにあるひだひだが処女膜なんだって。僕ずっと処女膜って膜みたいに覆ってると思ってた」
「私も思ってた……なんか、思ったよりぷにぷに…………でも、狭いね……」
「意外と伸びるらしいよ。塚野さんが前に見た感じだと指一本なら大丈夫、きちんと手を洗って中を触らせてって言われてるんだけど、出来そう?」
「えええっ……」
「本当は命令してやらせなさいって言われたんだけどさ。あかりの大切なところだから……あかりが決めていい。俺らは見てるけどな」
「う、うん……」
未知の行為に怖さはある。
けれど塚野が大丈夫と言っていたなら、きっと酷いことにはならない。
何より奏と幸尚がちゃんと『3人で決める』約束を守ってくれているのだと思うと、頑張れる気がする。
「ゆ、指入れてみる……」
「うん、焦らずにね」
いつの間にか用意されていた潤滑剤は、あかりがベッドサイドの引き出しにしまい忘れていたやつだ。
よく見てるな、と思いつつあかりはそのとろりとした液体を緊張で震える人差し指に纏う。
幸尚が支える手鏡を見ながら、その小さな穴に恐々と指を差し込んだ。
くちゅ……と遠くで粘ついた音がする。
心臓がうるさくて、視界が狭くなる。
今、私の中に、指が…………
「あかり、あかりっ!大丈夫か!?」
「あかりちゃん落ち着いて、息しよう、ね?」
「っ、ぷはっ……!!はぁっはぁっ…………はぁっ……」
どうやら緊張から息を止めてしまっていたらしい。
ようやく呼吸を落ち着けたあかりは、そっと差し込んだ人差し指を動かして「…………変な感じ……」とポツリと漏らした。
「熱くて、ぬるぬるしてて……ぷにょぷにょしてる……」
「お尻ともまた違うのかな……痛くは無い?」
「うん、入っているのは分かるけど、痛くないよ……お尻よりずっと……狭くてふわふわしてる、かな」
「そうなんだ、女の子ってどこも柔らかいんだね……えっと、お腹側の壁にザラザラしたとこらが無い?」
「ザラザラ…………?」
「もっと奥かな」「むしろもっと手前、って塚野さんは言ってた」と話しながら弄っていると、確かにザラザラしたところがある。
「あった」
「うん、そこをしばらくさすってみて」
「痛かったり嫌だったらやめていいからな」
「うん…………ん…………?んっ……」
しばらく、あかりは言われた通りにザラザラしたところをさする。
最初は何も感じなかったが、じわじわとクリトリスをいじっている時のような、けれどそれよりはずっと弱い気持ちよさを感じ始めた。
「ん…………気持ちいい、かな……?んっ…………んふ……」
あかりは気づいていない。
緊張していた手の震えはすでに止まり、その指の動きもだんだん大胆に……少しずつ、だが確実に快楽を追い始めていることを。
(上手く行ったね)
(ああ、そろそろいいかな)
二人はそっと目配せする。
種は蒔いた。あかりならきっと、上手く育てるだろう。
「んっ…………はっ……あ、いぃ…………」
「おーい、あかりそのくらいにしておこう」
「初めてだし、無理しちゃダメだよ」
「え…………はぁっ、う、うんっ…………んうぅ……」
ずるり、と抜いた指はしわしわになっていて、半透明の愛液がベッタリとまとわりついていた。
それをみた途端、あかりが「あわわわ……」と真っ赤になる。
「ほら、ティッシュ」
「あ、ありがと」
指を丁寧に拭って「こんなもんかな説明は」と手鏡を片付ける奏をどこか物欲しそうな顔で眺めながら(……もうちょっと、触りたい)と思ってしまったことに…………あかりだけが気づいていなかった。
…………
何となくモヤモヤしたままの身体を感じながらも、あかりは奏達の指示に従って貞操帯(仮)を装着していた。
「ひゃっ、これ……お股冷たいねぇ…………」
「着けてれば体温で暖かくなるかな。冬は冷たそうだよね」
「でも下手に温めたら火傷しそうだしな」
腰のベルトを回し、後ろから股間を覆う金具付きのベルトを前に持ってきて、そこに左右の腰ベルトを合わせ、南京錠でロックする。
「んー……お股は大丈夫だけど、ウエストが……」
「ちょっとキツイな、確かにずっとつけっぱなしは難しいわこれ」
「緩いよりはいいのかな、ずれないし」
体を曲げたり伸ばしたり捻ったりしてみたが、思ったよりもしっかりと身体に密着しているようだ。
試しに隙間から指が入らないか試してみたが、意外と届きそうでクリトリスには届かない。
何が何でも通さない感じではないが、少なくとも気軽に自慰ができないのは間違いない。
(ああ…………ちゃんと、私のここ、閉じ込められてる…………!)
ぞくり、と不安なのか歓喜なのかわからない何かが、全身を駆け抜けていく。
私の権利を奪われる……まだこんなに頼りない檻ですら、これほどのものをもたらすのだ。あの奏が見せてくれた頑強な檻の中に閉じ込められたら、自分は一体どうなってしまうんだろう…………!
妄想が、興奮が、止まらない。
触ってもいないのに勝手に愛液が溢れてくる。
だから、奏が「大丈夫そうだな、じゃあ脱いで」と指示した時につい「ええ……」と残念そうな声が漏れたのも、仕方がないことで。
「…………あかりちゃん、めちゃくちゃがっかりした顔してる……」
「う、だって…………」
「一人で脱げるかも確認しねえとな?それに……明日からは毎日パンツの下にこれをつけて学校に行くんだぞ?」
「………………あ…………」
「今からちょっと脱いだって、すぐ寝るだけだろ?で、起きたらあかりのマンコはもう、この中に押し込められるだけだ。どんなに触りたくても触れない…………」
「あ……ぁ…………あは…………っ……」
「な?楽しみだろう?じゃあお楽しみは明日に取っておいて……脱げ」
「は…………はひぃ………………」
いつもより低い、掠れた声で命令されれば、もう身体は勝手にご主人様の言うことを聞いてしまう。
どこか名残惜しさを感じながらも、あかりは自らをこれから守り、そして悩ませるであろう檻をうっとりとした顔で脱ぎ捨てるのだった。
「じゃ、また明日な。…………ちゃんと着けたところ、写真で送れよ」
「うん。はぁ…………楽しみぃ……」
「あかりちゃん、今日寝られる……?辛かったらその、自分で慰めて、ね?」
「はぁい…………おやすみなさい、幸尚様、奏様ぁ……」
玄関を出た二人は「……あれ、まずくないか?」とヒソヒソと話す。
「プレイ中じゃ無いのに呼び方が……完全にぶっ飛んでる」
「お試しなのに貞操帯の威力ヤバすぎない!?明日のあかりちゃんが怖いんだけど……」
「そりゃもう、年単位で拗らせてた願望がお試しとは言え叶っちゃったからなぁ…………大丈夫、って言いたいけど…………あかりだから」
二人は外から、灯りが煌々と点いているあかりの部屋を眺める。
今頃部屋に戻って、風呂に入る準備でもしているだろうか。
…………どうも胸騒ぎがする。
「……まだ病み上がりだし、きっと…………無茶はしないって、信じよう、うん……」
「もう全然説得力ないよそれ…………あとさ奏、そのガッチガチのちんちんはどうすんの……?」
「尚だってデカくしてるじゃねーか。…………時間遅いし、ちょっとだけだぞ?」
「っ、うん!ありがとう!優しく抱くから」
「いや待てちょっとって言っただろうが!そこは抜くだけで終われよ、誰がセックスするって、んっ、んむうぅっ!!」
「はぁ…………あかりちゃんにゾクゾクしてる奏も可愛くて……堪らなかったんだよね……」
幸尚のいつも通り激しくも優しい口付けで、一抹の不安もこれからの期待に吹き飛んでしまう。
悪態をつきつつも、そんな強引なところも良いんだよなと心の中でニマニマしながら、奏は幸尚と仲良く手を繋いで家に向かうのだった。
…………
伊達に赤ん坊の頃から幼馴染をやってない。
あかりのやらかしの予感が外れたことなんて今まで一度もなかったよな、と奏と幸尚は早朝にスタンプと共にグループチャットに送られてきた写真を見て、案の定遠い目をする羽目になるのだ。
「おはよう、奏ちゃん、尚くん…………いてててて……」
「お前なぁ……おはようじゃねえよ。だから朝起きてから着けろって言っただろうが、このあんぽんたんが!」
「今日学校終わったらすぐ着替えて塚野さんとこ行くからね!!ああもう、また説教確定だよこれ」
「うう……ごめんなさいぃ…………痛いよう……」
「てかあかり、流石に外さないとまずくね?」
「それはやだ」
「何でそうなるんだよ!」
あの後風呂上がりのあかりは「ちょっとだけ……ほら、明日の練習、ね!」と言い訳をしつつ貞操帯(仮)を装着する。
南京錠をカチッと差し込んだその音に「ああ、閉じ込められた……!」と感動だか悦楽だかわからないものが全身を貫いて思わずその場にしばらくへたり込んでいた。
「あ、ああ…………触れない……!触りたいのに、本当に触れない……うわぁ、これっ………………触れないのに、興奮しちゃう……」
止まらない。
一度心の奥底から溢れ出した仄暗い欲望を満たす悦楽は、じわじわと理性を侵食していく。
ベッドにそっと腰掛け、何度も、何度も股間に手をやって、金属の感触に阻まれたことに全身を悦びで震わせる。
気がつけば時計はてっぺんを超えていて……慌てて横になったものの、その檻を確かめる行為は止められず…………そのまま寝落ちして、気がついたら朝だった。
身体を起こそうとして腰にピリッと走る痛みに、ようやくあかりは二人との約束を破って装着したまま寝てしまったことに気づくのだ。
やらかした、とは思うものの、お試しの貞操帯(仮)とは言え念願かなった興奮からだし許してもらえないかな、とグループチャットに送った写真への二人のリプは、ほぼ同時に返ってきた。
『ご主人様の命令を破ったんだから、お仕置き確定な』
『あかりちゃん、これはお仕置きしないとね』
…………ああ、ブレないなと変に感心しつつ、ほんの少しだけ反省するあかりだった。
とりあえず見せろ、と学校に着くなり3人は人気のない屋上の隅であかりのスカートの下を確認する。
そこには、腰のベルトに沿って赤い傷が何箇所もできていた。
水疱が破れたような場所もあって、これは痛そう、と思わず幸尚が顔を顰める。
「……あのさ、これって貞操帯を外しても、スカートに擦れて痛いんじゃ」
「う……実は、そうなんだよねぇ…………絆創膏じゃ追いつかなくて」
「あ、僕キズパワーパッド持ってる!これでとりあえずいけないかな」
一度貞操帯を外し、傷の部分に手当たり次第にキズパワーパッドを貼り付ける。
そうして手早く貞操帯を着け直し、ロックして鍵を奏に手渡した。
少し身体を動かしてみたが、これなら痛みもほとんどない。
「はぁ、ありがとう尚くん助かったよおぉ」
「そういや、尚っていっつも絆創膏持ち歩いているよな」
「うん、だって奏もあかりちゃんもすぐ無茶して怪我するから……もう癖で」
「俺らのせいだった」
それで、と奏がじろりとあかりを睨む。
その横では幸尚もむすっとした顔で腕を組んでいる。
(…………あ、ご主人様の、顔……!)
今はプレイ中ではない。
分かっているのに辺りに人がいることすら確認せず、あかりは自然とコンクリートの床に土下座して頭を硬い床に擦り付けていた。
「あ、あ、奏様、幸尚様…………約束を破ってごめんなさい……!」
「……確かに命令はしなかったけど、貞操帯はプレイの一環だよね?」
「嬉しかったのは分かるけどさ。あかりは俺たちの奴隷、つまり俺たちのモノだよな?奴隷が勝手にご主人様のモノに傷をつけてどうすんだよ」
「うぅ…………ごめんなさい…………ご主人様の物を傷つけたあかりに、どうかお仕置きして下さいぃ…………!」
「当然だな。俺、今日部活休むから放課後オーナーの所でやろう」
「だね。あかりちゃん、そろそろ授業始まるから一旦おしまい」
「っ、はい」
慌ててスカートを戻し、二人とともに教室に向かう。
初めての貞操帯に舞い上がっているあかりは、奏と幸尚か深刻な面持ちで互いに目配せしているのに気づかなかった。
…………
「全くあんた達は揃いも揃って…………あかりちゃん、奴隷失格よそれは」
「はい……ごめんなさい…………」
「そのごめんなさいは、奏と幸尚君に言いなさいな。ほんと、こんなところまで似てるのよねえあんた達」
店に着くなり塚野は事務所側に3人を通す。
「今のお客様が帰ったら対応するから待ってなさい」と言われた奏と幸尚は、塚野に指示された通り、事務所にあるシャワーブースに全裸で首輪と口枷を着けたあかりの手を天井から伸びる鎖で拘束した後、ソファでお茶をいただいていた。
「店に来た時は、あかりは奴隷として扱う事、とは言われてたけど……まさかいきなりこの扱いだなんて……」
「でもあのシャワーブース、浴室暖房が効いてるからここで基本姿勢で待たされるよりは優しいんじゃね?」
「そ、そういうものなの……?まあ、あかりちゃんがいいなら僕はいいけど……」
締め切られたシャワーブースからは、時折あかりの切ないくぐもった声が聞こえてくる。
鎖に繋いでいる間「こんな所に拘束監禁…………あは……涎でちゃうぅ……」と嬉しそうに呟いていた位だから、あかりも満更ではなさそうだったからいいのか、と幸尚は無理やり自分を納得させる。
そっと隣を見れば、茶菓子を食べる奏の股間は既に盛り上がり、興奮からか瞳も潤んでいて。
(ああ、もう今日も奏が可愛い……!)
週末には両親が帰ってくる。
そうしたら、春までは今までのようなやりたい放題とはいかなくなるだろう。
それが分かっているから、今のうちに少しでもたくさん奏と愛し合いたくて……奏の何気ない仕草も、声も、今の幸尚には全てが自分を煽る要素にしかならない。
「はぁ…………奏……」
「ここで盛るなよ、この絶倫ゴリラ」
「だってぇ…………はぁ、奏の雄っぱい……」
「お前は巨乳派だろうが、俺の胸なんて揉みしろほぼねーのに」
「奏は特別だもん…………」
「…………ったく……」
背中から手を回し、そっと奏の胸を揉む。
細身とは言えそれなりに筋肉のついた胸は、確かに女性のマシュマロのような柔らかさとは違うが揉むと心地よくて、奏の胸だと思うともう股間が爆発しそうだ。
「……ね、奏…………乳首も触りたい……」
「それは家に帰ってからゆっくり堪能しなさい、健全な青少年ねえまったく」
「うおわっ!?」
「っ、塚野さんっ!!」
客が帰ったのだろう塚野が事務所のドアを開ける。
慌てて飛び退いた幸尚の顔は真っ赤で、その初々しさに塚野も思わずニヤけてしまう。
だがすぐに顔を引き締め「ほら、あかりちゃんのチェックをするわよ」と処置用のワゴンを押しつつ二人をシャワーブースの前に誘った。
奏が口枷と貞操帯を外す。
一日中閉じ込められていた蜜壺からは溢れるように白濁した愛液が滴っていた。
途端にメスの匂いが部屋を満たす。
思わずごくりと喉を鳴らす二人を「あんた達が暴走しちゃダメよ、暴走があかりちゃんに向かないのは知ってるけど、慣れなさい」と塚野はすかさず咎めた。
そうして、傷を覆う絆創膏を剥がしていく。
顕になった腰の傷に「あーあーもう、立派なデクになってる」と塚野は大きくため息をついた。
「……デク?」
「褥瘡……じゃ分からないか、床ずれって言えば分かる?」
「…………分からないです…………」
「そうよねえ…………ざっくりいうと、皮膚ってのはずっと圧迫されたままだとそれだけで傷になるのよ。それが床ずれ。健康な人でも同じ姿勢で布団に寝転がったままにすれば、布団との圧迫で割と簡単にできちゃうわよ」
「擦り傷とは違うもんなの?」
「擦り傷……擦過傷ってのは文字のまんま、擦れてできた傷だからまた別物よ」
話しながら塚野は手袋を履き、傷を観察する。
「これは擦り傷じゃなくて、一晩中貞操帯のワイヤーが皮膚にめりこんで圧迫した傷なの。傷が背中側、それも骨の触れるところばかりでしょ?恐らく仰向けで寝て、普通は寝返りを打つことで圧迫を解除するんだけど……慣れない物をつけて緊張していたんでしょうね、寝返りもほとんど打たなかったんじゃないかしら」
「は、はい…………朝起きたら、寝た時のままの姿勢で……身体中痛くて……」
「そりゃそうよ。第一これは常時装用には向いていないってご主人様からも言われたでしょ?ちゃんと約束を守らなかった罰だと思いなさい」
「うう…………ごめんなさい…………」
処置の仕方を教えるから、ちゃんと見てなさいと塚野はシャワーを捻って徐に暖かいお湯を傷口にかける。
途端に染みたのだろう「ひゃあああっ!!」と叫ぶあかりに「……喧しいわね」と塚野はピシャリと一喝する。
その声色が胸に刺さって、あかりは思わず声を殺した。
「あんた達、この絆創膏貼る前に洗浄した?……その顔だとしてないわね。いい?どんな傷でも洗浄は必須よ!特にこのタイプの絆創膏はね、洗浄せずに貼ったら傷にばい菌を閉じ込めるようなものだから」
「え、塚野さんまさかそれで洗うんですか!?」
ボディソープを泡立てる塚野を見て、奏はギョッとした顔をし、幸尚は痛みを想像したのだろう半泣きになる。
「傷の周りだけよ」と塚野は指の腹でくるくると傷の周りを優しく泡で洗っていく。
とは言え傷にも泡がついて染みるのだろう、あかりは涙目になって「うぅ……」と呻いているが、塚野は声掛けはおろかあかりの顔を一瞥すらしない。
「しっかり洗い流して、押さえつけるように清潔な布で水分を取る。今回は家だから大丈夫だけど、今後屋外プレイで傷ができた時は泥が傷にめり込んでないか確認しなさい、入ってたらすぐに私に連絡するのよ」
「お、おう」
塚野は飴色の半透明なパッドをハサミで切り、傷口に貼り付ける。
そしてその上からフィルムのような物をパッドを覆うように貼り付けた。
その手つきは鮮やかで、しかしあかりへの掛け声すらない処置はどこか無機質で、まるでモノとして修理されているかのような錯覚をあかりに与える。
(あ、あ…………こんな時まで……私、奴隷でしかないんだ………………!)
「これでよし、と。お風呂もこのまま入れるからね。パッドから汁がフィルムまで漏れ出してきたら交換するからまた来なさい。背中だし、ご主人様が毎日チェックすることね。もし周りが赤くなったり痛みが出たり、傷が熱を持っていたらすぐに連絡する、いいわね?」
「はい」
「次は奏にやってもらうわよ、その次は幸尚君。多分一番深い傷も3回くらい交換すれば後は傷が塞がるまで貼りっぱなしでいけるわ」
「お、おう…………その、お代は……」
「説教で勘弁してあげるわよ、あかりちゃんの、ね」
「やっぱり……」
じゃああかりちゃん、カーペットの上で基本姿勢ね?と拘束を外しながらにっこりする塚野の目は全く笑っていなくて、あかりは引き攣り笑いを浮かべながらカーペットに向かうのだった。
…………
「若いからね、衝動的にやらかすのは理解できなくもないけど、もう少し自制という言葉を覚えなさい!あとあかりちゃん、奴隷だって健康に関わる発言を躊躇うのは論外よ。あんたのご主人様は、そんな発言も踏み躙るような鬼畜なの?」
「違います!奏様も、幸尚様も、ちゃんと私が言えば聞いてくれますっ!!」
「なら床が冷たかったのに黙っていて身体を冷やしたのはあかりちゃん、あんたの責任よ」
「うう…………」
この間の奏と幸尚と同じく、たっぷり30分かけて説教を食らった……しかも途中で姿勢を崩して「ご主人様の前で姿勢を崩さない!」とバラ鞭まで貰ってしまったあかりは、すっかり意気消沈していた。
だが、今日はこれで終わりではない。むしろこれからが本番だ。
オーナー、と声をかけた奏の瞳がいつになく真剣で、あかりはごくりと唾を飲む。
その横では幸尚が俯いてグッと拳を握りしめていた。
「あかりが約束破ったお仕置きするから、パドルのおすすめを教えて」
「……なるほどね。いいわよ、初心者向きのを見繕ってあげる」
(パドル…………そんな、まさか、スパンキング……!?)
あかりの表情がこわばる。
これまでお仕置きと言えば、ローターやバイブを仕込まれ拘束されて限界まで部屋で一人放置されるのが定番だった。
プレイでは痛い事はできれば避けたいと、特に幸尚の意向もあって3人で合意していたのに、なんで。
「……プレイとしてはやらねえよ」
厳しい顔の奏が、思考が顔に出ていたのだろうあかりを見下ろす。
「けど、今回のはダメだ。どんな理由だろうが、自分を傷つけるのは無しだ。だから、尚と話し合ってこのお仕置きにした。…………ちゃんと、反省しろよな」
「う、はい…………」
いつになく奏が怒っている。
あれは……そうだった、ピアスを開けるときに幸尚が言った言葉に対してだった。
多分、奏はあの時と同じくらい怒っている。
(ちょっと傷ができただけなんだけどな……)
これまでだって、散々無茶やって怪我もたくさんしてきた。
それこそ幸尚が絆創膏を常備するくらいには擦り傷も切り傷も日常茶飯事で。
だから、あかりにはまだ気づかない。
あかりを自由にするために選んだ主従関係で、あかりを傷つけるのだけは嫌だという二人の想いが、この間の調教であかりが熱を出した事で更に大きくなっていることに。
(俺たちが傷つけないって覚悟決めてるのに、当のあかりが自分を傷つけてどうすんだよ……)
だから教えるのだ、お仕置きを通して自分たちの気持ちを、覚悟を。
奏は塚野から受け取った革製のパドルを手に取り、何度か素振りをする。
…………重さはそれほどでもないはずなのに、なぜかずっしりと重く感じる。
いつかやってみたいと思っていたスパンキングだが、この後を思えばとても興奮なんてできない。
「やり方は知ってるの?」
「バイト中に何度も見てるから。お尻だけ、絶対に全力で叩かない、奴隷の様子を見ながら加減する。初めてだし30発だけのつもり」
「いいわ、私は見学させてもらう」
幸尚はあかりの上半身をソファにうつ伏せにし、膝を床につけ尻を高く上げさせる。
そうして後ろ手に手首を拘束し、ポールを腿枷に繋いで脚が閉じないように固定した。
奏の目の前に広がるのは、丸くて柔らかそうなあかりのお尻だ。
割れ目から太ももまで蜜が溢れていて、こんな状況でもピアスで植え付けられた発情からは逃れられないことを表している。
そこに奏がそっとパドルを当てれば、あかりの方がビクッと大きく震えた。
「…………セーフワードは?」
「っ……『絶交する』ですっ……」
「オッケー。どうしてもダメなら使えよ。で、打たれたら数を大きな声で数えろ。30回、ちゃんと数えたらおしまいな」
いつもより奏の声が硬い。
ああ、奏様も緊張しているんだと何故か妙な安心感を覚える。
「奏様、幸尚様…………お二人の物を傷つけたあかりに、お仕置きをして下さい……っ」
「うん、ちゃんとおねだりできてえらいね。…………しっかり反省してね」
ソファの向こうからあかりの頭を撫でる幸尚の手が震えていて。
それに気づくと同時に
パシッ!!
「ったああああああっ!!!」
右の尻たぶに飛んできた衝撃。
一呼吸遅れてやってきた熱さを伴う痛みに思わずあかりは叫ぶ。
「……あかり、数えろ」
「っ、はいっ、いち…………っ」
「ん、続けるからな」
(うそ、こんなに痛いの……!?)
叩かれたところが痛くて、まだジンジンしている。
(これが、30回…………!?お尻壊れちゃうよう……!)
逡巡している思考を断ち切るように、次は左の尻に。
そのまま立て続けに、右、左、右、と交互に振り下ろされる打撃に、もはや痛い以外の思考は許されない。
「にぃっ………………さんっ……!…………しいぃっ!!………………ひぐっ、んあああっ!!」
「……あかり」
「っ、ごめんなさいっ、ごおぉっ……!」
ズビッ、と鼻を啜りながら涙声で必死で数を叫ぶ。
少しずつ位置を変えながら叩かれているのはわかるが、既に赤くなっているところを立て続けに叩かれればもう、涙が止まらない。
「じゅう、ごっ…………ううっ、ひっく……いぎっ!!じゅうろくぅぅ…………!ひぐっ、ひぐっ…………」
身体が震える。
必死で身構えれば、パドルでサワサワと優しく叩かれたところをさすられ、ゾクゾクした感触にふっと力が抜けたところを狙って次の打撃が飛んでくる。
(痛い、痛い痛い痛いぃ…………ごめんなさい、ごめんなさいっ!!痛いよう、もう無理だよう……!!)
言葉として口から出るのは、叫び声とカウントの数字だけ。
30回頑張ったらちゃんとごめんなさいしよう、そう思いながら叫ぶあかりの背中に、時々ぽたりと何かが降ってくる。
(なん、だろ…………痛いぃ……ああ、数、カウントしなきゃ…………)
「にじゅ、はちぃ…………うぁぁ……ひぐっ、にじゅうきゅ、う…………さんっ、じゅう…………っ、うわあああ…………っごめんなさい、奏様、幸尚様っ、ごめんなさいぃ…………!!」
「はあっ、はぁっ…………結構きっついんだな、スパンキングするのも…………」
「そりやそうよ、振る側は結構神経使うんだから」
汗だくになり、テーブルのお茶を一気飲みした奏は、終わった後もずっと泣きながら「ごめんなさい」を繰り返すあかりの頭側に回り、声をかけた。
「…………あかり、本当にごめんなさいって思ってるか?」
「ひぐっ、ひぐっ、奏様……」
「……なんで、わざわざ痛いお仕置きをしたか、分かるか……?」
「………………わかん、ないです……」
だよなあ、と奏は嘆息しつつ「尚を見ろ」と短く命令した。
(尚くん?尚くんならずっと隣…………に………………!?)
痛む尻に顔を顰めながら体を捻ったあかりの動きが止まる。
(…………尚、くん…………ああ、さっき感じたぽたぽたは…………そんな……!!)
「ううっ、ひっく…………ぐすっ…………」
あかりの目に映るのは、拳が白くなるほど両手を握りしめ、大粒の涙を流して声を殺し泣きじゃくる幸尚の姿だった。
呆然とするあかりに、奏は息を切らしながら話しかける。
「……このお仕置きさ、尚が言い出したんだ。……尚が初めて自分一人で、あかりのために考えた調教だ」
「…………幸尚様が……」
幸尚は優しい。
今だに奏やあかりが傷つけば、傷ついた二人以上に泣いてしまうくらいには気の優しい奴だ。
今回だって屋上であかりの傷を見た時、幸尚の瞳には涙が浮かんでいた。
けれどいつもこの調子だから、奏もあかりも「また泣いてる」と幸尚の気持ちを軽く見てしまうことがある。
その結果時々幸尚が爆発して二人が平謝りする羽目になるのが、いつものパターンだ。
『多分さ、あかりちゃんは今回もこの程度のことで、って思ってるんだよ』
『それはそう。てか俺もいつものことだって思うし。尚は優しすぎるんだよ、正直ご主人様するのだってよくやってるなって思うくらい』
『酷いなぁ。でもさ、今回の事…………あかりちゃんが自分の欲望を優先して約束破って傷ついたのは、悲しくない?』
『悲しい。てか俺らが二度とあかりにしんどい思いさせないって決めて、オーナーにも頭下げて協力してもらってるってのに、何であかりがあかりを傷つけるんだよって腹が立った』
『うん、だから……あかりちゃんに痛いお仕置きをして……それであかりちゃんが傷ついたら僕がどれだけ悲しむかを、直接見せたらどうかなって……』
『!!でもそれは』
『うん、辛いよ、本当はやりたくない。でも……今、ちゃんとあかりちゃんに分かってもらってた方がいいと思うから、僕頑張るよ』
『尚…………』
「あかりが熱を出した時、決めたんだ。俺たちは二度とあかりにしんどい思いをさせないって。あんな辛そうなあかりを見るのは……俺も、やだ」
「奏様…………」
「あかり、奴隷としてのあかりは俺たちのものだ。俺たちが何より大切にしたいと、傷つけたくないと……お仕置きですら、痛い事はこんなにボロボロに泣いてしまうほどやりたくないと思ってる存在なんだよ。なのに…………お前が自分を傷つけてどうすんだよ……!」
「………………!!」
奏の叫びに、あかりはようやっと気づく。
約束を破って、身体に傷をつけてしまったことの重大さを。
大切な人が傷つくのは、悲しい。あかりだって、奏や幸尚が傷ついていたら悲しいのだ、二人だって同じに違いない。
そんな当たり前のことすら忘れて、己の欲望を優先してしまった結果、それをあかりに分からせるために、不必要な悲しみを幸尚に味わせてしまったのだ。
打たれたお尻よりずっと、胸が痛い。
そして目の前で大きな身体を丸めてポロポロと涙を流すご主人様の胸は、自分のせいで、もっともっと痛いー
「…………ごめんなさい……幸尚様…………ごめんなさい……うわああああん……!!」
「あかりちゃん……ひっく…………僕、もうやだよ……お仕置きの時だってもうやめてって、何回も言いたかった…………!ぐすっ……こんなの、あかりちゃんが痛くて泣き叫ぶのなんて……二度とやだあっ…………!」
「ごめんなさいっ!もう絶対、自分を傷つけないからっ!!ごめんなさい、ごめんなさいぃ…………!!」
わあわあと泣きじゃくる二人に、上手くいって一気に力が抜けたのか奏がその場にへたり込む。
そんな奏に「やるじゃん」と塚野は微笑んだ。
「いやあ、青春だねぇ…………」
「……茶化すなよ」
「茶化してないわよ」
本当に、茶化してないわよとどこか満足げに二人を見る奏を塚野は優しい視線で見つめる。
(お仕置きを単なる反省するための責めにせず、自分たちの気持ちを伝える手段として使ったのね。下手な大人よりよっぽどちゃんとSMを理解してるよ、あんた達は)
若いというのは、無知で無謀だけども常識に囚われない柔軟さを持ち合わせている。
この業界で年数を経て確かに知識も経験も蓄えてきたけれど、それが故に見えなくなるものもある事を、彼らに出会ってから塚野は痛感していた。
若くて、素直で、まだこの世界に染まりきってないからこそできる形なんてのもあるのだろう。
……そしてそこから学ぶことは、幾つになったってできるのだ。
「……ほんと、いい刺激になるわ」
「何か言った?」
「何にも。……さ、だいぶ落ち着いてきたみたいだしお茶のおかわりを用意するわ。あんたは二人を何とかしなさい」
「おう」
(きっと、これで大丈夫)
幸尚の、奏の気持ちはちゃんとあかりに届いた。
あかりのことだ、きっとこれからも一人でぶっ飛ぶ事はあるだろうが、それでも自分のことを大切に思う人がいることを忘れはしないだろう。
まだしゃくり上げている可愛い恋人と、そんな恋人の前で「ごめんなさい」と頭を下げ続ける健気な奴隷を宥めるべく、奏は二人に駆け寄るのだった。
幸いにもあかりの熱は金曜には下がり、週明けからは登校できると芽衣子……奏の母は言っていた。
元々あかりの体力は底なしだ。大人しくしていれば回復も早いのだろう。
「もう大丈夫だと思うけど、あかりちゃんだし……激しい運動は1週間は控えるように言っておかないと無茶しちゃうわねえ」
「それは俺と尚がちゃんと見張ってるから大丈夫だって!」
「幸尚君が、でしょ?奏はいっつもあかりちゃんと一緒になって暴走する側なんだから」
「ちょ、自分の息子だろ!?ちょっとは信用してくれよぉ……」
何だかなあと複雑な気分になりつつも、迎えにきた幸尚と共に電車に乗る。
母から言われた事を幸尚に愚痴れば「それはそう」とうんうん頷かれて、恋人なのに味方になってくれないのかよと拗ねて見せたら、慌ててキスして誤魔化してきた。
どうもこの可愛い恋人は、奏が快楽にとても弱いと思っているらしい。だが比べる相手がいないから、弱くないことにしておきたい。
「……あのさ、キスして誤魔化すの、ズルくね?」
「だって……僕じゃ奏には口では勝てないし…………奏、キスするとすぐに蕩けてふにゃふにゃになっちゃうから……」
「誰のせいでこんな敏感になったと思ってんだよ!」
軽口を叩くその表情も明るい。
ここにあかりがいないのはやっぱり何か物足りなさを感じさせるが、それも明日までだ。明後日にはまた、3人で学校に通える。
だから、その前に一度来ておきたかったのだ。
「いらっしゃい、待ってたわよ」
「お、今日も貸切?オーナー商売っ気無さすぎじゃね?」
「こ、こんにちは……」
「そんなに緊張しなくていいわよ、幸尚君。ほら、奥へいらっしゃい」
「は、はいっ……!」
今回の顛末と、今後の調教の進め方を相談するために。
…………
「…………一言言っていいかしら」
「おう」
「奴隷を寝込ませるなんて、ご主人様失格ね」
「は、反論できねぇ…………」
「すみません……」
「そのすみませんは、私じゃなくてあかりちゃんに言いなさい」
事情を話せば、塚野はそれはそれはバッサリと二人を断罪する。
厳しい言い方をするわよ、と前置きした塚野の説教は、ぐうの音も出ないものだった。
「3人で合意したからって何でもやっていいってもんじゃないのよ、プレイってのは!」
あかりがまだ若く体力もあったから良かったものの、腎盂炎は入院になることも多い病気だし、そもそも診察した芽衣子の言う通り、この歳で膀胱炎止まりにならなかったこと自体があかりに無理をさせていた証左だと、塚野は言い切る。
いくら調べて念入りに準備をしたとはいえ、まだ学生である。清潔の概念も甘ければ、女性の身体への理解も浅い。
そんな状態で、一つ間違えば身体に大きなダメージを残す危険がある調教をやるなど言語道断である。
「部屋は暖房をかけてたって言ってたわね?それ、あんた達が全裸でフローリングに座った状態で快適だったの?」
「…………そ、そこまではやってなかった……」
「全裸って思った以上に冷えるのよ、まして女性は男性より冷えやすい。こんな寒い季節にプレイをするならそこまで考慮しなさい!」
「はいぃ…………」
それからたっぷり30分、延々と説教をくらった二人はもはや満身創痍である。
並んで肩を落とし、しょんぼりとする二人に「でもまあ、よかったんじゃない?」と塚野は表情を和らげた。
「今のうちに、取り返しがつかないほどじゃないけど手痛い失敗ができた。それを相談して叱ってくれる私がいた。あんた達は幸運よ、早い段階で学べたんだから」
「オーナー…………」
さ、説教はここまでにして相談を聞きましょ、と塚野がお茶のおかわりを注いでくれる。
今日のお茶請けは最中だ。何でも田舎の親戚から大量に届いたらしい。だから今日は珍しくほうじ茶なのか。
暖房が効いていても空調の関係か時折ヒヤリとする事務室だから、その暖かさと甘さが身体に染みる。
…………残念ながら、次の瞬間部屋の雰囲気は絶対零度に凍え切ってしまうのだが。
「で?今日は何を相談しに来たの?」
「…………ええと、あかりに、貞操帯をつけようと思ってその相談に……え、あ、あわわ」
「ふぅん…………今の話を聞いていて良くその言葉が吐けたわねぇ……?」
「ひいぃぃっごめんなさいいっ!!」
再び青筋を立てる塚野に、奏と幸尚は慌てて事情を説明する。
もちろん奏とあかりの管理欲を満たし、あかりの心を自由にするために貞操帯をつける事は決めていたが、せめて大学に入ってからかなとぼんやり思っていたこと。
それを今装着すると決断した一番の理由は、『触れる状態なのに触れない』ストレスで無意識に自慰するほど追い詰められたあかりを物理的に触れない状況に置くことで、少しでも精神的に楽にできると踏んだからだと。
二人の必死の説明に、意外にも「発想は悪くないわ」と塚野も頷く。
ただ、と二人を見つめる大人の目は厳しい。
「……あんた達にはまだ早すぎるわよ、さっきの説教でわかってると思うけど」
「っ、それでも…………はいそうですかって引き下がれねえんだよ。今のあかりじゃ、多分ピアスを外しても無意識のオナニーは止められねえと思う。なら、やるしかねえじゃん!」
「そこは依存症として専門家に紹介すれば治療はできる、もちろん時間はかかるし、性癖は変わらないままだけど」
「んなことしたら親にバレるだろ?それだけはダメだ。やっとあかりが自分を演じずにいられる場所が作れそうなのに、バレたらあかりはまた誰かのために踊る人形に戻っちまう!!」
「一旦は仕方ないわね」
「……っ、俺はそれだけはダメだと思ってる」
「それは「塚野さん」」
しばらく二人の口論に気圧され静かにしていた幸尚が、口を開く。
塚野の説教で目を真っ赤にしたままの幸尚は、しかし白熱する二人を怯ませるほどの強い意志を瞳に湛えていた。
「塚野さん……僕ら、塚野さんが止めてもやります」
「幸尚君」
「それであかりちゃんが少しでも楽になるなら、僕はやりたい。それ以外に方法がないなら尚更です。だから」
幸尚が、膝に置いた両手をギュッと握る。
(僕は、二人のようにあかりちゃんの性癖を理解できない。本当の意味であかりちゃんの気持ちを分かってはあげられない)
その上、今の自分には何もかもが足りない。
経験も、知識も、スキルも…………
このまま闇雲にネットで調べながらやったところで、また同じことを繰り返してしまう気がする。
それなら、自分にできることは、一つしかない。
(僕にできることは、あかりちゃんを守る知識とスキルを、プロから教わってきちんと身につけることだ)
「僕らに、貞操帯の管理の仕方を教えてください」
「……私が教えるの?あんた達に?……一応これでも私、現役の女王様だって……プロだって分かってるわよね。それをタダで教わろうっての?」
「っ、今は……お小遣いの分しか払えないけど……大学に入ったらバイトして払いますから!お願いします…………っ!!」
幸尚はガバッと頭を下げる。
それに釣られて奏も「俺も、バーのバイト代から払うから……お願いします」と深々と頭を下げた。
そう来たか、と塚野は深々とため息をつく。
だがその内心は(やるじゃない)と呟いていた
(大人に頭を下げるなんて嫌な年頃だろうに…………この子達は本気であかりちゃんが大切で、本気で『ご主人様』になろうとしている)
自分にも若い頃はこんな情熱があったっけ、と昔を懐かしみながら「……冗談よ」と塚野は二人に顔を上げるよう促した。
「いいわ、いくつか条件を出すから、それを飲めるならタダで教えてあげる」
「「!!」」
「ただし私の指導は厳しいわよ?あと、元気になったら真っ先にあかりちゃんを連れてきなさい。あの子にも説教がいるから」
「っ、はい!!」
「ありがとうございます、塚野さん!」
じゃあ条件は話すとして、これを持って行きなさい、と塚野が店の奥から出してきたものに、二人は目を丸くする。
「表面に傷があるから返品しようとしていたのよ。ちょうどいいからこれ、持って行きなさい」と塚野は手にしたものをテーブルの上に置いて説明を始めた。
「あんた達のお試しで使うには、これで十分だから」
…………
「あかり、もう大丈夫なのか?」
「うん、ごめんね心配かけちゃって」
「僕たちこそごめん……絶対無理しないでね、まだ走り回っちゃだめだから、ね!」
あかりが熱を出してから1週間。
やっと元気になったあかりは、いつものように迎えにきた奏と幸尚と共に学校に向かっていた。
「奏ちゃんのお母さんに、疲れが溜まってたんだろうって言われちゃった。こないだの調教、やりすぎたのかな……」
「直接の原因は調教だろうけどな。その前からずっと触らせてもらえなくてストレス溜めてたんだろ、手が勝手に動くくらい追い詰められてたんだし」
「うっ…………私、このまま淫乱なままになっちゃうのかなぁ……奏ちゃん、尚くん、私がただの変態しか取り柄がなくなってもお家で飼ってくれる?」
「んんっ、いいなあ室内飼い……俺の理想だわ……」
「はいはい、それは働き出してから、ね!」
その事なんだけど、と幸尚は元気になってまた発情に苛まれているのだろう、歩きながらも無意識に右手を股間に持っていきそうになるあかりに「あかりちゃん、手を繋いでようか」と左手を差し出しながら話す。
「色々奏と話してさ、早くあかりちゃんに貞操帯をつけようって話になったんだ」
「てい、そうたい…………!」
(とうとう、来た)
その言葉だけで、全身にじわん、と何かが走る。
目の前の通い慣れた通学路が、一瞬時間を止めたようにすら感じた。
この関係が始まってから……いや、それよりずっと前から憧れていた。
あかりにとって貞操帯は『管理』の象徴でもあって、何度あれを着けられ欲情に苦しむ自分を妄想しながら火照る身体を慰めたか分からない。
みるみるうちに、あかりの瞳がどろりと欲情に溶ける。
いくら住宅街で人通りが少ないとはいえ、その顔はまずい。奏の下半身的にもまずい。
慌てて奏は「あかりストップ!」と声を上げた。
「あかり、妄想が先走ってエロい顔になってる」
「へっ……あはは、ごめんねぇ……もうその言葉だけで涎でそう」
「ブレねぇなあかりは。…………それで、詳しく説明したいからさ、今日あかりん家に行っていい?」
「うん、いいけど……うち、ずっと親いるよ?部屋に入れば話は聞こえないけどプレイは」
「いやいや病み上がりでプレイとかねーから!!」
本当に、本当にあかりはブレない。
いや、それだけ体調が回復した証左だろうが流石に今は勘弁してほしい。欲望に負けてプレイなんかした暁には、塚野からどんなお仕置きを食らうか……考えただけで恐ろしい。
「まだうちで集まるより、あかりちゃん家の方が落ち着くかなって。お母さんも安心だと思うよ」
「あ、そっか。…………うう、もう頭がえっちなことばっかりになっちゃうよう……」
「俺はそういうの、大好きだけどな!…………尚、顔が怖い」
「あかりちゃんを煽ってどうすんの!なんなら奏も、僕の大好きなトロトロの顔にしてあげてもいいんだよ?…………今ここで、ね?」
「すいませんでしたあああぁぁ!!」
1週間ぶりに戻ってきた3人の生活は全てがいつも通りで、でもその内側は全くいつも通りではなくて。
きっとこの関係がまたひとつ変わるであろう貞操帯を、着けると決めたこと。
いつかではなくなるべく早く、と一気に『その日』が現実に近づいてきたことへの期待と、不安と、そして責任感。
……それぞれの想いを抱きながら、1日は過ぎていくのだ。
…………
その日の夜。
あかりの家でご飯を食べた3人は、あかりの部屋でこたつに潜っていた。
さっきご飯を食べたばかりだと言うのに、幸尚はあかりの母に持たされたみかんを早速頬張っているし、奏は奏で「こたつにはアイスだろ」とこれまた持ち込んだアイスを齧ってるし、彼らの胃袋はブラックホールなんじゃないかとあかりは時々思う。
「はぁ……あったけぇ…………ホットカーペットとこたつ布団の相性やべぇ……」
「床が暖かいっていいよね。私、フローリングがあんなに冷たいだなんて思わなかったもん」
「あーやっぱり冷たかったんだな……冬のプレイはフローリング直座り厳禁だよな、もしくはガンガンに暖房入れるか」
そう言えばあかりの部屋に入るのは久しぶりだ。
この間はお見舞いでとてもじっくり見る暇はなかったが、考えてみたら中学に上がってからは大抵幸尚の家に集まっていたしな……と奏は何となく女の子らしくなった部屋を見回す。
……本棚の一角がずいぶん過激そうな薄い本で占拠されている光景は見なかった事にしよう。
下手に突っ込んだらあかりの腐女子魂に火がつくし、それに煽られた幸尚がまた奏の新しい扉をこじ開けかねない。
いや、いずれはこじ開けられるだろうけど、奏だってちょっとは抗いたいのだ。
こほん、と咳払いをして奏が幸尚と話し合った内容をあかりに説明する。
「貞操帯なんだけどさ。着ける前にルールを決めて、その上で本当にできるかお試しをしたいんだ」
「うん。私もその方がいいかな……早く着けて管理されたいけど、いきなりってのは」
「だな。これまでにも話したけどさ、装着する以上はあかりは俺らとの関係が続く限りクリトリスと膣には触らせないから……俺らが触る必要があるんだ」
「洗浄もあるし、発散させるのも僕たちがするからね。その……こないだはおっぱいだったけど…………あかりちゃんの大事な部分に、僕らが触れるのは」
「試してみる?」
「「今やろうとするな」」
早速ズボンに手をかけたあかりを、二人は必死で押しとどめる。
「触られるって聞いて嫌じゃねーかを聞きてえの!」と奏が突っ込めば「何とも思わないよ?」とこれまたあかりもあっさりしたものだ。
「だって、奏ちゃんも尚くんも、酷いことはしないでしょ?大事なところにいきなりおちんちん突っ込んだり」
「「するか!!」」
「まあ奏ちゃんは尚くんのオンナノコになってるから、そもそも出来るかどうか」
「いや流石にできるぞ!できる、はずだ!!……何だよその目、不安になるじゃんかぁ…………」
「ま、ほら、そもそもあかりちゃんが嫌でしょ?恋人でもない男と……そういうのは」
幸尚の問いかけに「んんん……」と頭を抱えたあかりは「正直に言っていい?」と少し頬を赤らめる。
「……気持ちいいって聞くから、気にはなる」
「誰から聞くんだそんな事」
「えークラスの女の子とか、経験済みの子何人かいるしさ。花恋ちゃんとかなっちゃんとか」
「…………なっちゃんて西岡!?嘘だろあんな真面目が服着て歩いてそうな奴が」
「凄いね……もう経験済みだなんて……」
しばらくその話で盛り上がる3人は、側から見れば年齢なりの恋バナで盛り上がる子供達にしか見えない。
そんな可愛らしい話が吹っ飛ぶくらいの経験を現在進行形でしているだなんて、本人たちがうっかり口を滑らせてもにわかには信じ難いだろう。
……そもそも、彼ら自身は「あかりを『普通』の呪縛から解き放って、ついでに奏とあかりの性癖を満たす」ためにこの関係を選んだだけで、精々親にバレたらこっぴどく叱られるだろうな位の感覚しかない。まったく若さとは恐ろしいものである。
あかり曰く、膣にも興味はあるらしい。ただ、見ることすら何となく怖くてできないような場所に触れるのは躊躇するようだ。
そこでアナルに手が伸びたのは、腐女子の好奇心が恐怖をあっさりぶち壊したせいだというから、薄い本の威力は凄まじい。
「ま、とにかく俺らはあかりにそう言うことをする気はねえよ。あかりが将来恋人ができた時にさ、好きでもない男に初めてを捧げてしまってたら悲しくなるかもしれねえじゃん?」
「それは約束する、僕らはあかりちゃんの膣には、指一本触れない」
「…………お尻は、触る?」
「そもそも既に開発済みのところは、むしろ触らねえと辛いのはあかりじゃね?」
「うっ、そうだよねぇ…………」
「あ、でもあかりちゃんが泣いておねだりするまでは触らないから、安心して!」
あかりが寝込んでいる間に、奏と幸尚は何度も話し合いを重ね、あかりに触れるためのルールを作っていた。
先週末に塚野にも相談し、それでいいと許可ももらっている。
それをあかりに話し、同意を取るのも今日の目的の一つだ。
奏は一つずつルールについて説明する。
あかりが自ら触ってくださいと懇願しない限り性感帯には一切触れないこと。
使うのは手と道具だけにすること。口や、まして性器を使うことは絶対にしないこと。
そしてあかりの性器に触れる時には、必ず医療用のディスポの手袋をつけること。
これは衛生面と共に、恋人の前で女性に性的な意図で触れるのはあかりでも躊躇う奏や幸尚の気持ちへの配慮だ。
ついでに幸尚の暴走も抑制できないかと目論んでいる。いや、暴走して犠牲になるのはあかりじゃなくて奏だが。
ちなみに手袋や今後利用する医療器具は『あんまり備品を拝借していたら芽衣子さんにバレるわよ』と塚野に釘を刺され、今後は塚野の店を通して格安で購入する形を取ることになった。
手袋は塚野曰く『ラテックスフリーだからアレルギーも出にくいし、これはパウダーフリーなのがいいのよ』らしい。奏や幸尚にはさっぱりわからないが、塚野のおすすめなら問題はないのだろう。
「生身で触れた方が、あかりは熱が伝わって気持ちがいいんだろうなとは思うんだけどさ、俺はどうしても幸尚への罪悪感が……」
「だから、ごめんね。素手では触れられない……って、あの何であかりちゃんは興奮してるのかな…………?」
「え……だってぇ…………そんな、素手で触らないだなんて…………人間じゃない扱いみたいで……はぁっ…………!」
「そんなスイッチが入るとは」
「俺思うけどさ、Mって割と何でもご褒美にして気持ちよくなれるの、強すぎね?」
「……塚野さんが言ってたよね、お仕置きまでご褒美になっちゃうから、年々お仕置きがグレートアップするわよって…………」
うっとりするあかりを前に「今からこれじゃ、こんなの見せたらどうなっちまうんだろうな」と二人は顔を見合わせて苦笑する。
「本格的な貞操帯は、俺らが冬休みにバイトしてお金を貯めてから注文するからな」
「採寸して注文して、2ヶ月くらいかかるんだって。だから装着は春休みかな……父さんたちもその頃にはまた海外行ってるし」
「で、これが俺たちの決めた貞操帯」
「…………!!」
奏があるサイトをスマホで開いて、あかりに見せる。
それは、あかりがネットで見てきた貞操帯とは一風異なったものだった。
腰のベルトは幅広の金属ではなくロープのような形状だし、何より股間を覆うシールドが透明なのだ。
ブラウザでサイトを翻訳して、説明を読み込む。
ロープのようなベルトはステンレスのワイヤーを医療用のシリコンで覆っているらしい。
このデザインなら、夏でもあまりラインを気にせずに身につけられそうだ。袴の下でももたつかなさそうだな、と想像する。
クロッチ部分はラビアをすっぽりと覆うドーム状で、2ミリのアクリル板で作られている。
排尿用の穴があるから、トイレに困ることもなさそうだ。この穴の開け方ならあまり飛び散らなさなそうに感じる。
「…………これ、すごいね…………」
「いいだろ?丸見えなのに触れないっての」
「う、うん…………うわあ、金属製じゃないんだ……」
感動するあかりに奏が「ま、事情もあってさ」とぽりぽり頭をかく。
「これさ、ドーム状になっているからあかりのピアスとも干渉しないんだよ。一般的なラビアを挟み込む形を考えていたんだけど、それだとピアスと干渉するからスリット部分を特注にしなきゃダメらしくて…………」
「今僕たちが購入できるのはこれかなって。大学入ってバイト代を貯めてから、もう一段本格的な貞操帯を作ろうって奏と決めたんだ。その頃にはあかりちゃんも貞操帯に慣れて、色々希望もでてくるだろうしね」
「ええええ、そんな、二人ともいくら何でもお金かけすぎなんじゃ……」
あわあわするあかりに「当然だろ」と二人はあっさりしたものだ。
「言っただろ、生涯管理するつもりだって」
「あかりちゃんは、僕たちが結婚してもずっと一緒に飼われるんでしょ?それなら、その時々に合わせて変えていくのは当たり前だと思うよ」
「…………!!」
ああ、彼らは本気であかりの夢物語を実現しようとしているのだと、その瞳を見たあかりの身体に震えが走る。
いくら幼馴染ったって、こんなとんでもない性癖を明かされたらドン引きされたって仕方ないし、そうでなくても半分冗談として流されたり、触れないようにされたっておかしくない事はあかりだって良く分かっている。
だって知られる事で3人の関係を変えてしまいたくなくて、彼らにすら話さないと決めずっと胸にしまい込んでいたのだから。
けれど、同じように性癖を拗らせた奏はともかく、全くこんな世界に縁がなかった幸尚までもが、ずっと3人の関係を続けられるよう考えてくれる。
それが、ただ、嬉しくて。
「…………ありがとう、奏ちゃん、尚くん」
思わずこぼれた感謝の言葉は、涙交じりだった。
…………
「で、注文前にまずはお試しやるのはこれな」
「……これは」
「塚野さんにもらったんだ。ジョークグッズ寄りの安物の貞操帯だけど最低限の目的……とりあえずあかりが学校で自慰するのを防ぐくらいは果たせるだろうって」
「えええ、貰ったって……お金は!?」
「その辺は後で話すよ」
目の前にコトリと置かれたのは、確かにジョークグッズだとわかる貞操帯だった。
形は先ほどの貞操帯に似ているが、クロッチ部分の覆いが細い。
「本物ほど何が何でも触らせないって感じじゃねーけどさ」と奏がそれを手に取る。
「これもウエスト部分はステンレスのワイヤーをシリコンで包んであるんだ。で、クロッチ部分はパンチング加工。よくある貞操帯だとここが二重構造でスリットにラビアを挟み込むんだけど、このスリットじゃ挟み込むと言うより単に押し付けるだけになるだろうって。外側はパンチング加工だから、おしっこはできる、らしいんだけどいけそうか?」
「うん、ちょっと飛び散りそうかな……でもうちの学校は洋式トイレだから、大丈夫だと思う」
「お尻はリングになってるから、大きい方もこのままトイレでできると思うよ」
前面にあるロックは南京錠だ。
塚野が「付属の南京錠はしょぼいから、せめてこれだけでも」と交換してくれたそれは堅牢性に優れたメーカーの製品で、鍵もシリンダー錠とかなりこだわりがあるらしい。
「とりあえずこれで、貞操帯がどんな物なのか、つけた状態で生活に問題が無いかを試したいんだ」
「で、僕らが鍵を管理するのは日中だけ。学校の帰りにはあかりちゃんに鍵を渡して、自分で外して洗ってもらう。登校する時にまた自分でつけて僕らに鍵を渡してね」
「えっと、それだとお風呂とか寝るときは」
「着けない。と言うかこれはあくまでジョークグッズで長期装用を念頭に置いてないから、学校にいる時だけにした方がいいってオーナーも言ってた」
「そっか、うん、そうだね」
夜は外せると言う奏の言葉にあかりはホッとした表情を浮かべた。
いずれは常時装着事になるとは言え、流石にまだ心の準備ができていないし、貞操帯をつけた生活は妄想でしか経験がないから、実際に近い体験が先にできるのはありがたい。
そしてそれは管理する奏や幸尚も同じだった。
塚野にもこの土日で最低限の知識やケアは叩き込まれたものの、まずは短時間の装用から慣らすように厳命されていた。
塚野曰く「あかりちゃんの負担が大きいのは当然として、キーホルダーになるあんた達だって生活がガラッと変わるのよ。ある意味貞操帯に縛られるのは同じなんだから、まずはその状態で学校生活が送れるかを確認しなさい」だそうだ。
「あ、あのっ、とりあえず着けてみていいか…………な?」
「あかり、顔が期待で大変な事になってる」
そわそわしながら貞操帯を手にするあかりに、その前に一つやることがあるんだと奏が手鏡を取り出した。
「……手鏡?」
「おう。……実はさ、貞操帯のことでオーナーに相談に行って、しこたま説教されてきた」
「へっ」
二人は先週、塚野に会った時のことを話す。
案の定「私が寝込んじゃったから……ごめんね」と謝るあかりに「いや今回はむしろ俺らのせいだから」と奏はあかりには非がない事を強調する。
「それで、貞操帯での管理を塚野さんに教わることになったんだ」
「だからあかりちゃんの調教にも今まで以上にアドバイスをしてもらうけど、最終的にやることは僕ら3人で決めるから、それは安心して」
「オーナーのアドバイスでも、俺らが無しと思ったことはしねえ。あくまでもあかりのご主人様は俺と尚だから」
「ただ僕たち以外の意見が入るのを、あかりちゃんが嫌でないことが条件…………全然嫌じゃなさそうだね……」
話を進めるうちにまた被虐のスイッチが入ってしまったあかりに「うん、まあ、嬉しいのは分かった」と二人は安堵する。
あかりからすれば、あのピアスを開けた日の調教は本当に衝撃的で……とても忘れられない甘美な時間だったから、全く反対する理由がないのだ。
「……はぁっ…………ちゃんと、最後は3人で決めるなら……あは、妄想が止まんない……!」
「うん、落ち着こうかあかりちゃん。……それでさ、教えてもらう代わりにいくつか条件を出されたんだ」
「条件……?はっ、まさか2人の身体を」
「…………うん、あかりちゃんはびいえる時空に毒されすぎだと思う」
「元気になった途端飛ばしてるなー、心配ねえよ、俺らの尻は無事だ」
「………………えっと、奏ちゃんのお尻はそもそも」
「あかりそれ以上はいけない、頼む突っ込まないでくれ俺が凹む」
「突っ込むのは後で僕がするから。……それで、その条件の一つをこれからやるよ」
幸尚が「はい」とあかりに手鏡を渡す。
「あかりちゃんに、自分の性器がどうなってるのか見せて説明しなさいって」
「…………へっ?」
…………
「あかり、寒いから脱ぐのは下だけでいい。んで、この鏡を左手に持って」
「う、うん。えっと、挨拶は」
「今日はプレイじゃねーからいい。体調だって本調子じゃねえし、じきに期末試験だろ?この際だから期末試験が終わるまではプレイはなしな」
「貞操帯をつけてない時の自慰や絶頂は自由にしていいよ、期末試験が終わるまではね」
「あは……その後は…………」
「ま、その時のお楽しみってことで」
幸尚の指示で手を石鹸で綺麗に洗いパンツを脱いだあかりを、奏はクッションに股を開かせて座らせる。
そして手鏡を持った手を股間に誘った。
鏡に映る自分の性器……思った以上にグロテスクに感じるその形に、あかりは「うわぁ……」と顔を顰める。
世の男の子はこれを見て興奮すると言うが、一体何がいいのかさっぱりわからない。まだおっぱいの方が良さを理解できそうだ、ふわふわしてるし。
「その様子じゃ、やっぱり見たこと無かったな?あかり、奴隷なんだから自分のマンコくらいちゃんと観察しておかねーと。ピアス開けた時にもオーナーに言われてただろ?」
「ご、ごめんなさい…………うわ…………こんな、なんだ……」
「これ、拡大鏡だから見やすいだろ。で、マンコの構造は知ってる?」
「っ、おちんちんは詳しくわかるけど…………こっちは……」
「…………さすが腐女子、そこはブレないんだよねえ」
じゃあ教えてやるよ、と奏が手袋を箱から取り出す。
それはあかりが想像していた手袋よりずっと薄く奏の手にピッタリフィットしていて、あれなら手袋越しでも二人の熱を感じられそうだと、つい胸を触られた……いや触らせた時のことを思い出して腰が揺れる。
そんなあかりに「期待しすぎな、今日は気持ちよくしねぇぞ?」と苦笑しつつ、奏は脱毛されてすべすべの割れ目を指でそっと開いた。
途端に「んっ」と目を閉じたあかりから悩ましい声が漏れる。
「目、つぶらずにちゃんと見ろよ。この外側の部分が大陰唇。で、ピアスで貫かれてビンビンに勃ってるここがクリトリス、なのは知ってるよな?」
「んひっ!!は、はい……こんなに、大きいの…………!?」
「あかりは上からしか見てねーからもっと小さく見えてんのか。ズル向けでデカいぜ、あかりのは。ま、俺らもいくつか画像で見ただけだけど、少なくともその中じゃデカい方だった」
「はぁっ…………おっきいんだ……」
「これだけ大きいと触りやすくて良さそうだよね、ピアスも映えるし」
ひとつひとつ説明しながら触れていくその手は、あかりを煽る言葉とは裏腹にとても優しく、そして緊張しているのが伝わってくる。
きっと今日のために知識も、触れ方も塚野から叩き込まれたのだろう。
触れるのが奏だけなのは、幸尚がこの間のおっぱい事件みたいに暴走するのを防ぐためかな、とすこしふわふわした頭であかりは考える。
「で、尿道口が……これ、かな?こないだおしっこが出てたのこの辺だったし」
「んひぃ…………」
「うんうんそれだね。ほら、よく見たらちんちんの先っぽと同じ形してる」
「あ、ほんとだ。……あかり、付いてきてるかー?」
「あわわ…………おしっこってそんなところから出てたの……!?もっと前だと思ってた……」
「感覚として分かんねえの?」
「だって、男の子のおちんちんみたいに出てるところは見えないし…………」
「そんなもんなんだ。それで……ここが膣の入り口」
「!!」
尿道口の少し下にぽっかりと空いた穴。
指が1本くらいは入りそうなその穴は、柔らかそうなひだが周りについている。
「周りにあるひだひだが処女膜なんだって。僕ずっと処女膜って膜みたいに覆ってると思ってた」
「私も思ってた……なんか、思ったよりぷにぷに…………でも、狭いね……」
「意外と伸びるらしいよ。塚野さんが前に見た感じだと指一本なら大丈夫、きちんと手を洗って中を触らせてって言われてるんだけど、出来そう?」
「えええっ……」
「本当は命令してやらせなさいって言われたんだけどさ。あかりの大切なところだから……あかりが決めていい。俺らは見てるけどな」
「う、うん……」
未知の行為に怖さはある。
けれど塚野が大丈夫と言っていたなら、きっと酷いことにはならない。
何より奏と幸尚がちゃんと『3人で決める』約束を守ってくれているのだと思うと、頑張れる気がする。
「ゆ、指入れてみる……」
「うん、焦らずにね」
いつの間にか用意されていた潤滑剤は、あかりがベッドサイドの引き出しにしまい忘れていたやつだ。
よく見てるな、と思いつつあかりはそのとろりとした液体を緊張で震える人差し指に纏う。
幸尚が支える手鏡を見ながら、その小さな穴に恐々と指を差し込んだ。
くちゅ……と遠くで粘ついた音がする。
心臓がうるさくて、視界が狭くなる。
今、私の中に、指が…………
「あかり、あかりっ!大丈夫か!?」
「あかりちゃん落ち着いて、息しよう、ね?」
「っ、ぷはっ……!!はぁっはぁっ…………はぁっ……」
どうやら緊張から息を止めてしまっていたらしい。
ようやく呼吸を落ち着けたあかりは、そっと差し込んだ人差し指を動かして「…………変な感じ……」とポツリと漏らした。
「熱くて、ぬるぬるしてて……ぷにょぷにょしてる……」
「お尻ともまた違うのかな……痛くは無い?」
「うん、入っているのは分かるけど、痛くないよ……お尻よりずっと……狭くてふわふわしてる、かな」
「そうなんだ、女の子ってどこも柔らかいんだね……えっと、お腹側の壁にザラザラしたとこらが無い?」
「ザラザラ…………?」
「もっと奥かな」「むしろもっと手前、って塚野さんは言ってた」と話しながら弄っていると、確かにザラザラしたところがある。
「あった」
「うん、そこをしばらくさすってみて」
「痛かったり嫌だったらやめていいからな」
「うん…………ん…………?んっ……」
しばらく、あかりは言われた通りにザラザラしたところをさする。
最初は何も感じなかったが、じわじわとクリトリスをいじっている時のような、けれどそれよりはずっと弱い気持ちよさを感じ始めた。
「ん…………気持ちいい、かな……?んっ…………んふ……」
あかりは気づいていない。
緊張していた手の震えはすでに止まり、その指の動きもだんだん大胆に……少しずつ、だが確実に快楽を追い始めていることを。
(上手く行ったね)
(ああ、そろそろいいかな)
二人はそっと目配せする。
種は蒔いた。あかりならきっと、上手く育てるだろう。
「んっ…………はっ……あ、いぃ…………」
「おーい、あかりそのくらいにしておこう」
「初めてだし、無理しちゃダメだよ」
「え…………はぁっ、う、うんっ…………んうぅ……」
ずるり、と抜いた指はしわしわになっていて、半透明の愛液がベッタリとまとわりついていた。
それをみた途端、あかりが「あわわわ……」と真っ赤になる。
「ほら、ティッシュ」
「あ、ありがと」
指を丁寧に拭って「こんなもんかな説明は」と手鏡を片付ける奏をどこか物欲しそうな顔で眺めながら(……もうちょっと、触りたい)と思ってしまったことに…………あかりだけが気づいていなかった。
…………
何となくモヤモヤしたままの身体を感じながらも、あかりは奏達の指示に従って貞操帯(仮)を装着していた。
「ひゃっ、これ……お股冷たいねぇ…………」
「着けてれば体温で暖かくなるかな。冬は冷たそうだよね」
「でも下手に温めたら火傷しそうだしな」
腰のベルトを回し、後ろから股間を覆う金具付きのベルトを前に持ってきて、そこに左右の腰ベルトを合わせ、南京錠でロックする。
「んー……お股は大丈夫だけど、ウエストが……」
「ちょっとキツイな、確かにずっとつけっぱなしは難しいわこれ」
「緩いよりはいいのかな、ずれないし」
体を曲げたり伸ばしたり捻ったりしてみたが、思ったよりもしっかりと身体に密着しているようだ。
試しに隙間から指が入らないか試してみたが、意外と届きそうでクリトリスには届かない。
何が何でも通さない感じではないが、少なくとも気軽に自慰ができないのは間違いない。
(ああ…………ちゃんと、私のここ、閉じ込められてる…………!)
ぞくり、と不安なのか歓喜なのかわからない何かが、全身を駆け抜けていく。
私の権利を奪われる……まだこんなに頼りない檻ですら、これほどのものをもたらすのだ。あの奏が見せてくれた頑強な檻の中に閉じ込められたら、自分は一体どうなってしまうんだろう…………!
妄想が、興奮が、止まらない。
触ってもいないのに勝手に愛液が溢れてくる。
だから、奏が「大丈夫そうだな、じゃあ脱いで」と指示した時につい「ええ……」と残念そうな声が漏れたのも、仕方がないことで。
「…………あかりちゃん、めちゃくちゃがっかりした顔してる……」
「う、だって…………」
「一人で脱げるかも確認しねえとな?それに……明日からは毎日パンツの下にこれをつけて学校に行くんだぞ?」
「………………あ…………」
「今からちょっと脱いだって、すぐ寝るだけだろ?で、起きたらあかりのマンコはもう、この中に押し込められるだけだ。どんなに触りたくても触れない…………」
「あ……ぁ…………あは…………っ……」
「な?楽しみだろう?じゃあお楽しみは明日に取っておいて……脱げ」
「は…………はひぃ………………」
いつもより低い、掠れた声で命令されれば、もう身体は勝手にご主人様の言うことを聞いてしまう。
どこか名残惜しさを感じながらも、あかりは自らをこれから守り、そして悩ませるであろう檻をうっとりとした顔で脱ぎ捨てるのだった。
「じゃ、また明日な。…………ちゃんと着けたところ、写真で送れよ」
「うん。はぁ…………楽しみぃ……」
「あかりちゃん、今日寝られる……?辛かったらその、自分で慰めて、ね?」
「はぁい…………おやすみなさい、幸尚様、奏様ぁ……」
玄関を出た二人は「……あれ、まずくないか?」とヒソヒソと話す。
「プレイ中じゃ無いのに呼び方が……完全にぶっ飛んでる」
「お試しなのに貞操帯の威力ヤバすぎない!?明日のあかりちゃんが怖いんだけど……」
「そりゃもう、年単位で拗らせてた願望がお試しとは言え叶っちゃったからなぁ…………大丈夫、って言いたいけど…………あかりだから」
二人は外から、灯りが煌々と点いているあかりの部屋を眺める。
今頃部屋に戻って、風呂に入る準備でもしているだろうか。
…………どうも胸騒ぎがする。
「……まだ病み上がりだし、きっと…………無茶はしないって、信じよう、うん……」
「もう全然説得力ないよそれ…………あとさ奏、そのガッチガチのちんちんはどうすんの……?」
「尚だってデカくしてるじゃねーか。…………時間遅いし、ちょっとだけだぞ?」
「っ、うん!ありがとう!優しく抱くから」
「いや待てちょっとって言っただろうが!そこは抜くだけで終われよ、誰がセックスするって、んっ、んむうぅっ!!」
「はぁ…………あかりちゃんにゾクゾクしてる奏も可愛くて……堪らなかったんだよね……」
幸尚のいつも通り激しくも優しい口付けで、一抹の不安もこれからの期待に吹き飛んでしまう。
悪態をつきつつも、そんな強引なところも良いんだよなと心の中でニマニマしながら、奏は幸尚と仲良く手を繋いで家に向かうのだった。
…………
伊達に赤ん坊の頃から幼馴染をやってない。
あかりのやらかしの予感が外れたことなんて今まで一度もなかったよな、と奏と幸尚は早朝にスタンプと共にグループチャットに送られてきた写真を見て、案の定遠い目をする羽目になるのだ。
「おはよう、奏ちゃん、尚くん…………いてててて……」
「お前なぁ……おはようじゃねえよ。だから朝起きてから着けろって言っただろうが、このあんぽんたんが!」
「今日学校終わったらすぐ着替えて塚野さんとこ行くからね!!ああもう、また説教確定だよこれ」
「うう……ごめんなさいぃ…………痛いよう……」
「てかあかり、流石に外さないとまずくね?」
「それはやだ」
「何でそうなるんだよ!」
あの後風呂上がりのあかりは「ちょっとだけ……ほら、明日の練習、ね!」と言い訳をしつつ貞操帯(仮)を装着する。
南京錠をカチッと差し込んだその音に「ああ、閉じ込められた……!」と感動だか悦楽だかわからないものが全身を貫いて思わずその場にしばらくへたり込んでいた。
「あ、ああ…………触れない……!触りたいのに、本当に触れない……うわぁ、これっ………………触れないのに、興奮しちゃう……」
止まらない。
一度心の奥底から溢れ出した仄暗い欲望を満たす悦楽は、じわじわと理性を侵食していく。
ベッドにそっと腰掛け、何度も、何度も股間に手をやって、金属の感触に阻まれたことに全身を悦びで震わせる。
気がつけば時計はてっぺんを超えていて……慌てて横になったものの、その檻を確かめる行為は止められず…………そのまま寝落ちして、気がついたら朝だった。
身体を起こそうとして腰にピリッと走る痛みに、ようやくあかりは二人との約束を破って装着したまま寝てしまったことに気づくのだ。
やらかした、とは思うものの、お試しの貞操帯(仮)とは言え念願かなった興奮からだし許してもらえないかな、とグループチャットに送った写真への二人のリプは、ほぼ同時に返ってきた。
『ご主人様の命令を破ったんだから、お仕置き確定な』
『あかりちゃん、これはお仕置きしないとね』
…………ああ、ブレないなと変に感心しつつ、ほんの少しだけ反省するあかりだった。
とりあえず見せろ、と学校に着くなり3人は人気のない屋上の隅であかりのスカートの下を確認する。
そこには、腰のベルトに沿って赤い傷が何箇所もできていた。
水疱が破れたような場所もあって、これは痛そう、と思わず幸尚が顔を顰める。
「……あのさ、これって貞操帯を外しても、スカートに擦れて痛いんじゃ」
「う……実は、そうなんだよねぇ…………絆創膏じゃ追いつかなくて」
「あ、僕キズパワーパッド持ってる!これでとりあえずいけないかな」
一度貞操帯を外し、傷の部分に手当たり次第にキズパワーパッドを貼り付ける。
そうして手早く貞操帯を着け直し、ロックして鍵を奏に手渡した。
少し身体を動かしてみたが、これなら痛みもほとんどない。
「はぁ、ありがとう尚くん助かったよおぉ」
「そういや、尚っていっつも絆創膏持ち歩いているよな」
「うん、だって奏もあかりちゃんもすぐ無茶して怪我するから……もう癖で」
「俺らのせいだった」
それで、と奏がじろりとあかりを睨む。
その横では幸尚もむすっとした顔で腕を組んでいる。
(…………あ、ご主人様の、顔……!)
今はプレイ中ではない。
分かっているのに辺りに人がいることすら確認せず、あかりは自然とコンクリートの床に土下座して頭を硬い床に擦り付けていた。
「あ、あ、奏様、幸尚様…………約束を破ってごめんなさい……!」
「……確かに命令はしなかったけど、貞操帯はプレイの一環だよね?」
「嬉しかったのは分かるけどさ。あかりは俺たちの奴隷、つまり俺たちのモノだよな?奴隷が勝手にご主人様のモノに傷をつけてどうすんだよ」
「うぅ…………ごめんなさい…………ご主人様の物を傷つけたあかりに、どうかお仕置きして下さいぃ…………!」
「当然だな。俺、今日部活休むから放課後オーナーの所でやろう」
「だね。あかりちゃん、そろそろ授業始まるから一旦おしまい」
「っ、はい」
慌ててスカートを戻し、二人とともに教室に向かう。
初めての貞操帯に舞い上がっているあかりは、奏と幸尚か深刻な面持ちで互いに目配せしているのに気づかなかった。
…………
「全くあんた達は揃いも揃って…………あかりちゃん、奴隷失格よそれは」
「はい……ごめんなさい…………」
「そのごめんなさいは、奏と幸尚君に言いなさいな。ほんと、こんなところまで似てるのよねえあんた達」
店に着くなり塚野は事務所側に3人を通す。
「今のお客様が帰ったら対応するから待ってなさい」と言われた奏と幸尚は、塚野に指示された通り、事務所にあるシャワーブースに全裸で首輪と口枷を着けたあかりの手を天井から伸びる鎖で拘束した後、ソファでお茶をいただいていた。
「店に来た時は、あかりは奴隷として扱う事、とは言われてたけど……まさかいきなりこの扱いだなんて……」
「でもあのシャワーブース、浴室暖房が効いてるからここで基本姿勢で待たされるよりは優しいんじゃね?」
「そ、そういうものなの……?まあ、あかりちゃんがいいなら僕はいいけど……」
締め切られたシャワーブースからは、時折あかりの切ないくぐもった声が聞こえてくる。
鎖に繋いでいる間「こんな所に拘束監禁…………あは……涎でちゃうぅ……」と嬉しそうに呟いていた位だから、あかりも満更ではなさそうだったからいいのか、と幸尚は無理やり自分を納得させる。
そっと隣を見れば、茶菓子を食べる奏の股間は既に盛り上がり、興奮からか瞳も潤んでいて。
(ああ、もう今日も奏が可愛い……!)
週末には両親が帰ってくる。
そうしたら、春までは今までのようなやりたい放題とはいかなくなるだろう。
それが分かっているから、今のうちに少しでもたくさん奏と愛し合いたくて……奏の何気ない仕草も、声も、今の幸尚には全てが自分を煽る要素にしかならない。
「はぁ…………奏……」
「ここで盛るなよ、この絶倫ゴリラ」
「だってぇ…………はぁ、奏の雄っぱい……」
「お前は巨乳派だろうが、俺の胸なんて揉みしろほぼねーのに」
「奏は特別だもん…………」
「…………ったく……」
背中から手を回し、そっと奏の胸を揉む。
細身とは言えそれなりに筋肉のついた胸は、確かに女性のマシュマロのような柔らかさとは違うが揉むと心地よくて、奏の胸だと思うともう股間が爆発しそうだ。
「……ね、奏…………乳首も触りたい……」
「それは家に帰ってからゆっくり堪能しなさい、健全な青少年ねえまったく」
「うおわっ!?」
「っ、塚野さんっ!!」
客が帰ったのだろう塚野が事務所のドアを開ける。
慌てて飛び退いた幸尚の顔は真っ赤で、その初々しさに塚野も思わずニヤけてしまう。
だがすぐに顔を引き締め「ほら、あかりちゃんのチェックをするわよ」と処置用のワゴンを押しつつ二人をシャワーブースの前に誘った。
奏が口枷と貞操帯を外す。
一日中閉じ込められていた蜜壺からは溢れるように白濁した愛液が滴っていた。
途端にメスの匂いが部屋を満たす。
思わずごくりと喉を鳴らす二人を「あんた達が暴走しちゃダメよ、暴走があかりちゃんに向かないのは知ってるけど、慣れなさい」と塚野はすかさず咎めた。
そうして、傷を覆う絆創膏を剥がしていく。
顕になった腰の傷に「あーあーもう、立派なデクになってる」と塚野は大きくため息をついた。
「……デク?」
「褥瘡……じゃ分からないか、床ずれって言えば分かる?」
「…………分からないです…………」
「そうよねえ…………ざっくりいうと、皮膚ってのはずっと圧迫されたままだとそれだけで傷になるのよ。それが床ずれ。健康な人でも同じ姿勢で布団に寝転がったままにすれば、布団との圧迫で割と簡単にできちゃうわよ」
「擦り傷とは違うもんなの?」
「擦り傷……擦過傷ってのは文字のまんま、擦れてできた傷だからまた別物よ」
話しながら塚野は手袋を履き、傷を観察する。
「これは擦り傷じゃなくて、一晩中貞操帯のワイヤーが皮膚にめりこんで圧迫した傷なの。傷が背中側、それも骨の触れるところばかりでしょ?恐らく仰向けで寝て、普通は寝返りを打つことで圧迫を解除するんだけど……慣れない物をつけて緊張していたんでしょうね、寝返りもほとんど打たなかったんじゃないかしら」
「は、はい…………朝起きたら、寝た時のままの姿勢で……身体中痛くて……」
「そりゃそうよ。第一これは常時装用には向いていないってご主人様からも言われたでしょ?ちゃんと約束を守らなかった罰だと思いなさい」
「うう…………ごめんなさい…………」
処置の仕方を教えるから、ちゃんと見てなさいと塚野はシャワーを捻って徐に暖かいお湯を傷口にかける。
途端に染みたのだろう「ひゃあああっ!!」と叫ぶあかりに「……喧しいわね」と塚野はピシャリと一喝する。
その声色が胸に刺さって、あかりは思わず声を殺した。
「あんた達、この絆創膏貼る前に洗浄した?……その顔だとしてないわね。いい?どんな傷でも洗浄は必須よ!特にこのタイプの絆創膏はね、洗浄せずに貼ったら傷にばい菌を閉じ込めるようなものだから」
「え、塚野さんまさかそれで洗うんですか!?」
ボディソープを泡立てる塚野を見て、奏はギョッとした顔をし、幸尚は痛みを想像したのだろう半泣きになる。
「傷の周りだけよ」と塚野は指の腹でくるくると傷の周りを優しく泡で洗っていく。
とは言え傷にも泡がついて染みるのだろう、あかりは涙目になって「うぅ……」と呻いているが、塚野は声掛けはおろかあかりの顔を一瞥すらしない。
「しっかり洗い流して、押さえつけるように清潔な布で水分を取る。今回は家だから大丈夫だけど、今後屋外プレイで傷ができた時は泥が傷にめり込んでないか確認しなさい、入ってたらすぐに私に連絡するのよ」
「お、おう」
塚野は飴色の半透明なパッドをハサミで切り、傷口に貼り付ける。
そしてその上からフィルムのような物をパッドを覆うように貼り付けた。
その手つきは鮮やかで、しかしあかりへの掛け声すらない処置はどこか無機質で、まるでモノとして修理されているかのような錯覚をあかりに与える。
(あ、あ…………こんな時まで……私、奴隷でしかないんだ………………!)
「これでよし、と。お風呂もこのまま入れるからね。パッドから汁がフィルムまで漏れ出してきたら交換するからまた来なさい。背中だし、ご主人様が毎日チェックすることね。もし周りが赤くなったり痛みが出たり、傷が熱を持っていたらすぐに連絡する、いいわね?」
「はい」
「次は奏にやってもらうわよ、その次は幸尚君。多分一番深い傷も3回くらい交換すれば後は傷が塞がるまで貼りっぱなしでいけるわ」
「お、おう…………その、お代は……」
「説教で勘弁してあげるわよ、あかりちゃんの、ね」
「やっぱり……」
じゃああかりちゃん、カーペットの上で基本姿勢ね?と拘束を外しながらにっこりする塚野の目は全く笑っていなくて、あかりは引き攣り笑いを浮かべながらカーペットに向かうのだった。
…………
「若いからね、衝動的にやらかすのは理解できなくもないけど、もう少し自制という言葉を覚えなさい!あとあかりちゃん、奴隷だって健康に関わる発言を躊躇うのは論外よ。あんたのご主人様は、そんな発言も踏み躙るような鬼畜なの?」
「違います!奏様も、幸尚様も、ちゃんと私が言えば聞いてくれますっ!!」
「なら床が冷たかったのに黙っていて身体を冷やしたのはあかりちゃん、あんたの責任よ」
「うう…………」
この間の奏と幸尚と同じく、たっぷり30分かけて説教を食らった……しかも途中で姿勢を崩して「ご主人様の前で姿勢を崩さない!」とバラ鞭まで貰ってしまったあかりは、すっかり意気消沈していた。
だが、今日はこれで終わりではない。むしろこれからが本番だ。
オーナー、と声をかけた奏の瞳がいつになく真剣で、あかりはごくりと唾を飲む。
その横では幸尚が俯いてグッと拳を握りしめていた。
「あかりが約束破ったお仕置きするから、パドルのおすすめを教えて」
「……なるほどね。いいわよ、初心者向きのを見繕ってあげる」
(パドル…………そんな、まさか、スパンキング……!?)
あかりの表情がこわばる。
これまでお仕置きと言えば、ローターやバイブを仕込まれ拘束されて限界まで部屋で一人放置されるのが定番だった。
プレイでは痛い事はできれば避けたいと、特に幸尚の意向もあって3人で合意していたのに、なんで。
「……プレイとしてはやらねえよ」
厳しい顔の奏が、思考が顔に出ていたのだろうあかりを見下ろす。
「けど、今回のはダメだ。どんな理由だろうが、自分を傷つけるのは無しだ。だから、尚と話し合ってこのお仕置きにした。…………ちゃんと、反省しろよな」
「う、はい…………」
いつになく奏が怒っている。
あれは……そうだった、ピアスを開けるときに幸尚が言った言葉に対してだった。
多分、奏はあの時と同じくらい怒っている。
(ちょっと傷ができただけなんだけどな……)
これまでだって、散々無茶やって怪我もたくさんしてきた。
それこそ幸尚が絆創膏を常備するくらいには擦り傷も切り傷も日常茶飯事で。
だから、あかりにはまだ気づかない。
あかりを自由にするために選んだ主従関係で、あかりを傷つけるのだけは嫌だという二人の想いが、この間の調教であかりが熱を出した事で更に大きくなっていることに。
(俺たちが傷つけないって覚悟決めてるのに、当のあかりが自分を傷つけてどうすんだよ……)
だから教えるのだ、お仕置きを通して自分たちの気持ちを、覚悟を。
奏は塚野から受け取った革製のパドルを手に取り、何度か素振りをする。
…………重さはそれほどでもないはずなのに、なぜかずっしりと重く感じる。
いつかやってみたいと思っていたスパンキングだが、この後を思えばとても興奮なんてできない。
「やり方は知ってるの?」
「バイト中に何度も見てるから。お尻だけ、絶対に全力で叩かない、奴隷の様子を見ながら加減する。初めてだし30発だけのつもり」
「いいわ、私は見学させてもらう」
幸尚はあかりの上半身をソファにうつ伏せにし、膝を床につけ尻を高く上げさせる。
そうして後ろ手に手首を拘束し、ポールを腿枷に繋いで脚が閉じないように固定した。
奏の目の前に広がるのは、丸くて柔らかそうなあかりのお尻だ。
割れ目から太ももまで蜜が溢れていて、こんな状況でもピアスで植え付けられた発情からは逃れられないことを表している。
そこに奏がそっとパドルを当てれば、あかりの方がビクッと大きく震えた。
「…………セーフワードは?」
「っ……『絶交する』ですっ……」
「オッケー。どうしてもダメなら使えよ。で、打たれたら数を大きな声で数えろ。30回、ちゃんと数えたらおしまいな」
いつもより奏の声が硬い。
ああ、奏様も緊張しているんだと何故か妙な安心感を覚える。
「奏様、幸尚様…………お二人の物を傷つけたあかりに、お仕置きをして下さい……っ」
「うん、ちゃんとおねだりできてえらいね。…………しっかり反省してね」
ソファの向こうからあかりの頭を撫でる幸尚の手が震えていて。
それに気づくと同時に
パシッ!!
「ったああああああっ!!!」
右の尻たぶに飛んできた衝撃。
一呼吸遅れてやってきた熱さを伴う痛みに思わずあかりは叫ぶ。
「……あかり、数えろ」
「っ、はいっ、いち…………っ」
「ん、続けるからな」
(うそ、こんなに痛いの……!?)
叩かれたところが痛くて、まだジンジンしている。
(これが、30回…………!?お尻壊れちゃうよう……!)
逡巡している思考を断ち切るように、次は左の尻に。
そのまま立て続けに、右、左、右、と交互に振り下ろされる打撃に、もはや痛い以外の思考は許されない。
「にぃっ………………さんっ……!…………しいぃっ!!………………ひぐっ、んあああっ!!」
「……あかり」
「っ、ごめんなさいっ、ごおぉっ……!」
ズビッ、と鼻を啜りながら涙声で必死で数を叫ぶ。
少しずつ位置を変えながら叩かれているのはわかるが、既に赤くなっているところを立て続けに叩かれればもう、涙が止まらない。
「じゅう、ごっ…………ううっ、ひっく……いぎっ!!じゅうろくぅぅ…………!ひぐっ、ひぐっ…………」
身体が震える。
必死で身構えれば、パドルでサワサワと優しく叩かれたところをさすられ、ゾクゾクした感触にふっと力が抜けたところを狙って次の打撃が飛んでくる。
(痛い、痛い痛い痛いぃ…………ごめんなさい、ごめんなさいっ!!痛いよう、もう無理だよう……!!)
言葉として口から出るのは、叫び声とカウントの数字だけ。
30回頑張ったらちゃんとごめんなさいしよう、そう思いながら叫ぶあかりの背中に、時々ぽたりと何かが降ってくる。
(なん、だろ…………痛いぃ……ああ、数、カウントしなきゃ…………)
「にじゅ、はちぃ…………うぁぁ……ひぐっ、にじゅうきゅ、う…………さんっ、じゅう…………っ、うわあああ…………っごめんなさい、奏様、幸尚様っ、ごめんなさいぃ…………!!」
「はあっ、はぁっ…………結構きっついんだな、スパンキングするのも…………」
「そりやそうよ、振る側は結構神経使うんだから」
汗だくになり、テーブルのお茶を一気飲みした奏は、終わった後もずっと泣きながら「ごめんなさい」を繰り返すあかりの頭側に回り、声をかけた。
「…………あかり、本当にごめんなさいって思ってるか?」
「ひぐっ、ひぐっ、奏様……」
「……なんで、わざわざ痛いお仕置きをしたか、分かるか……?」
「………………わかん、ないです……」
だよなあ、と奏は嘆息しつつ「尚を見ろ」と短く命令した。
(尚くん?尚くんならずっと隣…………に………………!?)
痛む尻に顔を顰めながら体を捻ったあかりの動きが止まる。
(…………尚、くん…………ああ、さっき感じたぽたぽたは…………そんな……!!)
「ううっ、ひっく…………ぐすっ…………」
あかりの目に映るのは、拳が白くなるほど両手を握りしめ、大粒の涙を流して声を殺し泣きじゃくる幸尚の姿だった。
呆然とするあかりに、奏は息を切らしながら話しかける。
「……このお仕置きさ、尚が言い出したんだ。……尚が初めて自分一人で、あかりのために考えた調教だ」
「…………幸尚様が……」
幸尚は優しい。
今だに奏やあかりが傷つけば、傷ついた二人以上に泣いてしまうくらいには気の優しい奴だ。
今回だって屋上であかりの傷を見た時、幸尚の瞳には涙が浮かんでいた。
けれどいつもこの調子だから、奏もあかりも「また泣いてる」と幸尚の気持ちを軽く見てしまうことがある。
その結果時々幸尚が爆発して二人が平謝りする羽目になるのが、いつものパターンだ。
『多分さ、あかりちゃんは今回もこの程度のことで、って思ってるんだよ』
『それはそう。てか俺もいつものことだって思うし。尚は優しすぎるんだよ、正直ご主人様するのだってよくやってるなって思うくらい』
『酷いなぁ。でもさ、今回の事…………あかりちゃんが自分の欲望を優先して約束破って傷ついたのは、悲しくない?』
『悲しい。てか俺らが二度とあかりにしんどい思いさせないって決めて、オーナーにも頭下げて協力してもらってるってのに、何であかりがあかりを傷つけるんだよって腹が立った』
『うん、だから……あかりちゃんに痛いお仕置きをして……それであかりちゃんが傷ついたら僕がどれだけ悲しむかを、直接見せたらどうかなって……』
『!!でもそれは』
『うん、辛いよ、本当はやりたくない。でも……今、ちゃんとあかりちゃんに分かってもらってた方がいいと思うから、僕頑張るよ』
『尚…………』
「あかりが熱を出した時、決めたんだ。俺たちは二度とあかりにしんどい思いをさせないって。あんな辛そうなあかりを見るのは……俺も、やだ」
「奏様…………」
「あかり、奴隷としてのあかりは俺たちのものだ。俺たちが何より大切にしたいと、傷つけたくないと……お仕置きですら、痛い事はこんなにボロボロに泣いてしまうほどやりたくないと思ってる存在なんだよ。なのに…………お前が自分を傷つけてどうすんだよ……!」
「………………!!」
奏の叫びに、あかりはようやっと気づく。
約束を破って、身体に傷をつけてしまったことの重大さを。
大切な人が傷つくのは、悲しい。あかりだって、奏や幸尚が傷ついていたら悲しいのだ、二人だって同じに違いない。
そんな当たり前のことすら忘れて、己の欲望を優先してしまった結果、それをあかりに分からせるために、不必要な悲しみを幸尚に味わせてしまったのだ。
打たれたお尻よりずっと、胸が痛い。
そして目の前で大きな身体を丸めてポロポロと涙を流すご主人様の胸は、自分のせいで、もっともっと痛いー
「…………ごめんなさい……幸尚様…………ごめんなさい……うわああああん……!!」
「あかりちゃん……ひっく…………僕、もうやだよ……お仕置きの時だってもうやめてって、何回も言いたかった…………!ぐすっ……こんなの、あかりちゃんが痛くて泣き叫ぶのなんて……二度とやだあっ…………!」
「ごめんなさいっ!もう絶対、自分を傷つけないからっ!!ごめんなさい、ごめんなさいぃ…………!!」
わあわあと泣きじゃくる二人に、上手くいって一気に力が抜けたのか奏がその場にへたり込む。
そんな奏に「やるじゃん」と塚野は微笑んだ。
「いやあ、青春だねぇ…………」
「……茶化すなよ」
「茶化してないわよ」
本当に、茶化してないわよとどこか満足げに二人を見る奏を塚野は優しい視線で見つめる。
(お仕置きを単なる反省するための責めにせず、自分たちの気持ちを伝える手段として使ったのね。下手な大人よりよっぽどちゃんとSMを理解してるよ、あんた達は)
若いというのは、無知で無謀だけども常識に囚われない柔軟さを持ち合わせている。
この業界で年数を経て確かに知識も経験も蓄えてきたけれど、それが故に見えなくなるものもある事を、彼らに出会ってから塚野は痛感していた。
若くて、素直で、まだこの世界に染まりきってないからこそできる形なんてのもあるのだろう。
……そしてそこから学ぶことは、幾つになったってできるのだ。
「……ほんと、いい刺激になるわ」
「何か言った?」
「何にも。……さ、だいぶ落ち着いてきたみたいだしお茶のおかわりを用意するわ。あんたは二人を何とかしなさい」
「おう」
(きっと、これで大丈夫)
幸尚の、奏の気持ちはちゃんとあかりに届いた。
あかりのことだ、きっとこれからも一人でぶっ飛ぶ事はあるだろうが、それでも自分のことを大切に思う人がいることを忘れはしないだろう。
まだしゃくり上げている可愛い恋人と、そんな恋人の前で「ごめんなさい」と頭を下げ続ける健気な奴隷を宥めるべく、奏は二人に駆け寄るのだった。
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